先日、対談イベントにお呼ばれして、久しぶりに下北沢に行きましたら、駅から会場となるコミュニティ・スペース「BONUS TRACK」までの間に「シモキタ園藝部」が運営する循環圃場が拡がっているではありませんか。しかも、綺麗に整備された花壇などではなく、雑草も共生する多様性の圃場です。
地域の共通資源(コモンズ)として、地域の人たちで土と植物に触れ、微生物、植物、昆虫、鳥、(場合によっては動物も来るかも知れません)が循環する場が生まれています。
これまで、人は、自分たちの社会と自然を切り離して都市を形成し、人類にとって都合の良い文明を築いてきました。でも、その文明に限界があることを、今回のコロナパンデミックは教えてくれたのではないでしょうか。
これから、人と自然を切り分けず、再生し続けるシステムをどうつくるのか、それは私たちの意識と行動にかかっています。
今、「都市の再野性化(rewilded Urban)」という考え方があります。
都市を無機質なコンクリートで覆う代わりに、微生物が喜んで活躍する緑地などの有機物が豊富な場を設置して、微生物多様性を高めて再野性化する。
これによって、私たち人間と共生する微生物という1つの共生体(「ホロビオント」と言います)を健康にすることができる「Microbiome Rewilding仮説」という考え方がオーストラリアのアデレード大学の研究チームから提唱されています(※)。
Microbiome Rewilding Hyposesis
人を37兆個の細胞で成り立っている単体と考えず、多様な微生物と共生する共生体(ホロビオント)として捉え、多様性を高めることによってその全体を健康にするという新しい考え方です。
過度に工業化された都市は、微生物多様性が低く、有益な環境微生物叢との接触がしづらくなります。食生活の乱れや抗生物質の投与と並び、こうした住環境の変化が、人の皮膚や粘膜(腸も含む))に暮らす微生物叢の多様性を低下させ、アレルギーや免疫系疾患、炎症性疾患など生活習慣病の増加に関連していると考えられています。
ウォーターフロントに林立する高層ビルを眺めながら、「土から離れては生きられない」という『天空の城ラピュタ』のセリフを思い浮かべます。
埋立地は一様にコンクリートで固められ、コンクリートの四角い箱の中に生きる現代人。
これは、文明の進化の過程とも言えると思いますが、こうした人のためだけに設計する都市計画は過去のものとなるでしょう。
人は再び、多様な微生物との共生体(ホロビオント)として、多様な生命が息づく生態系の中に戻っていく。
都市を捨てて田舎に行くことがなかなか難しい人も、「都市の再野性化(rewilded Urban)」を試みれば、それは可能です。
都市設計の中にこうした考えが反映され始めていますし、そうでなくても、ベランダで小さな家庭菜園を持つとか、家の中に観葉植物を置くとか、食糧廃棄物をコンポストにしてみるとか、糠床を育ててみるとか。暮らしの中でも微生物多様性を増やす工夫が色々とあります。
有機物があれば、それをエサにする微生物が暮らします。
目に見えない微生物との暮らしは、人を孤独からも解放してくれるのではないでしょうか。
プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員
予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。
(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は3月初旬に掲載予定です)