小林製薬株式会社(豊田賀一社長)は、ピクノジェノール®(フランス海岸松樹皮エキス)*1がオートファジー*2活性を亢進すること、また、その作用メカニズムとしてオートファジー制御に重要な役割を果たすTranscription Factor EB (TFEB)を活性化することを明らかにし、「脳心血管抗加齢研究会2025 第21回学術大会」(2025年12月5, 6日、大阪)にて口頭発表した。
■ピクノジェノール®がオートファジーの働きを高めることを発見
■ピクノジェノール®がオートファジー制御因子であるTFEBを活性化するとともにリソソーム関連遺伝子の発現を高めることを発見。
同研究により以前から知られていたピクノジェノール®の血流促進作用のメカニズムの一つとして、オートファジー活性亢進が関与していることが考えられた。
オートファジーは細胞内の成分や異物を分解することで、細胞内の代謝、栄養源の確保および有害物の除去に働き、細胞の機能を正常に保っている。しかし、加齢などによりオートファジー活性が低下することで、動脈硬化などの脳心血管疾患の要因となっていることが示唆されていたことから、オートファジーは脳心血管疾患の予防、治療に重要なカギとして注目が高まっているす。
同研究では、血流改善作用など血管機能における有用性が報告されているピクノジェノールⓇ(フランス海岸松樹皮エキス)の作用メカニズムが十分に解明されていないことに着目し、同エキスの血管への有用性にオートファジーの活性亢進が関与している可能性を検討している。

1.ピクノジェノール®のオートファジー活性亢進作用
HeLa細胞を用いたtandem-fluorescent LC3 assayによりピクノジェノール®がオートファジー活性亢進作用を有することを明らかにした(図1A)。また、細胞老化*3を誘導した血管内皮細胞ではオートファジー活性が低下していましたが、同細胞をピクノジェノール®で処理すると活性が回復することをLC3ターンオーバーアッセイにより明らかにしました(図1B)。

試験方法:
RFP(赤色蛍光色素)、GFP(緑色蛍光色素)およびLC3(オートファジーマーカー)を融合させ細胞内で安定的に発現させたのち、ピクノジェノール®を添加し24時間培養した。培養後、RFPおよびGFPの蛍光強度比を指標にオートファジー活性を算出した。 *P<0.05 (N=9, Student’s t-test)

試験方法:
ドキソルビシンにより細胞老化を誘導した血管内皮細胞にピクノジェノール®を添加し24時間培養した。培養後、LC3の分解量を指標にオートファジー活性を算出した(N=3)。
2.ピクノジェノール®のオートファジー活性亢進作用のメカニズム
ピクノジェノール®のオートファジー活性亢進作用のメカニズムを調べるため、Transcription Factor EB (TFEB)に着目した。TFEBはオートファジーを制御する働きを持つ転写因子。TFEBは通常細胞質に不活性型として存在するが、必要に応じて細胞核内に移行し活性化型となり、オートファジー関連遺伝子や、細胞内の不要物の分解を担うリソソーム関連遺伝子の発現を促進することでオートファジー活性を亢進する。ピクノジェノール®で処理した細胞では細胞核内(点線白枠内)のTFEBが増加し(図2)、また、リソソーム構成遺伝子の発現が上昇していた(図3)。

試験方法:
ピクノジェノール®を添加した24時間培養したHeLa細胞におけるTFEBの局在を蛍光免疫染色法(TFEB: 緑色,細胞[Hoechst33342])で調べた。TFEB画像中の点線白枠内は細胞核部分を示す。

試験方法:
ピクノジェノール®を添加した24時間培養したHeLa細胞におけるリソソーム構成遺伝子LAMP1の発現をリアルタイムPCR法で調べた。*P<0.05(N=4, Student’s t-test)
同研究によって、ピクノジェノール®がオートファジー活性を亢進するという新しい知見を提供した。また、そのメカニズムの一つとしてTFEBの活性化とそれにつづくリソソーム関連遺伝子の発現上昇が考えられた。このことから、同エキスの血管への有用性にオートファジーの活性亢進が関与している可能性が示唆された。
また、オートファジーは血管以外においても多様な働きをもつことから、ピクノジェノール®にはこれまでに知られていない有用性を秘めている可能性があるという。
*1 ピクノジェノール®とは
フランス海岸松の樹皮から抽出される天然由来の成分であり、プロアントシアニジンをはじめ多くの有機酸を含んでおり高い抗酸化作用を有しています。これまで血流改善作用など血管機能を高めることが報告されており、脳心血管疾患リスクの低減に期待されています。
*2 オートファジーとは
オートファジーは、細胞が自身の中の古くなったタンパク質や不要な細胞内小器官を分解し、再利用する仕組みです。
細胞の「掃除」や「リサイクル」機能とも例えられ、細胞を健康に保つ上で重要な役割を担っています。
*3 細胞老化とは
細胞老化とは種々のストレスにより細胞が不可逆的に分裂を停止した状態になることです。老化した細胞は炎症を引き起こす物質を放出し、周囲の健康な細胞に悪影響を及ぼし、体の機能低下や様々な病気の原因になると考えられています。
※「ピクノジェール®」はホーファーリサーチ社の登録商標です。
同研究成果は、「脳心血管抗加齢研究会2025 第21回学術大会」(2025年12月5日~6日、大阪)にて口頭発表された。
タイトル:フランス海岸松樹皮エキスのオートファジー亢進作用
発表者名: 萩野 輝、伊澤 大介、五味 満裕、矢野 博子