2006年にバリアフリー新法が施行されてより、公共交通機関や商業施設等の建築物のバリアフリー化が進んでいる。その最たる例がトイレで、今や至る所に「多機能トイレ」が設置されている。しかし、利便性が高いはずのそれを、内部障害者のオストメイトが十分に利用できないという実態を、読者はご存じだろうか。本稿では、バリアフリー化のこれまでを踏まえ、未だ十分な理解が得らないオストメイトの実情と課題を考えていく。合わせて、さつき(祖父江洋二郎社長)が販売するオストメイト配慮型のトイレを紹介するので、今後の参考にしていただきたい(取材と文=八島 充)
バリアフリー新法は、ハートビル法(94年)と交通バリアフリー法(2000年)を統合・拡充して2006年に施行された法律である。正式名称は「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」で、高齢者や障害者、妊産婦、けが人などの、移動や施設利用の利便性および安全性を高めることを狙いとしている。
同法は、「障害の有無、年齢、性別、人種等に関わらず、あらゆる人が利用しやすい環境を整備する」とした、いわゆるユニバーサルデザインの概念が用いられている。それを象徴する設備の1つが、「多機能トイレ」である。
多機能トイレは、車いす使用者が利用できる広さや手すりなどに加え、オストメイト対応の設備、おむつ替えシート、ベビーチェアなどを備えたものを指す。このトイレに「多目的」あるいは「誰でも」という名称がつけられたことが、本来必要としている方の使用の弊害になっている。
その弊害を受けているのが、オストメイトと呼ばれる方々である。
オストメイトは、病気や障害・事故などで消化器や尿管が損なわれ、お腹に排泄のための開口部(ストーマ=人口肛門・人口膀胱)を増設した方のこと。大腸がんのほか、消化器系、婦人科系、尿路系のがんや病気、潰瘍性大腸炎などにより、オストメイトになられた方は全国に20万人以上いると言われている。
オストメイトは自分で排泄をコントロールできないので、ストーマの先に貼り付けたパウチ(袋)に溜まった排泄物を、汚物流し等で処理する。この作業以外は普通に生活を送ることができ、皆と同じく学校や職場に通い、旅行やスポーツを楽しみ、もちろん出産も可能である。
社会生活を送る上での悩みの1つがトイレ事情となる。オストメイトにとって、目的地やその周辺にトイレがあるか無いかが、外出を検討する際の重大な関心事なのだ。駅、役所、公園、商業施設、旅先の旅館等々、専用のトイレが増えれば行動範囲が広がるのは間違いないが、問題はその設備が、多機能トイレの中に設置されるケースが増えていることにある。
オストメイトは見た目では判りにくい内部障害者のため、多機能トイレを使用した際に、認識不足による誤解から心無い方クレームを受けることが少なくない。いらぬトラブルを避けるために通常のトイレに入っても、中腰あるいは床に膝をついて処理をするなど体の負担が大きく、無理な姿勢で衣服を汚してしまうこともある。
国交省は2021年3月、建物のバリアフリー設計指針を4年ぶりに改定した。オストメイトを含む障害者など、本来必要とする人が利用できない事態を防ぐのが目的だ。トイレについては新たに「バリアフリートイレ」という総称を用い、施設管理者に「多目的」や「誰でも」という名称を見直すよう求めている。
さらに国交省は同年6月、駅や商業施設の“一般のトイレ”に、おむつ交換台やオストメイト向けの洗浄器具を置くこと、また車椅子用トイレは大型電動車椅子に対応した広さにすることを要望している。1箇所に集中していた機能を分散し、混雑の緩和を促す狙いである。
車椅子使用者とオストメイトのトイレの機能を分けて考えたことは大きな一歩だが、一般のトイレにオストメイト用の汚物流しを設置することは、面積的に難しい。そこで紹介したいのが、さつきが提案する「前広便座(ZA FREE)」である。
「ZA FREE」の便座は、前部(足元側)の広い開口と、ゆったり座れる深い奥行きが大きな特徴。オストメイトが座った姿勢で汚物処理ができるほか、自己導尿患者や要介護者の陰部洗浄など、幅広い用途に対応している。既存のトイレに後付けできる設計のため設備投資を抑制でき、限られたスペースに設置できるというメリットもある。
販売する さつきは、環境や教育、福祉領域における社会貢献を理念とした企業で、「ZA FREE」はそのシンボル的な商品となる。なお同商品は2020年に、日本能率協会が主催する日本最大級の住宅・建設関連専門展示会「Japan Home&Building Show」にて、 “優れた建築を生み出すことに貢献しうる製品”“未来への布石となる製品”に贈られる「みらいのたね賞」を受賞している。
すでに公共施設、医療・介護の現場にも導入が進んでおり、トイレのユニバーサル化に着目した某大手企業とのコラボレーションの公表も控えている。当サイトでも近く、数々の導入実績と導入の効果ついて紹介する。
先のバリアフリー新法がユニバーサルデザインのあり方を本気で考えるきっかけとなり、近年はそのフェーズも新たな段階に入った。
2021年に「鉄道駅バリアフリー料金制度」が創設され、鉄道各社は料金の値上げ分を関連設備の投資に振り向けている。トイレ機能の充実を含む障害者や高齢者への配慮が、公共施設の必須の取り組みになってきた。
この潮流が規模の大小を問わずあらゆる民間の施設におよぶのも時間の問題といえよう。これから施設の新設または改修を検討される企業には是非、オストメイトのトイレ事情を念頭に入れていただきたい。(了)
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