ハウス食品グループ本社は、これまでの食物アレルゲンの分析技術に関わる「PCR による食物アレルゲン検査法の開発」「公定法化」「市販キット化」の活動に対し、(公社)日本農芸化学会 2024 年度東京大会(創立 100 周年記念大会)で農芸化学技術賞※を受賞した。2024 年 3 月 24 日の授賞式(於 東京農業大学 世田谷キャンパス)では、受賞講演を行い具体的な技術内容を紹介している。
※農芸化学分野において注目すべき技術的業績をあげた正会員あるいは賛助会員に授与する。その業績は実用的価値があることを要する。
同社はこれまでに、日本で義務表示となる特定原材料 8 品目のうち PCR 確認検査の対象全 6 品目「小麦」「そば」「落花生」「えび」「かに」「くるみ」の検査法を開発。従来の検査法ではできなかった「えびとかにの区別」や「加工度の高い食品での微量の小麦の検出」などができるようになり、食物アレルゲン分析精度の向上を実現している。これらの検査法は、日本の公定法として消費者庁通知に収載されております。また、検査技術のライセンス先であるファスマックを通じて、一定品質の試薬キットを用いて信頼性の高い食物アレルゲン検査を実施できる「市販キット化」を行ってきました。これら一連の取組みとそれを通じた食物アレルギー患者の食の選択の幅を広げることへの貢献が評価され、今回の受賞となった。
ハウス食品グループではグループ理念「食を通じて人とつながり、笑顔ある暮らしを共につくるグッドパートナーをめざします。」のもと、食物アレルギーに対して以下の取組みを行なっている。
1)食物アレルギー配慮製品の製造・販売
・ハウス食品「特定原材料 7 品目不使用シリーズ」(2014 年発売)をはじめとするアレルギー配慮製品を製造・販売。
2)食物アレルギー配慮製品以外での、食物アレルギー患者に寄り添った製品開発・リニューアル
・既存製品は「製品リニューアル時にアレルゲンを増やさない」、既存ブランドを使用して新たな製品を発売する場合は「同一ブランド製品のアレルゲンを統一」。食物アレルギー患者の誤食や製品選択の幅を狭めるような開発・リニューアルは行わない。
3)食物アレルギー協同取り組み「プロジェクト A」への参画
・2018 年 9 月に発足した「プロジェクトA」に参画し、食物アレルギー配慮レシピの提案など情報発信、啓発活動、製品の普及活動を食品メーカー5 社(オタフクソース、ケンミン食品、永谷園、日本ハム、ハウス食品)協同で実施。
4)診療現場へのアレルゲン情報提供
・診療現場で行われている「必要最小限の原因食物の除去」に基づく食事指導のために、医師向けの「加工食品のアレルゲン含有量早見表」に当社製品のアレルゲン量を情報提供。
5)検査法開発
・原料・製品の安全性検証のための「アレルゲン検査法開発」「ハウス食品分析テクノサービス株式会社での受託分析」
1)PCR による食物アレルゲン検査法の開発
従来の検査法では「えび」と「かに」を区別して分析することはできませんでした。当社は、国立薬品食品衛生研究所と共に食物アレルゲンの分析技術を研究し、2008 年に世界に先駆けて「えび」と「かに」とを区別して検出できる PCR 検査法(※注 1,2)を開発しました。
開発の経緯として、2005 年の国内疫学調査で、えびアレルギー患者の 35.3%はかにで発症しないことがわかりました。その頃日本でも「えび」や「かに」のアレルギーが増えており表示義務化に向けた検討が始まりましたが、両者を区別して検出できる検査法はありませんでした。
当時海外では「えび」と「かに」は甲殻類として一括表示されていましたが、日本では疫学調査の結果もふまえ「えび」と「かに」を分けてアレルギー表示をするために、両者を区別して検出できる検査法を開発することになりました。当社のえび、かに PCR 法の技術は、「えび」と「かに」を区別する日本の表示制度を支え、「えび」あるいは「かに」だけにアレルギー症状を示す患者の食の選択の幅を広げることに貢献しています。
また、これまでの小麦 PCR 検査法では、感度不足のため「レトルト食品中の 10 ppm タンパク質濃度(表示基準閾値)の小麦」を検出できない場合がありました。当社の「小麦リアルタイム PCR 法(※注 3)」ではこれを検出可能となり、加工度の高い食品における正確な表示は、患者の安心な商品選択に役立っています。
※注 1 PCR(ポリメラーゼ連鎖反応:polymerase chain reaction)
PCR では、試料に含まれる DNA の中から、特定の DNA 断片だけを選択的に増やすことにより、アレルギー症状を起こす恐れのある原材料を極めて高い感度で検出できます。
※注 2 開発した「えび」と「かに」を区別して検出できる PCR 検査法
例えば、甲殻類 ELISA 法ではえびとかにを区別できずに甲殻類としてまとめて検出しますが、当社のえび PCR 法とかにPCR 法では両者を区別して特異的に検出できます。詳細な技術内容は、学術論文 Journal of Agricultural and Food Chemistry, Volume 59, Page 3510-3519 (2011)に記載されています。
※注 3 開発した「小麦」を感度良く検出できる PCR 検査法
詳細な技術内容は、学術論文 Journal of Agricultural and Food Chemistry, Volume 67, Page 5680-5686(2019)に記載されています。
2)公定法化
開発した PCR 検査法が、国の「アレルゲンを含む食品の検査方法を評価するガイドライン」記載の性能を有することを国立医薬品食品衛生研究所ならびに参画機関との多機関バリデーションで検証、日本の公定法として消費者庁通知に収載されています。具体的には 2009 年に「えび」「かに」PCR 法、2023 年には「小麦」「そば」「落花生」「くるみ」の PCR 法(※注 4)が収載されました。
※注 4 消費者庁次長通知「『食品表示基準について』の一部改正について」(令和 5 年 3 月 9 日付け消食表第 102 号)における検査方法の追加に伴い、消費者庁次長通知「食品表示基準について」(平成 27 年3月 30 日付け消食表第139 号)別添「アレルゲンを含む食品の検査方法」に収載。
3)検査技術の市販キット化
検査技術のライセンス先である株式会社ファスマックを通じて、一定品質の試薬キットを用いて信頼性の高い食物アレルゲン検査を実施できる市販キットを販売しています。2009年に「えび検出用プライマー」、「かに検出用プライマー」、13年に「フルーツ検出プライマー」(キウイ、もも、りんご)、21 年に「小麦」「そば」「落花生」、23 年には「くるみ」を販売開始。当社の PCR 検出技術を市販キット化したことで、世の中で広く使用できる体制づくりにつながっています。
日本では 2001 年に加工食品のアレルギー表示制度が施行されましたが、ハウス食品グループではそれよりも以前、1996 年頃から、その当時まだ検査方法がなかった食物アレルゲンについて、PCR検出技術の開発研究を進め、研究を通して得られた技術成果や知見の専門誌への投稿など実績を重ねてまいりました。当社の技術が、えび・かにを区別した表示や 2023 年 3 月のくるみ表示の法制化、食物アレルゲン検査の公定法へのリアルタイムPCR導入など、日本の食物アレルギー表示制度と公定法の進展の一助となったものと考えています。
表示制度施行から20年以上が経過した現在、臨床における食事指導もアレルゲンの完全除去(食べない)から必要最小限の除去(食べられる量は食べる)へと変遷しています。医師や患者・家族が求める情報も、将来的にはアレルゲンの有無から含有量へと変わることも想定されます。他にも推奨表示品目「キウイフルーツ」「もも」「りんご」の PCR 法開発と市販キット化、現在も特定原材料に追加検討中の「カシューナッツ」の PCR 法開発、今後の技術ニーズを見越した食物アレルゲンを低濃度から高濃度まで測定できる LC-MS/MS(液体クロマトグラム質量分析装置)などの技術も活用して、世の中の変化に対応した技術開発を進めてまいります。
■本研究の成果について
本研究の成果は、下記の大学、公的機関、企業の皆様との共同、協力で得られたものとなります。
女子栄養大学、東京大学、国立医薬品食品衛生研究所、星薬科大学、株式会社ファスマック、株式会社ニッポンジーン、社団法人日本食品衛生協会、消費者庁、多機関バリデーション参画機関
■参考ホームページ
食物アレルギーについてハウス食品グループがお伝えしたいこと
https://housefoods-group.com/activity/allergy/index.html
ハウス食品 特定原材料 7 品目 不使用シリーズ ブランドサイト
https://housefoods.jp/products/special/allergy/index.html
食物アレルギー協同取り組み「プロジェクトA」
https://www.otafuku.co.jp/product/otafuku_allergy/pja/
食物アレルギーに関する“特定原材料「くるみ」”の検査法を開発(2023 年 3 月 29 日リリース)
https://housefoods-group.com/newsrelease/pdf/newsrelease_20230329_01.pdf