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【特別インタビュー】明るい社会保障改革推進議員連盟会長の上野賢一郎衆院議員

国民が健康に活躍できる国づくりを目指す、
明るい社会保障改革推進議員連盟会長の上野賢一郎衆院議員に聞く
『高まる国民のヘルスケア・ニーズへの対応と課題、そしてこれから』



「現行の医療保険制度を維持しつつ
健康予防を社会保障の大きな柱にしていきたい」


人生100年時代へ様々な動きが活発化する中、国民が長く健康に活躍できる“百年健幸”の国づくりを目指し、国会議員有志によって誕生した組織が、まもなく設立5年目になる。衆議院議議員の上野賢一郎さんが2019年11月に旗揚げした明るい社会保障改革推進議員連盟(議員連盟)だ。新しい健康社会の実現に向けて、高まる国民のヘルスケア・ニーズにどう対応し提言していくのか。「現行の医療保険制度を維持しつつ健康予防を社会保障の大きな柱にしていきたい」と語る同議員連盟会長の上野議員に、これまでの活動の概要と今後を聞いた。(取材・記事=流通ジャーナリスト・山本武道)


目標は安定的な制度を作り健康・ヘルスケア産業の振興



――議員連盟は今年11月になると設立5年目になりますが、活動の目標ですが・・・。


上野 国民の健康を増進させるためにも社会保障の担い手を増やし、安定的な社会保障制度をつくることであり、特に健康・ヘルスケア産業の振興を目標にした国会議員連盟です。そのために大切なことは、人生100年時代を迎え、その100年を、できるだけ健康に過ごそうという目標を立て、健康寿命をどんどん伸ばしていきたいと考えております。

議員連盟は、そのための活動に力を入れてきていますが、中でも重要な課題は、これまでは病気になってから治療し改善することに力を入れてきたし、実際に我が自民党でも力を入れてきました。しかし病気になる前については、どちらかといえば政府は国民任せというか思い切って旗を振ったりすることはあまりなかったように思います。

社会保障制度は、国民の広い層の負担を必要としているため、中には心理的に抵抗感をお持ちの人がいますので、それを払拭し「健康で元気な人をもっとたくさん増やしたい」との思いを込めて、名称の社会保障改革の前に“明るい”を付けて、明るい社会保障改革推進議員連盟としました。活動は“三方良し”をモットーにしています。

そこで私どもとしましては、「健康予防」を社会保障の大きな柱にしていきたいと思っています。社会保障制度には、「年金」「医療」「介護」「子育て」の四つの柱がありますが、これらに加えて「健康予防」を、もう一つの柱として進めてほしい、と申し上げてきました。政府の政策の中でも、予防を中心に据えることができればと考えています。


これまでの活動とこれからについて語る議員連盟会長の上野賢一郎衆議院議員


社会保障制度の五つ目の柱としての「健康予防」の重要性


――どのくらい前から、社会保障制度の五つ目の柱としての「健康予防」について議員連盟の皆さんと話合われてきたのですか?


上野 4〜5年前からです。議員連盟(自民党明るい社会保障改革推進議員連盟)には自民党の国会議員30名に参加していただき活動してきました。いま、国民のニーズは健康予防であり、自らが自らの健康づくりをしなければならない時代が到来しています。そのためにも、ヘルスケア領域は今もこれからも国民のために拡大していかなければなりません。

これからの時代は、国民のためのヘルスケア産業の振興が重要になりますので、DXなどを駆使して様々なビジネスを掘り起こす必要があります。ですから、国民一人ひとりの健康管理をリアルタイムに把握できるような時代になりましたので、新しい技術を健康管理とビジネスに活かす発想が大切です。

国民のための予防・健康づくり分野では、医療機器を活用した心電図などの健康データによる健康アドバイス、医療分野では医療機器と健康データによる診断・治療(服薬)とアプリによる生活指導など治療サポート、さらに介護・生活支援分野では、介護施設でのロボット介護機器、介護予防サービス(フレイル予防、認知症予防など)、そして移動、買い物、食事などの生活支援サービス等々、健康・医療・介護分野におけるビジネスに対するスタートアップへの期待が高まっており、具体的には以下のとおりです。

(1)健常者に対しては個人による健康づくり、保険者などによる保健指導、例えば食事履歴や体重などを元にユーザーに食事などのレコメンドを実施しスーパーやコンビニなどと連携した日常生活に浸透したPHR (パーソナルヘルスケアリコード)
(2)2020年12月1日から保険適用され患者さんがアプリ内の禁煙日記を入力し医師が診療に活用するニコチン依存症を対象とした禁煙治療用アプリ
(3)介護者が介護する際に使用する、超音波センサーを使い膀胱内の尿のたまり具合を把握してスマートフォンなどに、トイレのタイミングなどを通知する排泄予測デバイス

国民の健康に関わるところは、ありとあらゆる人々の関心ごとでもありますし、デジタルを活用したアプリやデバイスがさらに開発され、治療や予防に活用される分野へ参画するスタートアップ企業が1社でも増えて欲しいし、われわれも応援していきたいと思っています。


DX化の推進によって患者情報を一元化し活用


―― 2021年度の国民総医療費は45兆円(前年度比4.8%増)に達し、介護保険費用11兆円も含めて実に56兆円を超しています。これからは、高騰する医療費にブレーキをかけるためにも、国民一人ひとりが健康自衛をしなければなりませんが・・・。

上野 病気の有無を判断するには定期検査が行われていますが、定期検査や病院で受けた検診データの管理は一元化されておらずバラバラの状態で、しかもペーパーベースでした。これからは医療DX化が進めば、医師が患者さんを診療する際に共通の基盤で様々なデータを取り出せる時代がきます。

それにマイナンバーを入口にして、健康診断時や病院で受けた検査データを、かかりつけ医に見せて診察してもらえようになってくるでしょうから、そのためにも国民の間にマイナンバー登録制度がもっと広がることで、患者さん自身も自分の健康状況をより正確に把握することができるようになると思います。

このことは、健康保険証、診療履歴などいろいろな情報を盛り込むことが可能になりますから、全国どこの病院にかかっても、マイナンバーカードで情報を取り出せることがスムーズになり診察を受けられる時代が到来しますので、患者さんにとっても大変便利になります。

行きつけの病院の診療記録、検診データ、レントゲンデータ、処方薬データ、別の病院におけるデータ等々、病院にかかる際には、過去の検診データも生まれた時から現在までのデータがデジタル管理されていれば、医療機関も患者さんもとっても良いことです。

「この患者さんは、こんな病歴があった」「薬の副作用のチェックと重複投与の防止」「アレルギーの有無?」なども、DXによって一元化されれば、医療はものすごい進歩です。医療のDX化は徐々に推進され、多分、この2〜3年で実現できるようになるでしょう。


衆議院本会議で質問する上野議員


十分ではないスタートアップ企業のための相談窓口


―― ヘルスケアサービスが市場に出回るようになりました。それだけ国民の関心が高まっているといえますが・・・。どのようなことが課題で、どんなことを進めていくべきでしょうか。


上野 日本全体が健康寿命延伸に向けて進んでいく状況下にあって、医療や薬も進化しヘルスケアサービスもいろいろと開発されていますが、大切なことは誰もが健康で幸せな生活を過ごすことができるためにも、いろいろなサービスでできることがあれば対応していくことです。

介護予防も大切ですし、認知症予防のための脳トレも必要になってきますし、介護施設の中でDX技術を使って体温や心肺の変化がないかどうかという“見守り機能”も不可欠になっていますが、そこでスタートアップ企業が開発した技術を、福祉の現場でも使っていただけるようにならなければなりません。

スタートアップ企業のための相談窓口ですが、まだ十分ではないと思います。ビジネスの創造という点では、ヘルスケアの領域ですから経済産業省に相談されるといいでしょうね。ただ課題は、創出されたヘルスケアサービスに、きちんとした価格がつけられるかどうかがとても大切です。公的な価格の分、医療にしろ、介護にしろ、公的保険制度の対象になると公的価格になりますが、スタートアップ企業が全力を尽くしてサービスを開発しても収益があまり上がらなければ進展は難しくなります。

研究開発を進め市場へと計画しているスタートアップ企業は、これからも増えるでしょうから、問題は開発されたサービスを継続して使用してもらえる流れを作り出さねばなりません。つまりスタートアップ企業が参入できる仕組みを作っていくことが早急な課題であり、きちんとした価格がついて収益が上がるようにしなければならないと思います。こうした課題を“見える化”することによって、スタートアップ企業も参入しやすくなるのではないでしょうか。


ヘルスケアサービスに関わるスタートアップ企業への期待


―― スタートアップ企業が、これまでに果たしてきた役割は大きいと思いますが、ではこれから先、どのようなことに期待していますか?


上野 私自身はスタートアップこそが、日本の経済成長を担う大きなキープレイヤーであると思っています。これまで我が国を代表するメーカーは、20代、30代の若い世代がスタートアップ企業として歴史をスタートさせ、今や日本経済を牽引するグローバル企業となりました。我が国におけるスタートアップ企業は、イノベーションを創出し経済成長へのドライバーとなる存在として増えていますが、アメリカに比べれば100分の1の状態です。

しかし近年では、若い人たちが既存企業ではなく新しいスタートアップ企業を創出させるケースが増えていますので、こうした若い世代が社会をどんどん変えていく力となれば良いと思っております。

2022年1月、政府は“スタートアップ創出元年”を宣言し、スタートアップを生み出した育むシステムの構築へ、スタートアップへの投資額を5年で10倍にして人財・ネットーワーク構築、資金供給の強化と出口戦略の多様化、オープンイノベーションの推進といった官民によるスタートアップ育成策の全体像をまとめ人財・資金・ビジネス環境など様々な支援展開を発表しています。

私たち議員連盟としても、政府が打ち出したスタートアップ企業に対する政策については、いろいろなスタートアップ企業の方たちにヘルスケア関連サービスのアイデアをどんどん出していただき、事業化につなげていただければと思っています。近年では、アカデミア発による企業との共同研究・開発が注目されていますから、国民のより良い健康サポートに結びつくサービスを世に出すために連携を強化しビジネスにしていかねばなりません。

それには人財ですが、スタートアップ企業の場合は、医療の造詣が深く、経営者としての才能をも兼ね備えた方は今のところ少ないのですが、この二つを結びつけられる若い世代を育成すべきであろうかとも思っています。

現行の医療制度を堅持しつつ、スタートアップ企業の方々には、新しい健康社会の実現に向けて国民の間に高まる健康づくりのニーズに対応したヘルスケアサービスをはじめ多くのビジネスを誕生させてほしいですね。


予算委員会で質問する上野議員


ヘルスケアサービス展開の窓口としてのドラッグストアの役割


―― スタートアップ企業が取り組むビジネスの中でも、市場拡大が予想される健康づくりへの武器となるヘルスケアサービスですが、普及する拠点として地域住民のための“ヘルスケアステーション”として注目される業態のドラッグストアを、どのように受け止めておられますか?


上野 近年、ドラッグストアは全国各地に店舗を運営し、日々、地域住民の健康サポートの場として地域住民の支持を集め発展してきたように思います。広い店舗内には、医薬品とともに健康と美に関わる商品を始め日用品、衛生用品、健康食品だけでなく処方箋調剤に応じてくれて、しかも一般食品まで取り揃えて、地域住民の方々のための快適生活をサポートしていただいています。

たくさんのお客さんが来店し、薬剤師さんや医薬品登録販売者さん、管理栄養士さんが常駐し相談に乗ってくれて、買い物情報を提供していただきますが、このところ大学との共同研究で高齢者のための住みやすい暮らしにも貢献されていることをお聞きしています。

薬剤師さんからは、薬歴も食と薬の相互作用などの情報も提供してくださるし、処方箋調剤をしていただいた薬の飲み残しに対しても相談に応じてくれるし、そして最近では物販以外にヘルスケアサービスにも対応するケースが増えてきています。

スタートアップ企業が開発されたヘルスケアサービスについて普及する場ですが、私自身は、社会保障制度の五つ目の柱としての「健康予防」にも関連してきますが、私どもとしましてはドラッグストアが公的サービスの一翼を担うとか、特にヘルスケアサービスを普及する拠点としての役割に期待しています。

一番良いことは、データをベースに新しい治療法、新しい薬剤の開発も進むでしょう。ですから医療DXを進めていかなければ新しい時代に突入できません。われわれも以前から、国民自らの健康予防に対しても目を向けており、その普及窓口としてのドラッグストアの機能にも注目してきました。「健康予防」は、これからもスタートアップ企業が開発を続け、国民が手軽に使えるような流れを作っていただければと思っています。




<取材を終えて>


上野議員にお会いしたのは、アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会(森下竜一会長)の講演会だった。約1時間余りの講師を務められた上野議員に、いきなりインタビューを依頼させていただいた。まったくの突撃取材のお願いにも関わらず上野議員は即承諾していただき、衆院議員第一議員会館にお邪魔した。

滋賀県長浜市出身。1965年に地元商店街で営業する荒物屋の長男として誕生。今年58歳になる。京都大学法学部を卒後、自治省に入省。地方行政にも携わり地域活性化へ、ベンチャー企業を応援する会を民間企業の仲間とともに立ち上げるなど、今日の活動はこれが原点かもしれない。

2005年に衆議院議員に初当選(現在5期)。2019年11月、議員連盟を立ちあげられてから、まもなく5年目になるが、活動のモットーとしているのが“三方良し”である。自民党女性局の機関紙で女性専門誌『りぶる』(2023年12月号所載)には、“三方良し”について、こう記されている。

「私の地元の滋賀県で江戸時代から明治にかけて活躍した近江商人の哲学の一つです。個人の健康、社会保障制度の永持続可能性、成長産業の育成の三つの観点から明るい社会保障改革の実現を目指しています」

上野議員は、“三方良し”についてのインタビューでは、ていねいに一つ一つ語っていただいた。国民のためのヘルスケアサービスしかり、元気に活躍する人を増やしていく社会保障制度の柱に「健康予防」を加えたいということしかり、そして成長産業としてスタートアップ企業に期待されていること等々、とてもわかりやすかった。

2020年6月に明るい社会保障改革推進議員連盟は、「病気予防や健康づくり」を社会保障の主要分野に位置付け、恒久的な財源の確保などを求める内容を盛り込んだ報告書を作成し、当時の岸田文雄自民党政調会長(現首相)に提出している。

人生100年時代。新しい健康社会の実現に向けて、国民の健康を増進し健康寿命を2040年に75歳以上に、持続的な社会保障公的外のヘルスケア・介護に関わる国内市場を2050年に77兆円、さらに世界の医療機器市場のうち日本企業の獲得シェアを2050年に13兆円という国が掲げる目標に対して、明るい社会保障改革推進議員連盟は、今後、どのような提案をしていくのだろうか。同時にスタートアップ企業の動向も注目したい。