
アピアランス(外見)ケアとは、がん治療に伴う脱毛、皮膚・爪の変化、手術による外見変化などの苦痛を軽減し、患者が自分らしく社会生活を送れるよう、医学的・整容的・心理社会的支援を行うケアのこと。支援体制は欧米で先行しており、日本では2000年代から国の後押しが本格的に始まった。キリンホールディングスは2022年にアピアランスケアを活動の軸に据え、現在はグループのファンケルがその先頭に立つ。なぜアピアランスケアに取り組むのか、そのゴールはどこにあるのか。前ファンケル経営企画本部メディカルコーディネイトグループの秋山裕香さんにうかがった。(取材と文=八島 充)
――ファンケルが目指すアピアランスケアとは?
がん患者の外見のケアとされるアピアランスケアですが、外見だけでなく心も支える活動に重点を置いています。患者や医療従事者だけでなく、社会全体にアピアランスケアの存在と意義を広め、結果的にすべてのがん患者とその家族のQOL向上につなげる…そんな世界を目指しています。最終的に、アピアラスケアを通じ「治療と社会生活の両立が当たり前となる社会」となることがゴールです。
――海外と日本でアピアランスケアの状況は異なりますか?
アメリカにはアピアランスケアに積極的な医療機関が数多くあり、医療機関と連携した民間のワークショップも充実しています。発端となったのがワシントンD.C.に本部を置く団体Look Good Feel Better (LGFB)の存在です。「がん治療中でも美しくあるべき」「隠すのでなく、ケアをしながらサポートすべし」という団体の理念が世界中の賛同者を集め、日本の資生堂やアデランスも参画の輪に加わっています。

欧米におけるアピアランスケアがオープンな活動として根付いているのに対し、日本はややクローズドな環境下に置かれているのが実情です。これは良くも悪くも「患者のプライバシーを守る」という考え方からきていますが、今後は世界の潮流に合わせて、よりオープンな活動になっていくことが考えられます。
――今はアピアランスケアが国策として動いているのですよね?
アピアランスケアは、がん治療の進化とともに発展しています。2000年代に抗がん剤治療が入院から外来へと移行し、関連する法や制度も変更されました。2006年に「がん対策基本法」が施行され、その翌年に「第1期がん対策推進基本計画」が始まりますが、この計画の中でウィッグやメイクを中心に「外見へのケア」が試行的に行われました。これが、我が国におけるアピアランスケアの実質的なスタートです。

2010年代は新たな治療法や新薬の登場とともにがん対策推進基本計画がブラッシュアップされ、第2・第3期計画で「予防・医療の充実」と「がんとの共生」が明確になりました。2013年には国立がん研究センター内に「がん相談支援センター」が新設され、外見支援が医療の中に組み込まれていきます。
外来治療が標準となった2020年代は「がんとの共生」つまり、治療と社会生活の両立に重きが置かれます。2023年の「第4期がん対策推進基本計画」でアピアランスが独立項目となり、患者が抱える多様なニーズへの対応が始まりました。
――どのような対応をしているのでしょうか。
「がん診療連携拠点病院」は最新で468の施設があり、そこで働くスタッフが「がん相談支援センター」で必要な知識とケアの方法を学んで実践しています。
その中身は、病院の売店にウィッグ他のケア用品が提供されるだけでなく、直接の医療行為や看護行為にも及びます。抗がん剤治療の副作用による脱毛を軽減・予防する頭皮冷却療法や、同じく副作用で生じる爪囲炎(そういえん)の痛みや炎症を緩和するテーピングなどもその一例です。また「分子標的薬」の使用で皮膚障害の恐れがある患者に対しては、世界的にエビデンスのある「予防的スキンケア」の実施が推奨されています。
そして、これらの医学的なアプローチの外側にある、心理的・社会的なアプローチこそ、私たちの領域だと考えています。
――アピアランスケアの活動はキリングループのプロジェクトとして始まったのでしたね。
キリンホールディングスは、アピアランスケアに関する社会課題の解決に取り組むプロジェクトを、2022年12月に立ち上げました。グループ会社を横断して知見と技術を集結させ、シナジーを創出する試みです。元々私は、グループの製薬事業を担う協和キリンでプロジェクトに関わっていましたが、プロジェクトの拠点がファンケルに移動することになり、2024年4月に当社に赴任しました※。
※秋山さんは2026年4月、再度協和発酵キリンに異動となっています。
赴任直後にまず、医療従事者と患者の双方が「何に悩み何を求めているのか」の情報を集め、その解決方法について検討を重ねました。ヒアリングの中で、患者は「たくさんの情報の中から正しい情報を取得する方法が分からない」、また医療従事者は、医療行為以外の「治療による影響を患者に伝えるツールがない」という実態が浮かび上がりました。

そこで私たちは、正しい情報を1カ所にまとめ、わかりやすく患者に伝えることを念頭に、アピアランスケアの総合情報サイト「Nagomi time」(URL:https://nagomi.fancl.co.jp)を昨年1月に開設し、その情報を網羅した冊子の配布も始めました。
――「Nagomi time」の特徴を教えてください。
患者の中には、がんであることを他者に知られたくないという方、家族にさえ自分の状態を伝えたくないという方がいます。なので冊子の表紙には、「外見」や「がん」という言葉を使用せず、人前で読むのを躊躇わないよう工夫しました。
その冊子は、「まずはここから」という見出しとともに、治療によってどのような影響が出るのかを確認するページで始まります。ご自身にこれから起こる可能性のある外見の変化を確認いただいたうえで、「何故そのような影響が出るのか」「その影響に対するケアの必要性」そして「具体的なケアの方法」を、やわらかい言葉で説明しています。各ページに配している二次元コードを読み込めば、ケアの方法を動画で見ることができるのも特徴の1つです。
一方のサイトでは、アピアランスケア関連のニュースや助成金等の最新情報を常時更新し、治療と仕事の両立をサポートする情報も充実させています。
例えば、「お役立ち動画集」では男女のモデルを使ってのメイク術を、また「スタイリングのヒント」では季節ごとのおすすめファッションなどを掲載しています。この他「美味しく食べるレシピ」では「肌が元気になる」「10分以内で作れる」というレシピを紹介し、「よくある疑問・お悩み」には、患者の実際の経験談をもとにQ&A形式で回答しています。
――ファンケルのスタッフも実際に患者と接するのですか?

患者の中には、周囲の目が気になり自分らしさを発揮できない、人前に出るのが怖いと感じている方もいます。こうした不安は社会生活に大きく影響しますので、患者と一般市民、そして医療関係者が集う「学び・体験・交流」の場を作り、そこにスタッフを派遣しています。
メイクイベントでは、始めは帽子を深く被りうつむいていた患者が、好みのメイクを施されて、明るい気持ちになって帰られる姿をたくさん見てきました。また神奈川県と合同で、がんを患われたタレントの梅宮アンナさんを招いてのトークセッションや、日本癌治療学会学術集会に協賛し一般の方を招いたシンポジウムなども、参加者から好評を得ています。
――理解を深める社内の啓発活動も大事ですよね。
この2年間、アピアランスケアに関わるスタッフを、部門を横断して教育してきました。その効果もあり、先月に医療機関と共同開催したイベントに多数の弊社スタッフがボランティアとして参加しました。さらにこの春から、直営店の美容部員にもメイク等の研修を実施し、イベントに派遣するスタッフを増強していく計画です。
――ゴールに掲げる「治療と社会生活の両立が当たり前となる世界」の実現に向けて、今後の課題と方針をお聞かせください。
日本社会ではまだ、アピアランスケアが「特別な活動」と捉えられている実情があります。それを「当たり前の活動」とするために、「認知・理解の促進」、次に「現場実装」そして、「エビデンスの取得」という3つのステップで活動を進めていきます。
具体的に、「Nagomi time」を用いた情報発信や啓発イベントの主催や参加で認知・理解を促します。また「Nagomi time」で培ったノウハウを現場に実装し、あらゆる場面でケアができる環境を整えます。そこで「Nagomi time」の有用性をエビデンスとして取得し、アピアランスケアを持続的な活動として根付かせていきます。
実はすでに、国や医療機関との協業によるエビデンスの構築を始めています。昨秋は内閣府のプロジェクトの一環で、「Nagomi time」を介して患者やその家族がアピアランスケア情報に簡単にアクセスできる環境を整えました。また今年1月から、沖縄の那覇西クリニックが行う「予防的スキンケア」の看護研究に対する支援もスタートしています。
他にも、まだ詳細は話せませんが、様々な活動を行う準備が進行中です。一連の活動を通じ、「世の中のアピアランスケアはファンケルが牽引している」「ファンケル=アピアランスケア」という世界を確立し、一層確度の高い活動へと進化させたいと考えています!
――貴重なお話を賜り勉強になりました。今後はHoitto!編集部も、アピアランスケアに関する情報の収集と公開に努めてまいります。本日はありがとうございました!
タグクラウド
AJD DX Fromプラネット JACDS OTC医薬品 PB SDGs アサヒグループ食品 イオン ウエルシア カルビー キリン サプリメント サラヤ スギHD スギ薬局 チルロッチ ツルハ ドラッグストア ドラッグストアジャーナル ファンケル フェムケア プラネタリーヘルス プラネット マツキヨココカラ マツキヨココカラ&カンパニー ラカント ロート製薬 介護 佐藤製薬 免疫 卸売業 富士経済 富士薬品 小林製薬 市場動向 意識調査 日本ヘルスケア協会 日本調剤 桐村里紗 機能性表示食品 決算 第25回JAPANドラッグストアショー 薬剤師 薬学生 薬局 調剤薬局 調査 食と健康アワード2024 食と健康アワード2025