キリンと花王は11月24日に都内で共同記者会見を実施。両社共同で、内臓脂肪面積とpDC活性に関する医学研究を実施し、内臓脂肪と免疫活性に関する日本初の研究結果を明らかにした。内臓脂肪が多いと免疫細胞の司令塔であるpDC活性が低い傾向にあり、さらに内臓脂肪が多くpDC活性が低い人は新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの罹患リスクが高いことを確認。結果から「内臓脂肪と免疫機能の両方をケアすることは、感染症を予防する上で重要」と結論づけた。(取材=中西陽治)
キリンと花王の共同研究は、2022年11月の3日間に和歌山県で50~55歳の住民223人を対象に、内臓脂肪測定、血液検査(免疫・生化学)、感染症アンケート調査により行われ、キリンが「血液中のpDC活性に関するデータ」を測定し、花王は「生活習慣や内臓脂肪面積のデータ」を取得。双方のデータを相互に共有し、pDC活性と内臓脂肪の関わりを共同で研究・解析を行った。
内臓脂肪とpDC活性をそれぞれ調べた結果、内臓脂肪面積値が高い群は、低い群と比較して、pDC活性が低い傾向にあることが明らかとなった。
(※内臓脂肪面積は全被験者の中央値77㎡を基準とし、それ以上を高い群、以下を低い群とする。pDC活性は、全被験者の中央値9.52%を基準とし、それ以上を高い群、以下を低い群とする)
以上の結果から、内臓脂肪面積が高い人は、pDC活性が低い(免疫機能が低い)という相関関係が日本で初めて明らかとなった(図1参照)。
また内臓脂肪面積とpDC活性が感染症の罹患に及ぼす影響についても研究が行われた。
内臓脂肪面積が高い群は、低い群と比較してオッズ比(事象の起こりやすさを表す値)が7倍高く、新型コロナウイルス感染症に罹患していた(図2参照)。
そしてpDC活性が低い群は、高い群と比べてオッズ比で5倍高く、新型コロナウイルスに罹患している(図3参照)。
さらに内臓脂肪面積とpDC活性の高さ・低さによる相乗効果を確認することを目的に4群に分けて解析。
①「内臓脂肪面積(高)かつpDC活性(高)」
②「内臓脂肪面積(高)かつpDC活性(低)」
④「内臓脂肪面積(低)かつpDC活性(低)」
の4つの群の内②「内臓脂肪面積(高)かつpDC活性(低)」は③「内臓脂肪面積(低)かつpDC活性(高)」と比べてオッズ比が20倍高く、新型コロナウイルスに罹患しており、同様のオッズ比が、新型コロナウイルスとインフルエンザの両方の罹患のリスクに現れた(図4参照)。
以上の結果から、②「内臓脂肪面積(高)かつpDC活性(低)」の人は、内臓脂肪の量と免疫機能の両方をケアすることが重要であることが示唆された。
内臓脂肪が関わる肥満は、世界保健機関(WHO)によって「異常あるいは過度の脂肪の蓄積により健康リスクが高まった状態」と定義され、慢性疾患のリスク上昇につながる。近年、肥満はウイルス感染症の重篤化につながる要因として、肥満と免疫の関連性が注目されている。
両社による研究結果は世界でもまだ論文報告されていない発見であり、今後、内臓脂肪と免疫機能の相関関係および、感染症罹患リスクへの対応策として研究が進められていくものとみられる。
キリンHDと花王は、両社の研究力を掛け合わせ「人々が健康に暮らせるためのさらなる健康価値の探索を続けていく」と示している。
共同発表に登壇したキリンHD 執行役員 ヘルスサイエンス事業部 ヘルスサイエンス研究所所長の藤原大介氏は、「内臓脂肪が多い人は慢性炎症を起こし、炎症は老化を促進する。内臓脂肪が多い人は老けやすいともいわれている。キリンでは35年にわたる免疫研究を行っており、炎症は体を守るための免疫機能の働きで起きる防御反応でもあることから、内臓脂肪と免疫の両方が関わる研究はずっとやっていきたかった」と研究の背景を紹介し「やるならば〝内臓脂肪について一番知っている人たちとやりたい〟と思い花王さんと共同研究を行った。この度の研究結果は両社による〝技術の粋の結晶〟だ」と日本初の研究結果に胸を張った。
花王 花王ヘルス&ウェルネス研究所 特定テーマリーダーの大里直樹氏は「内臓脂肪の蓄積はメタボリックシンドロームを引き起こし、認知症や脳の構造異常、がんやウイルス感染の重症化因子となる。花王は1990年代から約30年にわたり内臓脂肪や代謝を研究し続けてきた」と話し、「花王では研究開発の中で、内臓脂肪を溜めない食事研究や歩き方の研究を行ってきた。臓器に蓄積し、その量がなかなか可視化できない内臓脂肪を計るため、医療機器の内臓脂肪計を開発し、見えない内臓脂肪の見える化を実現した。この医療機器は今回の共同研究でも活用されている」と内臓脂肪領域の研究に自信を示した。