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特別インタビュー/創立75年を迎えた日本薬局協励会/佐野智会長に聞く協励会の今

特別インタビュー
創立75年を迎えた日本薬局協励会
佐野智会長に聞く協励会の今
「静」から「動」にスイッチを切り替えた2年間
地域の健康相談への誠実な対応で信頼を勝ち得た



今年で創立75年を迎えた日本薬局協励会。同会をトップとしてリードするのは5代目会長の佐野智氏だ。創立75年後の今、3,000人を超える会員が、75年間脈々と受け継がれてきた協励の精神を大切に、地域密着の薬局経営と日々の研鑽に注力する。今回、就任から2年が経過した佐野会長に直近の同会について振り返り、未来を展望していただいた。(取材・記事=佐藤健太)


6月8日・9日に開催される全国大会については以下の記事をご参照ください。
https://hoitto-hc.com/12639


――会長就任から2年が経過しました。振り返っていかがでしょうか。


佐野会長 日本薬局協励会は75年の歴史を持ち、初代の佐々浪正典会長、2代目の白木太一郎会長、3代目の前納秀夫会長、4代目の小田美良会長、そして5代目が私となります。会長就任から2年が経過しましたが、歴代会長を中心とした協励会の先輩たちが、何を学び、そして何をしようとしてきたのか、過去を振り返って、学び直し、これまでの75年間をしっかりと引き継ぐベースを醸成した2年間だったように思います。

初代会長は組織を作り上げ、2代目・3代目・4代目の会長は、時流を読み、その時々に合わせた形で組織を発展させてきました。私が合同支部長のときの会長が白木会長、常任理事のときは前納会長、副会長のときは小田会長という形で、それぞれの会長と共に執行部を動かしたこともありますので、それぞれ会長から引き継がねばならない部分は自分なりに理解してきました。

現在は会長として協励会を引っ張っていく立場となり、下支えしてきたこれまでとは随分違うポジションだと実感しています。とても嬉しいことに、会員の先生方の協力体制によって、この2年間は充実した時間を過ごすことができたと感じていますし、協励会にとっても一定の成果物を導き出すことができたと思います。


日本薬局協励会 佐野智 会長


――会長に就任した頃は、新型コロナウイルス(以下:新型コロナ)が流行し、世の中に大きな変化が生まれたタイミングでもありました。


佐野会長 確かにこの2年間、私たち町の薬局の取り巻く環境が劇的に変化しました。特に医療DXや新型コロナという問題がある中での会長交代でもありました。やはりコロナ禍の中では、世の中全体がストップし、そこを「静」から「動」に変えていかなければならないタイミングでした。

例えばZoomなどのツールを使うことによって、時間的もコスト的にも効率化できたなど良いこともたくさんあったと思いますが、同時に失ったものもあるように感じます。特に、人と人との触れ合いや繋がりが希薄になりましたし、利便性に偏り過ぎたことによって、「電車に乗って会議に行くことが億劫になった」と感じる方々も多くいました。「静」から「動」の変換点において、「動」にスイッチを切り替えていく仕事が、この2年間で取り組んだ中では大変だったと振り返っています。

新型コロナのパンデミックの中で、地域の方々から最も相談を受けた組織が協励薬局だと思っています。「消毒の仕方はどうしたらいいの?」「換気はどうしたらいいの?」「感染したらどうしたらいいの?」「家族の中に感染者がいるのだけど、どのように生活をすればいいの?」など、新型コロナに関する相談がありました。未知なるウイルスと向かい合う中、不安を抱えながらでしたが、1つ1つ誠実に対応してきたのが協励薬局であり、これによって患者さま・お客さまとより深い信頼・信用を育めた2年間だったと感じます。

新型コロナはひと段落しましたが、そこに今度は「医療DX」という問題が出てきました。そして現在、町の薬局は2つに分かれようとしています。「医療DXについていくのが大変だから廃業しよう」もしくは「処方箋から撤退しよう」という薬局と、「しっかりと対応し、勝ち残りを目指す」と前向きな薬局のどちらかです。私たち協励会は、「グループ会」という最小単位の仲間がおり、できる人ができない人を助けながら、この「医療DX」という大きな波を乗り越えていこうとする潮流が生まれています。この仲間と助け合う心が、何よりも協励会の強みであると位置付けています。


――これまでも協励会は「セルフメディケーション」に注力してきました。


佐野会長 私は、協励会が主軸に置かなければならないのが「セルフメディケーション」だと認識しており、その「セルフメディケーション」を進めていくためには、地域の方々からの信頼・信用が最も大切だと思います。そのために、介護事業や在宅医療、そしてまた調剤事業が必要ですし、この全体のバランスを取ることが非常に大切。「医療DX」に対応し、時代の流れについていくということも、その一環であると捉えています。

今回の調剤報酬改定では、地域支援体制加算の算定要件でOTC医薬品の48薬効群の取り扱いが必要となりました。協励会はこの48薬効群を全て提供することができます。外部から取るのではなく、協励会を通じて一個単位から発注できる環境を整備しています。ただ、OTC医薬品は置くことが大事なのではありません。患者さま・お客さまからの相談を聞きながら、しっかりと販売していくことが重要なのです。「セルフメディケーション」の目的は、一人ひとりの国民が、ご自身の健康をご自身で守った上で実現する社会保障医療費の削減であり、これに大いに寄与できるのが協励薬局だと考えています。


――多くの薬局が世代交代という問題に直面しています。


佐野会長 現在、多くの薬局が次世代の経営者へとバトンを託しています。世代交代は、約25年をサイクルに変化していく傾向にあります。先ほども申し上げましたが、協励会は75周年を迎えましたので、ちょうど世代交代のタイミングにあります。陸上競技のリレーで表現するとテイクオーバーゾーン(バトンを受け渡すことができる範囲)であり、この間が非常に大切だと思っています。

世代交代には「これまで脈々と続けてきた精神や姿勢を次世代に正しくバトンを渡す」、そして「時代背景に合わせて変化しながらバトンを渡す」という難しさがあります。協励会は2年に1回「青年全国大会」を開催しています。今年2月は名古屋市で開催し、将来の協励会を引っ張っていく若い仲間たち200人が集まりました。「どんな思いで協励薬局を営んでいくのか」「地域に必要とされるには、どんな考えが必要なのか」など、チャート式で記入していく講義があったのですが、その回答を目にすると、これまで協励薬局が先代・先々代から脈々と受け継いできた精神をきちんと受け止められていることが伝わってきました。

この若い人材たちを正しい道に導いた上で世代交代に向かっていくことが大切だと感じます。その姿を見て、同じくらいの年代の人たちが「協励会に入りたい」という形での会員増加にも期待していますし、時代が激しく変化すればするほど不安を持ってしまいがちになります。これを仲間で一緒に解消していく、これが協励会の強みでもあります。


――若手の方々に期待したいところは。


佐野会長 やはり第一に挙げられるのが行動力です。「医療DX」ではコンピュータについての知識や、電子薬歴、オンライン診療など…、正直、65歳を超える世代が対応するのはなかなか難しいと思います。しかし若い世代は、パソコンやスマートフォンの取り扱いに長けており、「今まで協励の心を教えてもらうのは先輩からだったけど、『医療DX』については、先輩たちに教えることができる」と考える若手が生まれています。世代間を超えた情報共有と支え合いが、今後さらに協励会を発展させていくために不可欠だと考えています。

また、若い世代には「家庭を大切に、仲間を大切に」という優しい心を持っている人が今まで以上に多くおり、非常に良い傾向にあると思います。地域密着型でお客さまと接し、対面できちんと伝えたいことを伝えて健康に寄与する上では、優しい心は不可欠ですし、信頼を作り上げる欠かせない要素となります。協励会の組織も若返ろうとしていますので、会長としてもどんどん推進していきたいと思います。

今回も4月に医療・介護・福祉のトリプル改定がありました。正直に話しますが、地域支援体制加算の7点の減点は、やはり薬局経営にとって辛いと思っています。しかし、協励薬局はそれ以外のところで、点数を上乗せして取れるものが逆に増えた部分もあります。介護関係に触手を伸ばしている地域密着型の協励薬局は多いですし、OTC医薬品の48薬効群も取り扱うだけではなく、しっかりと相談応需・推奨販売にも取り組んでいます。7点減を埋める以上のノウハウを持ち、対応できるのが協励薬局でもあります。

こうした協励薬局の様子を見ながら、厚生労働省も点数の加点率を上げていく可能性もあると思いますし、やはり分業率が80%にもなりますと、処方箋を応需する利益ではなく、その先にどのようなサービスを創造していくかが重要となります。協励会の先生方は、日々研鑽しながら「患者さまに何を提供すれば、より健康に寄与できるか?」を考え、お互いに情報共有し、共に今後のビジネスを創造していこうとしています。この絆が協励会の何よりの強みだと思います。


――ありがとうございました。


6月8日・9日に開催される全国大会については以下の記事をご参照ください。
https://hoitto-hc.com/12639