一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)が、10月26日に東京都葛飾区で実施された「令和7年度 葛飾区医療救護訓練」に参加した。葛飾区医療救護訓練への参加は、JACDS東京都支部が令和5年に葛飾区と「災害時における応急物資の供給等に関する協定」を締結したことから始まり、今年で3回目となる。医療救護訓練は、都心南部を震源とする震度6強の地震が発生した翌日を想定して行われ、「超急性期には傷病者が病院に来ることが想定され、病院前でトリアージを行い、病院の敷地内や近隣の公共施設等で軽傷者の対応を行う」ことが盛り込まれている。(レポート=中西陽治)

災害時のトリアージから「軽傷はOTCで対応」のスキーム生まれる
「令和7年度 葛飾区医療救護訓練」は医療対策拠点を東京女子医科大学付属足立医療センターに据え、連携する各エリアの病院を起点にトリアージを行い、さらに4か所の軽傷処置エリアへと誘導する。軽傷処置エリアは小学校などの公共施設で、傷病者は入口で「トリアージ・タッグ」に記載された各ブースへと促される。教室内には「内科」「外科」「歯科」「調剤」「OTC」のブースが設置され、打ち身・擦り傷などの軽傷は「外科」、緊急性を帯びない薬の処方あるいは避難時に持ち出しそびれた医療用常備薬などを処方する「調剤」などで対応する。


JACDSが担うのは、災害時に軽症者に必要とされるOTC医薬品の提供だ。救護所となる小学校の教室には「OTC」ブースが設置され、JACDSから派遣された薬剤師、登録販売者が軽症者の対応に当たる。必要に応じて薬剤師が近隣ドラッグストアにOTC医薬品を受け取りにいくシーンも想定され、訓練は緊張感に包まれた。



JACDS薬剤師、登録販売者がOTC提供に奔走
訓練は、地元自治町会をはじめ、葛飾区の医師会、歯科医師会、薬剤師会、歯科技工士会、助産師会、栄養士会といった専門機関、そして近隣病院・クリニックといった施設がタッグを組む。そこにJACDSが加わり、軽症者へのOTC医薬品の提供はもちろん、湿布や絆創膏などの衛生品の供給が求められる。
実際に災害が起きた際を想定して行われた訓練には、地元住人が被災者にふんして参加。本番さながらの医療救護が行われた。


軽傷処置エリアで最も傷病者が詰めかけると予測された中之台小学校の「OTC」ブースには、JACDSから4名の薬剤師と2名の登録販売者がスタンバイした。軽傷の傷病者は受付で、住所・氏名・年齢・性別に加え、トリアージ実施場所・時刻・担当者、病名・症状、緊急性の区分を記載した「トリアージ・タッグ」が渡され、各ブースへと案内される。
訓練で用意されたOTC医薬品は、総合感冒薬、解熱鎮痛剤、整腸薬、便秘薬、下痢止め、鼻炎薬、目薬、湿布、軟膏など。また子供用のシロップ型の風邪薬も準備された。OTC医薬品以外ではコンタクトレンズ洗浄液や絆創膏といった災害時に求められる商品も提供される。
「トリアージ・タッグ」をもってブースに訪れた傷病者に対し、JACDSのスタッフは、店頭で培ったコミュニケーション能力を発揮し、OTC医薬品を提供。傷病者の症状やアレルギーの有無、常備薬の内容も確認する。場合によっては医師へのトリアージ差戻しも求められる。またその都度、近隣ドラッグストアへ向かい、必要な医薬品を補充する役割も担った。


医師、歯科医師、看護師と連携図るDgSのスタッフ
対応に当たったJACDSの薬剤師と登録販売者は、災害時のOTC対応について「鼻水、咳、痰といった風邪の諸症状が多い。また花粉症や目のかゆみなどを訴える人もおり、OTCで対応できる領域は大きい」と語る。一方で「前立腺肥大の既往歴がある人には、『これはOTCで対応はできない』と判断し、トリアージを差し戻した」と、医薬品提供者としての責任感と、医療専門家間での連携を発揮している。
ドラッグストア店頭で実施してきた経験が、災害時の医療体制維持に役立っている。中之台小学校には100人の軽症者が訪れ、そのうちOTC対応は30人にも上り、軽症者のセルフケアの重要性が際立った訓練とも言える。

JACDS石田理事「災害時のOTC対応訓練は日常のセルメ意識向上につながる」
ある登録販売者は「軽傷処置エリアでのOTC対応は非常に画期的だと感じる。しかし本当の災害時には私たちは店頭での対応に追われ、ここにたどり着けないかもしれない。もちろん要請に応じてサポートをしていきたいと思っているが、OTCで対応可能な領域がここまであるとすると、災害時にいかに店頭がOTC応需の主戦場になるかが分かる」と語っている。
訓練を視察したJACDSの石田岳彦理事(ウエルシア薬局株式会社取締役)は、「医師、歯科医師、薬剤師、看護師が連携する災害訓練で、ドラッグストア薬剤師と登録販売者の存在が際立った。30人もの軽症者がOTCで対応できた、という事実は、災害時はもちろん日常のセルフケア啓発にもつながる」と評価。さらに「災害時の外国人対応やペットケアも今後求められるだろう。その部分でもドラッグストアが担うべき役割は大きい」と災害対策の先を見据えた。
