EDI(電子データ交換)を介して日用品・化粧品の流通を支えるプラネット。その機能は今や、関連製配販に欠くことのできないものである。同社は昨年、10年ぶりに社長交代を行い、富士ゼロックスグループの要職を務めた坂田政一氏を擁立した。坂田新社長は今後、業務効率化への貢献のみならず、ユーザー(クライアント)のトップラインを高める活動を強力に進めていくという。このほどHoitto!編集部は坂田新社長にインタビューを敢行した。異業種の視点を持つ彼の言葉から、流通業の進むべき道筋を感じてもらいたい(取材と文=八島 充)。
――異なる業界から、日用品流通業界をどのように見ていたのでしょうか?
坂田氏 冒頭から難しい質問ですね(笑)。正直に申し上げて、前職時代から流通業界を意識してきた訳ではありません。ただ、同業界が生活と密接な関係にあり、多様化する生活シーンに合わせて日々進化していることは、肌で感じていました。
振り返れば、少年時代にお使いを頼まれて日用品店や食料品店を訪ねたり、駄菓子屋でお気に入りの菓子を買っていたことが思い出されます。
やがてそれら個人店が次々と閉鎖され、スーパーやコンビニ、ドラッグストアにとって変わっていきました。複数の店舗を買い回る必要がなく便利になった一方で、寂しさを覚えたのも事実です。
社会人となってからは、急な徹夜の仕事でも一通りのものが揃うコンビニに助けられてきました。今ではあり得ませんが、「気軽に徹夜ができるな〜」と、本気で思ったものです(笑)
さらに年月が経つと、スーパー、コンビニ、百貨店、ドラッグストアなどでM&Aが活発になっていきます。ドラスティックな小売業の動きを目の当たりにして、ポストマージャーつまり、M&A後の統合のプロセスに興味が湧きました。特に人材の統合、システムの統合は、一筋縄ではないだろうと考えていました。
――前職では情報システムに携わっておられますが、日用品流通のシステムで思うところはありましたか?
坂田氏 1980年代に普及したPOSシステムにより、小売業は何時、何処で、何を購入したかというデータの収集に注力していきますよね。
しかし当時は、事務作業の効率化や工場の生産性を上げるためにコンピューターを活用していた時代です。そのような中で、ミクロの情報を収集し、生活者のニーズをきめ細かく汲み取っていこうという小売業の姿勢には大いに注目しました。
――2020年にプラネットの社外取締役に就任されましたが、その経緯をお聞かせください。
坂田氏 社外取締役をお引き受けする以前、毎月開催される経営者の勉強会で玉生会長と知り合い、以後約10年間お付き合いをしてきました。その玉生氏に、私が前職を退任した時、「社外取締役にならないか」と声をかけていただきました。
玉生会長が私にどのような印象を持っていたのかは判りませんが、異なる業界/業種からの新鮮な視点で外部の意見を求めていると理解し、お引き受けしました。それから2年後に、今度は「常勤(社長)になってくれ」と言われた時は、流石に戸惑いました。
一方で、業界のリーダー的な存在で幅広い経営者とのネットワークがある玉生会長が、私を選んでくれたことは正直嬉しくもありました。熟考の末に、自分にもできることがあると考え、最後のお務めとして、重責を担う決断をしました。
社長を引き受けるに当たって、玉生氏から特別な指示はありませんでした。プラネットという会社に直接触れて、そこに己の経験・知見を掛け合わせて、どのような成果を出せるのかを自分で考えろ、ということだと理解しています。
――中に入ったプラネットの印象は?
坂田氏 EDI事業を核に、40余年で強固なビジネモデルを確立されたことは「凄い」の一言です。財務体質を含む経営指標も、上場企業の中でもトップクラスでしょう。そのビジネスモデルが取引先との強い信頼関係につながって、事業の永続性をもたらしていると思いました。
また、社員が皆真面目で、与えられたミッションを厳格に遂行していることに頼もしさを感じました。ただ、真面目を通り越して、やや大人しいという印象も持っています。もう少し“やんちゃな”面を出しても良いと思います。
――そのプラネットを、どのような方向に導きたいとお考えですか?
坂田氏 テーマは、EDI事業の先にある「ビヨンドEDI事業」の構築です」。簡単に言うと、「もう一皮向けていこう」ということになります。中核のEDI事業の幹をより太くするとともに、その幹に新たな枝を差し込み、大きく育てていきたいと考えています。
弊社のEDI事業には20にのぼるサービスがありますが、中には十分に活用されていない領域も存在します。各々のサービスに磨きをかけて、ユーザーの生産性をさらに高めていくことが、最優先の課題です。
またEDI事業は受発注から始まる業務効率に資するビジネスですが、これからは商流の上流から下流までを広く網羅したサービスを構築し、ユーザーのあらゆる悩みを聞き、細かく応えられるようになりたいと考えています。
一方の新たな枝となる事業は、業務効率や生産性の改善にとどまらず、ユーザーのトップライン(=売上)を伸ばすこととユーザーのサステナビリティに資することを目標にしています。
これからの流通業は、協調すべきを協調及び共創し、その上で健全な競争をしていくことが重要になってきます。その協調・共創の一助となるべく、すでに「POSデータのクレンジングサービス※1」や、「ロジスティクスEDI※2」といったサービスの構築を始めました。
特にロジスティクスEDIは、2024年問題に対応するためにも協調・共創が不可避な領域です。ここに弊社が深く入り込み、メーカー・卸売業の持続可能な活動に貢献していきます。
まずはASNデータと呼ばれる事前出荷情報の提供を始めました。
このデータによって事前照合や検品の簡素化など業務効率が図れ、トラックの荷下ろし時間も短縮できます。是非、ASNデータを利用していただきたいと思います。
これ以外にも現在、新たなサービスを鋭意研究中です。もう少し経てば詳細な情報を発信できると思いますので、どうぞご期待ください。
※1)True Date社と連携し、各社にとって手間がかかるPOSデータとマスタデータの整備に関わる作業を、高い品質でリーズナブルにアウトソーシングできる環境を整える取り組み
※2)政府主導の「スマート物流サービス」の実験に協力し、日用品・化粧品業界の製・配・販協力のもと、持続可能な商品供給を行うための物流領域のEDI実装を進めている。トラックと人と倉庫をつなぐ情報基盤を活用して流通全体を最適化し、商流、物流の両方のデータ基盤の構築を通じ、新たな付加価値の創造を目指す
――「ユーザーのトップラインを伸ばす」というお言葉は注目に値します。
坂田氏 今業界は大きな構造変化の只中にあり、そこにチャンスとリスクが混在しています。チャンスをもれなく活かして最終的に業界全体の発展につなげたい。このタイミングでトップに就任した私の役目は、そこにあると考えています。
――チャンスを活かすために、ご自身の経験・知見をどう反映していくのでしょうか?
坂田氏 ここまでの話は、私が当業界の外にいたから思いついたものです。私には、世の動きをソリューションの視点で見る“クセ”があり、その視点を、プラネットのビジネスに応用していきたいと考えています。
もちろん、中核のEDI事業のハンドリングを変えるつもりはありませんし、ロジスティクスに関してトラックを所有する訳ではありません。ただ、弊社の資産である情報の切り口を変えることで、これまでにないソリューションが提供できると考えています。
実際に、日用品業界の外では日々、さまざまな事象が起きています。そうした事象も、「自分の業界に当てはめることで、何をもたらせるのか」ということを考え、新たな発想で事業の枝を増やしていきたいですね。
――バイクが趣味だとお聞きしました。
坂田氏 大型を乗りこなしていた大学時代の友人に触発され、齢50を過ぎてから中型免許を取りました。今の愛車はHONDA400Xで、最近は忙しいため週末の日帰りツーリングに行く程度です。風を感じて走る気持ち良さは何ものにも変えがたく、高速道路を走行中にヘルメットの中で叫べば一気にストレスが吹っ飛びます(笑)
――今は奥様と二人暮らしなのですよね?
坂田氏 いえいえ、最愛の彼女と三人暮らしです(笑)。名前は小梅(こうめ)、犬種はトイプードルで、もうじき16歳になります。
仕事で午前様となったある日、玄関を開けた私に唸る黒く小さい塊がいました。そこからしばらく唸り続けられましたが、2ヶ月後に突然戯れてきて家族と認められました。今では就寝前の布団に入り待っていてくれる仲で、毎日のお見送りとお出迎えも、彼女だけがしてくれます(苦笑)。
――貴重なお話をありがとうございました!
【坂田 政一(さかた まさかず)氏 略歴】
1959年8月2日生まれ、神奈川県横浜市出身
1983年 明治大学 工学部卒
同年 富士ゼロックス株式会社(現富士フィルムビジネスイノベーション株式会社)入社。
広報宣伝部長、富士ゼロックスアドバンストテクノロジー株式会社 代表取締役社長を経て、 富士ゼロックス株式会社 シニアアドバイザーを務める。
2020年 株式会社プラネット 社外取締役に就任
2022年より現職(代表取締役社長 兼 執行役員社長)
【主な役職】
カヤバ株式会社 社外取締役/ULSグループ株式会社 社外取締役
【座右の銘】
捲土重来(ケンドチョウライ)
行雲流水(コウウンリュウスイ)
坂田氏による解説:
捲土重来とは、今回は失敗したけど、次回は必ず盛り返す。今に見ていろ、必ず復活するぞ、という意味です。また行雲流水とは、空行く雲や流れる水のように成り行きに任せることで、自然体であることが大切だという教えです。この2つの言葉を、その時の自分を取り巻く状況により、自分自身の心の中で使い分けています。