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ヘルスケアインタビュー/協励会の佐野 智会長に聞く
『健康寿命延伸時代における薬局の役割』


睡眠を学び睡眠関連商品を取り扱い地域住民に寄り添う



高まるセルフメディケーションニーズにはOTC、“未病と予防”ニーズに対してはヘルスケア関連商品の推売、そして処方箋の調剤業務にも全力を注ぐ創設77年の協励会(日本薬局協励会)は、調剤報酬改訂が論議を呼ぶ中、今、何を実践し、これからどのように歩んでいくのだろうか。「2026年の1年間は、睡眠を学び睡眠関連商品を取り扱い地域住民に寄り添う」と語る佐野 智会長(大阪府堺市・薬局白十字)に、『健康寿命延伸時代における薬局の役割』を聞いた。(取材・文◎流通ジャーナリスト・山本武道/写真◎ヘルスケアワークスデザイン記者・笠原亜紀世)


2025年を振り返って・・・


―― “最大よりも最良の薬局たらん”をスローガンに掲げる協励会が今、どのようなことを実践し、これからどのように歩んでいくのかお聞きします。まずは2025年の1年間を振り返ってください。


日本薬局協励会・佐野智会長


佐野 この1年間、医薬品小売業界は目まぐるしい変化を遂げてきました。ドラッグストア間の統合やM&Aが相次ぎ、コンビニやスーパーでも医薬品部門の強化、さらに市場が拡大してきた処方箋調剤分野は、調剤報酬改訂によって、どのような方向になるのかは、まだ不透明な状況下にあります。

こうした中、我が協励会は、早くから医薬分業の推進に力を入れ、処方箋調剤にも取り組む一方、地域住民の間に高まるセルフメディケーションニーズに対しては、会員薬局しか取り扱っていないOTCや漢方薬の推奨販売、“未病と予防”ニーズには、オリジナルのヘルスケア連商品を提供してきました。


われわれは、1949年2月に創立されて77年後の今日に至るまで、グループ会を中心として研修に励み、2025年度の1年間も地域住民の健康創造に寄り添ってきました。長い間に培ったノウハウを武器に、在宅医療・介護分野にも地域連携している組織でもあり、私はこれこそが、地域における薬局経営の大切な根幹であると確信しています。


薬局の明確な方向転換が示された診療報酬改訂


―― 2026年度の調剤報酬改訂について、どのように受け止めておられますか。

佐野 2015年に厚労省が策定した『患者のための薬局ビジョン』は、すべての薬局を“かかりつけ薬局”へと転換することを目指したものです。ビジョン制定11年後の今、処方箋調剤に関しては「門前」から「かかりつけ」、そして「地域へ」と歩んできた薬局は、病気の予防や健康サポートに貢献するという薬局本来の機能の実践を促したのが、今回の診療報酬改訂の背景にあるのではないでしょうか。

協励会は、地域密着型、そして地域連携をすることによって歩んできた団体です。これから先の10年間のコミュニティ活動は、医療機関から発行された処方箋の受け入れも当然のことながら、これまでにもまして病気の予防や健康サポートを強く意識していくことが、これから薬局が進んでいく姿でしょう。

その準備段階として、われわれ協励薬局は、“かかりつけ機能”を実践するために、地域の連携体制を進め、健康サポート薬局、地域連携薬局として地域住民の“未病予防”ニーズに取り組むべきであることを、会長としてずっと言い続けてきました。今回の調剤報酬改訂に対しては、国民に寄り添う協励薬局のような生き方をしていく薬局の存在が、地域に必要ではないかと思っているからです。


昨年の全国大会にて挨拶する佐野会長


薬局が取り組む“予防医療”への対応


―― “ペイシェント・ファースト”という言葉がありますけれども、協励会は、まさに患者さんの立場に立った地域活動に取り組まれてきました。OTCや漢方など、カウンセリング機能を持つ会員薬局が相談に乗り、セルフメディケーションの最先端を歩んでいますが・・・。

佐野 私は、初代の佐々浪正典先生、白木太一郎先生、前納秀夫先生、小田美良先生に次いで5代目の会長になるのですが、これまで歴代の会長先生は、国民に向けてセルフメディケーション振興という同じ方針を受け継がれてきました。それは、このところ国が、セルフメディケーションという言葉を盛んに発信するようになっていることからも、協励会が歩んできた道のりは、正しかったことを意味していると思っています。

セルフケアやセルフメディケーションによる対応は、これまでも今もそうですが、これからも国民の健康創造に欠かせないものであり、重視していかねばなりません。薬局の役割は、セルフケアやセルフメディケーションの普及にあります。注目すべきは、高市早苗衆院議員が内閣総理大臣に選ばれた際の所信表明の中で、“攻めの予防医療”という話をされたことです。

この言葉は、現在の社会保障制度が厳しい状況にあることを意味し、2026年度の診療報酬改訂の中に反映されていると思います。そして街の薬局が取り組むセルフメディケーション、セルフケア、いわゆる予防医療への対応がどこまでできるか。国は期待しているのだと私は考えています。


薬局に求められる“トリアージ”機能


―― 世界に冠たる国民皆保険下にあるわが国では、医療費にブレーキをかけることもさることながら、これからは国民の間に自らの健康は自身が守るセルフケア、そしてセルフメディケーション意識をより高めていくことが望まれます。

佐野 毎年、国民総医療費が高騰していますが、大切なことは社会保障制度を堅持していく中で医療費を削減するだけでは守れません。そこで今こそ、国民の間にセルフケアやセルフメディケーションをしっかりと根付かせる社会にしていかなければならなくなりました。実は今、“トリアージ”機能というものが薬局に求められています。

「振り分ける」という意味で、来店客から相談された際に、これはOTCでいいのか、それともOTCを服まずに自宅に戻り寝ていたほうがいいのでは、と判断しなければならない場合もありますし、あるいは、すぐにお医者様に診察していただく受診勧奨も大切です。  
例えばコロナが蔓延した際には、感染対策をしながら、熱が出たときには解熱鎮痛剤のアセトアミノフェンで対処すると同時に、重症化しないよう必ず病院への受診勧奨が不可欠でした。

ただし医療機関を紹介する場合に大切なことは、専門医に診察していただくようご案内することです。理想的には、来店されたお客さまに医療機関への紹介状を書けるくらいの対応ができる薬局を目指していかなければなりません。

今の時代、かかりつけ医の診察を受け、必要ならば大きい病院のドクターを紹介してもらい受診するというケースが多いわけですが、薬局の役割は医療機関への受診勧奨です。協励会では、そうしたマニュアルもあります。

そして目の前で、「この人はすぐに救急車を呼ばなければいけない」や「救急車を呼んで速やかに病院に行ってもらった方が良い」という判断をしなければならないこともあるかもしれません。これが“トリアージ”です。

これができれば、セルフメディケーション、セルフケアは一気に進んでいくでしょう。しかし、“トリアージ”には、薬剤師や医薬品登録販売者は、日頃からしっかりとスキルを上げておかなければなりません。これが自己研鑽です。

協励会では、たくさんの勉強会を各地で開催しています。講師として活躍されている方もおられますが、会員先生はそれこそ休みの日も勉強会があります。すべては地域住民に寄り添うためであり、しっかりと学ばなければ頼られる薬局にはなれません。

パソコンやスマホがあれば、ネットで様々な情報を入手することできるようになっていますが、ただその情報のどれが正しいのか、情報が非常に錯綜する時代ですから、見極めるためにも、日頃から自身の能力を高めるために努力を続けなければならないのです。

どの情報が信用できるのか正しく判断できることも、協励薬局の会員先生のスキルが上がっているからこそ信頼される部分ではないかと思います。やはり日々の研鑽が重要ですし、年に一度の全国大会、地域におけるグループ会等々・・・勉強しながら自分を完成させていくという協励会の先達の教えに学ぶことは多くあります。


全国大会の特別講演に“睡眠”のスペシャリストを招聘


―― 6月20・21の両日に開催される東京全国大会ですが、具体的には、どのような内容なのでしょうか。

佐野 全国大会のテーマは、『変化から進化へ〜高めよう協励精神』です。初日は、全国の会員先生との意見交換、情報共有などができる場として夕食懇親会(東京プリンスホテル)のみとし、翌日は、東京ビッグサイトを会場に総会・大会、分科会として混協(混合協励会)や指導講演、そして特別講演として“睡眠”のスペシャリストでノーベル賞候補でもある柳沢正史先生(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構機機長・教授/S’UIMIN取締役会長)を招聘しました。

実は協励会では、2026年の1年間は、会員先生に、“睡眠”について徹底的に勉強していただこうと呼びかけています。3月には、講師に睡眠の専門家としてご活躍されておられる林田健一先生(スリープ&ストレスクリニック院長)をお招きして、『薬局の現場で知っておきたい睡眠の基礎知識』と題し講演をしていただきました。

全国の会員先生に徹底的に学んでいただきますが、われわれ協励薬局は、知識を修得するだけではありません。学んだ知識を店頭で活用し、睡眠が不足している地域住民の皆さまの悩みにお応えすることが重要になります。

その結果として、協励会が地域住民の健康創造のサポートへ、OTCやヘルスケア商品の推奨が不可欠になりますので、自店へいろいろな差別化商品を取り揃えておかねばなりません。今年の全国大会では、快眠コーナーの設置を提案していきます。


会員薬局が真実を語り合う“混協”(混合協励会)


―― 全国大会では、毎年、会員薬局が自由に話し合う“混協”という場がありますが、協励会にとってその存在はとても重要ですね。

佐野 “混協”は全国大会の華でもあり、今回のテーマは『記憶に残る接客』と題し開催します。“混協”は、会員先生が成長する場でもあります。年配の方もいれば若い人もいますし、男性もいれば女性もいます。北海道もいれば九州や沖縄で開局する会員先生が、全国から参加され5〜6人ぐらいで一つのグループを組んで、フリーにディスカッションします。

最初は、なかなか話しづらい空気もあったりしますが、一人が話し出すと、そのことに対して少しずついろいろな意見が出てきて話の輪が広がっていきます。そうすると次に何が起こるかというと、「私はこうしている」と披露したことについて、互いに語り合ってきました。

“混協”で大切なことの一つは、「互いに真実を語り合いましょう」ということです。真実を語るというのは、失敗例もあれば成功例もあるでしょう。包み隠さずに真実を語る。そして相手が話したことを、「素直に受け入れましょう」という二つの約束があります。協励会での仲間づくりは、考えを同じくした同士の間で、お互いに日頃からそういう教訓を唱えているからこそ成り立っています。

協励会では、様々なセミナーだけでなく、“混協”に参加することによって、必ずその先生は伸びていきますし、そこで出会った人と一生同志としての繋がりができます。そこから先は、LINEでもいいし、Zoomといったデジタルツールも使いこなし、地域住民のセルフメディケーション、セルフケアニーズに応えていくことです。

協励会の77年の歴史の間に、会員薬局の中には、辛いこと、うまくいかないこともあるでしょうが、“混協”では、一つの部屋仲間になった者同士がお互いに付き合うというのがもともと根付いていますので、いつも地域のお客さんのためのことを考えた話をしています。それが“混協”なのです。


昨年の全国大会には約1000名が参加した


“物には心を添え心には物を添える”ことの重要性


―― 協励会では、差別化商品を販売する際に実践されていることは、“物には心を添え心には物を添え”、つまりハード(商品)とソフト(カウンセリング)の両輪ですね。

佐野 まさにその通りです。学んだ知識を活用しカウンセリングし、物を提供できて初めて地域住民に寄り添う薬局です。協励会では、この両輪を実践することのできる多くのオリジナル商品を開発し会員先生に提供してきました。今年、会員先生の店頭を通じ地域住民に提供させていただく眠りに関する商品には、枕やシーツもありますし、いろいろなアイテムを取り揃えています。

睡眠で大事なことは、体の内部の深部体温がどうなるかによって睡眠の質が変わるということです。そこで、睡眠は時間ではなく、睡眠の質を高めるためにはどうしたらいいか。眠りの浅い人、なかなか眠れない人、不安で眠れない方もおられるなど、睡眠不足に悩む方が増えていますから、薬局の店頭では、例えば入浴をお勧めしたり、食事を摂る時間等々、アドバイスが不可欠になります。

協励会では、先ほどもお話ししましたが、この1年間は、徹底的に快適な睡眠のための知識を学んでいただき、いつでも不眠の解消法をアドバイスできるようにしていきたいと、すでに活動を始めています。各支部でも睡眠に関する勉強会を開こうとしていますし、快眠のための関連商品も取り揃え推奨販売していく。まさに会員先生が、これまで実践されてきた“物には心を添え心には物を添えて”こそが、これからの10年先に国が目指している地域の薬局なのだと思います。


信頼され愛される薬局になるために・・・


―― 国民皆保険という医療制度をしっかり守るためには、予防がとても重要です。健康寿命延伸時代には、特にそうですね。協励会のこれからですが・・・。

佐野 健康寿命延伸時代にあっては、平均寿命と健康寿命の差をどうやって縮めるかが重要です。健康寿命と平均寿命の差が、人生の中で医療費の70%を使う部分です。差が縮まれば縮むほどに、社会保障制度は楽になるわけです。そのことを、国は目指したいのではないかと思います。では、どこから手をつけるべきかですが、まずセルフメディケーション、セルフケアからでしょう。

例えば薬局には、地域住民の健康力を上げるための健康機器がいろいろと取り揃えられているケースが少なくありません。例えば店内に陳列した握力計であれば、店頭でどの程度の圧力があるか、お客さまご自分で測っていただき、筋力の低下が見つかるかもしれません。そこで筋力をアップするための方法をアドバイスすることです。

処方箋調剤を待っていただいている間に、健康になるための方法や早期にいろいろな病気を見つけるための情報を提案できる薬局は、食事や運動、睡眠の大切さについても話をすることができますので、地域住民にとって最も信頼できる薬局になるのではないかと思います。

協励薬局が、これまで以上に地域住民から信頼され愛される薬局になるためには、決して他力本願ではなく自分で成長しようとする努力があるかどうかです。当たり前のことのようではありますが、この努力という2文字が、さらに求められてくると思います。ひたすら地域住民に寄り添うこと。この繰り返しが、薬局本来のあり方でしょう。

日々、研鑽し、悩み解消に最善の努力をすることによって、「あのスタッフがいるから、あの店に行こう」と、また来店してくださることになります。10年後に自分の店が生き残っている姿を確実に見たいのであれば、努力しなければなりません。

「国民から選ばれる薬局」へ、国も政策を組んでいるような気がします。今年よりも2年後の方が、もっとはっきりするでしょう。ですから、この2年間、何もしなかったら一気に差が開くだけです。この2年間は、現状をしっかりと見極め、今何しなければならないのか。これから、どのような薬局を目指すのか。会員先生とともに、10年先の姿をしっかり見据えていきたいと願っています。


<取材を終えて> インタビューで甦った長瀬興初代事務局長が綴った『宝来記』


「あなたは、現在の薬局に満足しているでしょうか。他の商業と比べて収益面でも優れているかどうか。そして自分の職業に誇りを持ち、喜びのうちに商売をしていますか?」

―こんな書き出しで『我が薬業人生』と題した連載がスタートしたのは、1983年9月7日のことだった。筆者は、協励会の初代会長として活躍された佐々浪正典さん(佐々浪ファーマシー)。

このストーリーでは、協励会の会長としての歩み、薬局経営のポリシー、人生の中で出会った様々な人たちとの交流等々、当時、私が所属していた医薬品小売業専門紙の薬局新聞に毎週1回、36回連続で掲載された。

私自身も、記者として人との出会いの大切さ、「寄り添う」ことの重要性を、佐々浪会長との出会いで学んだが、今回のインタビューを通じ佐野会長からは、何度も「寄り添う」という言葉をお聞きした。

そして蘇ったのが、初代事務局長として長い間、協励会に寄り添われてきた長瀬興さんが記された『宝来記』である。取材の際に佐々浪会長からいただいた。長瀬さんが事務局長の職をリタイヤされたのを機会に、お世話になった会員薬局を訪ね(1955年4月〜1957年10月)纏められた書だ。

長瀬さんは、協励会の会員薬局へ保健薬の『ポリグロン』を提供していたポリグロン本舗の責任者だったが、創業以来、得意先を一度も訪問していなかったことから「心からお礼をして回ろう」と一大決心をしたのがきっかけだったという。『宝来記』には、いっさい商品の販売に関しての記載はない。

1955年4月3日、長瀬さんは会社のスタッフと家族に見送られ、午後11時15分、東京発の急行伊勢に乗り、日頃の感謝を伝えるための行脚が始まった。

会員薬局の最初の訪問地は宮崎。5日間かけて11店を皮切りに鹿児島(16店)→熊本(27店)→大分(20店)→長崎(18店)→佐賀(17店)→福岡(78店)、そして歴訪の旅は22次に及び、長瀬さんは10月3日に東京にゴール。東京での訪問は、所要日数33日間、222店舗だった。

「私の一生忘れることのできない悲願成就の日。ついに日本全国、津々浦々に至るまで日本薬局協励会の2000近いお店を1軒残らず訪問を完了した。最後の日、最後の店は、はからずもスキヤ橋センター佐々浪ファーマシーに相なった」と記している。

『宝来記』は、すべて長瀬さんが、ご自分の眼と耳で見聞きし、訪問先で「何事も片手間で仕事をするな」との教訓を思い出したことや、宿泊先のスタッフの接客が良かったこと、招待された慰労の宴で、深夜まで協励談が尽きなかったこと、訪問に先立ち、独自に会員薬局のマップを作成したという、その時の情景が目に浮かぶ。実に心温まる書だ。

協励会は、人と人とのつながりが深い。全国大会の“混協”に参加すればわかる。初めての出会いであっても、苦労話、悩み事もぶつけ合う。今年も“混協”には、たくさんの会員が集い、思いのほどを語らうことだろう。(山本)