1型糖尿病は、自己免疫の働きによって膵臓の細胞が破壊され、インスリンが分泌されなくなる原因不明の病気。生活習慣病である2型糖尿病とは似て非なるもので、小児から成人まで、誰もが突然発症するリスクがある。治療には生涯にわたるインスリン補充が必要で、根治は不可能とされてきた。ただ近年、根治を目標にした研究が進み、その光明も見え始めている。今回、11月14日の「世界糖尿病デー」に合わせた企画として、糖尿病予防を目的にカロリーゼロの甘味料「ラカント」を1995年に発売し、1型糖尿病の支援もおこなうサラヤの更家悠介社長と、1型糖尿病を抱えながら、モデルや社会貢献活動を通じ病気の正しい知識・情報を発信し続ける星南(SENA)さんに対談をしてもらった。(取材と文=八島 充)


更家社長 一口に糖尿病と言っても、1型と2型は似て非なる疾患ですが、治療に血糖値のコントロールを要するという共通点があります。糖尿病という社会課題の解決を目指す当社も、1型に関わる団体や患者を支援していますが、近年は1型の患者が増えていると聞きます。状況を教えていただけませんか?
星南さん 日本に1型糖尿病患者は10〜14万人がいると推定され、おっしゃるように発症率は年々上昇しているようです。昔は「小児糖尿病」という呼称もあり子供の発症が多かったのですが、昨今、特にコロナ禍以降は40代、50代で発症するケースも増えています。成人してからの発症は、初期診断で2型と間違われることも少なくありません。
更家社長 星南さんが1型糖尿病を発症したのはいつ頃ですか?
星南さん 18歳の夏です。初めは「体調がすぐれないな」くらいでやり過ごしていましたが、次第に喉の渇きや倦怠感がひどくなり、体重も激減していきました。症状をネットで検索しても「水依存症」や「風邪」しかヒットぜず、風邪を引いたタイミングで尿検査をしたところ、血糖値が400 mg/dlを超えていることが判明しました。その時は東日本大震災の復興支援で気仙沼にいたのですが、診断を受けそのまま大学病院に向かいました。
更家社長 発症してから語学留学でアメリカに向かったそうですね。

星南さん 医師に「治らない病気だ」と告げられた時は絶望もしましたが、「今後どのような人生を歩むべきか」を、深く考えるきっかけになりました。1型のことを調べるうちに、インスリン注射をしながらアスリートとしてご活躍されていた阪神タイガースの岩田稔さん、同じく全日本エアロビック選手権大会で2度も優勝した大村詠一さんの存在を知りました。彼らに「夢をあきらめる必要はない!」と後押しされて、周囲の反対を押し切って留学を決行しました。
更家社長 帰国後はどのような活動を?
星南さん アメリカ留学中は、病気やハンディキャップを「個性」としてリスペクトしてくださる方々に囲まれて過ごしました。おかげで私も、自分の病気とポジティブに向き合うことができ、周りを気にすることなく、新たなことにチャレンジする勇気が湧きました。
一方の日本は、社会全体で1型糖尿病の認知度が低く、糖尿病という一つの括りで理解されてしまうことで、ハンディキャップを重く受け止めやすい環境が存在していました。患者自身も情報に振り回され誤った認識でいるケースがあり、双方のギャップにジレンマを感じていました。
原因が「1型糖尿病の認知度の低さにある」との考えに至り、その状況を変えるために「できることをやろう」という使命感が生まれました。元々モデル活動をしていた経験もあり、芸能活動を1つのツールとして、社会に正しい情報を発信する“媒体者”になることを決意し、現在の活動へとつながっています。
更家社長 先ほど「糖尿病という社会課題の解決を目指している」と言いましたが、それを象徴する商品として当社は、植物生まれでカロリーゼロの甘味料「ラカントS」を販売しています。
高度成長期に増加した糖尿病が、病者や社会にとっても負担となる新たな課題と考え、その「社会課題の解決」を目指し開発しました。元々2型糖尿病を患っていた父(前社長)のリクエストでもあったのですが(笑)。当時使われていたサッカリンなどの人工甘味料に発がん性の疑いありということで、「植物素材でカロリーゼロ」という世の中にない代替甘味料を目指しました。
長い研究の末に、漢方原料として用いられてきた「羅漢果」という中国の果実と巡り合い、その羅漢果の甘味成分とトウモロコシから作られる発酵ブドウ糖のエリスリトールを掛け合わせ、砂糖と同じ甘さでカロリーゼロという、日本初のカロリーゼロ甘味料として、1995年に発売しました。

星南さん 1995年は私の生まれた年なんです!

家社長 同じ30周年ということですね(笑)、おめでとうございます!
ただ、画期的な商品を誕生させたという自負とは裏はらに、どうやって市場に根付かせれば良いのか試行錯誤が続きました。日本糖尿病学会に出展したり、病院のセミナーで当社の栄養士が講演したりと、「ラカントS」の特徴や料理での活用方法などを、広く説いて回りました。
その後、糖尿病や肥満症などの病者の方だけでなく、美容や健康などに関心の高い層へのアプローチを開始しました。2003年からは「カロリーから糖質へ」と、時代に先駆けて糖質コントロールを訴求するプロモーションを展開し、購買層の拡大を図ってきました。現在では、コロナ過を経てSNSでのプロモーションにより、若い女性を中心とするダイエット層にも支持されています。

そういったアプローチに加え、近年は血管の弾力性を計測する血管測定器(名称:ViewWave)を販売し、健康保険団体に提供するほか、ドラッグストア店頭での健康相談会などで活用してもらっています。食品開発のアプローチに、体の状態を計億する機器の開発などを連動させることで、食事や運動など、日々の生活習慣を自分自身で把握する機会を提案しています。
これら取り組みは主に2型糖尿病の予防策ですが、1型2型を問わず、治療には高血糖の予防が重要であることは変わりません。当社は「ラカントS」のほかに、特別品種の高アミロース米を配合して低GIを実現した「へるしごはん」も販売するなど、食事による血糖値のコントロールに役立つ商品開発を進めています。

星南さん 1型糖尿病の私にとっても、食事=血糖値のコントロール=は最重要の課題です。むしろ、疾病してから食に関するリテラシーが高まり、誰よりも健康を維持できている自信があります。
1型の患者は24時間体制で血糖値を管理しています。もちろん、何を食べても良いわけですが、糖質の過剰な摂取で高血糖になれば、それだけインスリンの投与量も増え、体に負担もかかります。そんな時、砂糖の替わりに「ラカントS」を使用すれば、ほとんど血糖値は上がらず、インスリンを追加する必要もありません。血糖値のアップダウンを気にするストレスからも開放される、素晴らしい商品だと思います。

更家社長 ご愛顧いただきありがとうございます。
星南さん 話は逸れるかも知れませんが、私は日常の買い物で「what you buy is what you vote」、すなわち「その買い物で社会にどんな1票を投じるか」を意識しています。最近は様々な企業がサステナブルやSDGsを言葉にしますが、本質的な活動をしているかどうかを、しっかり見極めているつもりです。
サラヤさんの商品やサービスは人の健康をケアするのはもちろん、地球の健康もケアしていると感じます。私は山登りを通じて自然への思いやりを学びましたが、サラヤさんも、ボルネオでの環境保全や、海洋保全の活動をされていますよね。そうした取り組みに1票を投じるつもりで、商品を購入しています。
実はサラヤさんのボルネオでの活動は、ネイチャーフォトグラファーの柏倉陽介さんの写真展で手にした書籍によって知りました。聞けば柏倉さんもサラヤさんと一緒に仕事をされていたとか…。その事実を知って「この会社のファンでよかった!」と改めて感じ、「同じ想いを持つ者はつながっている」と感心しました。
更家社長 山登りの他にも、様々なチャンレジをしていると聞きましたが…。
星南さん 1型糖尿病の代表として「生きていれば可能性は無限大」であることを伝えるため、様々なチャレンジを行っています。近年は何度もフルマラソンに挑戦し、アフリカ最高峰のキリマンジャロ(標高5895m)も登頂を果たしました。昨年にはトライアスロンに、さらに先月は100kmマラソンに挑戦したばかりです!
更家社長 トライアスロンに100kmマラソン?それはすごい!

星南さん 私はインスリンポンプとCGM(持続血糖測定器)を装着しているのですが、こうした新たな技術が開発されたことで、行動の範囲がぐんと広がりました。
更家社長 走っている間のエネルギー(糖質)補充はどうするのですか?
星南さん 低血糖にならないよう、ずっと食べながら走っていました。ただトライアスロンは海に浮いて捕食をするのがとても難しかったですね(苦笑)。
更家社長 インスリン投与中の危険度は高血糖よりも低血糖のほうが高い。よくコントロールできましたね!
星南さん 1型糖尿病になったからこそ「生きたい」「自分のイノチを全力で消費したい」と思いましたし、そこから自己管理の大切さを学び、食事や健康に対する意識も高まりました。同じ患者の方にも、「1型だから」「病気だから」とできない理由を並べて諦めて欲しくない…。可能性を証明するためにも、これからもいろんなことにチャレンジし続けていきます!
更家社長 活動を続けていく上での課題はありますか?

星南さん 1型糖尿病は難病指定されておらず、治療方法によって金額は異なりますが、私は医療費として毎月3〜4万円の自己負担を強いられています。まずは医療費控除の実現に向け、行政と歩調を合わせて声をあげているところです。
最終の目標は、「治らない病気」から「治る病気」へと変えていくことです。そのためにも1型糖尿病をより多くの人に知ってもらい、研究費を捻出していたける環境を整えていきたいと思います。すでに発症した方はもちろん、これから発症する方にも希望を持って治療にあたってもらいたい。そのステップを、1つ1つ積みあげていきたいと思います。
更家社長 今年のノーベル生理学・医学賞を受賞された坂口志文先生の研究は、すでに自己免疫疾患に応用され始めており、1型糖尿病の治療に活かされることが期待できます。
星南さん 他にも、iPS細胞を用いた1型糖尿病患者への人試験が始まるなど、日本の研究者の努力で「根治」の可能性が高まっています。私が生きているうちにそれを実現させることができれば大変嬉しいのですが…。
更家社長 糖尿病治療の理論が「カロリーコントロール」から「糖質コントロール」にシフトし、糖質を抑えながら脂質とタンパク質を効率よく摂取するという考え方が広まっています。それは1型・2型を問わず糖尿病患者の食の選択肢を増やすものであり、すべて方の健康管理の大きな指標になると考えています。
星南さんとの対談を通じて、私も大きな学びを得ました。当社は今後も、糖尿病患者はもちろん、国民の健康寿命延伸という課題の解決に貢献していきたいと考えています。星南さんのように社会に影響を及ぼす活動を、Hoitto!のようなマスコミにも協力してもらいながら、引き続き応援をしていく所存です。
星南さん 糖尿病患者を支援する企業が増えるほどに、その認知度が高まり、患者のモチベーションアップと治療技術の進化につながると考えます。サラヤさんに、その感謝の気持ちが伝わればありがたいです。本日はありがとうございました。

今年も世界糖尿病デーに向けて、その翌日の11月15日に、サラヤ協賛による【RUN FOR TYPE1】1型糖尿病のためのチャリティランニングイベント〜誰かのために、愛のあるアクションを起こそう!〜が開催されます。1型糖尿病の認知と根治、そして糖尿病への正しい理解を促すのが目的で、参加費は運営費を除いた全額が1型糖尿病の研究基金におくられます。
(寄付先団体:認定特定非営利活動法人日本IDDMネットワーク)
詳しくはこちら(https://runfortype12025.peatix.com/view)
公益社団法人ACジャパンは、2025年度支援キャンペーンとして、「糖尿病のほんとう」をテーマにテレビCM・ラジオCMを公開しています。糖尿病と付き合いながら活躍されている星南さん、元プロ野球選手の岩田稔さん、華道家の假屋崎省吾さんの3人が、糖尿病に関する誤解を解き、正しい知識を持って患者と接することを促す内容となっています。(画像をクリックすると動画がご覧になれます)
