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ヘルスケア・インタビュー 森下竜一理事長(アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会)
『アカデミア発ベンチャー企業が国民の健康と福祉に果たす役割とヘルスケア産業の振興』

ヘルスケア・インタビュー/アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会
森下竜一理事長に聞く『アカデミア発ベンチャー企業が国民の健康と福祉に果たす役割とヘルスケア産業の振興』



人口の高齢化やヘルスケア・ニーズへの対応で
アカデミア発の研究成果を商業化し社会貢献することが重要


医学・医療及びヘルスケア関連の大学発バイオベンチャーによって、様々な商品が開発されるなど、国民の健康・福祉に関わる関連ビジネスがクローズ・アップされてきた。昨年5月には、アカデミア発のバイオベンチャー企業の推進と研究活動・事業を通じ、我が国の経済と産業の活性化を図る組織が誕生している。新たな医療技術やバイオテクノロジーを通じ、ヘルスケア分野への貢献を目指すために設立された一般社団法人アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会だ。「人口の高齢化やヘルスケア・ニーズに対応しアカデミア発の研究成果を商業化し社会に貢献していくことが重要…」と語る同協会の森下竜一理事長に、『アカデミア発のベンチャー企業が国民の健康と福祉に果たす役割とヘルスケア産業の振興』について聞いた。(記事=ヘルスケアジャーナリスト・山本武道)


■ アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会が発足した背景


―― 大学発のベンチャー企業の間でヘルスケア関連分野への参入が目立っている中、バイオベンチャーやスタートアップの振興と産官学連携の推進を目的として、一般社団法人アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会が設立され、初代理事長に就任されました。その背景について教えてください。


森下 日本の経済発展に貢献しているのがベンチャー企業であり、政府も歴代の首相がベンチャー企業の将来性を見据えて振興をサポートしてきました。私自身も高齢社会の到来と高まる国民のヘルスケアにニーズに対して、大学発のベンチャー企業の研究成果を商業化し貢献していくことが重要だと思っていますし、その多くは医療やバイオなどヘルスケア分野です。

通常は、産官学連携による大学発のベンチャー企業には、いろいろな支援があったりしますが、大学発のベンチャー企業が一から新しいビジネスに取り組む場合には、様々な制約があって自由にビジネスを実践できない環境下にあります。そこで規制緩和のために、できるだけ早く緩和点を見つけて改善すべき点は改善してもらうことが望まれていました。

こうした点を踏まえて、改良すべき点を話し合う場が必要ではないかと、実は2000年代の前半に当協会の前身となる組織として大学発バイオベンチャー協会が誕生しましたが、諸事情から発展的に解消され昨年5月に当協会が発足しました。

大学発バイオベンチャー協会ではバイオが中心でしたが、今日では急成長した機能性表示食品や病者用食品といった健康食品をはじめ、運動、ストレス緩和といったヘルスケア関連分野も盛り込み、この領域の規制緩和を訴える一方で、バイオに関してもゲノム編集分野など新領域が発展してきています。これからは大学発のベンチャーの幅が広がり、こうした分野に関わるソフトの開発ビジネスも伸びていくでしょうし、AIやDXも有望な分野です。これらの分野も含んで早期に改善すべき規制緩和を対象とした問題点を見つけだし提案したいと考えています。


■ 不健康な状態にならないようできるだけ早く予防を心がけたい


―― 「我が国におけるアカデミア発ヘルスケアやバイオのベンチャー・スタートアップ企業は、関係者の協力や政府の後押しも受け設立数は着実に伸びてきました。市場公開を果たした企業も増え生み出された製品も多く、たくさんの患者さんを救う大変貴重な手段になってきています」と協会設立に際し述べられた森下さんは、自ら大学発ベンチャー企業を設立するなど、大学発ベンチャー企業に造詣が深いことで知られています。少子・高齢化や生活習慣病の多発など、“未病と予防”を中心としたヘルスケア産業は確実に拡大すると見ていますが…。


森下 1961年に国民皆保険がスタートしてから63年が経過した今、医療費の高騰の抑制が課題となっていますが、自らが自分の体を維持・向上するためのセルフメディケーション(自己治療)やセルフヘルスケア(自己予防)が推進され、国民の健康状態を改善して寿命が延びてきました。ただし寝たきりで介護が必要な人たちも含めた平均寿命と、そうでない人たちの健康寿命とでは10年の差があります。

ですから不健康な状態にならないよう、できるだけ早い状態から予防を心がけねばなりません。そのためにも自らが、自分の健康状態を維持するためにも多くのことを学ぶべきです。セルフメディケーションもむろん大切ですが、その延長線上にある健康寿命を伸ばしていくためにヘルスケアが非常に重要になってきました。

人口の高齢化が進む中にあって、これからは高齢者が元気で長生きをして社会の中でいかに活躍していただくかが重要になってきますから、様々なヘルスケア領域からのアプローチが産業として拡大していくことが望まれます。それは機能性表示食品などの食品分野であり、運動やストレス解消といったアカデミア発のヘルスケアビジネスの誕生によって、増える高齢者の健康寿命をいかに延伸していくか。そのためには縦割りの産業ではなく横割りの施策にしていかなければなりません。

あるいはアカデミア発の研究成果を、いかに早く商業化していくかの道筋を示すことが当協会の役割であり使命だと思っています。生み出された研究成果を、どうしたらビジネス化して社会に還元していくか。そしてどのように普及していくか。そのための資金調達も大きな課題になりますし、ベンチャー企業をサポートするために当協会が取り組んでいくことは数多くあります


■ 国民の健康創造へ協会の具体的な運営について


――国民の健康創造へ、これからも新しいアカデミア発バイオ・ヘルスケアベンャービジネスが相次いでデビューするでしょう。こうした点を踏まえ、具体的にはどのように協会の運営を進めていきますか? 


森下 省庁のいろいろな部署、産業界、政界の方々、アカデミ発ベンチャー企業などとの話し合いの場の形成、シンポジウムや講演会等々も定期的に開催し問題点を洗い出して、政府に提言していくことにしています。大きな課題として、ビジネスの振興に障壁となる規制の緩和に結びつくのではないでしょうか。例えば機能性表示食品の届出をしやすいように提言したいし、新しいビジネス創造として“未病と予防”分野にも積極的に取り組みたいですね。

大学におけるベンチャー企業が増えて、いろいろな商品やソフトが開発され社会実装することもさることながら、その土台となるベンチャー企業を育てることも大切です。ただ、アカデミア発ベンチャー企業が開発した商品やソフトをビジネスとして取り組む場合、その範囲が広く、それぞれ事業の進め方が異なります。

ですから、ビジネスを実践するためには、成功している当協会の理事の企業は上場企業が多く、一番課題を理解され解決するノウハウをお持ちですので、サポートしていただくことで成功する可能性はあるでしょう。

これから当協会では、アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー個々の企業が抱える悩みや問題点の解決に向けた関連行政機関などへの提言、発展に必要とされる制度の研究、情報提供、情報交換と交流活動の場の形成、さらに研究会、講演会、セミナーなどの開催や研究成果の発表、国内外の関係機関との連携に取り組み、社会的な意義や価値を追求していくことにしています。


■ ヘルスケア最前線のドラッグストア業界への提言


―― ヘルスケアに関連したビジネスに取り組む代表的な流通業として、国民から支持されているのが、今日、8兆円を超す市場を形成し、地域住民のための健康ステーションとして活躍しているのがドラッグストアです。協会では、ドラッグストアに対して、どのように期待されていますか?


森下 少子・高齢社会の進展に伴い、ドラッグストアの役割は重要になってきました。広い店舗に様々な健康と美に関する多くのヘルスケア商品を取り揃えカウンセリングというソフトを付加させることで、地域住民からその機能が認められ支持されるようになってきています。しかも医療機関から発行される処方箋調剤機能を持ち、調剤を待つ間に楽しく買い物ができる場にもなっているからです。

医薬品を購入するだけでなく健康になるため、健康を維持するための商品を来店客から聞かれた場合、ドラッグストアに働くスタッフが、きちんとアドバイスして提案することによって、「またあのドラッグストアに行き、勧められた商品を購入しよう」「健康になるための方法を教えて欲しい」となるでしょう。

近年では、店舗に行かなくても手軽に必要な商品を購入できる通信販売が、多くの人たちの支持を得て市場も拡大していますが、その一方、人間にとって、見て楽しむことも商品を購入する重要なファクターですし、対応するスタッフのカウンセリング力も不可欠になってきます。

そうすると様々なヘルスケア商品を取り揃えるドラッグストアでの買い物ニーズは高くなり、ヘルスケアステーションとしての機能を持つドラッグストアに行けば、楽しく買い物ができて、しかも健康になるー国民は、そんなドラッグストアの機能に期待しています。これからもドラッグストアが、全国津々浦々に店舗展開して欲しいですね。


<取材を終えて>


毎週、大阪と東京を往復し多忙の一般社団法人アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会の理事長に就任された森下さんに、無理を承知でインタビューを依頼しところ即OK をいただいた。取材場所は、公益財団法人日本ヘルスケア協会のオフィス。国民の健康創造への武器となる「ヘルスケア」を中心に1時間半あまり。話は尽きなかった。

大阪大学医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座教授、日本遺伝子細胞治療学会理事長、2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会総合プロデューサーでもあり、大阪府・大阪市特別顧問としても活躍。機能性表示食品の開発・普及にも関与し今日、5000億円市場(矢野経済研究所調べ)を形成するビッグビジネスの成長に貢献された“立役者”の一人でもある。

昨年5月に設立されたアカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会が主催し、10月に開催された設立記念シンポジウムには、森下理事長の呼びかけで、厚生労働省医政局の浅沼一成局長が『医療イノベーション推進のための課題とバイオ・ヘルスケアベンチャー支援策』、経済産業省商務情報政策局商務・サービスグループヘルスケア産業課の橋本泰輔課長は『ヘルスケア政策の動向』、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課の釜井宏行課長が『アカデミア発革新的医療技術の社会実装に向けた支援』をテーマに登壇。それぞれ講演した。 

三つの省が招かれ一堂に介して講演するのは極めて珍しく、様々な省庁に関与する森下理事長ならではの手腕が発揮されたといえよう。アカデミア発のバイオ・ヘルスケアベンチャーにかける期待のほどがうかがえたシンポであり、国民が健康で安心して暮らせる町づくりに関与するだけに、参集した企業の関係者にとって有意義であった違いない。

国民医療費が高騰する中、これからは“未病・予防”を中心とした健康寿命延伸産業振興の重要なテーマがヘルスケア。森下理事長は、町の健康ステーションとして活動するドラッグストアにも触れ、「これからもドラッグストアの役割は重要になっている。少子・高齢社会にあって、地域住民の健康管理になくてはならない存在になってほしい」と話していた。