ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

SDGsを軸に流通業の協業本格化

DgSのSDGs最前線《後編》トモズの場合

トモズ・德廣社長インタビュー
(ゲスト=ロート製薬・山田部長)

前回の「DgSのSDGs最前線」《前編》は、日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)が取り組むSDGs推進の活動が、正会員や賛助会員の理解を得て成果が出ていることを紹介した。この《後編》では、企業としてどのようにSDGsと向かい合っているのかを、トモズの德廣英之社長にうかがっている。ゲストには、環境省の3Rキャンペーンにも参画するロート製薬の山田弘利部長をお招きした。話は流通業の長年の懸案だった返品問題におよび、SDGsの推進がサプライチェーンの行動変容をもたらしていると感じた。(取材と文=八島 充)

SDGsの推進には覚悟が必要

――一企業として、トモズはSDGsとどのように向き合っているのでしょうか。

トモズの德廣社長

德廣社長 SDGsは2030年までに世界中の様々な社会課題を解決することを目標に掲げていますが、その目標が壮大で多岐に渡るために、初めの一歩を踏み出せない企業もあると思います。

ただ今後、SDGsが行動の規範として世界中に定着していくことは間違いありません。日本でも初等教育でSDGsを学ぶようになりましたが、それを実装していく為に、産業界からも啓発していく必要があります。

こと小売業は、多くのお客様と触れ合う店舗を有する特性があり、地域生活者にSDGsのアクションを起こしてもらう“きっかけ”をつくる、絶好の場となります。

弊社の使命は、医療の一端を担う小売業として、お客様の健康で豊かな生活に役立つことです。「健康で豊かな生活」とは耳馴染みの良い言葉ですが、本当の意味でそれを実現するには、個人を取り巻く家族、地域社会、国、地球そのものの健康が前提となります。

裏を返せば、地球が健康でなければ「健康で豊かな生活」は保たれず、そこで事業をおこなう我々も存続できません。これを大義として、店舗を介し皆と想いを共有することが、当社にできるSDGsだと考えます。

環境問題に関する具体的な取り組みとして、JACDSとして始めた「レジ袋の有料化」(2020年4月〜)、「サーキュラーエコノミープロジェクト」の実証実験(2022年6月〜12月)、そして2年目の参加となる環境省の「3Rキャンペーン」(2022年10月〜12月)を展開しています。

トモズの無料会報誌「TOMOKO」。3Rキャンペーンにまつわる情報も掲載し顧客に“気付き”を与えている

なお弊社は「レジ袋有料化」に合わせて、紙袋や生理用品に用いるポリ袋も有料としました。これには現場から猛反対を受け、一部のお客様から苦言も頂戴しました。

しかし私は、「“地球の健康”という大義を丁寧に説明すれば、お客様は必ず理解してくれる」と現場に伝えてきました。繰り返し伝えることで現場の意識が変化し、お客様の行動変容にもつながりました。

大切なのは、無意識にレジ袋を受け取ってきた方々に気付きを与えることです。実際にレジ袋の有料化が石油資源の削減にどれほどつながるのかは検証も必要ですが、個々の企業が覚悟を持って取り組まなければ、SDGsのゴールは見えてこないと思うのです。

「サーキュラーエコノミープロジェクト」は、我々が販売した商品の空容器を店頭で回収する取り組みです。これもJACDSの一員として参加しましたが、日用品の大手メーカー・販社5社が揃って協力してくれたことで、実効性の高い実験となっています。

このほか今年10月から、第一三共ヘルスケアさんがすすめている「おくすりシート(PTPシート)リサイクルプログラム」にも参加しました。現在は横浜市中区の薬局、ドラッグストア、病院、公共施設等による取り組みですが、今後はこれをJACDSにも働きかけていく予定です。

CO2削減の観点から、「返品の削減」も避けては通れません。大量消費時代の悪しき慣習である返品を無くすことは、これからの流通業の大きな課題です。

もとより商品を売り切れば返品は生じませんし、仕入れから販売までに責任を持つことが商売人の鉄則です。売れないことを他人の所為にせず、自らの責任において商品を管理することが何より大切だと考えます。

Connect for Well-beingを推進

――返品はメーカーにとっても重要な課題です。「3Rキャンペーン」にも参画しているロート製薬のSGDsの取り組みをお聞かせください。

山田部長 当社は2005年に策定した「環境方針」に則り、地域および地球環境の汚染の予防と継続的な改善をすすめてきました。同年に「肌ラボ」シリーズに詰め替え用パウチを投入し、いわゆるエコロジー商品の市場開拓でも先陣を切っています。

近年はプラスチック原料を削減した容器や、環境にやさしい成分を配合した商品などに独自の「R・eco」マークを付けて展開しています。今年初頭には、箱の裏に添付文書を印字して紙の使用料を減らした医薬品を発売しました。

ロート製薬の環境配慮型の商品に冠した「R・eco」マーク
容器にバイオマスプラスチックを使用した「肌ラボ極潤」も「R・eco」マーク対象商品となる

他方、「健康経営」の概念がなかった2002年から社員の健康増進活動を推進し、今日では「健康経営銘柄」や「ホワイト500」に選定される企業となりました。社員の健康が得意先の健康や末端のお客様の健康に繋がり、最終的に社会や地球の健康につながるという考え方です。

創業120周年を迎えた2019年には、「Connect for Well-being」というビジョンを掲げました。当社が関わるすべての方々がWell-beingとなるよう様々なことに挑戦する姿勢を示し、そこにSDGsの取り組みも内包しています。

私が所属するHB首都圏事業部には、末端のお客様とメーカー、その間にいる卸売業様と小売業様を一気通貫でつなぐ機能があります。この機能を用いて、一業種や一企業だけではできない社会課題を解決し、Well-beingの実現に貢献したいと考えています。

――アプローチは異なれども、小売・メーカーの双方に共通の思いがあると感じました。

德廣社長 我々もビジネスを離れればコンシューマーの1人であり地球の一員です。個々が地球の健康を考えて想いを一つに行動すれば、世の中は大きく変わるでしょう。

その上で、先ほどお伝えいただいた「R・eco」などの環境配慮型商品を、できる限り多くの生活者の目に触れさせることが出発点になると思います。トモズはそうした商品を開発するメーカーに、広く門戸を解放していく考えです。

「店舗間移動」で返品ゼロ目指す

――返品問題を少し深掘りしたいと思います。德廣社長は「仕入れから販売までに責任を持つことが商売人の鉄則」と言いましたが、シーズン品など需要を予測しにくいものもありますよね。

德廣社長 かつての発注は人の勘に頼った時代もありましたが、現在はAIを用いた高度な需要予測が可能です。そこに過去のPOSデータを重ね合わせ、発注する、あるいは発注を止める適切なタイミングを測っています。仮に発注を止めて売場に穴が空いた際も、空き箱陳列や商品画像を印刷したボードを掲出するなどの工夫をおこなっています。

欠品状態になった際に売場に掲出するボードの一例

その次のステップとして、売れ行きが落ちた店舗の商品を、物流センター経由で売れ行きが良い店舗に移す、「店舗間移動」をおこないます。商品のボリュームが少ない時は宅配便で直送することもあります。もちろん、現場は最後まで売り切る努力をしますが、どうしても残ってしまった場合は、当社の負担で廃棄します。

「店舗間移動」はSPA商品を販売する大手アパレルでは当たり前の作業ですが、NB商品が主でSKU数も多いドラッグストアでおこなうのは容易でなく、持ち出しのコストが増えるのも事実です。それでも返品に伴う環境の負荷が減り、サプライチェーン全体のコスト抑制になることが大事だと考えています。

山田部長 当社も返品管理を厳格に行うメーカーの1社で、トモズの取り組みに賛同し協力もしています。現在ではトモズから当社への返品率は1%を切るレベルにあります。

――それはすばらしい!

德廣社長 理想は返品をゼロにすることです。「シーズン品や食品は難しい」などと言い出したら実現しませんので、まずは「やってみよう」というアクションと、「必ずやり切る」という意志を持つことが重要です。

自治体・地域単位で課題解決を

――過去15年、遅々としてすすまなかった返品問題が、SDGsをきっかけに前進したとすれば喜ばしいことです。最後に互いに期待することを述べていただけませんか。

德廣社長 環境配慮型の商品やサービスの提案は緒に就いたばかりで失敗もありますが、諦めずにやり続けて欲しいですね。一企業だけで難しいのであれば、勇気を持って我々を巻き込んでいただきたい。御社が発信する「Connect for Well-being」という目標が、業界内外に広く浸透し、参画の輪が広がっていくことを期待しています。

山田部長 環境問題は地域や自治体単位でも課題が異なるので、弊社は全国の拠点単位の活動も強化しています。そこで取得した情報を、地域に根ざした小売業様と共有することができれば、様々な課題を解決できると考えます。首都圏にネットワークをお持ちの御社とも、引き続き協業を進めさせていただければ幸いです。

――本日はありがとうございました!

握手する德廣社長と山田部長。取材後は互いのリソースを持ち寄った地域貢献の可能性などの話で盛り上がった