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地域創生医 桐村里紗のプラネタリーヘルス 第24回
〜環境再生は土壌から、映画『君の根は。』におもう


先日、大丸有SDGs映画祭2024『君の根は。 大地再生にいどむ人々〜To Which We Belong〜』のアフタートークに、パタゴニア・プロビジョンズの近藤勝宏さんと一緒に登壇させていただきました。

地球環境への対策の一つとして注目される「大地の再生(リジェネレーション)」。

この映画は、その考え方を農業、漁業、牧畜に活かし、生き方そのものを転換した世界各地の人びとを追い、土の再生が自然環境のみならず、私たち人間をも豊かにする可能性を描いたドキュメンタリー作品です。

これまで、気候変動といえば、「温室効果ガス」のことばかりに注目されてきました。

ですが、この作品では、土壌の劣化という根本にフォーカスし、土壌を回復することで、根本的な解決ができる可能性を示しています。


本来、地球の表面を覆う植物は、光合成によって二酸化炭素を取り込み、土壌中に二酸化炭素を固定します。また、豆科などの植物の根には、根粒菌と呼ばれる微生物が共生し、空気中から窒素を取り込み、土壌中に固定します。

植物が枯れたり、落ち葉となったりして、小動物や未水、微生物が食べて分解することで、炭素はまた二酸化炭素として空気中に戻りますが、少しずつ、炭素は土の中に溜まっています。

植物が地表をカバーしている森林や草原は、ゆっくりと炭素を土壌中に溜め込んでいますが、一方で、季節ごとに田んぼを耕起したり、森林を伐採して放置しておくと、土壌中の炭素は減ってしまいます。

特に、これまでの農業は、地表をカバーする草を「雑草」と言って全て引っこ抜き、人が食べる特定の植物だけを植えることで、土壌の炭素を減らしながら、生物多様性を減少させ、砂漠化させてきました。

かつて文明があった場所は、農業と森林伐採によって土壌が劣化し、ほとんど砂漠化してしまったことが分かっています。

ナイル川の周りも、かつては豊かな緑だったとされています。


そこで、環境再生型農業は、地表をすべてカバークロップと呼ばれるクローバーなどの植物で覆います。そして、土の破壊に繋がってしまう耕起をしない、不耕起栽培が基本です。

そうすることで、農業の生産を行いながらも、土壌の生態系を豊かにしながら、炭素を土に多く固定することが可能になります。

映画の中で印象的だったのは、「難しいのは、人間の心を変えること」、人が「どのように世界を見るか、です」という言葉です。

農業を含む人類のあらゆる営み、経済活動が、地球を破壊してきたのがこれまでですが、これからは、人類のあらゆる営み、経済活動が地球の「再生(リジェネレーション)」に繋がっていく。

そのためには、私たち一人ひとりが意識を変え、行動を変え、この世界の見方を変え、関わり方を変えていくことです。

私たちの手で、傷んだ生態系を治すことは可能であり、それこそが、この人新世と呼ばれる、人類が致命的に地球の土を破壊してしまった時代に、今、私たちが生きる意味だと思うのです。

私たちが根をおろす大地を改めて捉え直すことができる、とても良い映画です。

都会であっても隙間に土さえあれば、草が生え、盛り上がり、森になります。

土の再生力を私たちは自らが関わって、さらに高めることができます。

ぜひ、皆さんも映画をご覧になって、大地とのつながりを取り戻してみてください。

プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)

地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員
日本ヘルスケア協会・プラネタリーヘルス・イニシアティブ(PHI)代表

予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。

(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は11月初旬に掲載予定です)