流通業は消費行動の受け皿として不可欠な存在だが、それを物流で支えるトラックドライバーの人手不足が深刻化している。全日本トラック協会は喫緊の課題である「2024年問題」に向けた改革の方針を出したが、方針にある「労働生産性の向上」や「適正取引の推進」といった課題の解決には、物流を活用する全事業者の意識改革と行動変容が求められる。本稿では、物流業界の現状を踏まえつつ、日用品・化粧品業界における持続可能な物流システムを提案するプラネットの「ロジスティクスEDIを活用した物流業務改善」を紹介する。(構成・文=八島充)
今年9月に経産省・国交省・農水省が共同で発表した「我が国の物流を取り巻く現状と取り組み状況」によれば、「2024年問題」の認知度は業界全体で5割程度となり、「知っているが内容を理解できていない」を合わせると65%にのぼっていることがわかった(下図)。
その一方、2024年問題によって生じる課題を「人材不足」や「対応コストの増加」とした回答も3割を超えており、この問題が自身の事業にもマイナスという認識はあるようだ。まず念頭に入れるべきは、流通業界全体が「このままではまずい」という意識を共有することである。
政府が2019年に施行した「働き方改革関連法案」は、時間外労働の上限を定め違反者に罰則を課している。建設業、医師、輸送業等はこれに猶予期間を設けてきたが、いよいよ2024年4月から適用される。
なお、通常の時間外労働の上限は年720時間だが、輸送業は960時間と240時間の差がある。将来的に一般中小企業と同じ規定を目指す考えだが、ドライバーの人手不足が恒常化する現在では、現実味がないと言わざるを得ない。
国交省が2018年に発表した「トラック運送業の現状等について」を見ると、貨物自動車運転手の有効求人倍率は全職種の約2倍と高い一方、年間所得額は全産業平均の1割から2割低くなっている(下図)。
年間労働時間も全産業平均と比べ300時間以上多く(下図)、生産人口の減少も相まって人材の確保はいよいよ容易ではない。「鉄道貨物協会H30報告書」では2028年度のドライバー需要量117.5万人に対し、供給量は89.6万人と、27.8万人のドライバー不足を予想している。
他方、道路貨物輸送のサービス価格は2010年代後半のバブル期の水準を超えて過去最高となっている。荷主の物流コストも上昇しているが、それを輸送する物流業者の多くは、高騰するコストを吸収する手立てが少ないのも事実である。
このまま2024年を迎えると、ドライバーの労働力不足によって輸送業者の経営が圧迫され、商品を運び続けてきた当たり前の環境が維持できなく可能性がある。これが、「2024年問題」の根幹と言える。
全日本トラック協会が2018年に発表した「トラック輸送業界の働き方改革に向けたアクションプラン」の骨子は、以下の4項目。
1)「労働生産性の向上」
2)「輸送業者の経営改善」
3)「適正取引の推進」
4)「多様な人材の確保・育成」
特に荷主に関わってくるのが、「労働生産性の向上」の部分であり、同協会は「荷待ち時間、荷役時間の削減および作業の効率化」の必要性を訴えている。
荷待ち時間は「荷主や物流施設の都合によってドライバー側が待機している時間」のこと、また荷役時間は「トラックへの積み込みや荷下ろし、または倉庫やヤード等への入庫・出庫にかかる作業時間」のこととなる。ドライバーの拘束時間の多くを占めるこの2つを削減できればドライバーの時間外労働が減り、結果的に荷主のコストも軽減されるはずである。
「作業の効率化」では、商品の受注伝から荷受けまでの伝票の電子化(=ペーパレス化)や、ITを用いた在庫管理の高度化が必要になるが、これも物流業者だけでなく流通全体を一気通貫で繋ぐ仕組みの構築が不可欠である。
その仕組みとして今回紹介するのが、プラネットが日用品・化粧品業界のメーカーと卸売業に提唱する「ロジスティクスEDIを活用した物流業務改善」だ。
EDIとは、「Electronic Data Interchange」の略で、「電子データ交換」を意味し、企業間取引で発生する受発注書や請求書等の帳票のやり取りを通信回線やインターネットを用いて電子的におこなうシステムのこと。
元々プラネットは、基幹EDIを用いて日用品・化粧品業界のメーカーと卸売業の間でデータ交換を行う企業だが、そのシステムを応用し、メーカー・卸売業・物流事業者のデータ交換を通じて、物流効率の改善を目指している。
同社ネットワーク推進本部の森高宏氏は、「持続可能な物流社会の実現に向けて、各社がAIやロボットによる自動化など、様々なシステムツールの活用が見られますが、それだけでは物流問題は解決しません。携わるすべての業態が一体となって改善をすすめていくことが必要だと考えます」と語っている。
ポイントとして挙げるのが、
1)「物流情報のデジタル化」
2)「デジタル化した情報を用いて新たな価値をつくる」
3)「既存のルールを見直して、今までと全く違う運用手法を構築する」の3つ。
「いうまでもなく物流と商流は一体です。日用品・化粧品業界の商流を支えてきた当社のEDIのノウハウによって物流業界の標準インフラを構築し、問題の解決に取り組んでいきたいと思います」(森氏)
「物流情報のデジタル化」は、ASN(Advanced Shipping Notice)と呼ばれる「出荷予定データ」を活用することで可能になる。
ASNデータをメーカーと卸売業、その間に入る物流業者が共有することで、発注から納品に至る商品の流れが「見える化」され、管理制度が高まる。これにより各層の伝票レス=ペーパーレスが進み、伝票を出力する高額なインパクトプリンターのコストも削減できる。
また卸売業にとっては、納品情報の照合精度が高まるほか、賞味期限などの情報を事前に入力すれば庫内での作業も軽減されるようになる(下図=ASNの期待効果)。
さらに、発注から納品まで時々刻々と更新される物流情報を適切なタイミングで共有することで、物流現場の様々な課題の解決が期待できるという(下図=ASNの内容)。
プラネットは、2020年2月に発表した「ロジスティクスEDI概要書」を翌年1月にバージョンアップし、各社のシステム環境に合わせた「運用想定」「導入のステップ案」を追加している。併せて納品案内書の情報と物流業務の効率化に必要な情報を整理し、業界標準となる「出荷予定データ」も制定した。
「今後は各種情報の入力を支援する様々なツールも提供していくので、どうぞご期待ください」(森氏)