一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)が毎年実施している「城西大学コミュニティーファーマシーインターンシップ」の店舗視察がメディアに公開された。 インターンシップはJACDSと城西大学の連携のもと、JACDS会員企業の店舗で4日間(夏期休暇中に実施)にわたる就業体験に対して単位認定するもので、今年度は14名の学生が履修を行った。インターンシップには、JACDS副会長の関口周吉氏(龍生堂本店代表取締役社長)、城西大学の上田秀雄氏(学長補佐/教務部長/薬学部薬学科教授)と村田勇氏(薬学部助教)も視察に訪れ、城西大学薬学生の活躍を見守った。(レポート=中西陽治)
インターンシップは、城西大学薬学部薬学科(6年制)の4年生を対象に行われ、今年は14人の薬学生が研修を受けている。JACDS加盟企業からインターンシップの受け入れに手を挙げたのは7社(ウエルシア薬局、ウェルパーク、カワチ薬品、スギ薬局、セキ薬品、マツモトキヨシ、龍生堂本店)から11店舗。
参加した薬学生は、大学が夏季休暇中の2025年7月30日(水)~9月12日(金)のうち4日間を、ドラッグストア・薬局の機能および役割、ノウハウについて実地と研修を通じて学びを得る。
今回、メディアに公開されたのは埼玉県ふじみ野市、東急東横線ふじみ野駅からほど近い「龍生堂薬局ふじみ野店」だ。
インターンシップに臨む薬学生は、事前に龍生堂本店の本部(東京都新宿区)で、ドラッグストアの役割および龍生堂の目指す方向性、業務に関する説明から、挨拶・身だしなみといった基本姿勢を学び、9月11日のこの日、店頭に立つ。1日の勤務時間は原則10~18時の8時間で、店舗スタッフとして商品の販売全般に補助を受けながら研修を行う。なお、調剤業務は見学のみとなっている。
龍生堂本店では城西大学薬学部4年の中嶋美涼さんが店頭に立ち、早速訪れた来店客に、朗らかな笑顔で応対した。
中嶋さんは「私自身、ドラッグストアや小売店でのアルバイト経験がないので、消費者側から提供側に立つことに新鮮さを感じています」とやや緊張した面持ちで臨み、「現在、大学4年生ですので、来春から始まる就職活動も視野に入れながら、これから自分が薬剤師として進んでいく中で、自分に何ができるのかを考えてインターンシップに取り組みたいですね」と意気込みを語ってくれた。
日々、薬学の研鑽に取り組む中嶋さんは、店頭に立つうえでの心構えについて「大学では複雑な薬学を理解する必要があります。でも実際に店舗に立ってそれをお客様に直接伝えてしまうと、ちょっと難しくて分かりづらくなってしまうと思います。ですから、いかに分かりやすく伝えられるか、を自分が学んできたことと組み合わせながら話す能力を身に着けたいと思います」としっかりとビジョンをもって臨んでいる。
龍生堂本店のインターンシップでは、具体的なマニュアルを用意し画一的な業務を行うのではなく、「龍生堂薬局ふじみ野店」ならではの店舗および顧客特性を、店舗スタッフとともにOJTで学んでいく。薬学生個人の姿勢・ポテンシャルを引き出し、その店に訪れる生活者の属性や地域性に沿った対応が求められるということだ。
インターンシップのメディア公開に同席した龍生堂本店の関口周吉社長は「龍生堂本店は地域密着型の店舗ですので、その地域・エリアに寄って役割が違います。ですからマニュアルで画一的に行うのではなく、日々変化するお客様の状態やニーズに沿った臨機応変なドラッグストアの姿を知っていただきたいと思っています。もちろん医薬品販売などの業務手順書のオペレーションは当然あり、それに準じて情報提供およびご相談を受けますが、やはり売り方というのはお客様・お相手しだいで変わってきます」と龍生堂本店ならではの研修方針を語り、中嶋さんは「気が引き締まる思いです」とうなずいた。
「ふじみ野店」はOTC医薬品を中心に日用品、衛生用品を幅広く取りそろえる。また調剤併設店舗で、在宅訪問にも応需し、管理栄養士監修レシピを紹介するなど、地域に根差した「ヘルスケア特化型」の店舗だ。
中嶋さんは「私は栄養の分野に非常に興味があり、栄養方面にも強い薬剤師になれたら、と思って龍生堂本店さんを研修先に選ばせてもらいました。ふじみ野店にはビタミン剤や健康食品も多くあり、とても勉強になります。薬と栄養に強い薬剤師は、ドラッグストアでこそ発揮できる職能だと思います」と自らの薬剤師としてのビジョンをしっかりと見据えている。
「ふじみ野店は在宅訪問の件数が多い店舗だと感じていて、お客様にお薬と一緒に店舗にある商品をピックアップしてお持ちするという、地域ならではの特性に驚きました。また、龍生堂本店さんの別の店舗のお話も説明していただいています。お薬が足りなくなったら近隣店舗と協働し、どの患者さんのお薬への応需も漏れなく対応されている、ということを聞いて、すごく考えて店舗機能を構成されているのだな、と思いました。これは実際に見てみないとわからなかった部分で、貴重な体験です」と中嶋さんは語る。
実際に店舗に立ってみないとわからないことが薬学生としての経験と発見にあふれているようだ。
例えば、消費者側だと触れる機会がなかった「男性用オムツ」や「吸収パット」といった商品。こういった未知のカテゴリーに初めて触れることで、ドラッグストアの機能の幅広さに驚いたという。OTC医薬品の数の多さも「『あ、あのOTC医薬品に含まれている成分はこういう意味があったのか』という発見が生まれました。この発見と体験は勉強する意欲にもつながると思うのです」と、中嶋さんは学びに対するモチベーション向上にも意欲を燃やす。
インターンシップでの経験をどう今後の学習やキャリア形成につなげていくのか。中嶋さんは「これから5年生になって実務実習が始まります。実習は調剤薬局か病院に限られると思いますから、その前にドラッグストアの業務に触れられるのは今後のキャリア方針にとても役立つと思います。まだ就職先を決め切れていない状況ですが、そんな中でもドラッグストアの経験を、薬剤師になった時の選択肢につなげたいと思っています」と幅広い視野で薬学の可能性を見据えている。
インターンシップに臨む薬学生は、モチベーションの高さと、薬剤師という職に熱い思いを秘めている。
中嶋さんは小学4年生ごろから薬剤師を目指しているという。「当時の私は薬を飲むことが人一倍苦手で、粉薬も時間をかけて飲むくらいでした。でも診察の上でのレントゲンは撮影するだけで苦くも痛くもないですよね。痛くない診察がある一方で、最終的に治すときに行き着くのは薬であり、それをどうしてもしんどいなあと思っていたのです。そこでつらくない、しんどくない薬を作りたいと思いました。そして薬剤師を目指す過程で服薬指導という役割を学び、『薬が苦手だった自分だからこそ、気持ちを理解してくみ取れる部分』があるのだろう、と気づきました」と視点の先を示してくれた。
「これから薬剤師として社会に出るうえで、いろんな働き方があると思いますが、どういった仕事についたとしても薬剤師としての役割は共通していると思います。ですから、ドラッグストアで働く薬剤師のビジョンを4年生のうちに知ることは、今後の自分の糧になります」と中嶋さんは、インターンシップで得られる経験について期待を込めた。
中嶋さんのインターンシップに同行した城西大学薬学部の上田秀雄教授は「このインターンシップを実施するにあたって、必ず事前講義を行うことになっていて、今年は関口社長にお願いさせていただきました。事前講義は研修に興味のある薬学生を対象にしているのですが、この体験内容は本当にできるだけたくさんの学生に聞かせたいと思っています。大学の講義では薬機法など制度的なものは伝えられますが、ドラッグストア・薬局の機能と役割の違い〝ドラッグストアって実際どうなの〟という点は伝えきれないと思うのです」と店頭でしか得られない体験を与える、インターンシップの価値を示す。
調剤薬局とドラッグストアにおける許可や機能の違いは、店舗を外から見ても違いが判りづらい。そのため、事前講義では〝調剤薬局は薬局開設許可で、ドラッグストアは店舗販売業許可〟という許可申請から〝ドラッグストアとは〟というものを全て伝えたうえでインターンシップを受け入れているという。
JACDSのインターンシップでは城西大学から毎年20人弱の実習生を受け入れている。
関口社長は「インターンシップを経験した学生の友達が、採用試験に訪れるケースも増えています。研修生から『あのドラッグストアは良かった』という話を聞いてキャリアの一歩を踏み出してくれています。これは薬学部内での口コミも相まって、ドラッグストアが薬剤師のキャリアとして確立されているということです。その意味では、このインターンシップはドラッグストア企業にとって拡散力も含めて大変意義深いものでしょう」とインターンシップの手ごたえを語る。
上田教授も「JACDSさんのインターンシップも開始から10数年経ちました。薬学部が6年制に移行して初の6年生の卒業生は既にインターンシップが始まっているわけですけれども、その当時のドラッグストアのイメージとは全く変わってきています。ここ数年、ドラッグストアで働きたいという学生がどんどん増えていますね」と、職場としてもキャリアとしても、学生の意識はドラッグストアに向いていることを明かしてくれた。
春にインターンシップ参加の公募を行い、6月ごろに事前講義を開く。今年の事前講座には関口社長が登壇し「ドラッグストアとは」を講演した後、希望する学生たちでインターンシップを通じて何を見て学べばいいかのアイデア出しを行う。そこで受け入れ先のドラッグストア企業ごとの特性に合わせたテーマを固め、夏季休暇中に学生各々が研修に出向く、という流れになっている。
参加する薬学生が主体となって、「ドラッグストアで何を学ぶべきか/どの領域で自らの職能を活かせるか」を導き出す――そのモチベーションの高さは驚きだ。
「インターンシップは単なる就業体験ではありません。単位のかかった授業科目に設定もされていますから、経験から何を学んできたかを重視します。そのためにはやはり目的意識を自分で持つことが求められるのです」と上田教授は語る。
「何年か前のインターンシップで『どうして管理薬剤師は売場のことをやらないのですか』という質問を受けました。管理薬剤師は併設された調剤薬局の業務をしているからドラッグストアの業務ができない、ときちんと説明しましたが、店頭で働くことをイメージした鋭い意見だと思いましたね。受け入れる側も、緊張感をもってインターンシップを行います。学生さんが目的意識をもって臨んでいるので、やはりドラッグストアの役割や働く上での価値をしっかりと伝えなければならないでしょう」(関口社長)。
JACDSによるインターンシップが始まった10数年前にはまだまだ苦労が多かったらしい。受入れ企業の担当者にインターンシップの意義がしっかり伝わっておらず、品出しなど単純作業で終わってしまったこともあるという。
その反省から、事前講座を通じ学生に目的意識を根付かせ、そして受け入れ企業にもそれを受け止める覚悟を求めるよう、インターンシップは進化を遂げた。
関口社長は「時にはドラッグストアに対しての耳の痛い話もありますね。ただしそれは薬学生のみなさんが真剣にインターンシップに臨んでいる証でもありますから、われわれも真摯に受け止めなければなりません」とその責任感と覚悟を示してくれた。
薬学生のモチベーション向上、薬剤師のキャリア育成、ドラッグストア薬剤師の職能発揮の道筋を示す「コミュニティーファーマシーインターンシップ」。薬科、薬学部を抱える大学からの需要も高まることが予測される。
今後の方針について関口社長は「私の考えでは、関東で城西大学さんと実施させていただいているようなことを、関西の大学でならばやれるのでは、と考えています。ただ、このインターンシップは大学側の協力なしにはできません。個別企業や大学生薬学生の個人レベルでは可能でしょうが、JACDSと大学が継続性をもって取り組まねば続いていかないでしょう」と語る。
上田教授も「このインターンシップは、城西大学が単位科目としてカリキュラムに組み込んで行っていますが、これは大学にとって結構大変なことなのです。城西大学は医学部がないため付属の病院がありません。そうするとやはり地域という活躍の場をターゲットにした教育をしていくべきだと考え、薬学部6年制移行開始からこのインターンシップに取り組んできたのです。JACDSさんと共にこのインターンシップの方向性を考え、単位科目として組み込めたのは大学にとっても大きなことです。龍生堂本店さんをはじめいろいろなJACDS加盟企業と研修ができる機会は他にはないでしょう」とうなずき、JACDS加盟企業と教育機関の確固たるパートナーシップがあってこその連携であることを強調する。
10数年前、ドラッグストアがまだ薬剤師の就職先として評価されていなかった時代から始めてきたことが、今評価されている。それはインターンシップだけでなく、増加するドラッグストア企業での実務実習にも現れている。ドラッグストア薬剤師のニーズが拡大するからと言って、拙速にこのインターンシップを広げてしまうと、その質が担保できなくなる可能性があるだろう。また大学カリキュラムに含めることと、何より10年前と比べてはるかに忙しい薬学生のためにも、丁寧な進め方が重要だ。
関口社長はJACDSの副会長として勤務薬剤師委員会の委員長を歴任するなど、ドラッグストアにおける薬剤師の職能発揮に力を注いできた。また先ごろ行われた「第25回JAPANドラッグストアショー」でも満員御礼となった「こどもやくざいし体験」を取り仕切り、薬剤師の地位および薬学教育の向上にひとかたならぬ情熱を燃やしている。
インターンシップ取材の結びに「やはり後進の育成や今の6年制教育は、これまでの私たちが学んできたものと違うところがあると思います。そこをしっかりと理解した上で、多様化する生活者のニーズに対応できる薬局づくりや、薬学生・薬剤師の活躍の道筋を示し続けていきたいと思っています」と関口社長は語り、店頭に立つ城西大学薬学生を見守っていた。