ジェネリック医薬品大手の沢井製薬が、九州工場で製造するテプレノンカプセル 50mg「サワイ」(胃炎治療薬) の安定性モニタリング(製造販売の承認後の医薬品の品質が担保されていることを継続的に確認・保証すること)の溶出試験において、不適切な試験が行われていたことが判明したと発表した。
九州工場で製造する当該製品の安定性モニタリングにおける溶出試験について、2015 年以降、試験前にカプセルから内容物である顆粒を取り出して、別の新しいカプセルに詰め替える作業を行った上で、詰め替え後の検体を用いて溶出試験を実施し合否判定を行う不正行為が継続的に実施されていたという。
4月21日、九州工場の品質管理課に所属して半年程度の試験担当者が本件製品4ロットの3年次及び4年次の溶出試験を担当し、本件製品のHPLCでの分析を初めて実施したところ、試験を実施したロット全てについて規格外(OOS)となった。当該試験では、 カプセルが溶解せずに溶出率が 0%となる個体も複数存在し、溶出率の低下が著しい結果となった。かかる結果を受けて、品質管理課で調査を進めたところ、5月9日、別の一部の試験担当者から、該当製品の安定性モニタリングにおける溶出試験では従前からカプセルを詰め替えて試験を実施していた旨の供述が得られ、不適切試験が実施されていたことが発覚した。
このニュースについてドラッグストアや薬局から以下のようなコメントが寄せられた。
「衝撃的なニュースだ。沢井製薬に対し、品質・安全性を評価し、多品目を導入しているドラッグストア企業や調剤薬局企業は多い。メーカーの度重なる不正が発覚し、そして不安定な供給でジェネリック医薬品の評価が下がる中、沢井製薬はジェネリック医薬品のリーディング企業として信頼度が高かっただけに、非常に残念だ」(大手ドラッグストア調剤事業関係者)。
「小林化工や日医工など、近年のジェネリックメーカーの不正、業務停止や行政処分などで影響で医薬品不足は継続している。今回の沢井製薬の件は、現場にとっても患者さんにとってもマイナスでしかない。これまで私たちは医療費削減のためにジェネリック医薬品への切り替えを推奨してきたが、昨今、私たちからの提案を断る患者さんは多い。患者さんの目はシビアだ。なぜなら医薬品は、直接身体に作用するものだからだ。メーカーがこんな状態だと、私たちの信頼にも影響する。沢井製薬は数多くの医薬品を流通させているため、同社による他の医薬品にどのような影響を与えるのか不安だ」(中規模調剤チェーン経営者)
同社・澤井光郎会長は、本日行われた説明会で「行政による調査の途中でこの説明会を実施したのも、当社が分析し、突き止めた原因を公表し、再発防止策を発表し、今日この時点から2度と(不正を)発生させないためにという意味もある。業界全体の不信を招いたことは大変申し訳ないと思っている。特別調査委員会で出てきた、現場の上司への報告がしにくい、上司からの言われたことを鵜呑みにする体制や人員不足・業務過多など業界全体に通ずるところがある。再発防止策の中で、共通するようなことがあるのではないかという思いも含めて、この説明会を実施した。当社を信じて、応援をしてくれた患者様、医療関係者の方々、多くの方々の信頼を裏切ってしまったことを心からお詫びを申し上げ、しっかりと再発防止に取り組んでいきたい」と話した。
沢井製薬は、発覚後、社内調査を開始するとともに、同年6月、外部のGMP(医薬品の製造管理 及び品質管理の基準)専門家及び弁護士を含む特別調査委員会を設置することを取締役会で決議し、不適切試験に関する事実関係の調査を実施してきた。今回、特別調査委員会から調査結果報告書を受領し、本日の発表に至った。また、7月に使用期限内の全ロットを自主回収することを決め、進めている。
不適切試験は、2013 年に実施された該当製品の安定性モニタリングにおける溶出試験で規格外の結果が発生した際に、当時の九州工場の上層部において、GMPに基づく手続を怠ったことを契機として実施されたという。すなわち、当時の上層部において、規格外の結果を受けて、溶出性の低下の原因を調査するためにカプセルを詰め替えて試験を実施することを指示したものの、GMPに基づく正式な社内報告や原因究明・是正 措置等を行うことなく、カプセルを詰め替えて実施した試験による規格内の結果をもって、当該溶出試験に関するGMP上の手続を終了していた。
この処理を受けて、該当製品の安定性モニタリングにおける溶出試験では、カプセルを詰め替えて実施した試験による規格内の結果をもって処理することが、上層部からの指示であると考えた試験担当者らにより、本件不適切試験が継続的に行われていた。管理職以上の上層部が、本件不適切試験の実施を指示し、これを黙認した事実は認められなかったが、監督体制の不備により、不適切試験が実施されていることを検出することができず、長年にわたり本件不適切試験が継続されていた。
同社は原因を人的要因と物的要因に分別し、以下と位置付ける。
人的要因
1.安定性モニタリングを軽視する風潮の蔓延
2.上司の指示に疑問を持たずに従う傾向
3.試験関与者のGMPに対する理解の欠如
物的要因
1.品質管理・品質保証 の観点からの実効的な監督体制の不備
2.試験記録管理の不十分さ
3.試験を担当する品質管理部の業務過多及び人員不足
再発防止策は以下。
(1)社長直轄の企業風土改革プロジェクト立ち上げ
・ 意思決定プロセスの透明性を高めること等による企業ガバナンスの再構築
・ 再教育や日常の注意喚起を継続することによる法令遵守、コンプライアンス精神の浸透の徹底
・ 全社レベルでの適材適所登用の推進のための人事制度見直し
・ 社内外からの有能な人材の積極登用
・ 本社管理部門の体制や機能の見直し強化
・ 内部通報システムの活用の推進強化
・ 社長と従業員の直接対話の場の設置、“社長メッセージ”定期発信による経営陣と従業員との対話の促進
(2) 既存上市品の製造面及び品質面での再評価とその対策実施
既存上市品の製造面及び品質面の再評価を実施し、問題点があればその解消のための対策を策定・遂行するため、社内体制を整備し、再評価のための優先順位付けを行うなど具体的な対応策を実施。
(3) 生産本部における再発防止策の実施
生産本部の責任役員は、主体的に以下の再発防止策の実施を推進。
・ 全従業員に対する GMP 教育の再実施と継続実施
・ 責任役員を含む管理職、監督職の責任の明確化
・ 管理職、監督職、実務担当者対象の層別教育プログラムの効果検証と実施内容の見直しによるコンプライアンス意識の徹底
・工場の品質管理部門、品質保証部門への社内外からの人材確保推進
・ 管理職、監督職層の 3 現主義(現場、現実、現物)の徹底のための施策の実施
・ 作業手順書と実作業に相違がないことの検証の継続
・ 作業資格制度の運用の厳格化
・ データインテグリティ確保のためのシステム導入