元厚労省事務次官の辻哲夫さんが、7月30日に逝去された。享年79歳。
私が辻さんと出会ったきっかけは、三菱化成会長で日経連(日本経営者団体連合会)の会長として活躍されていた鈴木永二さん(故人)とパーティーの会場で知り合い、取材するようになってからだった。
鈴木会長は、ヘルスケア産業にことのほか造詣をお持ちだったことから、取材にかこつけて頻繁にお会いするようになった。シルバービジネスについて意見を交わすことが多くなったある日、「山本君、これからは、もっと高齢者が増えていくが、自助努力をしていかなければならない時代が到来する」と言われ、「君に、将来、厚生省のトップになるであろうと私が期待する方がおられるから・・・」と、ご紹介していただいたのが辻さんだった。
辻さんは、1987年5月に厚生省(現厚労省)社会局老人福祉課シルバーサービス指導官(初代シルバーサービス振興指導室長)に就任されたばかりだったが、鈴木会長からあらかじめご連絡していただいていたこともあって、突然の取材申し込みにも関わらず応対していただいた。
「これからは健康で長生きされる高齢者が増えてきます。高齢者の方々が、快適で豊かな生活をおくることができるよう、地域で支え合っていかなければなりません」―辻さんは、こう話されていた。
以来、交流が続き、その後も高齢者の福祉問題に取り組まれた辻さんは、鈴木会長がいわれた通り、老人福祉課長、大臣官房審議官(医療保険担当、健康政策担当)、保険局長、そして2006年9月には、厚生労働事務次官に上り詰めてからも、気軽に取材に応じていただいた。
辻さんは、1971年に厚生省に入省して以来、高齢者問題や医療制度改革に携わり36年後の2007年に厚労省を退官。2009年に東京大学高齢社会総合研究機構教授として、地域包括ケアシステムの構築に向け、「住み慣れた場所で自分らしく老いるまちづくり」を目指した柏プロジェクトに取り組まれた際にも、取材をさせていただきシルバー産業について多くのことを学んだ。
さらに、健康食品の安全性確保、品質管理、法制度や経済的側面に関する調査研究、啓発事業に携わる社福協(医療経済研究・社会保険福祉協会)の理事長としても活躍されていた際にも、取材でオフィスを訪問し、「取材は1時間…」と指定され、約束を2時間もオーバーしてしまったこともあった。
私も同席させていただいたHoittoヘルスビジネスに連載中の『ウェルネスフード・キャラバン』の対談で、辻さんは矢澤一良博士(早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長)と『日本の健康産業と向き合い方向性を示す』と題し語っていただき、遺稿となった記事はHoittoの7月17日付(https://hoitto-hc.com/25397/)に掲載されている。
対談終了後には、辻さんにご無理を言って、数十年に及ぶ交流で初めてツーショットを撮影していただいた。この作品が、辻さんと私がお会いしたお別れとなった。
人は、ある日の何気ない出会いから交流が始まるが、日経連の鈴木会長からご紹介いただいた辻さん。私の長い記者生活の中でも、常に冷静で私の質問に答えていただいた辻さんの笑顔、人間としての温かみを感じながらの取材は今も持って忘れられない。合掌
