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カリフォルニア在住 Dr.グレイス前田のヘルスケア・トーク/第1回 ヘルスケア時代における薬剤師の役割〜日本とアメリカの違い

カリフォルニア在住 Dr.グレイス前田のヘルスケア・トーク
第1回 ヘルスケア時代における薬剤師の役割〜日本とアメリカの違い


調剤だけが薬剤師の業務ではない
国民の健康創造へ研鑽し
“ヘルスケア・ファーマシスト”を目指してほしい


Dr.グレイス前田

医療の流れは、治療からへと変革しつつあるなか、国民の間に自らの健康は自らが守るセルフケア意識が向上し、ヘルスケアビジネスは成長を遂げてきました。その最前線で活躍するドラッグストアは国民から支持され今日、10兆円市場形成が当確になっていますが、その背景には、薬剤師の存在は欠かせません。ヘルスケア最前線で活躍するドラッグストアは、今やより健康になるための場であり、早期予防・早期治療を促すための場であり、疾患の再発を防ぐための情報提供の場であり、国民の健康を創造する“ヘルスケアステーション”としての機能を発揮するためにも、薬剤師が果たす役割は拡大してきましたが、ではこれから薬剤師は、どのようにして進化しなければならないでしょうか。「健寿延伸時代が到来した今、日本の薬剤師は処方箋調剤だけではなく、高まる国民のヘルスケア・ニーズに対応し予防を重視した業務にも取り組み、“ヘルスケア・ファーマシスト”を目指してほしい」と指摘するカリフォルニア在住のDr.グレイス前田(薬剤師・医学博士)に、『ヘルスケ時代における薬剤師の役割』について寄稿していただきました。第1回目は、『日米の薬剤師の業務の違い』です。


はじめに


日本は医薬分業の急速な進展に伴い、薬剤師業務の中心は処方箋調剤に集中するようになりましたが、コロナ禍を契機にオンライン診療、ビデオによる服薬指導等々…ドラッグストアにおけるDX化により、調剤や受付業務もロボット化する時代が到来します。これからの薬剤師業務はモノからヒトへ、調剤からカウンセリング重視へと大きく様変わりすることは間違いないでしょう。

日本の薬剤師の多くは、医師から発行された処方箋を調剤し患者に渡す業務に専念してきました。しかし健康寿命延伸時代が到来した今、国民の意識が治療だけでなくヘルスケアへと移行しつつある今、薬剤師の職能のあり方を改革すべき時期にきています。

日米の医療制度の違いは、国民皆保険下にある日本では、軽い発熱や怪我、腹痛などで即医療機関に行きますから、待合室はたくさんの患者が医師の診察を待っている光景は、日本国内ではいくらでも見かけることができます。“3時間待ち3分診療”、少々古いですが今もって、こうした光景は少なくありません。

アメリカでは、医療機関にかかる場合、Emergency(緊急)以外は予約制なので待ち時間は少なく、待合室にほとんど患者はいません。重症な病いは医療機関へ、そして軽度な症状はドラッグストアに行き薬剤師に自分の症状を伝え、適切な一般用医薬品を選択していただくセルフメディケーションで対処すべきですが、日本では、どうしても即医療機関にかかるケースは少なくありません。ここは、アメリカとは国民の健康意識が違います。

アメリカの場合、公的保険は低所得者を対象としたメディケイド、65歳以上の高齢者を対象としてメディケア、現役・退役軍人とその扶養家族を対象とした軍人医療制度があるほかは、すべて私的保険に加入していますが、もし私的保険に加入していなければ、疾病や怪我など医療機関にかかった場合、治療費は莫大な金額を支払わなければなりません。

国民、特に働く人たちは、企業が採用している民間保険に加入していますが、これですべてOKというわけにはいきません。国民は、契約している保険会社の保険を取り扱う医療機関に行かなければ保険は使えません。

従ってアメリカ国民は、なるべく病いにかからないよう、ドラッグストアやスーパーマーケットなどで健康食品やサプリメント、健康機器などを購入し、プ―ルのあるフィットネス施設、痩せたい人たちはダイエットセンターに通い、街中ではウオーキングやランニングする光景をよく見かけます。

体調がすぐれない場合、無料の救急車を呼び医療機関にかかる日本とは違い、アメリカ国民は、自らの体は自らが守るセルフケア(ヘルスケア)を実践しており、ヘルスケアビジネスが巨大なマーケットを形成しているのです。


異なる日本とアメリカの薬剤師の業務


ある日、カリフォルニアから日本に帰国した時のことでした。たまたま書店で購入した雑誌に、薬科大学と薬局ランキングが掲載されていましたが、私が見るアメリカの薬局と日本の薬局とは、ずいぶんとかけ離れていました。

日本の場合、かつて薬剤師の勤務先は、製薬メーカーの研究所や病院勤務が多かったのですが、医薬分業の進展に伴い、処方箋調剤を経営の柱とするドラッグストアや調剤を主体とした薬局チェーンへの勤務者が急増し、医師から発行された院外処方箋の調剤業務に携わるケースは少なくありません。しかし問題は、その中身です。

私は、カリフォルニアで住むようになってから日米の薬剤師業務のあり方を考えてみました。ドラッグストアに行き、同じ薬剤師でも日米に差があることを痛感したからです。

日本の薬剤師は、医療機関から発行された処方箋を正確・迅速に調剤していますが、私が見たアメリカの薬剤師は、調剤室での処方薬のピッキングは、すべてテクニシャンに任せ、調剤ができたら薬剤師は処方箋通りに調剤されているか処方監査、テクニシャンが処方薬を患者に渡し、質問があれば薬剤師が対応しカウンセリングにのり、時には教育を受けた薬剤師は、予防注射にも対応する光景でした。

アメリカには、日本のように医療機関の門前に店舗を構える、いわゆる調剤薬局はほとんどなく、通常、患者はCVSやウオールグリーンなどのドラッグストアに処方箋を持参しますが、医療機関の医師に、かかりつけの店舗を指定すれば、電子処方箋を送信してくれます。

患者が指定した店舗の調剤室に行けば、処方薬がすでに用意されていて、名前を告げるとテクニシャンが渡してくれますが、その際に薬剤師への質問の有無を聞き、あれば薬剤師がカウンセリングする仕組みになっています。

あるいは医療機関で診療費を支払い、処方箋を渡され直接、ドラッグストアに持参し患者は待合室で処方薬ができるまで、広い店内で買い物をします。処方薬ができると店内放送で名前が呼ばれますので、調剤室に行けばテクニシャンの出番、そしてカウンセリングは薬剤師という流れです。

日米の医療制度の違いはあれ、アメリカでは医薬品というモノ(処方箋調剤)ではなく常にヒトに寄り添っている光景でした。もちろん日本の薬剤師の中にも、調剤だけでなく、店頭でカウンセリングに携わるケースは少なくありませんが、アメリカで公表される医療系職業別ランキングに比べて日本の薬剤師の地位は低いのが気になりました。なぜなのでしょうか。日本の薬剤師たちは、このことを真剣に考えねばなりません。

日本の政府、薬剤師の協会、調剤薬局、ドラッグストアだけでなく、健康食品(サプリメント)や化粧品(コスメティック)などの研究開発から商品企画、販売も含めて、これから薬剤師の職能のあり方を改革すべき時期にきていると思います。

アメリカの医療系職業別ランキングで薬剤師は、日本の薬剤師と比べて非常に高く、High income(高収入)の医療関係者の中でも高いレベルにあります。医療関係者では以下の通りです。

外科医(心臓、脳、脊椎、神経関連、整形、美容、口腔など)/内科医(専門別)/皮膚科/ファミリードクター(かかりつけ医) /オプトメトリスト(検眼医) /薬剤師/その他


注目されているコンパウンド・ファーマシスト


医療関係者は高レベルにあり、アメリカで「なりたい職業」のなかで、薬剤師も医師と変わらぬ高いレベルに入っています。ちなみにアメリカの薬剤師の平均給与は、日本が600万円といわれていますが、その倍の1200万円で、博士号の資格を取得していれば、さらに増えます。

薬剤師ができる仕事は、単に医師からの処方箋を調剤して患者に渡すだけではありません。予防注射、処方変更、栄養相談、医薬説明相談、相互作用、拮抗作用、サプリメント選び補助などができる薬剤師はコンパウンド・ファーマシスト(Compound Pharmacist)と呼ばれています。

アメリカのドラッグストアには、コンパウンド・ファーマシー(Compound Pharmacy)が併設され、ここにカウンセリングがメインのコンパウンド・ファーマシスト(Compound Pharmacist)が、医薬品だけでなく様々なメディカルに関する知識を習得して、患者の処方箋を見て内容を確認して疑問があれば医師に電話してくれます。同時に患者さんの症状だけでなく、体型もアレルギーの有無も、患者さんがどのようなことを希望されていることなどもヒアリングしてくれる、日本でいう患者さんの“かかりつけ薬剤師”のことです。

さらにコンパウンド・ファーマシストは、人によっては薬が効く人、効かない人、それに副作用がひどい人もいますし、医師が小柄な患者さんに、大柄で太った人と同じ量の処方を出して、その薬を1日3回1錠ずつ2週間分を服用してしまうケースもありますから薬剤師は注意しなければなりません。

患者さんの中には、アレルギーの有無や、なんらかの要因で体調が悪いことを、医師にいわないケースもありますし、アメリカの薬剤師は患者の体格を見て、医師が処方した薬の分量では多いと思った時には、その旨を処方医に伝えれば、処方を変更してもらうことができます。

また中には、甲状腺亢進症の患者さんの場合で、2か月間も処方されるケースがあり、そのまま処方通りの薬を服用したら、眩暈、動悸、食欲不振、激痩せしたりすることになりかねません。具体的には、患者さんの血液を検査すると、甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの分泌を増やす作用があるTSH(甲状腺刺激ホルモン)の値がまるで違い、低下症になることがありえるので、コンパウンド・ファーマシストは、こうした点にも注視しているのです。

ですから薬剤師は、アレルギーの有無やTSHの量の多少も見るべきだと思いますが、日本でも近年、糖尿病専門、がん専門の薬剤師として活躍するケースが増えてきたものの、アメリカのようなコンパウンド・ファーマシストと同じような業務に携われるようになってほしいと願っています。

次回は、ドラッグストアでのヘルスケア商品、中でも健康創造時代に重要な武器となるサプリメントと薬剤師について紹介します。


<Dr.グレイス前田・プロフィール>
慶應義塾大学薬学部卒、慶應義塾大学医学部大学院、米国PW Univ.doctor cosrse終了 Ph.D Health Science。米国の大手ドクター向けサプリメント会社(Metagenics)の招聘で、研究開発ディレクターとして1991年に渡米。ビタミンCでノーベル化学賞とノーベル平和賞を受賞したライナス・ポーリング博士に師事。
2007年にヘルス&ビューティミニトーク、脳と体のアンチエージング、予防医学、健康長寿をテーマに、8年間にわたりハリウッドの日本語放送テレビ、ラジオに出演。日本在住時はアレルギー予防研究所長、総合健康推進財団を立ち上げる。サプリメント、コスメティックの成分・処方スペシャリストとして活躍中。医療系ビジネス向け講演、教育。著書多数。
所属学会:Alzheimer’s Association (USA)、American Academy of Anti Aging Medicine USA、LPI(Oregon State Univ)USA、International personalized Medicine(国際顧問日本)、World Academy of Anti Aging & Regenerative Medicine(国際抗老化再生医療学会 国際顧問日本)。