ナチュラル思考の高まりで注目を集める一般用医薬品の漢方薬。市場に目を向けると、新型コロナウイルスによる通院控えや予防意識の向上によって、近年は好調に推移した。原料高騰による物価高が問題視される昨今ではあるが、こうした社会環境下でも約250億円まで市場を拡大させている。ある調査では「Z世代の約3人に1人が漢方薬の服用を経験」という結果も出ており、おそらく今後についても安定的に動いていくだろう。
だが、本稿で注目したいのは「漢方薬」ではなく、「和漢薬」だ。ドラッグストアの漢方薬コーナーで、シリーズ漢方薬が大々的に陳列されている中に、数品目が陳列されていたり、疾患別各カテゴリーの棚にこぢんまりと取り扱われていることが多いのが、この和漢薬である。さらに消費者からは、漢方薬と混合して認識されているケースが多くある。
しかし、「和漢薬とは何か?」に目を向けると、大きなポテンシャルを持っていると感じざるを得なく、和漢薬がドラッグストアの新たな市場として注目すべきカテゴリーであると提言したい。
「天然の植物や動物、鉱物などから体質改善を目的に薬として用いるものを『生薬』と呼び、これを中国古来のレシピ通りに組み合わせものが『漢方薬』です。そして、『漢方薬』を日本人の体質や風土に合わせてアレンジしたのが『和漢薬』と呼ばれます」
こう話すのは、一般用医薬品の和漢薬を製造・販売する摩耶堂製薬の綾井博之社長。先述した「和漢薬とは何か?」の非常に分かりやすい答えであり、これを薬剤師や登録販売者、売り場を通じてユーザーの理解度を高めていくことで、新たなユーザーの獲得にも期待できる。これが「注目すべきカテゴリーである」と提言した理由の核となる部分だ。
同社が持つラインナップの大半が和漢薬であり、いずれも伝統的な漢方処方を基盤としている。しかし、同社の製品は中国古来の処方そのままではなく、現代に生きる日本人の生活習慣や体質の変化に合うように、複数の漢方処方を組み合わせ、新たな生薬を加えより効果感を高める工夫が施されているという。
「当社の和漢薬を愛用してくださる方には、悩みが深刻なケースが多々あります。『医療機関にかかっても症状が改善されない』『さまざまな医薬品を使ってみたけれど逆効果だった』などの苦い経験をお持ちでしたが、口コミやインターネットでの情報収集を通じてドラッグストアや薬局で当社の和漢薬を手に取り、改善に向かっていった――こうしたフィードバックをお客さまからいただくこともあります。やはり、これが日本人の体質を第一に設計された和漢薬が持つ一番の強みです」(綾井社長)
ここで同社の代表的な和漢薬を見てみよう。「雲仙錠」「雲仙散」(いずれも指定第2類医薬品)は、16種類の生薬からなる摩耶堂製薬オリジナルの温療処方が取り入れられた肩・腰・背中の痛みに効果をあらわす経口の医薬品だ。冷えやストレスなどによる背中や腰の痛みを鎮め、血を巡らせ、筋などを温め、やわらげる。
筋肉のこわばりや血流不足が背中痛や腰痛の大きな原因であり、冷えがその一因であることは知られているが、ストレスも交感神経を刺激し、筋肉を緊張させることで血流を悪化させてしまう。同剤は、マオウ、シャクヤク、ボウイなど9種類の鎮痛生薬、ケイヒ、ボタンピの2種類の血流改善生薬、タイソウ、ショウキョウ、カッコンなど7種類の“温め生薬”と“やわらげ生薬”を配合し、関節痛や運動後の筋肉痛とは違う、背中から腰の奥に感じる重苦しい痛みに効く。
日々のデスクワークが原因で、同剤が解決できる症状に悩むオフィスワーカーは多い。だが、「入浴で体を温める」など一時的な対処で終わっているケースが多く見受けられる。この層をどのように取り込んでいくかが、新規ユーザーの獲得に向けて非常に重要な要素となるだろう。また、消炎鎮痛薬は貼り薬や塗り薬を連想し、「外出中は気軽に使えない」「臭いが気になってしまう」など遠ざけてしまう層も存在するが、「雲仙錠」「雲仙散」は経口薬であるため、この層もターゲットの範囲内に置くことができる。
和漢薬について、東京都内に勤務するドラッグストア店長は「和漢薬を購入するお客さまの多くはリピーターです。これまでの店頭勤務を振り返っても『和漢薬だから』という理由で買っていただいた経験はありません」と正直な実体験を明かしたが、「ですが、漢方薬への関心度が高まっているのは確かで、和漢薬をこの波に乗せて、『漢方薬を、より日本人に合わせる形でブラッシュアップした薬』というコンセプトをお客さまに伝えることができれば、和漢薬にもドラッグストアにもプラスになるのは間違いないでしょう」と、和漢薬に対する可能性を語る。
摩耶堂製薬の面白いところは和漢薬と西洋薬を融合させた一般用医薬品を持っており、これを“摩耶堂薬”としてドラッグストアに提案しているところだ。同社の綾井社長は「体質改善に優れた和漢薬と症状抑制に優れた西洋薬、両者の強みをうまく組み合わせることで、現代日本人の抱える悩みを根本的に解決できる薬――。東洋医学と西洋医学の融合から生まれた日本オリジナルの薬が“摩耶堂薬”です」と話す。
ドラッグストアの守備範囲は「体質改善~症状改善」、それに対応する商材が「マイルドに効く~シャープに効く」と幅広い。医療用医薬品は症状改善に対応するが、一般用医薬品の効き目と比較するとシャープだ。食品やサプリメントは体質改善がメインだが、あくまでも食品である。
こう捉えると、ドラッグストア商材に抜け落ちているのが「シャープな体質改善」という部分だ。「ここに対応するのが“摩耶堂薬”であり、予防意識や不調を根本から手当したいという意識が向上している現在、ドラッグストアで“摩耶堂薬”を提案するメリットは非常に大きいと位置付けています」(綾井社長)
現在、同社が普及に注力する摩耶堂薬が「ネオ小町錠」(第2類医薬品)。この医薬品は、吹出物やニキビの治療・予防を効能効果に持つ経口薬だ。
同剤にはキキョウ、センキュウ、ダイオウ、トウキ、ボタンピ、ヨクイニン、ケイガイ、レンギョウ、サンキライ、ニンドウの排膿作用を持つ生薬に加え、サンキライ、ニンドウ、レンギョウの解毒作用を持つ生薬、さらにはニコチン酸アミド、リボフラビン、ピリドキシン塩酸塩、アスコルビン酸、DL-メチオニン、パントテン酸カルシウム、乳酸カルシウム水和物の整肌作用をもつ化合物が配合されている。お肌に良い成分を取り入れる前に、まずは溜め込んだ悪いものを生薬の力でデトックスしましょうという処方ですので、しつこいニキビや吹出物を治療しながら、予防にもなるという特徴を持つ。
一般用医薬品には、予防領域までを効能効果に持つ製品は多くはない。「ネオ小町錠」は、生活者の身近な悩みである皮膚トラブルに対応する製品で、使用する場面を選ばない経口薬でありながら「予防にも使える」という製品であると同時に、長い歴史を持つ一方で、予防意識が高まる昨今のニーズにも対応できる現代的な製品だと位置付けられる。
これまで一般用医薬品があまり前面に出して訴求してこなかった「予防目的で使用する」ということを、新たな習慣としてユーザーに取り入れてもらうきっかけを作る製品、一般用医薬品の可能性をより理解してもらうための製品だと位置付けても良いだろう。
代表的な摩耶堂薬に「金蛇精」(第1類医薬品)がある。ハンピ、ニンジン、オウレンなどの強壮生薬とビタミン、アミノ酸などに男性ホルモンのメチルテストステロンを加えた男性更年期障害およびその随伴症状に効果を発揮する医薬品だ。実は男性ホルモンが配合されている唯一の一般用医薬品であり、昨今注目を集めつつある男性更年期やメンズヘルスケア、メンテックに対応できるユニークな一面を持つ。
ここ数年でようやく大手ドラッグストア店頭で「男性更年期」というワードを見るようになったが、男性にも更年期があることの認知はまだまだ低く、人口減少による労働力不足が加速していく近未来に向けて、ドラッグストアが男性更年期や男性ホルモンの低下への対応を伝授していくことの社会的意義は大きい。
「男性ホルモンの摂取に後ろめたさやネガティブさを感じる方々もおりますが、『ストレスを感じて調子を崩した』『更年期に差し掛かり体調が悪い』といったときに、男性ホルモンの手当てをするのは恥ずかしいことでも特別なことでもありません。ストレス社会に加えて、少子高齢化によって労働人口が減少し、高齢者になってからも元気に働くことが必要とされる社会では、男性ホルモンがさらに注目されてくることでしょう。そこで大いに役立つ“摩耶堂薬”が「金蛇精」なのです」(綾井社長)