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【第10回】矢澤一良博士が行く!ウェルネスフード・キャラバン【キユーピー】

キユーピー株式会社
代表取締役社長執行役員
髙宮満氏

 矢澤一良博士(早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長)が「ウェルネスフードのこれから」を探る対談企画「矢澤一良博士が行く!ウェルネスフード・キャラバン」第10回は「キユーピー マヨネーズ」「キユーピードレッシング」等のブランドで知られるキユーピー株式会社の髙宮満 代表取締役 社長執行役員にご登壇いただいた。キユーピーが製造する日本初となる国産マヨネーズ「キユーピー マヨネーズ」は今年100周年を迎えた。現在、世界79カ国に商品を届けるグローバルカンパニーであるキユーピーと矢澤博士との出会いは20年以上にさかのぼる。キユーピーが目指す「食を通じた社会貢献」とは、矢澤博士が自身とのリレーションシップを振り返りながら、その哲学に迫る。【記事=中西陽治】

100年超える歴史で培ってきた〝キユーピーの企業風土〟

矢澤一良博士(以下、矢澤博士):私がキユーピーさんとのお付き合いの中で、1番印象に残っているのが2002年から2012年の10年にわたる東京海洋大学(当時は東京水産大学)での「ヘルスフード科学(中島董一郎記念)寄附講座」です。

矢澤一良博士

 私はそれまで公益財団法人相模中央化学研究所の研究所におり、EPAやDHAといったマリンバイオテクノロジーを研究していました。当時の学長から寄付講座の件で声をかけていただきましたが、私にとって人に教える〝教育〟は初めてのことでした。
 そうして寄付講座が始まったのですが、この〝寄付〟というのは大学院への寄付です。つまり私自身が携わってきた「ヘルスフード科学」の社会的な意義や、今後の研究開発と学生指導などに期待されていたのだと思います。ですから、この寄付をしていただいた企業に何かお返しをしなければならないという気持ちがありました。例えば企業が求めるテーマがあるのなら、おっしゃってください、と。しかしこの10年にわたる寄付講座でそういった要望や指導をいただいたことがありませんでした。

 そんな時「中島董一郎譜」という著書に出会いました。そこで中島董一郎さんのご苦労が良く分かったのです。私はこの本から、奥ゆかしさあるいは〝品格〟というものを強く感じました。

 継承されてきた〝品格〟、もう少し広義で言いますと企業哲学、これを髙宮社長はどのように捉えていらっしゃいますか。

髙宮満 代表取締役 社長執行役員(以下、髙宮氏):ありがとうございます。

髙宮満 代表取締役 社長執行役員

 矢澤博士とは私がマヨネーズの開発を担当しているときにお付き合いが始まりましたね。
 東京水産大学は私の母校でもあるので、寄付講座は非常に嬉しかったことを思い出します。それにキユーピーの創始者である中島董一郎の母校でもあり、そういったご縁があった、ということだと思います。

 企業が活動をする中で、社会にいかに貢献するか、が大切です。その中で、矢澤博士が2002年から実施していただいた寄付講座は、その手段の一つでした。学生を育てる寄付講座で社会に貢献したい、という議論を重ねて「では矢澤博士にお願いしよう」となったのです。

 テーマへの要望が無かったのは、これはキユーピーという会社の風土に関わることですが「専門の方にお任せしよう」というポリシーがあるのです。例えば広告も、プロに委ねた方が一番専門的なものが出来上がるだろう、と。
 「寄付講座でこういう研究をしてほしい」「こんな広告を出してほしい」と要望を出せば会社にとってプラスになるかもしれません。しかし〝それはやめましょう〟という企業なのです。

矢澤博士:その社風、つまり風土はどこから醸し出されているのでしょうか。新興の企業ではなかなかできないことだと思います。

髙宮氏:それは、キユーピーが100年を超える歴史のなかで培ってきたものです。

 会社というのはたくさんの人が集団で経営に参加しますから、考え方を一つにすることが大事です。この考え方を企業においては「経営理念」や「社訓」に掲げます。われわれはこの社是・社訓を相当大切にしています。
 例えば「社是は何ですか」と言えば、その意味も含めて社員全員が答えられます。しっかりと企業が目指すもの、掲げる考え方に向き合って、それぞれが大切にしているからなのです。
 こういった企業であるからこそ、寄付講座についての向き合い方も「お任せして信頼して、活躍していただきましょう。良い成果が出たら喜び合いましょう」というスタンスなのです。

 こういった経緯から当時、矢澤博士は「何もお題がこないな」と思われたかもしれません。ですが、そんなことはなく、例えば私は当時研究所にいましたので、矢澤博士のところで出された研究成果論文を共有しながら、自分たちで研究会を行ったりしていました。矢澤博士もなんどもキユーピーの研究所に来ていただき、寄付講座で生まれた研究や活動報告といったご縁から、最終的にはすごいご褒美をいただきました。

 それは〝人財〟です。

矢澤博士:ありがとうございます。何か一つでもお返しできないか、という気持ちでいっぱいでした。

 10年におよぶ寄付講座で、大学院生からドクターを5人、修士を60人輩出させていただきました。最初に私の寄付講座に飛び込んできた学生は、キユーピーさんにご採用いただきました。

髙宮氏:今でも大活躍していただいています。ポジティブで気が利く素晴らしい人財です。これは社会人になっていきなり身に付くものではなく、もって生まれた素質もあるでしょうけれど、寄付講座の研究で高められたということでしょう。

 それからキユーピーという会社に入ってもらい会社の未来に向けて活躍してくれる。これは寄付講座が生んだご縁だと思います。

矢澤博士:私は、講座や研究に来た人たちはみんな自分の娘であり、息子だと思っています。

 彼女、彼らが研究者として社会に出るとき、社会貢献というものが非常に大切になってきます。「社会貢献のために、ここで研究してください。研究テーマを決めて、それが人の役に立つようなことに結びつくようになってください」と重々伝えてきました。その思いが伝わったようで大変胸が熱くなります。

創業者から受け継がれる「未来に進む研究者への応援」

髙宮氏:ほかにも博士からはご褒美をいただいているのです。

 それは矢澤さんご自身とのご縁をいただいたことです。
 このご縁に、数えきれないほどのテーマでお世話になっています。いっぱい博士に応援をいただいて会社の活動が支えられていると思っています。

 例えばキユーピーグループの中島董商店を中心とした一般社団法人旗影会(※)があります。(※1973年設立。タマゴをはじめとした農畜産、食品工業等に関する学術研究の奨励援助を行う)
 旗影会が目指すものと同じです。未来に向けて勉強や研究をしている人を応援したい。そのために寄付講座にするのか、研究助成にするのか、という手段が違うだけなのです。

 この想いの原点は、創始者の中島董一郎が大学で勉強した時、またその他と産業を興そうとしたときに、応援していただいていることに基づきます。水産講習所(※東京水産大学の前身)の先生・先輩から、応援してもらったことが原体験にあり、そこから生まれ出た考え方なのです。

 もうひとつ、中島董一郎が設立した公益財団法人中董奨学会(※)があります。(※1967年設立。大学生・大学院生に返済不要の奨学金を支援)

矢澤博士:普通学生たちは奨学金を申請する際、返済に追われアルバイトなど大変な苦労をします。

 もちろん中董奨学会には選抜がありますが、しっかりと勉学と研究に励む人にとってとても大きなメリットですよね。
 本当に多くの研究や奨学の支援をなさっている。これが社会貢献につながっていく、というとても素晴らしいご活動だと感服しています。

髙宮氏:この全部に矢澤博士に応援していただいているので、考え方の根っこは一緒だと思っているのです。

 「コツコツ真面目にやっているけれど、どうも地味だな」と研究者が感じていたとしても、私はその行動を素晴らしいものだと感じますし、それがキユーピーグループを作った中島董一郎の想いだと思うのです。
 「ホールを借りて派手に発表しよう」という会社さんもあると思います。でもわれわれはそれを主旨にしているわけではない。

 例えば奨学金を使って勉強した人が社会で活躍する、あるいは研究助成を受けた人が論文で評価される。それらが直接的・間接的に日本や世界の未来に貢献出来たら、これは嬉しいことですね。

「キユーピーみらいたまご財団」――子どもの食支援に向けた企業姿勢

矢澤博士:創業からの理念を継承されていることは素晴らしいことだと思います。

社会貢献についてもう一つうかがいます。

 最近いろいろなところで「子ども食堂」が始まっていますが、キユーピーさんその黎明期から「キユーピーみらいたまご財団」を通じた支援を実施されています。
 経済的・環境的あるいはなんらかの理由で食事ができない子どもたちが存在しています。栄養学的に見ても〝ご飯が食べられない〟というのは、栄養のみならず感性やメンタルにも非常にマイナスだと思うのです。「子ども食堂」のような、誰かと一緒にご飯を食べる場が、心の健康を育む。それを食品や栄養が支えることができるのでは、と考えています。

 そこでキユーピーさんの「キユーピーみらいたまご財団」のお取り組みについてお聞かせください。

髙宮氏:「キユーピーみらいたまご財団」の活動も、企業というものは社会に貢献する、という思いの根っことして同じだと思います。

 これから先の日本あるいは世界の未来を創るのは子どもたちでしょう。その子どもたちが食べるものに困ると、情緒も不安定になります。これは非常に良くない。食の機能とは、おいしさ・栄養・嗜好・生体調整に資するものです。これが子どもの大事な成長期に欠けることがあってはならないのです。

 食べものを作っている会社として、その子どもの食に貢献することは大変重要なことであり、財団が行っている子ども食堂をはじめとした食の支援は、その分かりやすい具体的な取り組みです。

「キユーピー マヨネーズ」発売100周年の歴史

矢澤博士:今年「キユーピー マヨネーズ」が100周年を迎えました。
 マヨネーズには卵白を使った白っぽいもの、卵黄のみを使った黄色がかったものがあります。

 「キユーピー マヨネーズ」は卵の卵黄のみを使った独特のものですよね。この100年の歴史と、もう少し先についておうかがいします。

髙宮氏:会社の歴史になりますが、創始者の中島董一郎が明治から大正に向けて勉強をしていた当時は、日本がどんどん成長していく過程にありました。志がある人間は海外に勉強に出向いて、ビジネスを見つけて戻ってきて、日本の発展に貢献したその一人だと思います。

 中島董一郎が〝食べものを通じて何かやろう〟と考えた時、アメリカで出会ったのが「マヨネーズ」です。
 ポテトサラダにマヨネーズをかけて食べた時に感激したそうです。そして「日本人の自分が食べておいしいと感じるものだから、これを日本に普及させたい」と考えました。

 ここで〝マヨネーズが何でできているか〟が重要だったのです。マヨネーズは卵と油とお酢でできています。当時の日本人は体がすごく小さくて平均寿命も短かった。一方でアメリカ人は大柄で当時は日本よりも平均寿命が長かったのです。

 中島董一郎は「どうして日本人とアメリカ人はこんなに違うのか」と感じ、その一つが〝食べもの〟にあると思ったのです。「食べものを通じておいしさや食文化、そして健康に貢献したい」と考え、その手段としてマヨネーズを勉強して、日本に持ち帰り産業にしよう、ということから始まりました。

 これは会社の捉え方なのですが、中島董一郎が日本でのマヨネーズの販売を準備したとき、〝栄養価が高い卵黄をたくさん使おうとしたのではないか〟と考えられています。それから〝米を主食とする和食にも日本人の味覚にも合うようなマヨネーズを作ろう〟と考えていたのです。

 それがオリジナルの配合の、日本人が作った日本ならではのレシピに沿った「キユーピー マヨネーズ」です。卵黄がたっぷり入っていて、色の濃さと味の濃さを感じられるのが「キユーピー マヨネーズ」ならでは、のものです。

矢澤博士:本当に「キユーピー マヨネーズ」は濃厚さを感じさせる色をしていますよね。

 一昔前には卵あるいはマヨネーズのコレステロールの問題が話題になりましたが、現在では卵やマヨネーズのコレステロール量というのは多くないし、遺伝性の問題以外は無害というのが通説となりました。

私は日本脂質栄養学会にも携わっていますが、卵は食べた方がよいというのが普通になっています。栄養学の観点から見ても、鶏が産む卵は卵黄が一番重要な要素になっています。命を育む上での栄養が詰まっている、ということですよね。

髙宮氏:その通りですね。

 「キユーピー マヨネーズ」を発売した原点として、おいしさの提供とともに、日本人の健康、そして体格向上に貢献したいというのが、ビジネスの志にあったのです。

 それでも発売から紆余曲折もあったそうです。戦争で原料が無くなるなど、大変なこともあった。そうして「キユーピー マヨネーズ」は今年発売100年を迎えました。私自身も会社にいる立場として、この100年はすごいことだと思います。一つの商品が100年愛されている、ということは驚くべきことです。

 油の種類を変えたり配合の微調整がありながらも基本レシピは変わらず、今でも伸び続けているのです。100年を迎える今年はいろんなイベントや企画を実施しましたが、この凄さを社員の皆さんには誇りに思ってほしいですね。
 「この100年目という節目にあなたは当事者として会社にいることを誇りに思って喜び合いなさい。そしてその先の未来を考えるのもまた皆さんなのです」という話を伝えています。

「キユーピー3分クッキング」――国民の食事を支える料理を提供し続けて60年

矢澤博士:日本人のために生まれ100年の間脈々と受け継がれてきた「キユーピー マヨネーズ」でしか成しえないことですね。

 継続していく、という点ですが、キユーピーさんはTVで「キユーピー3分クッキング」を60年以上にわたり放送されています。食品メーカー発の料理番組で、これほどまでに長い歴史を持つ番組は無いのではないか。継続していく、という会社の理念を感じますね。

髙宮氏:それはすごくありますね。

 刹那的にスポットでやるのではなく、企業の考え方を浸透させるのならばある部分で継続する我慢も必要なのです。
 そして継続する上で雰囲気つまりトーンを変えてはいけないのです。

 「キユーピー3分クッキング」が始まった当初は、毎日の食卓のメニューに主婦の方が困っていました。今日のお昼のお弁当は、また夜のおかずは何にするのか。そのメニューや食事の情報提供をする番組だったのです。そのために〝キユーピー色〟を極力出さないという、番組トーンとなったのです。毎日マヨネーズが使われるメニュー提案だったら受け入れられないでしょう。

 このトーンを保ちつつ、視聴者の食事を支える料理を提供し続けて60年が経ちました。
 愚直に映るかもしれませんが、これを継続していくと間接的にいろんな方が「キユーピー3分クッキング」に関心をもってくれるのです。CMのトーンも同じです。マヨネーズやドレッシングにより野菜がサラダが主役になれること、を一貫してお伝えしています。

矢澤博士:確かに、番組ではマヨネーズやドレッシングと同時に野菜・サラダの価値を伝えていますね。

 いわゆる調味料も大事だけれども、野菜・サラダは最も重要な栄養の源である。これを先駆的に、かつ長期にわたって発信されていることは、並々ならぬ継続精神だと思います。

髙宮氏:先ほど矢澤博士がおっしゃった「卵とコレステロール」も、実は当時とても悩ましい問題でした。

 20年ほど前まで「卵のコレステロールは良くないからマヨネーズを食べてはいけません」という風潮がありました。私も研究所で関連する論文を見てみますと、その風潮の原点にロシアのウサギの実験などが引き合いに出されており、「ウサギは草食動物だからそもそもコレステロール分解能がないのでは」といった疑問をもっていました。

 しかしメーカーが反論するのではなく、矢澤博士をはじめとした先生方とのコミュニケーションの中で「それは誤解で、卵とマヨネーズのコレステロールは大丈夫ですよ」という発信を丁寧にしていったおかげで、正しい情報が浸透していきました。

 そういった応援にも支えられての「キユーピー マヨネーズ」の100年であり、長年の「キユーピー3分クッキング」があるのです。

矢澤博士:なるほど。

 学術的にしっかりと解明していけば、単なる噂話が一人歩きすることを防ぐことができますね。これは科学の良さであり、今後の研究や開発につながってくれれば、と願っています。

 一昔前、機能性表示食品が生まれる前、いわゆる健康食品にも全く根拠のないものがありました。私たちアカデミアも健康食品に対して、やはり機能を科学的に証明していかなくてはならない、と考えていました。

 寄付講座の大テーマである「ヘルスフード科学」も、当時は〝ヘルスフード〟という考え方が無い中で、「食の機能とその根拠」を明らかにすべく研究を進めていきました。その講座を受けた学生が、今のヘルスフードすなわち健康食品に携わってくれている。その意味では、今がわれわれ学術者も地道に正しいことを伝えようとしてきたことの結果であるならば、大変嬉しいことです。

髙宮氏:まさにその通りで、「ヘルスフード科学」は当時でも先駆者的な考え方だったと思うのです。それがわれわれの企業活動の原点と基本の考え方と共鳴し、今に至っているのでしょう。

「食リテラシー向上には産学連携が欠かせない」

矢澤博士:一方でですね、機能性表示食品に関して、一部のマイナス要因が拡大解釈され、SNSなど不確定な情報に乗ってキャンペーンが行われることがあります。これが科学に基づいた情報で是正することが大変難しい、と感じるところもあるのです。

 先ほど髙宮社長がおっしゃった「継続して伝える」という広報を含めたアクションの中に何か解決の糸口があるのでは。

髙宮氏:われわれにも、これから大切にしていきたい機能素材があります。
 でもその魅力を自分たちだけが発信しても、「それは自社の素材だから」と響かないでしょう。

 ですから、その魅力を知っていただくためには、自社による発信よりもやはり第三者つまりアカデミアの方にきちんと根拠があるものを客観的に評価していただくことが大事だと思います。

 キユーピーには「ヒアルロン酸」という大事な素材があります。この「ヒアルロン酸」の良さを自社だけで発信しても、理解というゴールにたどり着かないのです。そこで2015年に「ヒアルロン酸機能性研究会」という研究会を立ち上げ、第三者から客観的な評価を受けられる体制を整えました。
 その活動にわれわれが支えられ、企業という立場から「ヒアルロン酸」の価値をお客様に届ける橋渡しをしているのです。

 この関係性で、われわれが企業活動をしながら発信する方法もあるでしょう。ですがそのやり方ではごり押しになったり、あるいは思いが強すぎて勇み足になってしまう可能性があります。

矢澤博士:それは感じます。産学どちらかが欠けてもいけない、ということですね。

 私たちアカデミアは、ある企業のある成分が製品になることを応援しているわけではなく、最終的にその製品が人の健康、福祉、美容といった〝ウェルビーイング〟に資することを科学的根拠で支えるべきだと思います。
 科学的根拠が、人の心身の健康に貢献するためには、やはり製品化していかなければ、国民には届かないと思います。書いた論文がすぐ役に立つわけではなく、それを応用していただいて製品化に役立ててもらう。この関係性が重要ですね。

 産学連携で、最終ゴールである人々のウェルビーイング、ひいては社会貢献につなげていかなければならないのでしょう。

「社会貢献できるか」「キユーピーがすべきことか」「継続できるか」

髙宮氏:今のお話と表裏一体になるのですが、われわれは産業ですから、お客様に使っていただくための製品の形作りをしています。

 キユーピーでも機能性表示食品をいくつか商品化しています。その開発の際、「こういうテーマで商品を作りたい」となった時、「それは社会に貢献するのか」という疑問を投げかけます。 「このテーマは社会の困りごとか。未来に向けて解決しなければならない課題か」という社会貢献という基本に則った製品なのか、を第一に考えています。

 二つ目には「得意な分野であっても、そこにわれわれがやる意味があるのか」ということです。
 自分たちのいわゆる経営資源であれば、それはやる価値があるでしょうし、そのリターンにも期待できます。

 三つ目には、エビデンスに基づいたうえで「無理なく使っていただけるのか」です。製品化する際、食材に入れ込むあまり機能性がダウンしたり、あるいは物質が変化してしまうことがあります。これをクリアした後に、「最初のお客様が継続できなければ意味がない」と考えています。

 こうした条件をクリアしたものは本気でやろう、と思っています。

矢澤博士:ゴールとして何を定めるか、が非常に大事ですね。研究者はついつい自分の研究に没頭しがちです。

 キユーピーさんのマヨネーズには卵が欠かせません。卵が誕生するには当然親鶏がいる。その雄鶏のトサカにヒアルロン酸が豊富に含まれています。これを今のSDGsにも通じる有効利用をなされてきた。その後、トサカからの抽出法に加えて微生物発酵法による生産技術を確立することで、非常に純度の高いものが出来上がり、現在の製品につながった。

 そして研究者がこの「ヒアルロン酸機能性研究会」でヒアルロン酸の新しい可能性に興味を持って、さまざまな研究が進んでいく。
 それは単に膝や関節といった機能性食の部分だけでなく、化粧品、あるいは医薬品といった活用領域を広げることになります。加えて、トサカから得られるヒアルロン酸の構造や、その雄鶏の生産法といった基礎研究にも拡大しました。

髙宮氏:おっしゃる通りです。

 「ヒアルロン酸機能性研究会」を軸に、ヒアルロン酸の基礎研究から産業活用までがスクラムになっているのです。ベースにあるのはアカデミアや研究者の研究ですが、その研究が互恵関係を結んで産業に結び付く姿はわくわくしますね。

矢澤博士:髙宮社長が研究者出身であることの現れですね。単に経済だけの話ではない、社会貢献につながる可能性が根本にあるからこそ、揺るがない。

100年企業が抱く使命
「世界の食文化に貢献」「未来の食に向き合う」

矢澤博士:社会貢献がキユーピーの根幹にある、ということが非常によくわかりました。今後のキユーピーさんは「ウェルネス」「ウェルビーイング」という方向性に対して、企業としてどういう考えをお持ちなのでしょうか。

髙宮氏:キユーピーとしていろんな考えを持っていますが、二つ今日はお話をさせていただきます。

 一つは、グローバルの中で食文化の発展と貢献、それからウェルビーイングに貢献していきたいと考えています。
 グローバルな観点で言いますと、アメリカで中島董一郎が見つけたマヨネーズが大きく育ち、今日本を拠点にしながら世界中で食べていただけるようになりました。

 現在、キユーピーの工場は中国・タイ・ベトナム・マレーシア・インドネシア・アメリカ・ポーランドにあります。日本を含めた各拠点からの輸出を合わせると世界79の国と地域に製品をお届けしています。この世界の方々に、製品だけでなくわれわれが日本でしてきたことをお届けしたいのです。

 つまり今日お話しした「食べものと健康の関係」「食べものと栄養の関係」「サラダを食べることの意味や価値」「食育活動」です。
 例えば中国の工場には、日本の工場と同じく見学レーンがあって、子どもたちが工場見学で勉強に来ています。こういった活動をもっともっと世界でやりたいと思います。これは恩返しと、日本の企業の心意気という意味を込めています。

 もう一つは、食に向き合うというメッセージを伝えていくことです。
 今は、ただ食べ物を作って売ればいいという時代ではありません。もっと根源的な部分でいかに食を通じて社会貢献していけるか、ということにチャレンジしていきます。
 「現代のあるいは未来の食に向き合いましょう」ということを発信していくべきなのです。

 日本は超高齢化社会に入ります。増えるシニアの方々の食事・栄養・健康・社会参加にどう向き合っていくのか。食品メーカーとしてキユーピーが貢献できる分野は多岐にわたると考えています。

 さらには地球環境にも向き合わなければなりません。向き合うテーマは増えているのですが、これは未来と社会に対する恩返しであり、企業としては大事な投資テーマなのです。

 今、世界は国境などない時代に入ったと思います。情報も人流も境界線を越えていく今、例えば海外の方から「『キユーピー マヨネーズ』はおいしい」と言っていただけたり、または日本の方が海外のスーパーに行ったときに「『キユーピー マヨネーズ』がこんなところにも」、と感じていただける、そういう世界観を大切にしていきたいのです。

矢澤博士:キユーピーさんが描く世界観、そしてグローバルにおける存在感を広く知っていただけることは、日本の食が世界に貢献することにつながりますね。
 キユーピーさんはちまたでは「女性が働きたい企業№1」に近い企業であることを聞きました。

髙宮氏:うれしいですね。
 その期待に応えられるようになりたいですね。「キユーピーに行って良かった」、そして自分の子どもにも「お母さんは良い会社にいたんだよ」と伝えてもらえる会社であり続けたいと思います。

――ありがとうございました。