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地域創生医 桐村里紗のプラネタリーヘルス 第26回〜AIの進化と子供のフレイル


AI(人工知能)の活用が一般化してきました。

画像生成や動画生成、議事録のまとめに、プレゼンスライドの作成など、ビジネスシーンにおいても活用されている方は多いのではないでしょうか。

2024年のBtoB企業におけるChat GPT活用に関するアンケート(株式会社ワンズマインド調査)によると、「知っている」94.0%と認知度は非常に高く、「利用したことがある」79.8%で、そのうちは、「利用中」68.1%と約7割が活用していることが明らかになっています。

すでに、2023年の時点で、日本の医師国家試験合格水準のAIが登場しており、記憶力や論理的思考はすでに人間のレベルに達している部分があります。

そして、2027年には、人間と同様の知能を持つ汎用人工知能AGIが登場し、その先には人間の知能よりも優れた人工超自我ASIの登場が予告されています。

汎用人工知能AGIとは、マルチタスクによる情報処理が可能になり、想定外の状況でも自ら学習し、自らの能力を応用して処理することができる人間のように汎用的な知能を持つAIのことを言います。

さらに、それを上回るのが人工超自我ASIで、人間の能力を遥かに超え、シンギュラリティ※が起こることが指摘されています。人工超自我ASIは、あらゆるタスクや問題において人間よりも優れた能力を持ち、自己学習や自己進化により知能や能力を向上させ、人間には解決困難、もしくは不可能な解決策を見出すことができるとされています。

※シンギュラリティ(Singularity)=「技術的特異点」、自律的な人工知能(AI)が人間の知能を超える転換点、またはその変化を指す概念のこと

映画「ウォーリー」を観たことがあるでしょうか。

西暦2805年、環境汚染し尽くした地球を捨てて、世代宇宙船で生活する人類は、全員が肥満。すべてを機械やロボットに任せて、サポートロボットから全介護状態。自力で立ち上がることもままならず、人間らしさも意欲、活力も失っている。そんな風刺的な映画です。


昨今、子どもたちにも「フレイル」と言えるような衰えが見られるようになったことから、あながちありえない未来ではないと感じるようになりました。

モバイル社会研究所の調査で、2023年、小学生高学年のスマホ所有率は初めて4割を超え、小学校6年生では半数を超えることが明らかになっています。

スマホやタブレットなどの使用の増加は、子供の身体性にも影響を与えており、スポーツ庁の調査によると、平成30年をピークに子供の体力は低下傾向で、特に自粛期間が長く運動機会が激減したコロナ禍に低下の一途を辿り、コロナ明けにやや回復が見られたもののコロナ前の令和1年の水準にはまだ戻っていないことが報告されています。小学生男女、中学生男女共に、学習以外のスクリーンタイムが長時間になると、体力合計点が低下する傾向がみられていますが、令和5年度の調査でもスクリーンタイムは増加傾向でした。

令和5年度 全国体力・運動能力、運動習慣等調査の結果(令和5年12月スポーツ庁調査)

私が暮らす鳥取県でも、子ども達は、川や山、海で遊ぶ代わりに、ゲームや動画を観るのが一般的になっています。都会ならまだしも、地方でもこの現状。実は、地方の方が、過疎が進み、少子化の影響から子ども同士で遊ぶ機会を作りにくいという現実があります。

今、小学校では、手を真っすぐ挙げる、朝礼で起立を続ける、しゃがむなどの当たり前の動作ができない子が増えていると言います。

成人から高齢者にかけて、要介護状態に向かっていく心身の衰え「フレイル」が問題になっていますが、現代は、子供の頃から「フレイル」といえる状態が増えています。

子供達の心身が飛躍的に成長する10歳から12歳までの時期を「ゴールデンエイジ期」と言い、この時期に活発に身体を使うことがとても重要です。

飛んだり跳ねたり走ったりする運動能力や筋力だけでなく、脳神経や末梢神経のネットワークが構築されていきます。バランス感覚や反射神経などを培うことができる時期ですから、自然体験や外遊びが必須です。

自然の中では、五感をフル活用して環境からの情報を入力するため、様々な体験の中から感性が養われます。

それは、決してAIには真似することができない豊かな創造性に繋がります。

シンギュラリティを恐れる前に、私たちは、自然の中で本来の人間性を回復することがまず先ではないでしょうか。

ぜひ、今年は、自然にたくさん触れる一年にして下さいね。

プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)

地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員
日本ヘルスケア協会・プラネタリーヘルス・イニシアティブ(PHI)代表

予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。

(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は2月初旬に掲載予定です)