ヘルスケア情報サイト「Hoitto! ヘルスケアビジネス」(ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

環境洗浄での活用に期待~バイオサーファクタント「ソホロ」の研究成果発表/サラヤ

日本生物工学会大会で発表する熊野氏(9月8日、東京工業大学大岡山キャンパスにて)

教科書で習った足尾銅山鉱毒事件から100年以上が経つ今も、土壌汚染問題は健康や生活環境を脅かす脅威として各地に存在する。その解決方法として近年、バイオサーファクタントと呼ばれる微生物が産生する界面活性剤の活用が注目され研究が進んでいる。先ごろサラヤ(更家悠介社長)は日本生物工学会大会で、「バイオサーファクタント〝ソホロリピッド〟の水生生物毒性及び界面活性」と題して発表をおこなった。その発表で、同社が生産に成功したバイオサーファクタント「ソホロリピッド」について、「環境洗浄剤としての活用が期待される」と結論づけている。(取材と文=八島 充)

バイオサーファクタントとは、細菌や酵母などの微生物から発酵技術で生産する界面活性剤のこと。主に洗剤に使われる界面活性剤は石油系原料を加工した合成界面活性剤が多く、環境にも相応の負荷がある。バイオサーファクタントは生分解性が高いのが特徴で、環境にやさしい界面活性剤として、洗剤のほか保湿剤などに用いられるようになった。

サラヤが「ソホロ」製品に冠するロゴマーク

社会課題の解決を事業のミッションに掲げるサラヤは、このバイオサーファクタントにいち早く着目。糖と油を酵母で発酵させる独自技術でバイオサーファクタント「ソホロリピッド」(以下「ソホロ」)の大量生産に成功し、2001年に日本初の環境配慮型洗剤として製品化した。現在では洗剤のほか医療器具洗浄剤や細胞凍結保存液までと活用の幅を広げている。

日本生物工学会は大阪醸造学会を前身とする創設100年超の歴史ある学会。毎年秋に年次大会を開いており、今回(第76回)は9月8-10日の3日間、東京工業大学大岡山キャンパス(目黒区大岡山)で催された。サラヤは同大会に複数回参加しており、2017年の第69回大会では、ソホロの細胞凍結保存液としての利用可能性について発表しているという

そして今回、サラヤ総合研究所バイオケミカル研究所スキンケアグループの熊野亘係長が、「バイオサーファクタント〝ソホロリピッド〟の水生生物毒性及び界面活性」の演題で発表をおこなった。長く続けてきたソホロの研究をベースに、今回は「環境洗浄」を焦点とした研究成果を発表した。ソホロが他の界面活性剤と比較して毒性が低く生態系への影響も低いことを示し、「環境洗浄剤としての活用が期待される」と結論づけている。

「環境洗浄でお役に立ちたい」と言う熊野氏

発表後の囲み取材で熊野係長は、「ソホロをバイオレメディエーション※という分野で活用できないかを研究してきた。例えば工場やガソリンスタンドの跡地の浄化に貢献できればと考えている」という。

なお同社には、先の原発事故で生じた汚染地の洗浄剤としてソホロが採用された実績もある。将来的にはバイオレメディエーションを推進するゼネコンほかの事業者に向けて、同社の取り組みをPRしていく方針である。

同社の広報担当は、「健康で安全に暮らしを守るために、環境負荷が少ない私たちの提案を選択肢の1つとして考えていただきたい」と語っていた。故郷が福島の筆者にとり「汚染土」という単語はひとかたならぬ意味を持つ。「社会課題の解決」を創業来のミッションとしてきたサラヤの新たな事業領域に期待したい。

※バイオレメディエーションとは…
細菌など微生物の自然分解能力を利用して、環境汚染を浄化、無害化する技術。土壌や地下水汚染の浄化や修復分野で有効とされ、日本でも研究が進んでいる。