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【特別インタビュー】(一社)日本薬局協励会の佐野智会長に聞く

『迫り来る変化にどう対応するか〜高まるヘルスケアニーズへの取り組み』

「薬局の真価が問われている今、新しい来店客を増やし、そして若い世代をどう取り込んでいくかがキーワード・・・」

 カウンセリングと差別化商品を経営の武器として活躍する薬局の動向が注目されている。地域住民の健康創造をサポートし、“最大よりも最良の薬局”を目指す一般社団法人 (一社)日本薬局協励会(協励会)だ。地域に信頼される相談薬局グループとして1949年2月に創設されてから76年後の今、全国に3000あまりの会員を擁し進化を続け、薬機法改定により薬局の機能分化が進められる中、高まる地域住民の“未病と予防”ニーズへ“カウンセリング力”と“商品力”、そして“人財力”向上に全力を注いできた協励会に、変化が求められている。増え続く競合店や他業態からの医薬品小売業界への参入に、どう対応していくのか。「最前線改めて薬局の真価が問われている今、我々は、これまでも今もこれからも地域住民の健康創造薬局としてさらに研鑽に励み、新しい来店客を増やし、そして若い世代をどう取り込んでいくかがキーワード・・・」と語る協励会の佐野 智会長に『迫り来る変化にどう対応するか〜高まるヘルスケアニーズへの取り組み』を聞いた。(流通ジャーナリスト・山本武道)

全国大会でテーマに掲げた『変化〜高めよう協励精神』の意味

 

日本薬局協励会の佐野 智会長

 ――  6万6000店が地域住民の健康創造に取り組む医薬品小売業界が、変化を求められるようになりました。協励会は、創設76年目という歴史の中で、全国大会では、『変化〜高めよう協励精神』を掲げましたが・・・。

 佐野会長:テーマとして『変化』を打ち出しましたが、私が一番大事にしているのは『変化』という言葉そのものではなく、『高めよう協励精神』です。変化が求められているからこそ、今改めて『協励精神』を正しく理解すること。そして協励薬局が、時代のニーズに合わせて変わっていかねばならないことであり、協励会という組織を変えていこうという変化ではありません。

 高齢社会の到来に伴い国民の健康寿命延伸ニーズ、ヘルスケアニーズにどう対応していかねばならないか。そのためにも、国民また地域の方々に望まれ、これまで以上に期待される薬局へ変化をしていかなければいけないということで大会のテーマにしました。

400名余りが参加した全国大会

見てきたアメリカのドラッグストアの急激な変化

 ――  日本の医薬品小売業界、特にドラッグストア業界では、お手本としてアメリカ流通業の中でもドラッグストアを視察してきましたが、昨年からその動向が話題になっていますが・・・。


 佐野会長:30年前のアメリカでは、経営の武器としての処方箋の争奪戦を繰り広げてきました。店の1番奥に調剤室を設置して処方箋を持参したお客様が、調剤を待つ間にOTC薬、サプリメント、生鮮食品など、いろいろな商品を取り揃えることによって店内を一周し買い物をし、20分ほどしてから処方箋が出来上がり受け取る仕組みでした。
 30年前のアメリカのドラッグストアは、こうしたやり方で集客し店舗規模を拡大してきましたが、それが15年前になると実はもう処方箋の価格競争に入って、「当店に処方箋を持参すれば1か月分で15ドルですよ」「私のところは12ドルでやります」と、いわゆるジェネリック医薬品は値段の競争に突入してしまいました。
 値段の競争をして集めたお客様を、今度は生鮮食品などを取り揃え、様々な商品を買ってもらうことによって、スーパーとしての利益、ウォルマートもそうですが、結局は処方箋の値引きにより利益が少なくなった分、違うもので利益を上げようになったというわけです。

 つい最近、アメリカへ研修に行ってまいりました。ドラッグストアでは、凋落の状況が目に飛び込んできましたが、その傍らどのようなことが成長しているかも見ました。それは、オムニチャネルの小売業が急成長していたことです。お客様とのあらゆる接点を統合的に連携させ最適な購買を、どのように提供していくかチャレンジしていました。そして小売業が激しい競争下にあるなか、テクニシャンや薬剤師の高齢化が気になりましたが、オンラインを用いた処方薬の郵送システムが拡大していました。

 かつて隆盛を誇ったドラッグストアの姿は消失してしまい、調剤室には人はまばらで、店頭で調剤後の服薬指導をするスタッフが少ないのも印象的でした。今や患者さんが処方箋を持参する先はドラッグストアの調剤室ではなく、スーパーマーケットの調剤室へ流れていました。

 「こんな状態でドラッグストアの経営は大丈夫なのかな?」と思い、地元のコーディネイターに聞いたところ、SM以外に処方箋はオンライン、リフィル処方箋ですね。そしてコーディネーター曰く、「アメリカに住んでいて自分が飲む薬は、かかりつけ医に診察をしてもらい、その医師から自医院が提携している薬局に処方箋の情報がいく。そしてその薬局から患者さんに連絡があって、あとは患者さん自身か家族が処方薬を取りに行くか、もしくは自宅に郵送で送られる。
 しかもリフィル処方箋を飲み終える少し前になると、薬局から連絡が来て、「どうですか? 体調は?」と聞かれ、変わりがなければ、また同じ処方の薬が3日ぐらいで送られてくるなど、処方箋ビジネスの流れは急速に変化しています。アメリカのドラッグストア業界で実際に起こっていますが、我が国では、これまでの厚生労働省の動きから考えたら、コロナ禍もありましたが、オンライン診療、オンライン処方箋、そしてリフィル処方箋への積極的な取り組みになっていく可能性はあるのではないかとは思いました。

培ったノウハウを活かし新しいことにチャレンジを!

 ―― では協励薬局は、一体どのような形で、この変化にどう対応していかなければならないかですが・・・。

 佐野会長:時代が大きく変化する中で、薬局が取り組んでいかねばならない1番大きなことは、今後何が必要で何が不必要なのかということをしっかりと見極めなければならないことです。むろん変化は、今まで実践してきたことをやめてしまうことではありませんが、しかし新しいことに取り組む必要はあります。ただ新しいことへの挑戦は、ものすごく怖いけれども、新しいことにチャレンジしなければ薬局の発展はありません。これまで培ったノウハウを活かし、国や日本薬剤師会と手を携え、いかに地域住民から信頼されるかです。
 私は今が、その判断をする時期にきたのではないかと思っていることであり、二つ目は、新規の会員薬局、仲間、そして自店の来店客をどのようにして増やしていくか考えなければならない時期にきています。このことはドラッグストアや調剤薬局チェーンも同様でしょうが、いかに「また来店してもらえる店づくり」を早急にしなければならないことに尽きます。

全国大会で挨拶する佐野会長

 今後、ドラッグストアや調剤薬局チェーンの融合はあり得るでしょうが、これからは決して同質経営とならずに、どう他店と差別化した店づくりをしなければならないかが協励薬局がめざすことではあります。これからの時代、仲間同士が力を合わせて、お互いに情報を共有するだけではなくて、知識や技量の習得も、売り方も接客法についても、さらに研鑽を積んでいかなければならない時代が到来しています。

 そして新規のお客様を一人でも多く増やしていく努力をすること。処方箋ビジネスについても今までのように、処方箋が来るのを待つ受身ではなく、能動的に自分から積極的に地域住民に接し、患者さんが「この薬剤師さんならば安心して処方箋を持参したい」と思っていただけるような店づくりが不可欠になりました。

 協励薬局は、これからも日々研鑽し、高まる地域住民の“未病と予防”ニーズに伴い、他店との差別化へのヘルスケア関連商品を提供し、地域住民のための“健康ステーション”を目指していく。処方箋も物販も、受動型から能動型になること。これが我が協励薬局が歩むべき道なのですね。競合の波は、これからも次々と押し寄せてくるからこそ、今やらなければならないことは、地域住民に信頼され愛される店づくり〜また行きたくなる店を、どんどん増やしていくことです。

 これまでのことを踏まえ、重複になりますが、協励薬局は今実践する業務や取り組みが将来に向けて必要か不必要か判断し、これからはお客様を増やすためには、どうするか。特に若いお客様の層をどう取り込んでいくか。ここが最も大事です。今後進んでいくオンラインも含めて処方箋を持参したお客様の相談に、しっかりと対応することによって、必ず明るい時代が見えてくるでしょう。自身の目標を達成するために、1番大事な真の武器をどのようにして強くしていくかです。

 変化―この言葉は、やはり変えなきゃいけないところはちゃんと時代に合わせて変えていく。これからも必要な変化に取り組み、次の時代、そのまた先の時代へ、今が良ければ良いということではなく、次世代が、「協励会という組織に入っていて良かった」といってもらえるような形を作っていくのも、会長としての私の使命です。小田会長から会長のバトンを受け継いでから3年。さらに次の世代にバトンを渡すまで、会長として協励会、そして医薬品小売業が、地域住民から愛され信頼され続けていくことも、大切な仕事と思っています。

<記者の眼>
地域に根差した相談薬局を目指す協励会は何よりもお客様のために・・・
 協励会との出会いは1970年、今年でちょうど55年になる。1949年に誕生した協励会の初代会長は佐々浪正典さん(佐々浪ファーマシー)。交流を始めてから13年後の1983年9月に、『我が薬業人生』の連載(薬局新聞社)の了解をいただき、東京と京都を何度も往復して毎週1回、35回続いた。
 佐野現会長(薬局白十字)は、佐々浪さん、2代目の白木太一郎さん(薬局白十字)、3代目の前納秀夫さん(マエノ薬局)、4代目の小田美良(小田薬局)さんに次いで5代目。協励会がデビューした翌年から始まった全国大会は、昨年で75回目。メインの特別講演は、前立線がんを患った西川きよしさんに医師の受診を勧めた夫人のヘレンさんが登壇した。
 76回目の今年は6月21・22の両日に行われ、会員薬局による『地域から求められる薬局づくり〜地域医療に目を向けた薬局』、販売ノウハウを公開する人気番組の混協(混合協励会)は『私が気になる新商品』、特別講師として招かれた地域商店コンサルタントの山田文美さん(株式会社ごえん)が、自店のフアン化の秘密を公開した『フアン化で売上げが変わる〜なぜあの店は顧客が離れないか』は、時宜にあったテーマだけに400名余りの会員薬局が出席、耳を傾けた【右写真】。
 特別講演の演者は、公益社団法人 井村アーティスティックスイミングクラブ代表理事の井村雅代さん(アーティスティックスイミング 元日本代表ヘッドコーチ)。時には厳しく接し悩みを聞き数多くのオリンピック選手を育てた井村さんならではの話は、店頭で日々来店する多くの相談客に接する会員薬局にとって有意義な内容だった。
 佐野会長は、「協励会では、共に国民の健康創造をサポートする新しい薬局の参加を求めています。入会のメリットの第一は、何でも話し合える仲間が大勢できること、第二は業界の情報がいち早く正確に入手できること、第三は特色ある選定品(専売品)の研究・研修により販売ができることです。何よりもお客様のために、協励会で地域に根差した相談薬局を目指しましょう」と語っていた。