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ヘルスケア・レポート『出生数70万人の育児市場への挑戦』
リング付き箸1本からスタートした21年後の今を語る
ケイジェイシー代表取締役の崔 鍾植さん



「ドラッグストアの取り扱い第1号は『ぱぱす』だった」


出産、そして子育てがスタートすると多くの感激がある。その一つに、子供が初めて箸を持って食べた時の喜びは何にも代え難い。そんな思いを「味わってほしい」と育児市場にデビューしクローズ・アップされている商品がある。子供が食事の際に自然と箸が使えるようになる三つのリング付きの箸だ。普及活動に取り組むのは2003年に創業し、「子育てをするママ・パパへの思いやりをカタチにし、“できた”喜びの瞬間を提供する」をミッションとして掲げる株式会社ケイジェイシー(KJC Communications)。リング付き箸の『エジソンの箸®』は、発売当初より21年後の今もなお、様々なルートを通じ販売され多くの笑顔を生み出してきた。「お子さまのための三つのリング付き箸は韓国で開発され日本に上陸以来、販路開拓が難しかった中で、下町を中心に店舗展開していた、ぱぱす(現マツキヨココカラグループ)さんが、ドラッグストア業界での取り扱い第1号でした」と語る代表取締役の崔 鍾植さん。メインブランド『エジソンママ』にかける思い、そして出生数70万人の育児市場に向けた取り組みを聞いた。(流通ジャーナリスト・山本武道)


1本のリング付き箸と出会いビジネスが始まった


リング付き箸を普及してから21年になるケイジェイシー代表取締役の崔 鍾植さん

―― 人生には、多くの出会いがある。それはヒトであり、モノであり、企業であり、仕事であり…。そして出会いには、喜びも伴う。今から遡ること21年前に、1本の箸と出会いビジネスを始め今日に至るまでには、どのようなストーリーがあったのか。そしてリング付き箸との出会いのきっかけは?

崔さん たまたま友人宅で、小さなお子さまが上手に箸を使って食事をしていたのを見ました。普通の箸では、ご飯やうどんを食べることが難しい年頃でしたが、器用に食べていましたので、その箸を見せてもらったところ、三つのリングがついていて、そこに親指、人差し指と中指を入れて食べていたのです。即、これは“箸の革命”だと思いました。実は友人は、箸の製造元の隣に住んでいたのです。そこが、私のビジネスの始まりで、2003年のことでした。

この箸は、絶対に売れると確信し、韓国と日本の架け橋になろうと思いましたが、現実には、このビジネスは簡単ではありませんでした。


歴史もなく商品も一つしかない会社が知られるようになった経緯



―― 2003年に会社が設立され、日本での独占販売権を獲得してリング付き箸がデビューしましたが、どのように普及活動を展開したのだろうか?

崔さん 会社設立当初は、お子さまが食事をする際に箸で上手に食べられるようにしたいという一心で、多くの企業を訪問しましたが、会社の歴史もない、しかも商品が一つ(リング付き箸)しかないので、誰も相手にしてくれませんでした。でも商品は素晴らしいので、何とか取り扱って欲しいと営業し続けていた中、私がかつて勤務していた化粧品を販売する企業が展示会に出展することを知り、同社の社長にお願いして展示ブースに箸を置かせていただきました。

たまたま、その箸がテレビ東京の『ワールドビジネスサテライト』のスタッフの目にとまり、「テレビに出演しませんか」と声をかけていただきました。1週間後に取材を受け放映されて以後、誰も相手にしていただけなかったリング付き箸の問い合わせがくるようになったのです。当社にとってテレビで紹介していただいたことは、とてもラッキーなことでした。

エジソンの箸を使えば、詳しい説明がなくとも、リングによりお箸を持つ指の位置が分かり、お子さまの箸の持ち方が自然と身についていき、楽しく食事をすることができます。その特徴が広く知られるようになり、様々なルートで販売していただくようになりました。その中の一つに、今日、地域住民の生活拠点として急成長を遂げているドラッグストアさんとの取引増加が挙げられます。顧みれば販路開拓で苦労していた時代に、現マツキヨココカラグループのぱぱすさんが、ドラッグストア業界では初めてリング付き箸を取り扱ってくださったことは、今でも忘れられません。


ロングセラー商品の『エジソンのお箸』


不可欠だったリング付き箸のブランディング


―― リング付き箸には、『EDISON』とネーミングされている。どのようなことからブランディングされたのだろうか?

崔さん 化粧品の販売会社に勤務していた時代に、商品の普及にはブランディングが欠かせないことを学びました。リング付きの箸も、多くの人たちに知っていただくためには、どうしてもブランディングは欠かせません。そこでいろいろと考えましたが、幸いリング付きの箸は特許があったので、特許といえば発明王のエジソンでした。そこでブランド名をEDISON(リングに指を入れるだけで正しく箸が使えるエジソンの箸®を展開するブランド)としました。

ちなみに『EDISONmama』ブランドは、よりお客さまに愛される商品を目指し「基本となる価値観」を設定しています。EDISONの頭文字には、それぞれ意味があります。EはEnjoy:「できた」の楽しさ、DはDaily:日常の生活の一部に、IはIdea:アイデア力(ママのニーズや裏付け材料なども併せて)、SはSafety:安全性、OはOriginal(エジソンらしく)、NはNice:買って良かった、使って良かった、がキーワードです。

国内の取引先は通販、赤ちゃん本舗、トイザらス、西松屋、イオン、家電量販店、百貨店、ドラッグチェーン等々を通じ普及していただいております。中でもドラッグストアルートでは、取り扱い第1号のぱぱすさんをはじめランキング上位のドラッグストアでも販売していただき好評のため、さらに多くの販売店さまにお取り扱いいただきたいと考えています。


商品開発への取り組み、そしてこれからの方向性


―― 1本のリング付き箸から始まったビジネスは、創設21年後の今、ベビー&キッズ事業(育児、ベビー、キッズ、マタニティー、玩具)など幅広い商品をデビューさせています。そうした数々の商品は、どのような経緯で開発されているのか?そしてこれからのビジネスは、どう進めていくのだろうか。

崔さん 当社では、主力のリング付き箸は、もともと右利きのお子さま用でしたが、多くのご家庭から「私の子供は左利き。だから左利き用の箸をぜひ作って欲しい」との要望がありました。そこで、左手用を発売したところ、「今まで箸を使っていなかったが、左利き専用ができたことで箸を使い食べるようになりました」と喜びの声が、たくさん寄せられました。

自分の子供が箸を使って食べるようになることは、お子さまのご両親だけでなく普及する私たちにとってとても嬉しいことです。そのほか離乳食デビュー用スプーン、溝が波状になっていて麺が絡んでこぼれにくいフォーク、カップの底まできれいにすくえるスプーン、この二つを合体させたスポークなど、初めてでも上手に使えるフォークとスプーン、食品、おもちゃ、お風呂グッズ、スキンケア、オーラルケア、衛生用品、家電等々、育児市場にチャレンジしています。

これからはリニューアルも含めて年間100SKUほどの商品を開発し普及したいと考えています。その中で大きなヒントとなっているのが、EDICONmamaのWebサイトで実施しているママ・パパからの商品アイデア募集です。これは、「赤ちゃんの健やかな成長を願うママ・パパ。そんなママ・パパだからこその、赤ちゃんの笑顔のためにひらめいた子育てグッズや意見をお寄せください!」と銘打ったコーナーで、ここに寄せられたアイデアをベースにして研究開発して商品化されれば大賞として20万円を贈呈しています。(https://edisonmama.com/idea_page/

この制度から誕生した商品の一つに、お子さまが上手にうどんを食べられずに困っていたママが、“輪投げ”をヒントに輪っか状のうどんを提案。アイデアをもとに企画開発し、お子さまが食べやすい“リング形状のうどん”が誕生しました。

もちろんアイデアは、外部からだけではなく社内に働く子育て中の社員からの意見も募集し、定期的にアイデアコンペを開いています。私たちの商品で、子育てのお困まりごとが解決した、というお声をいただくことが開発の原動力になっています。

例えばユニークな商品の一つに、子供が泣かれて困った時に渡すと泣き止むと話題のお米のお菓子『おこめぼー』シリーズ、外出時の必需品として開発された離乳食ハサミなどが挙げられます。

当社では、これからもたくさんの人たちに喜んでいただき、笑顔になる商品を作り出し提供していきたい。


リング付き箸を使用し笑顔で食べる子供 


<記者の目>


今日よりも幸せな明日を創る〜創業から今日まで変わらない私たちの想いは、子育てするママ・パパの“思いやりをカタチに”して、ベビーの初めて『できた』の瞬間に貢献したい」と話す崔さん。2003年3月に会社を設立してから三つのリング付き箸の日本での独占販売権を得て試行錯誤を繰り返し、5か月後の12月に小売店での全国発売に漕ぎつけてきたが、実際には販売ルート開拓は、とてつもない苦悩の連続だった。

しかし、「何としてもお子さまの箸デビューに役立ち笑顔を生み出すリング付き箸を普及したい」と苦労を重ねてきた中で、テレビスタッフ、ドラッグストアのぱぱすさん、働くスタッフたちとの出会いが崔さんの普及活動の“追い風”となった。ビジネスをスタートしてから4年後には単体の売上げ5億円、『エジソンのお箸®』は年間販売数100万本に成長した。

エジソンの箸との出会いによって、子育て中の家庭に「できた」の喜びと笑顔を生み出してきた崔さんが、年々人口が減りゆくベビー市場で、あえて育児用品にチャレンジしている背景には、「年間出生数は確かに70万人ですが、1人の赤ちゃんに対して両親、それぞれの祖父母、さらに叔父や叔母も含めれば潜在的な需要が期待できる」という考えがあるからだ。

出生数が減少する一方で、高齢者人口の増大も見逃してはいない。これからもベビーだけではなく人々の様々なニーズに対応した商品に挑戦し続ける崔さんは、「私たちのビジネスは単にモノを発売するだけでなく、使用することでご家族にも“笑顔”になってもらう、そして研究開発・販売に携わるすべてのスタッフも含め、関わる人みんなが、良かったと喜んでもらえれば…」と話していた。

「喜ばれる仕事」とは何か。“経営の神様”と称される松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助さんが語った人生や仕事、経営などに関する言葉の中から366を選び一日一話の形に編集した書『松下幸之助 一日一話〜仕事の知恵・人生の知恵』(PHP総合研究所編)には、こう記されている。

「仕事というものは、人々に喜びを与え、世の向上心、発展をするものだと考えれば、勇気凛々として進めることができる。一人ひとりが喜びをもって仕事を進めていけば、会社は自然に成功するはずだ」

最初は一人であっても、出会いによって多くの人たちと交流するようになる。やがて、共に同じ志を持つスタッフが集まり、たくさんの人たちに喜びと笑顔をもたらす企業が誕生する。記者という仕事に携わる喜びは、多くの経営者から今日に至るまで起業の苦労話とサクセス・スタディー、そして商品開発のストーリーを聞けることだ。出生数70万人のベビー市場に挑むケイジェイシーも、その一つ。人々が喜び笑顔になるモノづくりに期待したい。