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地域創生医 桐村里紗のプラネタリーヘルス 第33回/令和の米騒動から未来へのアクションへ〜田んぼDAO

令和の米騒動で、米離れが進んでいた日本人が、急に主食である米と向き合うことになりました。

「米が高い!もっと下げなければ!」と消費者目線で語られがちな米価ですが、米農家さんの現状を考えるとまだまだ安すぎるのが現状です。深刻なのは、稲作を支える農家さんたちの暮らしです。

農林水産省の統計によると、令和3〜4年における米農家の平均農業所得は、なんと年間1万円程度。このままでは、私たちの主食であるお米が、未来から消えてしまうかもしれません。令和4年産の米価が13,920円/玄米60kgであったのに対し、令和6年産米の相対取引価格は24,000円台から27,000円台と2倍近く上がっていますが、それでも米農家が苦境に立たされていることには変わりありません。

緻密な管理が必要なきつい仕事である上に、畑作に比べて利益が少ないこともあり、米農家になろうという若手が全国的に少なく、日本の稲作は、存亡の危機です。

米を少なくおかずを多くという食生活に変わってきたことなどから、戦後から米の消費は半分に減っています。
「糖質制限してるから元々お米はあまり食べない」という声も多い今日この頃ですが、お米は本当に悪者なのでしょうか?

うるち米に含まれるでんぷんのアミロースは腸内環境を整える“レジスタントスターチ”として働き、善玉菌を増やしてくれることがわかっています。さらに、米のタンパク質には、血糖値を安定させるホルモン「GLP-1」の分泌を促す作用もあり、むしろ血糖値の調整に良い影響を与えるという研究もあります(※)。

※「食と医療」vol.2,summer-fall,32-39,2017


食料自給率で言えば、パンや麺類に使われる小麦の自給率は、わずか15%ほど。ほとんどを海外に頼っており、大規模生産による土壌侵食やかんがいによる塩害といった環境問題もあります。さらに、品種改良された現代小麦に含まれるグルテンには、中毒性や腸への炎症リスクも指摘されています。

一方で、米の自給率はほぼ100%。しかも田んぼには、食料を育てるだけではない、多様な機能が備わっています。地下水を蓄えて洪水を防ぎ、生物多様性を育み、水蒸気が夏の気温を下げ、美しい里山の景観や文化も守ってくれます。世界的な戦争の影響で、小麦価格が高騰していたことも耳に新しいと思いますが、食料安全保障の観点からも自給率の高い米を守ることは重要です。このまま米農家さんが減り、田んぼが維持できなくなり、耕作放棄地となれば、こうした恩恵もまた失われてしまうのです。


この“お米の危機”を乗り越える策として、2025年5月、私たちは、鳥取県江府町で「田んぼDAO(ダオ)」という実証実験を始めました。DAOとは「自律分散型組織」のことです。地元の米農家さんの協力により、専門知識を持った医師、看護師、大学院生、起業家など20名が参加し、自分たちで田植えや稲刈りに関わりながら、自然資本としての田んぼからの「自然総生産(GNP:Gross Natural Product)」を最大化するのはどうするか!?を共に考え、田んぼの価値を最大化する試みです。
同時に、収穫される予定の米を事前に購入し、支える仕組みです。

農家さんにとっては、出荷前に販売が確定することで収入が安定し、参加者にとっては、顔の見える安心なお米を確保できるというメリットがあります。そして何より、田んぼの価値を「お米の価格」だけでなく、未利用資源としての籾殻の活用、田んぼ作業によるウェルビーイング、地域とのつながりといった新たな価値を創造していくことが、大きな特長です。地方創生2.0の柱となるプロジェクトに育てたいと思っています。


参加者は、貢献によって「nichtone(ニッヒテーネ)」というトークンを受け取ります。これは、将来的に“地球貢献通貨”として機能させていく予定で、参加実績はNFTという形で記録され、プラネタリーヘルスの基盤となる、個人や企業の“信頼”となる新しい信用経済圏の構築を目指しています。

実際にこのプロジェクトをきっかけに、30代の農業経験豊富な看護師さんが江府町へ農業移住を決めてくれました。一人の移住をきっかけに、さらに地域が活性化していきそうです。

令和の米騒動を「食べられない危機」ではなく、
「未来のためのアクション」に変えていく。

小さな一歩かもしれませんが、プラネタリーヘルス実現の新しい挑戦として、さらに盛り上げていきたいと思います。