おやつカンパニー(手島文雄社長)が今年4月に全国発売した「おやつサプリ」シリーズが、市場でじわじわと存在感を増している。8月に催された第23回JAPANドラッグストアショーの「食と健康アワード2023」で、同シリーズの「ペッパーソルト味」が準大賞を受賞したほか、各雑誌にも本年のトレンドとして紹介されており、今冬以降の成長持続が期待される。その背景を探るべく、同社のマーケティング戦略2部の香川玲子部長を取材した。(取材と文=八島充)
長く横ばいだった国内の菓子市場は、コロナ禍を経てスナック菓子が復調傾向にある。特に個食タイプの製品が売場のフェイスを広げており、在宅時間が増えた生活者が、自分時間の「お供」あるいは「ご褒美」として購入していることが伺える。
一方、在宅時間の増加に比例して運動不足や栄養の偏りを気にする層も増えてきた。その傾向はスナックの購入時にも現れ、「健康志向」のニーズに応えた製品が登場している。
これまで健康訴求の菓子群は、「味気ない」「旨みが足りない」というイメージがあったが、近年はメーカーの努力により「おいしさと健康」を両立した製品が増えてきた。それを代表する1つが今回取材した おやつカンパニーの「おやつサプリ」である。
おやつカンパニーは、経営ビジョンに『たっぷり、たのしい、「おやつ」と「夢」の創造』を掲げるスナックメーカー。基幹製品の「ベビースター」や「ブタメン」は今や、誰もが知る国民食となり、コロナ禍も安定した伸びを見せている。
ただ、将来の人口減に伴う胃袋の減少は同社にとっても人ごとでない。新たな「夢の創造」に向け、「健康訴求」という付加価値をプラスしたスナックの開発に取り組んできた。
「おやつサプリ」を上市する少し前に、健康訴求スナックの先駆けとなった製品を2ブランド発売している。1つは2021年3月発売の「BODY STARプロテインスナック」、もう1つは2021年8月発売の「素材市場」である。
「BODY STARプロテインスナック」は、「高タンパク大豆スナック」をコンセプトにした製品。一袋でプロテインが20g摂取でき、ボディメイクに関心の高い層にアピールしている。
もう1つの「素材市場」は、生地に魚介を練り込んだ栄養機能食品(カルシウム、ビタミンD)で、「いわしのスナック」「さばのスナック」はEPAとDHA、また「えびのスナック」はオメガ3脂肪酸を含んだシリーズ。スナックの喫食率が低い高齢者層から、魚が苦手な子供まで幅広い層をターゲットにした。
いずれも「おいしさ」の追求に妥協がなく、一度食すことで一定数のリピートを獲得している。「おいしさと健康」による需要創造を、身をもって実証したブランドとなっている。
今回の主役「おやつサプリ」シリーズ3品は、「小腹が空いたら栄養補給」をコンセプトに、「気になる成分を手軽に、かつ頑張りすぎないで取り続けられる」ことを念頭に開発された。
具体的に、「チーズ味」はビタミンB₆とマグネシウムの栄養機能食品で、1袋にGABAを64mg配合してある。「野菜コンソメ味」は1袋に「まもり高める乳酸菌L-137®」(※)100億個のほかオリゴ糖と食物繊維を配合、また「ペッパーソルト味」はビタミンB₁・B₆の栄養機能食品で、1袋に注目の成分・モリンガエキスパウダー176mg(グルコモリンギンからの換算量)を混ぜ込んである。
※「まもり高める乳酸菌L-137」はハウス食品グループ本社㈱の登録商標です。
昨年9月から一部ドラッグストアでテスト販売を行ない、その実績が認められ今年4月に全国販売をスタートしたが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかったという。
当時を振り返り香川部長は、「商談ではよく『競合となる製品は何?』と聞かれるのですが、スナックでありながらサプリメントの性格を持つ『おやつサプリ』は、他と競合しないのが強みと考えます。当初はこの点をなかなか理解いただけませんでした」という。
商談が前進しても、次はどの売場に置くかという議論になる。ただでさえサプリメント売場は専業メーカー品で占められ、スナック売場は回転率の高い商品がひしめいていた。
「既存のカテゴリー中でブランドスイッチを促すのではなく、新たな栄養の摂り方、あるいは新たな間食の摂り方を提案する選択肢の1つとなることを丁寧にお伝えし、バイヤーさんと一緒に売場づくりを考えていきました」(香川部長)
例えば「野菜コンソメ味」は、乳酸菌・オリゴ糖・食物繊維が入っており、プレバイオティクスの選択肢の1つとなる。実際にヨーグルト売場、ゼリー飲料売場、あるいは野菜ジュース売場でテスト販売したところ、予想以上に購入率が高かったという。
ブランドの認知度が高まるにつれ、購入者層にも変化が出てきた。発売当初は40~50代女性が大半を占めたが、最近はスナックの喫食頻度が低いとされる20代女性の購入が伸びている。
「チーズ味」に関しては、30代男性の伸びが目立つそうだ。「GABAという成分が働き盛りの層に受けていると考えています。これまでスナックの購入意向は、価格や味が上位を占めましたが、最近のパーソナル志向によって、栄養や成分を見て購入するという傾向も現れています」(香川部長)という。
生活者から支持されてきた「おやつサプリ」シリーズに対し、流通業も改めて注目し出した。8月に行われた第23回JAPANドラッグストアショーの「食と健康アワード2023」では「ペッパーソルト味」が、バイヤーらと一般来場の生活者双方の票を集め、映えある準大賞を受賞している。
さらに各種媒体からも注目され、「日経トレンディ」2023年9月号に、「次に来るトレンドはこれ!健康食品ブレイク予測」として「チーズ味」が紹介されたほか、ベネッセコーポレーション「サンキュ!」の2023年11月号では、「野菜コンソメ味」が「サンキュ!明るいミライ大賞 for woman 2023」を受賞した。
「先のドラッグストアショーで生活者の方々に試食してもらったところ、『美味しい』という評価と共に、『(ペッパーソルト味に対し)モリンガ配合なのにその価格?』と言った専門的な声をいただきました。健康訴求スナックに対する意識の高まりを感じると同時に、当社の方向性が間違いでなかったことを感じました」(香川部長)
直近の商談も、コロナ禍前にはなかった感触を得ている。採用の要件となる「おいしさ」「価格」に「健康」が加わり、パッケージに記載された成分を見ながら、「これ面白いね!」と言ってもらえるようになったという。
現在の同社は、「おやつサプリ」に機能性表示食品ラインの追加を検討している。「機能性表示食品は健康に関心が高い層に正確な情報を伝えられるというメリットがありますし、あまり知られていない成分でも機能性を表示することで手に取っていただく機会が増えると期待しています」(香川部長)
今後の販促の方針を聞くと香川部長は、「相対的に単価の低いスナックは、幅広い層に購入を促せるという特徴があります。近年のメーカーは付加価値を価格に反映した高単価品を推奨する傾向にありますが、私どもは『手頃な価格だけど健康にいいよね』『これなら毎回買えるよね』と言ってもらうことが当面の目標です。生活者の方々からバイヤーさんまで、一人でも多くの方に製品の魅力を知っていただく努力を、今後も続けて行きたいと思います」と語ってくれた。(了)