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ヘルスケアジャーナリスト・瀬戸寛のヘルスケア企業レポート②
コロナ禍における主要小売業の最近3年間の動向 

増収を続けるドラッグストアとEC(物販)ビジネス

コロナ禍が小売業に与える影響は大きかった。蔓延防止対策の強化で、生活者の外出抑制や商店の営業時間短縮等々、閉店、倒産が相次ぐ傍ら、街の健康コンサルタントとしてカウンセリングの強化に加えて、さらに処方箋調剤、食品の取り扱いを強化するとともに1か所で商品が購入できるワンストップショッピング機能を付加させたドラッグストアが3年連続で増収になり、ヘルスケア志向型経営に取り組むリアル店舗の強さが浮き彫りになった。その一方、ECやカタログ、テレビを含む通信販売業界の売上げも右肩上がり。ともに上昇気流に乗っている実態が明らかになっている。そこで、コロナ発生前の2019年度と発生後の2年間(2020年度・2021年度)の最近3年間における小売業の業績を紹介しよう。(記事=ヘルスケアジャーナリスト・瀬戸 寛)

 

<家計調査と商業動態調査にみる動向>

■3年間で家庭の消費は4.9%減少

コロナによって、多くの小売業の客数は落ち込んだが、では果たして生活者の家計消費にどのような影響を及ぼしたのだろうか。総務省の家計調査によれば、1世帯(二人以上)あたりの1か月間の消費額は、コロナ発生前の2019年度の総額が29万3379円だったが、発生初年度の2020年度に5.3%ダウンし27万7926円、そして2021年度には27万9024円と微増(0.4%)に終わり、2019年度に比べて4.9%減少し、小売店に与えた打撃は大きい。

項目別の売上げでは、コロナ発生前後の3年間(2019年度~2021年度)の実績で、伸びたのが家具・家居用品部門(3.9%)と教育部門(3.3%、保健・医療部門2.2%)だが、意外だったのが食品部門の微増だ。これまで足しげく通っていた常連客の買い物行動が、リアル店舗から通販へと変わり、来店頻度がダウンした影響と見られる。

逆に家計費がダウンしたのが、外出機会が減った服装・履物部門と娯楽部門がそれぞれ19.2%、16.4%と大幅にダウンし、旅行機会が少なくなった交通・通信も9%減少している。(表1)

■苦戦する家電、HC、ともに微増のSM、CVS

最近3年間における業態別の売上高は表2の通り。減り続けてきた百貨店が高額品の売れ行きの好調に加えて緊急宣言が出されていた感染蔓延防止措置の解除もあって集客によりで前年比(2020年度)4.5%と盛り返えしたものの、過去の水準には至っていない。

2019年度微減だったSM(スーパーマーケット)は、外食が減り自宅調理の機会が増え2020年度には3.4%の増収となり、2021年度も引き続き食品の需要は大幅に増えるのではないかとの推測があったが、僅か0.7%増に終わった。これは、生活者の買い物行動がスーパーマーケットからスマホで気軽に購入できるECへ移ったとみていいだろう。

コンビニエンスストアの場合は、2019年度に前年度比1.7%プラスだったが、2020年度に減収(4.4%)となり2021年度は微増にとどまった。その理由は、弁当やパンなどを便利店で購入していたサラリーマンやOLが、ワンストップショッピン機能を強化したドラッグストアへ流入したようだ。

2019年度以来、増収(2019年度:3.5%/2020年度:5.1%)を続けてきた大型家電量販店は、コロナ感染により自宅待機者が増え繁華街立地の店舗への来店頻度が減ったことで、2021年度には一転しマイナス成長(2.2%減)になった。

HOME CENTERは2019年度が0.3%減だったが、2020年度に外出機会を失った人たちが自宅改修に必要なDIY(DO IT YOURSELR:日曜大工)関連用品の購入に結びついたと見られ、6.8%増となったものの、2021年度には再び逆戻りし3.1%のダウンとなっている。

その要因は、高齢社会の到来によって郊外型店舗にマイカーを運転しホーセンターに来ていた独居高齢者が、運転免許を返納するなど来店頻度が少なくなった反面、自宅に近い立地で買い物をするようになったことが挙げられる。

■調剤や食品部門の強化で集客増に成功したドラッグストア

小売業にコロナが与えた影響は大きかったなか、ドラッグストアのみが発生前の2019年度、発生後の2年間(2020年度と2021年度)の実績は以下の通りで、一度もダウンしていない。

◇2019年度:7兆6859億円(前年度比5.7%増)

◇2020年度:8兆0563億円(同4.8%増)

◇2021年度:8兆5408億円(同6.0%増)

コロナ禍にあって、医療機関の受診が抑制され処方箋枚数の減少が指摘されるなか、調剤室併設の新しい店舗を増やし来店客のために調剤の待時間の短縮へ、発行された処方箋を画像にしてドラッグストアに送信する独自のアプリケーションの導入、ロボット調剤の採用、薬剤師の服薬指導、管理栄養士による栄養指導、在宅医療に伴う無菌調剤室の設置と薬剤師の訪問活動とともに、腸活、免疫、血圧、糖尿病対策などの機能性表示食品や健康食品、冷凍食品の取り扱いを増やすなどの来店客増加策などが功を奏し、この3年間で二桁(11%)成長を遂げたといえよう。

さらに注目すべきは、高齢社会の到来で商圏が狭小したことで郊外に出店するホームセンターの主力商品の一つ、花や野菜、果物の種、肥料などの園芸用品及びペット関連用品がドラッグストアに流入してきたことだ。

山梨県を拠点とするドラッグストアのクスリのサンロードには、犬や猫などの動物やフード、ペットのためのクリニックを併設した専門店を併設し人気を集めている。(写真①・②)

ドラッグストア関係者で賑わう園芸用品コーナー(薬系卸の大木の提案商談会)

  

ペット用品を充実したクスリのサンロード

<通信販売業界で注目ビジネスにEC(物販)>

■食品・生鮮部門が11.3%増の1兆9824億円

コロナによって、リアル店舗の中には苦戦を強いられるケースも少なくないが、インターネットなどで決済や取引を行うEC(Electronic Commerce)・カタログ・テレビを含む通信販売の2021年度業績は、富士経済の『通販・eコマースビジネスの実態と今後2022』によれば、通信販売の2021年度の実績は前年度比5.4%増の14兆4645億円、2022年度も引き続き6.4%アップの15兆4263億円が予想されている。

なかでもECの業績は、次の通り右肩上がりで伸び続け3年間で28%の増収だ。

 ◇2019年度:9兆8948億円

 ◇2020年度:11兆8750億円

 ◇2021年度:12兆6295億円

ECの品目別販売内訳(家電・パソコン/アパレル/食品・生鮮食品/家具・インテリア・寝具)で特筆しているのが、2020年度比11.3%増の1兆9824億円を達成した食品・生鮮分野だ。この背景には、2年連続のコロナ発生でレストランの閉鎖、自宅勤務者の増大がある。

富士経済の予測では、2022年度の通販全体の業績を、前年度比6.6%増の15兆4263億円と予想しており、EC部門は、今後もさらに上昇気流に乗ることは間違いない。

■サブスビジネスを展開するオンライン薬局が登場

近年、関心が高まりつつあるのが、サブスクリプション(Subscription)ビジネスである。サブスクリプションとは、商品の購入代金やサービスの利用料を毎回請求するのではなく、一定期間利用することができる権利に対して料金を請求するビジネスモデルだ。

薬系卸企業の大木ヘルスケアホールディングスでは、ヘルスケア領域におけるサブスクリプションの仕組みを導入することで、例えば店頭での相談は商品を売るためのサービスだったが、最近では商品+相談も含めた金額を支払えば何度も気軽にアドバイスをしてもらえるシステムを提案し始めた。

「他業界のサブスクが増加し、認知度、利用者も増えている。ヘルスケアのサブスクはインターネットで始まっている。お客様のロイヤルカスタマー化とセルフメディケーションをより身近にするため、ヘルスケア分野のサブスクは、市場拡大の可能性を秘めている」(同社)

同社が、ヘルスケアでの事例の一つとして紹介しているのが、東京に開局するオンライン薬局である。このオンライン薬局は、2018年12月創業の株式会社YOJO Technologiesが運営するYOJO。オンライン診療によって発行されるFAX処方箋の応需サービスと、LINEで薬剤師に相談しながら症状・体質に合った漢方薬やサプリのサービスを提供しており、オンライン薬局の利用者が20万人を超えた。

YOJOでは、20代から50代の女性が、あらかじめLINEに登録し画面に表示された症状を選び15問前後の質問に答えれば、体の不調に精通した薬剤師がオンライン上で悩みに合うよう情報を提案し、症状・体質に合った養生法や漢方薬、サプリメントなどが宅急便で自宅に届く仕組みだ。

コロナ禍によって誕生したオンライン診療とFAX処方箋に加えて、相談機能と商品をドッキングさせ料金を支払うサブスクリプション方ビジネス。リアル店舗からEC店舗で購入する生活者が増える潮流は、これからさらに激しさを増し、さらにスマホで必要な商品が手軽に入手できる高齢者世代が増えれば、EC拡大への流入の加速度は、より一層強まることは間違いないだろう。