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【連載】矢澤一良博士が行く!ウェルネスフード・キャラバン【亀田製菓・前編】

≪第2回≫亀田製菓 代表取締役会長CEO ジュネジャ レカ ラジュ氏【前編】

矢澤一良博士(早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長)が「ヘルスフードのこれから」を探る対談企画「矢澤一良博士が行く!ウェルネスフード・キャラバン」第2回は、亀田製菓の代表取締役会長CEOのジュネジャ レカ ラジュ氏との対談を実施した。ジュネジャ氏の研究者時代から太陽化学、ロート製薬、そして亀田製菓CEOと、これまで歩んできたサクセスストーリーから研究者魂にあふれた企業哲学について、ジュネジャ氏の研究者時代からの同志である矢澤博士でしか引き出せない〝生の声〟にフォーカスしてお伝えする。対談は前後編立てでお送りし、前編ではジュネジャCEOのこれまでを振り返っていただいた。(記事=中西陽治)

〝世の中にないものを作る〟世界見据えた開拓精神

矢澤一良博士(以下・矢澤氏):さて私のライフワークを総括する企画として始まった「ウェルネスフード・キャラバン」の第2回は、亀田製菓の会長でありCEOのジュネジャ レカ ラジュ氏に登場していただきます。

「ウェルネスフード・キャラバン」は「ウェルネス」に関わるトップの方、哲学をもっている方々に突撃インタビューする企画です。研究ではできないことをこういった対談式のキャラバンをもって発信していきたい、と始めました。

私は常々「研究者が研究者だけで終わってはいけない。やはり研究した内容や技術を国民のために活用しなければ社会貢献には直結しない」と考えています。その思いはジュネジャさんも抱いていらっしゃると思います。

ジュネジャ レカ ラジュ代表取締役会長CEO

ジュネジャ レカ ラジュ代表取締役会長CEO(以下・ジュネジャ氏):このような企画をいただきましてありがとうございます。いろんな企業の方に「ウェルネスフード」および「ウェルビーイング」について突撃インタビューを行う、という素晴らしいお取組みだと感じています。

矢澤氏:ジュネジャさんが日本に来て名古屋大学でドクターコースにおられた時、私は同大の山根恒夫教授(農学/生命農学研究)が研究されていたフォスファチジルセリン(PS)を作るホスホリパーゼDという酵素に大変興味を持っていました。

我々はリン脂質型のオメガ3脂肪酸(DHA/EPA)を研究していた関係で、オメガ3脂肪酸と山根教授の研究を合わせて、〝DHA結合型の脳に良いフォスファチジルセリン〟を作れないか、と名古屋大学にたびたび伺っていました。
当時を振り返っていかがですか。

ジュネジャ氏:私は1984年に日本に来てもう40年になります。
当時は「日本は世界一になる」という日本の一大成長期でした。「Japan as no.1」と呼ばれ、GDPも世界有数でした。すごい国だ、と思いました。あの時代にインドから日本に留学生が来ることはまれで、生物工学、すなわちバイオテックの分野で毎年数人だけ日本に来られる時代でした。私は非常にラッキーでしたね。

私はご縁があって日本に来ることになり、大阪大学の工学部に留学しました。そののちに理学を学び、名古屋大学の農学部へと進みました。

振り返ってみると、現在携わっている「経営」、つまり〝会社の数字や社員・組織をマネジメントする〟――これは大学で学んでいない分野です。ですから私も毎日が学びの連続ですし、その経験からいつも社員に学びの大切さを教えています。

ジュネジャ氏:私のキャリアについてもうひとつ。
大阪大学で微生物を中心とした発酵を研究していた時、それに近い研究をしているということで名古屋大学生物反応工学の清水祥一氏に師事し学位を取得しました。私は大学時代に微生物の研究をし、卒業して太陽化学に入社しました。

その1990年代に矢澤先生と出会うことになるのですが、矢澤先生が時代に先駆けてDHAやEPAの研究をなさっていることは、すごいことだと感じていました。私も似た研究をしていましたから、その先見性と研究の奥深さに驚きました。

矢澤先生との出会いからもう30年以上たちますが、この出会いをとても大切にしています。矢澤先生の研究を見ていましたら、私と方針が変わらないですよね。同じ「ウェルネス」です。

矢澤一良博士

「食」という字は「人」を「良くする」と書きます。病気になったらお薬がありますが、その前にするべきことが山のようにあるでしょう。

矢澤氏:私が考えていることと全く同じですね。私も微生物の研究から始まりました。当時はヤクルト本社におりまして、ジュネジャさんとはとても近いものを感じていました。

ジュネジャ氏:日本では「一期一会」と言いますが、先生との出会いは本当に大切なものです。
矢澤先生もそう感じておられると思うのですが、研究を研究で終わらせない、社会実装という「研究の出口」を見据えた活動をしていらっしゃる。

大学での教育にもそれが表れています。勉強のために学生を海外展示会に連れていくなんて普通ではありえないですよね。

矢澤氏:私は学生に科学技術を社会に役立たせる事を学ばせたくて、2002年から東京海洋大学在籍の10年間、自分の講座だけに限らず東京海洋大学の学内で応募した8名の学生を毎年米国アナハイムで開催の展示会(後述:NPEX West)に連れていきました。

ジュネジャ氏:これは本当に素晴らしいことです。矢澤先生が学生を現場に連れていく。学生は生で「研究の出口」に触れられる、とてもラッキーなことです。彼ら彼女らに世界を見せて、世の中で「食」がどう動いているかをリアルに感じられる機会はとても重要だと思いますね。

私たちも社会人として、何回も日本から世界に出るチャンスがあった。しかし日本人は日本が大好きですから国内に留まりがちです。

矢澤氏:私は、名古屋大学のお付き合いからしばらくたって、ジュネジャさんと偶然お会いしたのが「ナチュラルプロダクツエキスポ」(NPEX West:アナハイムで開催されるアメリカ最大の総合食品見本市)の会場でした。

「ナチュラルプロダクツエキスポ」は当時、日本企業はまだ出展しておらず、日本企業が食品ビジネスで海外を視野に入れていない時代です。その展示会に当時ジュネジャさんが在籍していた太陽化学が大きなブースを出展していました。ジュネジャさんは太陽化学でグローバルな海外戦略を先駆的に行っておられましたね。

ジュネジャ氏:太陽化学は油と水を混ぜて作る食品用乳化剤を日本で初めて開発した企業です。
私は太陽化学にいたころ、乳化剤とりわけ卵の研究していました。卵やフルーツの加工など様々な食用乳化剤の研究です。

当時、大阪市立大学の山本武彦先生(応用生物化学・栄養化学)が研究所長を、金武祚さんが常務取締役を務めていました。おふたりとの出会いも私にとって素晴らしいものでした。

当時、太陽化学の山崎長孝会長に「世の中にないものを作れ」と言われたことを覚えています。利益ばかりを考えずとにかく「世の中にないものを作る」--この教えは今でも私の中に鮮烈に残っています。

そして「世界に出よう。そのためにあなたは太陽化学に入ってきたのです」という自分の役割を学んだのです。
私自身の勤める会社や立場は変わりましたが、この教えに基づくアクションは一貫しているのです。

ジュネジャ氏:大学で微生物、そして生物工学に進み研究を通して、常に「世の中にないものを」求めていた中で、太陽化学で携わったのが卵です。とにかく卵の研究との出会いは衝撃でした。

私たちは毎日のように卵を食べています。
しかし当時は卵に含まれるコレステロール値が問題視されていました。医者に行くと「卵を食べるのをやめるように」といった指導がまかり通っていた時代です。今はだれもそんなことは言いませんよね。

当時、太陽化学では「卵を食べてもコレステロール値は上がらない」というデータを持っていたにも関わらず、当時はサイエンスの分野で証明されている事実が伝わらなかったのです。

今はサイエンスベースで考える土壌ができあがってきましたが、このように栄養の知識はとても重要で、研究や食経験を通じて変わっていくものなのです。

私が卵の研究から学んだことは、「栄養は人を良くする」ということです。
卵は温めると21日間でヒヨコになりニワトリになるのです。

矢澤氏:卵に含まれる栄養素が生命に変わっていく、ということですね。

ジュネジャ氏:おっしゃるとおりです。
私は研究課程で卵の写真を毎日撮りました。そうするとたんぱく質や脂質といった栄養素が毎日変化し生命に変わっていくのが見えるのです。

あの時代に「栄養が生命に変わる」姿を見たことは、私にとってのウェルネスの基本を教わった経験でした。
卵研究で得たものは多岐にわたります、例えば、糖鎖工学(※糖鎖を人工的に改変し、さまざまな目的に適した糖物質をつくる研究・開発分野)に基づいた卵成分の研究です。

当時、抗炎症の薬はステロイドばかりでしたが、オリゴ糖など糖には副作用がない。卵にその糖があることを突き止めたのです。そこでキロ単位で生産して、とても評判が良かった。乳化剤を売っている会社でみんなが欲しがる新しい素材が生まれたのです。当時の太陽化学の山崎社長も「すごいものを作ったな」と言ってみんなで大騒ぎしました。

矢澤氏:それはすごいですね。それだけの価値があったということですね。

ジュネジャ氏:また、製薬メーカーがインフルエンザの臨床試験をしており、その試験でオーストラリアに呼ばれていったのですが、そこで卵から役立つ成分が見つかりました。

矢澤氏:唾液から始める生体防御の研究ですね。鶏卵に含まれるオボアルブミンですか。

ジュネジャ氏:おっしゃる通り、オボアルブミンです。
もう一つは糖尿病治療に役立つリポソームの発表もしました。ある乳業メーカーとの研究で、母乳に含まれるシアル酸が、母乳を出すごとに減っていくことが明らかになったのです。最初の3か月は含有量が多いのですが時間とともに減っていく。DHA、アラキドン酸における多価不飽和脂肪酸と同じですね。

矢澤氏:母乳を出している期間中に含有量が変わってくる、ということですか。すごいですね。
やはり授乳初期が大事ということでしょうか。感染防御でしょうね。

ジュネジャ氏:おっしゃる通りです。人間はよくできていますよね。
もっと面白いのはJBC(Journal of Biological Chemistry)に載った論文です。カルフォルニア大学の先生と共同で行ったのですが、「ヒトとチンパンジーの脳の差がどこにあるか」についてです。なぜヒトが賢いか、の究明ですね。

矢澤氏:それは非常に興味深いですね。

ジュネジャ氏:私はあの時期の最高の論文だったと感じています。
その差は、シアル酸の種類にあるのです。N-アセチルノイラミン酸とN-グリコリルノイラミン酸の違いです。チンパンジーと違い、ヒトはN-グリコリルノイラミン酸を生成できない。その差は、進化の過程でヒトの遺伝子が一つ無くなり、N-グリコリルノイラミン酸を生成する酵素が失われていたのです。

この論文を発表したら、マスメディアから大きな反響がありました。生物が持つ酵素一つで脳機能に差が生まれるのですから。この論文が示したのは、「食」は一つの成分をとってみても体に及ぼす差がある、ということです。

可能性にあふれた「食」の分野ですから、私は自分が作った原料や成分は自分で売りたい。その思いが私のキャリアのスタートです。普通の研究者の感覚ですと、自分で作って営業に売ってもらうスタイルでしょう。世界中でそうなっていますよね。

矢澤氏:同じ研究者として寂しいですよね。ジュネジャさんには研究者としての情熱がありますね。

ジュネジャ氏:私は最初からベンチャー精神を持っていましたから、自分で売りに行く。その精神が認められて今があると思います。

シアル酸を売りに行ったときです。営業先に「面白い素材だ。でも生産に時間がかかるのでしょう。逆にコレステロールが欲しい」と言われました。コレステロールは皆に嫌われる成分ですよね、でも「卵にコレステロールがあるでしょう」と言われました。その時、コレステロールは成長に欠かせない栄養素であることが分かったのです。その企業はある種のコレステロールで研究をしていましたが、「卵のコレステロールのほうがいい」というのです。

その時、卵に含まれるアラキドン酸やDHAといったコレステロールを下げる成分に注目しました。矢澤先生が行っていたDHAの研究を私は卵の視点から追っていました。

矢澤氏:確かに母乳中においても重要な成分ですね。アラキドン酸やDHAも母乳中に含まれている。

ジュネジャ氏:研究を通してのご縁におどろきました。私は卵の研究をしている中でアラキドン酸やDHAに注目していた。そこで矢澤先生の研究と交わるのです。

矢澤先生と研究の話をしていると1日では終わりませんね(笑)。

矢澤氏:本当ですね。
ジュネジャさんは太陽化学でグローバルに世界に打って出た時に、強い武器をもっておられた。その武器は創造性に基づいて「世界にないもの」であった。その思想がスタートだったのですね。

ジュネジャ:1年目から卵に携わり、そこからシアル酸やアラキドン酸とDHAの組み合わせを研究しました。
次に携わったのが「お茶」、カテキンです。お茶にしかないアミノ酸の一種「テアニン」の研究です。これも「世界にないもの」ですよね。玉露と普通のお茶の甘みの差はテアニンで決まります。日光に当たると甘みの成分であるテアニンが渋みの成分のカテキンに変わります。

矢澤氏:お茶のとろみのある甘みを生み出す成分でもありますね。日光を避けるためにお茶に布をかぶせる「かぶせ茶」が有名ですね。

ジュネジャ氏:そうです。グルタミン酸だけでなく、お茶のうまみ成分であるテアニンを研究しました。リラクゼーションやストレスなどメンタルへの作用と、脳への影響を調べていったのです。
「お茶」も「卵」もみなさんご存じの食品ですが、研究は最先端のものでした。

矢澤氏:私たち研究者も、画期的な素材や製品を開発する太陽化学を強く認識していました。「誰がこれを仕掛けたのか」と思ったらジュネジャさんだった。この研究成果で太陽化学はグローバルな世界で戦えるようになったと思います。
そのあとですが、どういういきさつで目薬で有名なロート製薬さんに行かれたのか。

ジュネジャ氏:これも人との縁だと思います。
当時のロート製薬の会長から誘われた、というのもあったのですが、25年近く機能性食品の研究をやっていると、新しいチャレンジがしたい、という気にもなったのです。

矢澤氏:それにしても急な方向転換にも感じます。

ジュネジャ氏:年齢もあり、不安もありましたが、海外110カ国に展開しているスケールの大きな会社の副社長としてやれることはたくさんあると思いました。
「良いものを消費者に伝えたい」という想いが強くなっていたのです。

ロート製薬が担う分野は目薬からスキンケアなど、私がまったく勉強していないカテゴリーでした。そこに取締役副社長として招かれるということは大きなチャンスだと思いました。技術責任者でもあり、海外事業にも関われるポストでした。
そこにたくさんの学びがありました。

当時、ロート製薬には「目薬をどう海外で売るか」という課題がありました。
例えばインドには〝目薬を差す〟という習慣がありません。世界中を見渡しても目薬が習慣化しているのは日本だけですよ。
目薬を差す習慣がない、差す必要がなかった人とビジネスをする。そういった始点から目薬やスキンケアを海外に広げていったのです。

矢澤氏:太陽化学から「健康に関する食の機能」に携わってきて、ロート製薬で「健康経営」という大きな方針を掲げました。そのいきさつは。

ジュネジャ氏:経済産業省が健康経営を推進し、2015年に健康経営銘柄の選定をするとアナウンスしました。でも「健康経営」なんて誰も知らなかった。定義すらありませんでしたから。

私がロート製薬の副社長として入ってきた時、山田邦雄会長が「ジュネジャさんでしかできないでしょう」と言われた。山田会長はご自身の健康に非常に気を使っていて、自転車や水泳といったスポーツに造詣が深かい方でした。

私は、食を通じた健康は専門分野でしたが、「健康経営」は未知の領域でした。
山田会長が「まずは社員から始めましょう」と言われまして、そこがスタートになったのです。

ジュネジャ氏:私は社員みんなに「健康経営をやりますよ」と伝え、応募で集まった約30人を2グループに分けて始まりました。みんな「健康経営」に興味があったのですね。

2014年に日本で初めてのCHO(チーフヘルスオフィサー=健康経営責任者)を設置し、ラッキーなことに2015年に経済産業省から第一回目の健康経営銘柄に選定されました。
当時、私たちが取り組んでいたことは非常に面白いものでした。

ロート製薬は世界中に工場があって女性社員の比率が高い。女性のライフステージにおける復職率の問題もありましたので「まずは女性の健康から始めよう」ということになったのです。

矢澤氏:今でいう〝フェムケア〟ですね。10年前から取り組まれていたとは驚きです。

ジュネジャ氏:「健康経営」と言われていますが日本における〝女性の健康〟のイメージは〝痩せる〟ことに集中していました。
もちろん太りすぎはいけません。ですが痩せすぎは健康とは真逆の状態です。

私は、卵の栄養が生命に変わっていく過程を見てきました。卵にはたんぱく質や脂質が含まれていて、一つでも不足していると生命は生まれないのです。
過剰なダイエットで痩せすぎるということは、女性の中にもう一つ大きな生命を宿すうえで非常によくない。

生命から生命を生み出すわけですから、女性自身も栄養を取らなければならない、また新しい生命を体内ではぐくむために、健康でなくてはならない。
生命を育てましょう、栄養を取りましょうという社内セミナーを開催しました。女性の健康、母乳の大切さを伝えるなど、とにかくやれることから始めました。

ジュネジャ氏:「健康経営」で手ごたえを感じたのは喫煙の有害さ伝える社内活動です。
粘り強く活動を行って最終的には、喫煙者がほぼいない会社になったのです。

プロジェクトメンバーと一緒に「健康経営を推進する会社にしたいのです」と説明したうえで「喫煙は自分の体だけでなく、家族にも影響があります。子供の健康にも害があります。それをわかっていますか」と聞きました。
「あなたは自分の家族を大事にしていますか」と問いかけたのです。するとみんなの顔色が変わる。説得の仕方を変えたのです。

禁煙活動では、次に面白い取り組みを実践しました。固い話ばかりだとなかなか響かない、だからゲームのように楽しもうと考えたのです。
それが「卒煙ダービー」です。

例えば「今日はAさんにタバコを吸うのをやめてもらいましょう」と言って、他の参加者は可否に賭けるのです。
賭けと言っても参加者に健康ポイントを付与してプレゼントが当たるようなものです。今でいうと、歩行数に応じてポイントがたまるようなシステムで、健康に良いことをすると得をするような遊びです。

矢澤氏:健康経営の方向性に沿った取り組みですね。ダービーに参加する社員が〝楽しく〟健康になる。それが個人はもちろん、家族にとっても良い結果を生み出す。

私はそれが正に経営の本質だと感じました。会社の取り組みで人と組織が盛り上がっていく、ということでしょう。

ジュネジャ氏:ロート製薬は私にとって、全く新しいチャレンジの連続でした。健康経営はもちろん、世界中に医薬品や化粧品を売る、ということもそうでした。

そんな中、ロート製薬で「食」への取り組みが始まりました。2013年に立ち上がったアグリファーム事業部が沖縄でシークワーサーの工場を作り、北海道でゼリー工場を作るなど、ロート製薬が「食」の領域を拡大するようになりました。
ロート製薬に栄養機能食品の「セノビック」というブランドがあります。あれは卵の成分、ペプチド(ボーンペップ)が使われている。不思議な縁を感じますよね。

ロート製薬の医薬品や化粧品も乳酸菌などが活用されている。健康からウェルネスへとつながる分野は、何かの形で私の中でずっと続いているのです。

矢澤氏:ロート製薬で取り組んだ「健康経営」は、非常に先駆的だった思います。そこから食品会社も「健康経営とはなんだ」という流れを生みました。

それまでは経産省が健康経営を叫んでもみんな知らないふりしていましたよ。「フォーブス」の健康経営に関する記事でロート製薬が取り上げられたときに初めて「どうやったらいいんだ」と騒ぎだしましたよね。

ジュネジャ氏:あれはいいきっかけで、健康経営をアピールできました。その後大手企業が参入してきました。今では行政でもCHOを掲げて健康経営を推進しています。

矢澤氏:それだけのインパクト、波及性があったということでしょう。人にとっても企業にとってもいいことだからこそ、他が真似していった。
ロート製薬で副社長として経営そのものも健康なものにする、という活躍は画期的でしたね。

【後編】に続く