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ヘルスケアインタビュー:ファーマライズHD・秋山昌之社長
『競合時代を生き抜くために〜調剤薬局が挑む差別化戦略』

誰もが、いつでも来店客の相談に対応できる研鑽プログラムを策定し、
そして身障者を雇用した新業態店舗の開発実現に動く


限りなくゼロに近づく薬価引き下げ、2年に一度の医療費改定時、特に調剤報酬額の上昇にブレーキがかかる一方、コロナ禍にあって処方箋の受取率が初めてダウンし、さらにドラッグストアの調剤室併設店の急増や新規企業の参入が相次ぐ処方箋調剤市場。押し寄せる競合の波に、どう対応しなければならないだろうか。「高まる国民のヘルスケアアニーズに対応するためにも、多発する生活習慣病発症のリスクを見つけ適切な解消法をアドバイスできるのか、誰もが、いつでも来店客の相談に対応できる研鑽が不可欠になること、そして身障者雇用促進に結びつく新業態の出店戦略にチャレンジしてきました」と語るのは、2024年6月に創設40周年を迎えるファーマライズホールディングスの秋山昌之代表取締役社長。そこで生活習慣病予防へ独自の認定制度を策定し、カウンセリング力強化への人財教育を進める傍ら、3年前からは鍼灸・マッサージ院を併設した調剤専門薬局も開設するなど、競合が激化する調剤市場における差別化の極意を聞いた。記事=ヘルスケアジャーナリスト・瀬戸 寛(せと かん)


ファミリーマート+ファーマライズ薬局末広町店の店舗外観


■ファミリーマートと調剤薬局との癒合店登場ストーリー


ファーマライズHD・秋山昌之代表取締役社長

ーー1984年6月に創設されてから39年後の今、調剤専門薬局(303店)と薬のヒグチなど非調剤店(49店)とを合わせて352店舗を展開するほか、医療モール、医学資料保管管理、薬剤師などの派遣サービスなど、様々なビジネスに取り組んでいます。中でもファミリーマートと融合した調剤薬局が注目されています。今でこそCVSとのコラボ店の出店が相次いでいますが、当時としては調剤専門薬局とのドッキング店舗のデビューは医薬品小売業界初めてでした。

秋山社長 デビューするまでは、ちょっとしたストーリーがあります。きっかけは、家電量販店が駅直結の地下2階の店舗で処方箋を応需されていました。縁があって処方箋調剤でノウハウを持つ当社がお手伝いをするようになった際に、駅を利用する人たちが、いろいろな医療機関から発行された処方箋を持参してくる光景を見て驚きました。当時の調剤薬局は、マンツーマン型が主流で、門前が多かったからです。

「そうだ、これからは人が多く集まる地へ調剤専門店を開局がすべきだ…」と、この時の経験で気づきました、ただ、いろいろな医療機関から発行される処方箋を応需する調剤薬局を、街の中にいきなり出店しても果たして利用してくれる人がどれほどいるだろうかと模索していたところに、たまたまファミリーマートさんとの出会いがありました。

1号店は東京・千代田区に開局するファミリーマート+ファーマライズ薬局末広町店ですが、もともとはファミリーマートさんが、薬剤師を常駐させてOTC薬を取り扱う物販中心の実験店舗でした。たまたま両社が話し合い、処方箋も応需する処方箋調剤専門薬局とCVSとをドッキンッグさせた1号店を出店しました。2013年のことです。

開店当初、医療機関から処方箋は、まったくきませんでしたが、粘り強く周辺の医療機関に、スタッフが処方箋の発行を依頼する日が続き、やがて1枚、2枚と増え今日に至っています。ファミリーマートとの融合店は、20店舗ほどですが、東京・千代田区の小川町には当社のドラッグストア(薬ヒグチ)との融合1号店があり繁盛しています。


■有資格者とともに医療事務スタッフも起用し店頭での接客力を強化


ーーかつて医薬分業は遅々として進みませんでしたが、1997年に当時の厚生省、現在の厚生労働省が37のモデル国立病院に対して完全分業(院外処方箋受取率70%以上)を指示したことで急速に進展しました。現在では全国の医療機関から発行される処方箋は7億3100万枚、調剤報酬額にして7兆1400億円に達しています。それだけ処方箋調剤ビジネスは、競合が激化していますが…。

秋山社長 コロナ禍にあって、当社の主力ビジネスは決して安閑としてはいられません。ロボット調剤も増えてくるでしょうし、電子処方箋もスタートしましたから、薬剤師は処方箋調剤業務から服薬指導などはもとより、増え続く生活習慣病予防や重症化しないように店頭でのアドバイスが不可欠になってきました。

今や生活者は、自らの健康は自分で守るセルフケアを重視するようになりました。当社も、早くからこうしたニーズに対応すべく人財教育に力を注いできましたが、コロナ禍によって処方箋を持参する来店客が減少してきましたので、再び店を訪れていただくためには、どうしたら良いか考えたことは、高まるヘルスケアニーズには、より一層カウンセリング機能が重要視される時代を踏まえて、独自のアドバイザー制度による研修に力を注いでいます


ーー 具体的は、どのような制度なのですか?

秋山社長 生活習慣病の予防を、継続的に支援していくことを目的とした当社独自の健康寿命延伸プログラムの取り組みを強化するため策定したものです。骨粗しょう症の予防や糖尿病に罹患した方々が、さらに重症化しないための取り組みなど、様々な検査キットも登場してきました。例えば糖尿病対策の一つとして、店頭だけでなく自宅で血液を採取して郵送で送ってもらう血糖値測定サービスもあります。大切なことは検査結果から、相談に来られた場合のアドバイスは我々の重要な業務でもありますので、当社に勤務するスタッフが研鑽するための独自のプログラムを策定しています。

これは当社独自の制度で、プログラム数は当初、骨粗しょう症と糖尿病でしたが、今後は認知症、メンタルウェルネス、口腔内フレイル、食のウェルネス、ウィメンズウェルネスも加えて7つに増やす予定です。学ぶためには、会社が提供するテキストを活用しEラーニングで研鑽し、Web上のテストに合格すると『ヘルシーライフアドバイザー』として認定するものです。研鑽する期間は、特に設定していませんが、いつでも自らが学びたいときに学べるようにしています。これまでは薬剤師、医薬品登録販売者、管理栄養士といった有資格者に限定していましたが、研鑽に意欲のある医療請求事務スタッフにも門戸を開きました。

電子処方箋は、まだ途についたばかりで、まだ応需するまでには至っていませんが、定着すればパソコンでの処方箋入力業務は徐々に少なくなるでしょう。ですから今のうちから、こうした状況を見据えて医療請求事務スタッフにも研鑽していただき、有資格者が手を離せないときに相談客が来店されても、薬剤師、医薬品登録販売者、管理栄養士とともに店頭で対応していただくようにしたいと思ったからです。一人でも多くのスタッフが学び、地域住民のアドバイザーになっていただくためには、店長が、『当社ではこうした制度があるので、一緒にやろう』と呼びかけることが“キー”になると考えています。


■身障者雇用促進へ調剤薬局に『鍼灸・マッサージ院わくわく』併設にも取り組む


鍼灸・マッサージ院わくわくでの施術

ーーところで他業態とのコラボでは、ファミリーマート以外に西友にも調剤薬局を併設していますが、もう一つの取り組みに『鍼灸・マッサージ院わくわく』との併設型調剤薬局があります。どのような経緯で出店したのでしょうか?

秋山社長 私事ではありますが、両親とも目が不自由だったものですから、父が運営していた鍼灸・マッサージ院で、私自身は毎日治療を受けにくる患者さんを見て育ちました。父は16年前に亡くなりましたが、そうした環境下で育ちましたから、自分の意識の中には、いつか医療に関わる仕事に携わりたいという考えが芽生えていたのだと思います。父は、将来、私に治療院を継いでもらいたいようでしたが、直接、私にいうことはありませんでした。私自身は、どちらかといえば医療に興味を持ち化学が好きでしたので、結局は薬学の道に進み薬剤師となりました。

そして今から5年前になりますが、当社の社長に就任したときに、以前から考えていた障がい者を雇用する中で、千葉にある農園で当社の社員として野菜の栽培もしておりますが、収穫した野菜を販売したいと農園の担当者に依頼したところ、『品質が安定しないものは売れない』と断られ、薬局で販売しようかと思いましたが結局、収穫した野菜は社員に配ったりしていました。

そんなことがありましたが、どうしたら身障者の方々が自分で働いた代価を給与の形で受け取れるか、その仕組みづくりを考えていて、ふと思い出したのが、両親が視覚障がい者で鍼灸・マッサージ院を運営していたことでした。そういえば調剤薬局には、膝や腰が痛いなどと悩む高齢者が多いので、鍼灸・マッサージ院とは親和性があるのではないかと思ったのです。


■併設型薬局の最前線を取材したビデオ画像をWEBの社内報で配信


ーーすべての社員に会社の事業、特に鍼灸・マッサージ院併設店舗の存在を理解してもらうためには、どのような方法で紹介しましたか?

秋山社長 視覚に障がいを持つ鍼灸・マッサージの資格者を雇用することになれば、企業における障がい者雇用の一環にもなりますし、3年前に鍼灸・マッサージ院併設調剤薬局の第1号を静岡県浜松市に出店して以後は、東京、名古屋、福島と4店舗が稼働しています。

どのようにしたら、すべての社員に企業のトップとしての私の思いを伝えることができるのか。そこで実行したことは、私が鍼灸・マッサージ院併設型調剤薬局の最前線を訪れ、自らビデオカメラを回し取材しWEBの社内報で紹介しました。企業は、利益を出すこともむろん重要ではありますが、その一方では世のため人のためになることに取り組むことも大切ですので…。

ましてや競合が激化する中で、当社が地域住民の健康創造、セルフケアニーズに応えるために会社が進めていることを、すべてのスタッフに伝えたかったからです。昨年からWEBによる社内報をはじめましたが、店舗数が40から50の時代は、スタッフの名前と顔をすべて覚えていましたが、会社の規模が大きくなり店舗数も350を超えると、さすがに覚えきれません。

でも社長としては、どうしても会社が今何に取り組み、これからどのような方向を目指しているのかは、どうしても伝えなければなりません。従来は紙に印刷していましたが、直接、僕がWEB社内報に登場すれば、多分、社長が何を考え行動しようとしているのか興味を持っていただけるのではとの思いで続けてきました。スタッフの皆さんは日々、忙しくしておりますから私の話は3〜5分程度に決めています。


ーーますます競合が激しくなりました。CVSも含めてSM(スーパーマーケット)、SC(ショッピングセンター)、 HC (ホームセンター)、家電やカメラ量販店等々が、ヘルスケアニーズに対応した店づくりに取り組むことは間違いありません。これから目指すことは?

秋山社長 やはり人が多く集まる異業種企業とのコラボを進めていきたいですね。その理由は、処方箋を持参される患者さんが、調剤を待つ間、または薬剤を受け取った後に楽しく買い物ができるようにしたいからです。オンライン診療、電子処方箋を応需して薬剤を宅配する時の服薬指導はむろんですが、リアル店舗に来られた患者さんが、『やっぱり、この店に来て良かった、またこよう』と言ってくださるような店にしたいと思っています。


薬剤師・澤口さんが語る「CVS+調剤薬局1号の末広町店のこと」

インタビュー:関東支店第一課東京第一エリア長・地域医療に貢献する澤口恵子さん


ファミリーマート+ファーマライズ薬局末広町店に勤務する薬剤師の澤口恵子さん

薬剤師となり入社したきっかけは? 

私の家系に医療従事者がいたことと、私が中学生の頃に身内ががんになって抗がん剤治療を受けた際に、いろいろとフォローしてくださった地域のサポート薬局の薬剤師さんの姿を目の当たりに見て、将来は薬剤師になりたいと思い城西大学に入学しました。

そして学生時代に就活していた際に、私たちに対応されていた人事の方が、会社が取り組んでいる事業についてわかりやすく紹介してくださったときに、薬剤師としての働き方についても優しく伝えていただいたことで、とても温かい会社だと感じ入社を決めました。


薬剤師としてやりがいは?

薬剤師となってから勤務した最初は、病院の門前の薬局でしたが、1年後には面分業に対応した薬局、そして3年後に今の末広町店移に異動になりました。処方箋を持参される患者様の様々な相談にのり、次回の来店の際に『この間は詳しく薬のことを話していただいてありがとう』と言ってくださるケースが増えてきて、あ〜薬剤師になって良かったと思っています。その言葉が嬉しくて、とてもやりがいが感じられます。

『調剤を待つ間に買い物ができるし便利な店』と言ってくださる患者さまも増えてきて、コンビニとの融合店の特徴を多くの方々が受け入れて下さって、当初、ゼロだった処方箋も、季節にもよりますが、現在では平均1日に40枚ほどを応需しています。患者様は、当薬局の周辺だけでなく、この地に勤務される方もおられますので、重宝していただいています。


患者宅への訪問活動は?

通常は処方箋調剤とカウンセリングですが、患者さん宅への訪問活動にも取り組んでいます。対象者は高齢者と子供さんの2名ですが、高齢社会の到来に伴い在宅療養される高齢者が増えてくるでしょうし、子供さんの家族のケアを含め薬剤師の業務は多岐にわたってきました。これからも、薬剤師の患者宅への訪問活動はますます増えてくるでしょう。私たちは、地域から求められるニーズに合った活動をしたいと考えています。


コンビとの併設メリットを活用して…

調剤の待ち時間は10分〜15分程度にお渡しするようにしておりますが、この地の周辺には企業の事務所が多いので、なるべく調剤は待つことがないようにしています。ただ待つ間に買い物ができるメリットもありますし、もし時間が無い方には、後ほどお届けするか宅配でも対応するようにしております。
当薬局は、病院の門前でもなく面分業を中心とした調剤薬局ですが、コンビニと併設していることは他の薬局とは異なり大きな特徴でもあります。特徴を活かして地域医療に貢献できる薬局にしたいと個人的には考えています。