日本感染症学会と日本化学療法学会は10月17日(木)~19日(土)にかけ、東京ドームホテルで「第73回日本感染症学会 東日本地方会学術集会」「第71回日本化学療法学会 東日本支部総会」の合同学会を開催した。会期中のセッションでは、市販されている乳酸菌サプリメントおよびドリンクを用いた免疫活性化について東北医科薬科大学大学院の田村友梨奈氏による「各種乳酸菌サプリメントによるplasmacytoid dendritic cellの活性評価」が公開され、感染症に関わる免疫調節と乳酸菌の関連性についての考察が行われた。(取材=中西陽治)
学会は「個とチームのステップアップ~仁をもって不断前身する~」をテーマに、感染症・化学療法についての基礎研究や臨床的研究、情報発信さらに学際的な企画などが繰り広げられた。開催に当たり学会は「COVID-19の影響は無視できないものであり、患者の罹患後症状だけでなく、大規模な感染の余波は、私たちが知っていた感染症の様相を変えた。その一方で新しい知識や技術、薬剤としくみが驚くほど短期間でもたらされた。そのため感染症・化学療法を学ぶわれわれは迅速かつ柔軟な対応が日々求められている」と学術集会の意義が社会的にも重要視されていることを示している。
学会では感染症対策のための医療的(治療、創薬)なアプローチは当然ながら、衛生環境の保全や感染免疫といった予防領域の研究も多く披露された。
2日目の10月18日(金)のセッションでは「感染免疫」の基礎研究発表が開かれ、田村友梨奈氏(東北医科薬科大学大学院薬学研究科臨床感染症学教室)による「各種乳酸菌サプリメントによるplasmacytoid dendritic cellの活性評価」について報告が行われた。
昨今のインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの流行により、一般市民の中においても予防のための免疫力向上への取り組みが活発化している。その中で免疫ケアのひとつとして、免疫の司令塔と言われるプラズマサイドイド樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell:以下pDC)に働きかける乳酸菌が注目されている。
pDCにはToll様受容体(TLR)-7,9が高発現し、取り込んだ微生物由来の遺伝物質を認識する。その後、Ⅰ型インターフェロン(IFN-α/β)を産生し、抗ウイルス作用および免疫細胞を活性化することが報告されている。
またTLR非依存的にpDCを活性化し、抗原提示によりナイーブT細胞を活性化する。
これらのことからpDCは自然免疫系、獲得免疫系を活性化することが期待されており、今回、市販製品に含まれる乳酸菌によるpDCの活性化をIFN-α産生量により評価する試験を行った。
試験方法は、対象製品として、死菌を含むサプリメント5製品(下図参照)を懸濁し、各製品の乳酸菌1日摂取量および乳酸菌1000億個相当に調整。
また生菌を含むドリンク3製品およびサプリメント1製品(下図参照)を培養。培養後に発育したコロニーを乳酸菌1000億個相当に調整した。
これら死菌・生菌を含む計9製品の乳酸菌サンプルを用いてpDC誘導と活性評価を行った。
pDC誘導では、マウス骨髄細胞液を懸濁し7日間培養したpDC含有細胞液を精製。
次にpDC含有細胞液に乳酸菌サンプルを添加し、回収したIFN-αの産生量の活性評価を行った。
その結果、死菌群の各製品の1日摂取量、乳酸菌1000億個相当の条件下において①Lactococcus lactis strain PlasmaのみがIFN-α産生量が優位に増加し、その他の死菌群では増加は見られなかった。
また、生菌群におけるIFN-α産生量ではいずれも増加は見られなかった。
この試験結果に基づき田村氏は「乳酸菌の死菌を含む各製品の1日摂取量と1000億個相当の乳酸菌を用いた試験において、pDCのIFN-α産生が確認されたのはLactococcus lactis strain Plasmaを主成分とする製品1種類のみであった」と結論付けた。また、生菌群では全ての製品から発育した乳酸菌でIFN-α産生を示さなかったことから「今回は菌種の同定を行わなかったため、各製品からpDC活性を促す乳酸菌を単離できていなかった可能性がある。そのため今後は培養後に発育した菌の解析を行い、目的の乳酸菌を単離したうえで再検討する」と考察を締めくくった。