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障害者への「合理的配慮」必須に! 
さつき、障害者用トイレで新提案

まだご存知ない方もいるだろうが、この春に改正障害者差別解消法が施行され、障害者への「合理的配慮の提供」が義務付けられた。今後全ての事業者は、ソフト・ハードの両面で障害者を支える必要があるが、ハード面の最初の課題として、障害者用トイレの設置が挙げられる。オストメイト配慮型のトイレを販売するさつき(祖父江洋二郎社長)は先頃、新たに温水シャワーの機能を付加した新製品を発売した。改正法の施行を受けてバリアフリー化の流れが加速する中で、当該製品は設備投資の選択肢の1つになると考えられる。(取材と文=八島 充)

内閣府が公開したリーフレット(クリックでDLできます)

今年4月1日、障害者差別解消法改正法が施行され、事業者による障害者への「合理的配慮の提供」が義務化された。

今後すべての事業者は、正当な理由なく障害者に対する不当な(差別的な)扱いが禁止され、申し出があった場合は、障害者でない者と同等の機会を提供する必要がある。

同法における障害者は、障害者手帳を持っている人だけではなく、日常生活、社会生活に相当な制限を受けている全ての人が対象となる。

例えば車椅子利用者が施設の使用を申し出た際は、車椅子スペースの確保や、着席・立席の介助が必要になる。「前例がない」あるいは「もし何かあったら」という理由で断れば義務違反が問われ、罰則が適用される可能性もある。

「合理的配慮」の原則は、当該障害者との建設的な対話を通じ、個々の事例ごとに解決策を導くことである。今後事業者側は、障害者に関する知識とコミュニケーションスキルの習得ほか、予見される課題、例えば車椅子利用者が使用できるトイレの整備など、設備面の充実も求められる。

この改正法の施行を受け、ホテルや旅館を筆頭に、学校やオフィス、商業施設なども、マニュアルの作成と設備の再点検を急いでいる。2006年にバリアフリー新法が施行されて以降、障害者や高齢者に配慮した設備投資が始まっているが、今回の改正法により、その流れも加速するだろう。

多機能トイレに設置されたオストメイトの汚物流し

今後はあらゆる事業者において、障害者用トイレの対応が必須の課題になると考えられる。

すでに鉄道各社は2021年に創設した「鉄道駅バリアフリー料金制度」を用い、乗車賃の値上げ分でトイレを含む関連設備の改修をすすめている。また新設される商業施設は、あらかじめ「多機能トイレ」相当のスペースを確保するなど、バリアフリー化の投資に余念がない。

一方で既存施設の多くは、投資費用の捻出に頭を悩ませているのが実情だ。その解決のヒントになるであろう製品が、さつきが先頃発売した「ZA FREE(ザ・フリー)Xシリーズ」である。

「ZA FREE(ザ・フリー)Xシリーズ」(画像は一般家庭向けモデルSTK-X800W)

「ZA FREE」は、便座の前部を広く開口した「前広便座」(特許取得)が特徴で、内部障害者であるオストメイトが、座ったまま排泄処理ができるシリーズである。

多機能トイレに見られるシンク型の汚物流しのように設置場所(スペース)を選ばず、最低限の投資コストで導入できる。また、オストメイトだけでなく、自己導尿患者、フレイル状態の高齢者などの排泄処理のほか、障害を持たない者も、通常のトイレのように使用できる。

2018年の発売開始以来、医療・介護施設や自治体のほか、ドラッグストアのウエルシア薬局が全店導入を目指す(4月現在1591店導入)など、商業施設にも注目されてきた。近年は家電量販店のサイトでも扱いが始まり、個人の購入も増えている。

オストメイト」のピクトグラムを掲げることが可能となる(※自治体ごとに認定条件は異なる)。

このほど新発売した「Xシリーズ」は、その完成形と言える上位機種となる。最大の特徴は、新たに設けた温水シャワー(「ケアシャワー」=特許出願中)。長く伸びるケアシャワーで、オストメイトのパウチ、排泄介護時の陰部、排泄バケツや尿瓶などを一箇所で洗浄でき、用途ごとに水圧・水温も3段階に調整できる。

ちなみに、国はオストメイト対応トイレの要件を、「汚物流し(シンク)やストーマ装具を洗いやすい水栓設備(温水推奨)」が必要としている。新製品はその要件を満たすため、トイレ壁面に「オストメイト」のピクトグラムを掲げることが可能となる(※自治体ごとに認定条件は異なる)

現在さつきは、新商品をモニター用として病院施設に導入するほか、全国の介護用品販売店が主催する勉強会に出向き説明会を実施している。いずれも新機能「ケア・シャワー」に対する評価は高く、個人・事業主からの問い合わせが増えているという。

4月23日、通天閣至近の施設で行われた新製品発表会

 

4月23日には、大阪市浪速区で新商品発表会を催した。会場に集まった取引先やマスコミも新たな機能の説明を聞いて興味を持ったようで、


「(オストメイトにとって)温水シャワーがあるのはとてもありがたい」

「(介助の目線で)シャワーホースが長いので作業が楽」

「オストメイトの友人に教えたい」

「障害で亡くなった父に使わせたかった」

「商店街活性化の一環として検討の余地がある」


――などのコメントが聞かれた。

先ほど、オストメイト対応トイレの要件は「汚物流しや水栓設備が必要」と述べたが、同製品は、「オストメイト対応型温水洗浄便座」という新たな製品ジャンルとなる。「既存の枠組みに当てはまらないため、製品化には苦労しました」(同社大阪支店営業部の北川陽介次長)というが、まだまだ認知度の低いオストメイトの声を反映した製品となった。

今のところ新製品は介護保険の適用外だが、温水シャワー機能は多くのオストメイトが望むところで、投資コストを抑える優位性もある。自治体も事業者も、障害者差別解消法にある「合理的配慮の提供」を踏まえ、生活者支援の新たな形として検討していただければと思う。(了)