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宇宙から地上へ拓かれゆく人類の健康長寿生活へ進む生命科学研究

宇宙ビジネス最前線レポート
『宇宙利用最前線』テーマに第12回近未来医療フォーラム


地上から400km離れた上空の宇宙空間に建設された有人実験施設で、微小重力環境を活用した生命科学研究が進められているー地上では得られない宇宙環境を利用した実験を続ける国際宇宙ステーション(ISS=International Space Station)にある日本の実験棟『きぼう』の研究活動が、10月6日に開催された第12回近未来医療フォーラム(主催:シード・プランニング)で、宇宙から地上へ人類の健康長寿生活を目指す生命科学研究が、公表された。同フォーラムでは、これまでアルツハイマー病の診断・治療の将来展望や健康寿命延伸を目指した個別化医療、個別化予防に関わる認知症などを取り上げてきたが、今回のテーマは、《宇宙利用最前線〜国際宇宙ステーション『きぼう』生命科学研究への貢献》。『きぼう』の概要や宇宙空間の疾患研究への活用など、宇宙環境で行われる最先端の生命科学研究によって、様々な疾患の治療と予防など人類の健康長寿延伸への貢献が期待されている宇宙ビジネス最前線をレポートした。(取材・文◎ヘルスケアジャーナリスト・山本武道)


  

■宇宙ステーションの実験棟『きぼう』の概要を報告

国際宇宙ステーションは、日本、米国、ロシア、カナダ、欧州など15か国が協力して、地上から400km上空の宇宙空間に建設した有人実験施設。1周約90分で地球を周っており、常時6名の宇宙飛行士が滞在。『きぼう』は、ISSにある日本初の施設で2008年から様々な実験が行われてきた。

宇宙ステーションの『きぼう』についてJAXA有人宇宙技術部門 きぼう利用センター長の白川正輝氏は、「地上では得られない長時間の微小重力環境下で、宇宙飛行士の身体の変化は地上の加齢や寝たきりによる身体の変化と類似している」として、2016年には可変重力環境でマウスを飼育できる装置を開発するなど、宇宙環境を利用した研究による地上社会への還元を目的とした多くの生命科学研究が行われていることを報告。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)によれば、宇宙環境の特徴は重力は地上の100万分の1から1万分の一という微小重力閉鎖環境、飛行高度の圧力は地上の100億分の1、太陽粒子線など様々な宇宙放射線が飛び交っていることなどに加えて、閉鎖環境での生活には精神・心理的ストレスや微生物感染などによる健康障害の予防対策が必要なことが挙げられている。

しかも宇宙では重さの負荷がかからないため、筋肉や骨が弱くなり免疫機能が低下するなど、人の生命活動に遺伝子発現レベルからの様々な変化が見られ、その原因や対策を調べることで、骨粗鬆症や免疫機能低下などに対する治療・予防の確立に繋がるという。

JAXAの『きぼう』利用サマリには、①加齢に伴う様々な症状の改善・予防方法で健康寿命をのばす②重力に邪魔されないからこそできる高品質のタンパク質―効果が高く副作用の少ない薬の設計(創薬)③環境変動の予測や広域災害の監視、④有人宇宙活動で不可欠な水再生システムの開発等々が記され、健康長寿社会を支え豊かで安心・安全なくらいの実現に向けた実験が記されている。


■注目された宇宙空間の疾患研究への活用に向けた講演

宇宙空間の疾患研究への活用について講演した東北メディカル・メガバンク機構の山本雅之機関長

『宇宙空間の疾患研究への活用に向けて〜宇宙ストレス応答における転写因子NRF2の役割』と題し講演した東北メディカル・メガバンク機構の山本雅之機構長は、「宇宙環境には、微小重力や宇宙放射線などのストレスが存在する」と前置きし次のように述べた。  

「宇宙環境下では、使われない骨や筋肉が急速に退化・減少する。宇宙放射線が酸化ストレスやDNA障害を惹起すること。こうした宇宙環境ストレスに対して、NRF2(生体防御遺伝子)が防御することを実証するため野生型とNrf2欠失マウスを『きぼう』に送り、31日間の宇宙滞在飼育実験を行い、飼育18日目に宇宙で初めてマウスから血液を採取し調べた結果、多くの臓器でNRF2標的遺伝子の発現が上昇、宇宙環境ストレスによりNRF2の活性化が実証された」ことを明らかにした。

一方、Nrf2欠失マウスについては、「宇宙滞在期間中に免疫低下、炎症促進、血栓性微小血管障害の亢進なども観察され、NRF2が地上における環境ストレスだけでなく、宇宙ストレスにも応答する転写因子であること。マウスを利用することで、環境や遺伝子背景など実験条件の統一が可能となる」とするとともに、宇宙におけるモデル動物実験が宇宙飛行士だけでなく、一般人が宇宙旅行する時代に備え身体変化を詳細に調べることも可能なことに加えて、「宇宙では高齢者と類似した身体変化が短期間で起こるので、加齢性疾患の研究にも役立つことも期待される」と山本機関長は話していた。

東北メディカル・メガバンクは、東日本大震災から復興事業として最先端の個別化予防・個別化医療を目指して設立され、地域住民コホート、三世代コーホーに15万人をリクルートする傍、長期に渡って健康調査・追跡調査、さらにMRI調査も実施して生体試料と健康情報を蓄積している。

フォーラムを主催したシード・プランニングの梅田佳夫代表取締役は、「創設40周年を迎え当社は、主にメディカル・ヘルスケア分野、エネルギー・環境、DX・情報システム分野で市場調査・コンサルティングを業務とし、特に国民の関心が高い健康長寿社会の実現に関わる創薬・バイオ・医療ITなどに注力してきました。今回のフォーラムは、宇宙利用最前線を取り上げましたが、地上では得られない宇宙での特殊環境(微小重力)を生かした研究が、地上の健康長寿生活に貢献することを期待しています」と話している。


<取材を終えて>

宇宙利用最前線をテーマに行われた近未来医療フォーラム。JAXAの活動には早くから興味を持ってきたが、有人国際宇宙ステーション改めて最前線で活躍する専門家やビジネスに取り組む企業関係者が参加。改めて宇宙ジネスに対する関心の高さがうかがえた。

「これからは、健康で訓練を積んだ宇宙飛行士だけが行くのではなく、高齢者や障がい者、持病のある方も宇宙に行き始めます。高カロリーな宇宙食から健康食に近い宇宙旅行者向けの食事、そして宇宙医療も必要になります」(宇宙旅行社担当者)
健康管理から予防までできるアプリを開発中のニプロ、睡眠時に寝汗をかいても、汗を肌側から外側へ吸い上げるため、宇宙ステーション内でも快適な着心地を保つ肌着を発売した健繊等々、多くの企業が参画した研究活動への取り組みに熱い視線が注がれている宙ビジネスの将来像に注目したい。