プラネタリーヘルスの分野を超えた連携による推進を行うプラネタリーヘルスイニシアティブ(https://phi.or.jp/)は、公益財団法人日本ヘルスケア協会から独立し、2025年5月に一般社団法人として本格始動することになりました。
国際的なプラネタリーヘルスの動きとして、2024年に開催された国際組織プラネタリーヘルスアライアンスPHAのマレーシア大会において「エビデンスからアクションへ」と呼びかけられました。
大き過ぎる包括的な概念で、世界的にアカデミアの研究は行われていますが、具体的な実装が難しいと言われてきましたが、国際的にも本気で、これを実現させるために、アクションプランが示されました。
私たちは、こうした国際的な流れを踏まえ、エビデンスからアクションへとスピード感をもって推し進めていきます。
具体的な実践として、農・食・歯・医の実践的な連携「アグリデントメディスン」を進めていきます。
農食歯医連携「アグリデントメディスン」とは、
「食べること」で、腸の“土”と、地球の“土”の両方を癒すこと。
そして、土を介して、人と地球をつなぐプラネタリーヘルスの実践です。
農・食・歯・医の分野、そして「食べる」を実践する生活者が一体となって、プラネタリーヘルスを支える包括的で実践的なアプローチです。
私のような食事指導をする医師にとっては、患者さんにいくら「健康に良いものを食べなさい」と指導をしても、患者さんの生活圏にあるレストランでは食べられないということがしばしば起こります。
ましてや、環境にも良い食べ物など、なおさら選択が難しいのが日本の現状です。
食は、人の健康にも環境にも甚大なインパクトを与えますが、残念ながら日本の食事情は、健康にも環境にもネガティブな食べ物が当たり前になっています。
しかも、私たちの大切な食を支える農業システムは崩壊寸前で、このままでは日本が倒れるという危機感があります。
古来から豊かな生態系を再生し、山里海の連環を維持してきた里山システムは、私たちの暮らしを支え、食糧生産にとどまらず、健康・ウェルビーイング、地域社会、生態系、環境、食料安全保障、文化、観光、防災等への多様な価値があります。
しかし、今、日本において一次産業は衰退し、耕作放棄地や放置林の増加から里山は崩壊し、高齢化や人口減少により地域コミュニティは崩壊しつつあります。
「アグリデントメディスン」は、生活習慣病の増加や医療費高騰といった健康課題、過疎・高齢化といった地域課題、森林破壊・土壌劣化といった環境課題などの地球規模の複合的課題に対する統合的な解答になりうると考えています。
私たちはまず、微生物や栄養学などに造詣の深い医師や歯科医師など医療従事者と、日本サスティナブルレストラン協会などの普及団体や全国の志ある農家さんとの連携により、当たり前に人も地域も地球も健康になる食の普及を目指します。
プラネタリーヘルスにおいて、人と環境をつなぐ「生命の網(web of life)」の鍵となるのは、目に見えない微生物の循環です。土壌微生物―植物―食―口腔―腸内細菌という連関は、私たちの身体を超えた、生態系全体の一部としての拡張的人間システムを前提とします。
農学・微生物学・医学・歯学といった分野の知見を横断的に統合し、環境・土壌・植物・人に共生する微生物の循環と相互作用を探究する学際的な領域を、私たちは「微生物循環学」と名づけ、その確立を目指しています。
この微生物循環学の実践モデルが「アグリデントメディスン」です。
「診察室」に閉じられた医療を「生態系」へと拡張するのです。
このプラネタリーヘルスという大きな概念を実現するための、小さな一歩を踏み出しました。
オンラインでの趣意説明をアーカイブ配信しています。
ぜひご覧いただき、このアクションにご参画ください。
https://phi.or.jp/archives/810
(一社)プラネタリーヘルスイニシアティブ
https://phi.or.jp/
プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)
地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員
一般社団法人プラネタリーヘルスイニシアティブ(PHI)代表理事
予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。
(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は6月中初旬に掲載予定です)