キリンホールディングスが9月9日(火)に都内で、減塩サポート食器「エレキソルト」の新商品発表会を開催した。電気の力で減塩食品の塩味やうま味を増強する「エレキソルト」ブランドより新たに食器の「エレキソルト カップ」と進化したカトラリー「エレキソルト スプーン」を同日より公式オンラインショップで販売した。予防領域で高血圧対策、血管ケアが再注目される今、ヘルスサイエンス事業を強化するキリンHDの〝減塩〟施策に期待の目が寄せられている。(取材=編集長・中西陽治)
キリンHDのヘルスサイエンス事業における成長エンジンの一つ、新規事業開発として立ち上がった減塩サポート食器「エレキソルト」は、塩分摂取過多という社会課題と減塩食の味に対するニーズに、〝電気味覚〟という技術で応え、新しい食シーンを創出する。
電気味覚は、電気を流して味が変化する現象・味を変化させる手法を指す。
この技術はキリンと明治大学の宮下芳明教授との共同研究によって誕生。(参考記事:塩味を引き出すスプーン型デバイスを発売)微弱な電流で食品中の味成分の動きをコントロールし、塩味やうま味を増強させる電流波形のはたらきで、減塩食品の塩味を約1.5倍に増強させることができる。
キリンホールディングスのヘルスサイエンス事業は、グループ企業である「キリン」「FANCL」「BLACKMORES」の強みを掛け合わせ、アジアパシフィック最大級のヘルスサイエンスカンパニーになることを目指している。
健康課題へのアプローチとして「土台の健康づくり」(食事・運動・休息・免疫ケア)を支え、ヒトが元来持っている力を引き出した後に、生活習慣病予防や美容・心の健康といった「個別の健康課題」を効果的・効率的に解決に導いていく。その先に見据えるのはヘルスサイエンス事業で2035年に事業利益500億円という目標だ。
今年、キリンはグループ会社の協和発酵バイオが手掛けるアミノ酸とヒトミルクオリゴ糖の事業譲渡を行い収益性の改善を行った。その結果、ヘルスサイエンス事業は黒字化を果たし、10年で事業利益500億円達成に本格的なスタートを切った。
発表会に登壇したキリンホールディングス取締役執行役員で、ヘルスサイエンス事業部本部長を務める吉村透留氏は「キリングループでは5年後、10年後の未来の社会を見据え、将来につながる事業領域を先取りし、一人一人の生活者に新しい健康価値をお届けしていきたいと考えている。そのうえで、ヘルスサイエンス事業における新規事業はキリンを支える成長エンジンとなる。2035年には『エレキソルト』を含めた複数の新規事業を合わせて最大300億円の売上規模を目指していく」とヘルスサイエンス事業の目標を見据えている。
これら新規事業の成果は既存事業にも反映し、キリングループ全体でのシナジー効果を生み出していく。「事業を生み出す過程でのイノベーションをグループ内に波及させ、キリンが新たなチャレンジをするための先端的な役割を担っていく。そのイノベーションを象徴するのが『エレキソルト』である」と、キリンによるチャレンジの基軸となる新規事業に熱を込めた。
続いて新商品「エレキソルト カップ」とリニューアルした「エレキソルト スプーン」の発表が行われた。
「エレキソルト」ブランドの産みの親であるキリンホールディングスのヘルスサイエンス事業部新規事業グループの佐藤愛氏は「『エレキソルト』は〝おいしい食事のある人生をすべての人に〟を基本理念として、減塩食をよりおいしく楽しんでいただくことで健康的な食生活をサポートするために生まれました」と改めてコンセプトを語った。
塩分過多は高血圧や心疾患のリスクとして周知・浸透している一方、日本人をはじめとしたアジア圏の人々はWHOが目標とする食塩摂取量(5g/日)の約2倍を摂取していると言われている。
佐藤氏は「「『エレキソルト』が解決したいのは世界的な健康課題である、塩分の過剰摂取です。特に日本は比較的に塩気の強いものを好む食文化です。またキリンの調査では『減塩の重要性が分かっている』という理解はあるものの、『食べ慣れた食事をいきなり薄味にすると満足感や食欲の低下につながる』という結果が現れています」と塩分をとりまく現況を説明。
減塩が大切だということは解っているができるだけ濃い味で食べたい、というジレンマを生活者が抱えており、「『ラーメンなどの大好きなメニューを減塩で諦めたくない』。そんなお客様の声から生まれたのが『エレキソルト』です」と佐藤氏は、事業立ち上げのエピソードに触れ、「エレキソルト」ブランドの機能について解説を行った。
佐藤氏は「『エレキソルト』に搭載されている『電気味覚』技術により、食事の際に唾液に溶けて分散している味の成分〝塩味〟や〝うま味〟が舌の方に引き寄せられ、味が増強されたように感じられるようになるのです」とメカニズムを分かりやすく伝える。
そうして生まれた「エレキソルト」ブランドより、2024年5月に第一弾「エレキソルト プーン」(ES-S001) を発売。販売開始7カ月で予定台数の7倍を突破した。
併せて試食会などの体験機会を実施し、「スプーンで減塩」という新しい価値を現場に提供してきた。(参考記事:「エレキソルト スプーン」先行体験会【ハンズ】/減塩スプーンでラーメン一風堂と協働【レポート】)
その価値とアクションが響き、世界最大級のテクノロジー見本市CESで開催された「CES Innovation Awards2025」で「Digital Health部門」「Accessibility&AgeTech部門」の2冠を受賞。国内では「第12回技術経営・イノベーション大賞」の「選考委員特別賞」など3つの賞に輝くなど、技術商品として国内外から高い評価を受けている。
佐藤氏は「第一弾を発売し、お客様から『しっかりと塩味とうま味を感じられておいしい』『贈り物として喜んでもらえた』といった嬉しい声をいただきました。その一方で、『スプーン以外の形態が欲しい』『食洗器で洗えるようにしてほしい』といったご要望がありました。そこで生まれたのが『エレキソルト カップ』とブラッシュアップした『エレキソルト スプーン』なのです」と新商品を紹介した。
キリンの佐藤氏が新商品の開発にあたり、「お客様に使いやすい商品をお届けしたい」と模索する中で、出会ったのが美容機器メーカーのYAMAN(ヤーマン)だ。
「エレキソルト」は明治大学と共同開発した「電気味覚」技術を継承し、YAMANが培ってきた美容機器製造と通電技術の知見、機器開発のノウハウを応用し「キリン×明治大学×YAMAN」の力を結集して、新たに2つの商品を創り上げた。
発表会に臨席したヤーマンの開発本部開発企画部の小島英明氏は「ヤーマンが自社企画・設計で開発する製品数は年間20アイテムに上り、積み上げてきた開発によって380件の特許数、981件の知的財産数を有しています」とその開発力の高さを示す。
そして今回の『エレキソルト』には、これら機器開発で培ったヤーマンの技術が随所に用いられている。
新商品の「エレキソルト カップ」には、防水脱毛器や電動ヘッドスパなどに用いられている防水設計技術を応用し、食洗器での洗浄を可能とした。また、美容家電に求められるデザイン性と、直観的に使用方法を想起できるユーザービリティも付与している。
リニューアルされた「エレキソルト スプーン」(ES-S002)には、美容機器のメインユーザーである女性が手に取りやすい軽量コンパクトを追求した小型化設計技術を応用。また電気設計技術ではヤーマンが20年以上作り続けてきたイオン導入機器の設計を使用した。
小島氏は「ヤーマンでは、カトラリーなど直接味覚に影響する機器の分野は初めての挑戦となりますが、オーラルケア機器の開発で培った口腔内ケアのノウハウ、また繊細な肌に触れる美顔器や脱毛器に欠かせない安全性、毎日洗って使うための優れた防水性と堅牢性を発揮し、『エレキソルト』を進化に導いたと感じています」と語る。
ヤーマンは1978年に半導体の検査装置などを扱う精密機器メーカーとして創業し、日本初の体脂肪計やシリーズ累計400万台販売の美顔器など、家庭用/業務用の分野でユニークかつ革新的な商品を世に送り出し、美顔器カテゴリーで5年連続マーケットシェア№1を達成している。
今回のプロジェクトに参加した想いについて「ヤーマンでは『先端テクノロジーと常識を変えるアイデアで美しくなる夢や驚きをお届けしていきます』をスローガンにしています。この想いをプロジェクトに生かし、社会課題である〝減塩〟の解決に寄与していきたいと考えました」と小島氏は語った。
進化した「エレキソルト」体験をレポート
発表会では、集まったメディアに向け「エレキソルト カップ」を使った試食が行われた。カップには約1.5倍に薄められたミネストローネスープが注がれ、まずはそのまま試食、塩味を増強する3段階の微弱電流を調整して、持ち手の電極パネルに手を添えてスープの塩味を味わう時間が設けられた。
ここからは筆者の「エレキソルト カップ」体験を率直に伝える。
そのまま味わったスープはトマトの酸味が強く、塩味はほとんど感じられない。
だが強度1にスイッチを合わせると、口内に明確に味の広がりが起こった。強度1では塩味は少し感じる程度。しかし舌の奥にうま味が広がり、明らかに風味が引き立っている。最も塩味を感じられる強度3に合わせると〝いつものミネストローネの塩味〟が感じられた。先立っていたトマトの酸味が舌先の塩味と舌奥のうま味と合わさり、味わいが引き立つ。
微弱な電流は唇と舌先に少し感じるレベルだ。メカニズムの説明であったように「電気で塩味とうま味が舌に集まってくる」という感覚が理解できた。
以前、体験した第一号の「エレキソルト スプーン」は、口に運ぶ食べ方だったため、スプーンと舌を重ねる必要があり舌先の〝点〟で塩味を感じた。今回の「エレキソルト カップ」は唇に当てて口に注ぎ込むため、カップが唇から舌へと連結していく。そうすると微弱電流が舌先の〝線〟に流れ込むような形になり、塩味の広がりをより感じられられるようになった。これは驚きであり、明らかな進化だと感じられた。
減塩の課題では、塩分過多のリスクはわかっているものの、「減塩は我慢するもの」という理屈と感覚のジレンマが常にネックになっている。「ラーメンのスープを飲み干してはいけない/でも飲み干したい」という場面は誰もが直面したことがあるだろう。特に汁物・スープは飲み干すものとして作られており、現状は減塩の味噌汁や水で薄めるなどといった手段が最善だと考えられている。
しかし「エレキソルト カップ」はその観点の外、サイエンス技術を得た食器で減塩課題を解決に導いていくプロダクトだと感じた。
佐藤氏「減塩解決ニーズは汁物・スープにあり カップ開発に手ごたえ感じる」
佐藤氏は「『エレキソルト』を開発する際、スープを飲むためのお椀を実験で作っていましたが、お椀の持ち方の違いや熱い汁物を注いだ際の安全性の面がネックになっていました。〝減塩〟の最大のニーズは汁物にあり、ラーメンのスープやみそ汁などをしっかり味わいたい人が多いと思います。また実証実験でも管理栄養士の方から『ぜひ汁物を食べられる食器を』『野菜をしっかりとれるスープを食べられる方法を』という要望もありました。今回カップ形状をヤーマンさんとの開発で実現でき、とても手ごたえを感じています」と達成感を滲ませた。
発表会の結びに「『エレキソルト』では、日本人に欠かせないお箸の開発も行っています。また、ヘルスサイエンス事業が目指すアジアパシフィックの方々に向けた、現地各々の食文化に合わせたプロダクトを生みだしていき、世界の〝減塩〟にヘルスサイエンスで応えていきたいと思います」と佐藤氏は笑顔で語ってくれた。
「エレキソルト カップ」と「エレキソルト スプーン」(ES-S002)は9月9日(火)より公式オンラインストアで販売を開始。ホームセンターのハンズや家電量販店のビックカメラなどでの店頭販売も予定されている。
また、9月26~28日に開催される「GOOD LIFE フェア 2025」(場所:東京ビッグサイト)など展示会への出展や、減塩イベントへの参加も行っていく。