少し疲れて、甘いものが食べたくなった時や、自分にご褒美をあげたいときなど、手軽に口に入れるスイーツとして、チョコレートは万人を幸せにする魔法の薬ではないでしょうか。口の中でいつの間にかゆっくりと溶けていく濃厚な味わいは、他のお菓子の感覚とは異なります。
私たち薬剤師は、服薬支援時に小さなお子さんを持つ保護者から、服薬に関する相談を受けることもあります。「薬が苦くて飲めないです」「薬が嫌いなのですが、どうしたら飲めるでしょうか」など、頑として薬を飲まないお子さんに困り果てた保護者の声は真剣そのものです。
子供からすれば、美味しくないものを口に入れることは嫌なはずです。一方で、疾患の治療のためにも薬剤師の役割として服薬支援は重要です。飲みやすく作られているお薬も沢山ありますが、どうしてもマスキングが難しい成分のお薬に関しては、お薬の指導せんなどにも服用方法の工夫などが記載されているケースもあります。
さて、甘くておいしい定番のお菓子で薬が飲めるようになったら、と思っていたところ、森永製菓株式会社が服薬支援のチョコレートを販売していました。その名も「にがいのにがいのとんでいけ(以下:にがとん)」という、何ともインパクトのあるネーミングです。
私がこの製品を知ったのは、コロナ前に開催されていたヘルスケア関連の展示会の時でした。展示会場で、「お薬が飲みやすいチョコレート」という文言と、かわいいデザイン、そしてネーミングに惹かれて飛びついたのが「にがとん」でした。
特に子供の場合は、保護者が薬を用意するケースが殆どです。薬が苦手な子を持つ保護者の方にとって、魔法のようなチョコレートだと思いました。砂糖不使用で作られており、「楽しくお薬を飲める」というキーワードも嬉しいですね。大人でも薬が苦手な方には、是非お勧めしたいと思います。
「にがとん」の使用方法としては、主に苦みが直接届きやすい粉薬に使用できるように配慮されています。処方薬などの粉薬をチョコレートと練りながら混ぜ、スプーンですくって食べるという製品で、個包装タイプになっているので日持ちもします。苦い粉薬でも苦味抑制効果が認められており、埼玉医科大学とはチョコレートが薬に及ぼす影響についての研究論文も出ています。
新型コロナウイルス感染症対策に翻弄された数年間を経て、少子高齢化と健康を支える立場を振り返った時、老舗のお菓子屋さんが作る気骨のある製品はもっと広がってほしいと願っています。子供だけでなく、薬を沢山必要とする世代の方向けにも、この製品のように「服薬がワクワクする」ような取り組みが出来ることを期待しています。
(つづく)
小原 道子さん プロフィール
<主な学歴>
1989 東北薬科大学薬学部薬学科卒業
2020 岐阜薬科大学 博士「薬学」取得
<主な職歴>
1989~仙台赤十字病院入局
1995~宮城県栗原地区にて在宅訪問薬剤師業務を開始
2009~ウエルシア関東(現ウエルシア薬局)株式会社入社
2017~岐阜薬科大学地域医療薬学寄付講座 特任教授
2019~日本ヘルスケア協会理事(現任)
2021~帝京平成大学薬学部 社会薬学教育研究センター 実践地域連携ユニット教授
帝京平成大学大学院 薬学研究科薬学専攻教授(何れも現任)
2021~日本臨床栄養協会 評議員(現任)
2022~日本口腔ケア学会 評議員(現任)
2022~日本老年薬学会 評議員(現任)
著書:地域包括ケア タネの撒き方・育て方
専門分野:在宅医療、地域包括ケア、臨床介護学