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インクルーシブアートをオフィスに飾ろう!

〜知られざるサラヤの活動〜
障害者アート(絵画)のレンタルが企業のSDGs活動に

「かいがら」有田京子(2012年)

近年、経済活動だけでは測れない企業価値を高める動きが活発化している。その1つとして、癒し効果を狙ってオフィスにアート作品を飾る企業も増えてきた。そうしたニーズに応える形でサラヤ(更家悠介社長)は、障害を持つアーティストの絵画をレンタルで提供するプロジェクトを人知れず開始した。インクルーシブ※アートと触れ合ってもらうことで、福利厚生面を満たしつつ、SDGsにおける「誰一人取り残さない社会」を目指す企業を増やしていく考えである。(取材と文=八島 充)

※インクルーシブとは‥
直訳は「包み込むような」「包摂的な」。性別・人種や障がいの有無を超えて、すべてと共生していく姿を示す言葉。

「カブラ」矢形聡(2015年)


始まりは2021年、更家社長のもとに、公益財団法人 関西・大阪21世紀協会(﨑元利椡理事長)が訪問したのがきっかけだった。

同協会は「文化による都市の活性化」を理念に掲げ、芸術・文化に関わる作品の発表の場を提供している。主に民間企業に支援を依頼し、音楽家や画家、落語や文楽などの伝統芸能を、40年に渡り守り育ててきた。

もともとサラヤは環境・衛生・健康を事業の柱として社会に貢献する商品やサービスを提供してきた企業だ。同協会から支援要請を受けた更家社長は、「当社にできることがあれば協力させていただきたい」と返答した。しかし、事業と芸術を結び付けるプロジェクトの実現は試行錯誤の連続だったという。

多くの企業は、アーティストの発表会などの開催を支援するなど、協賛のスタンスを取ることが多い。しかしサラヤは、「一時的な協賛をしても影響は限定的で、サラヤが支援する意味がない」と考え、「サラヤならでは」の持続可能な支援を模索することにした。

社内でアートに繋がる事業領域を検討する中で、着目したのがサラヤも関わる医療の世界で流行する、「メディカルアート」だった。

「メディカルアート(ホスピタルアート)」とは、医療施設でアート作品を飾ったり演芸を披露することで、患者はもちろん施設の従事者に癒しや明るい気分を感じてもらう取り組み。欧州には「建設費の1%をメディカルアートに充てる」という病院もあるそうだ。

しかし、具体性を検討する中で「メディカルアート」の企画は見直しとなる。例えばその絵画が医療施設に相応しいかを判断する物差しや、施設を探して購入を促すなど、越えなければいけないハードルが高いと考えたからだ。一方で、「絵画が人々の心を動かす」ことには大きな意義も感じた。これを出発点に「企業」「アート」そしてサラヤが培ってきた「SDGs」の視点を掛け合わせ、たどり着いたキーワードが「障害者アート」のレンタル事業であった。

「モザイク」山根由香(2016年)

2015年の国連サミットでSDGsが採択される以前から、サラヤはボルネオ環境保全活動やアフリカ・ウガンダでの衛生環境改善活動など、様々な社会貢献活動を推進してきた。そして今回、SDGsの理念とアートを融合するべく、「障害者アートのレンタル」というアイディアを導き出した。

企画者の廣岡竜也氏(サラヤ広報宣伝統括部長)は、「障害のあるアーティストは、いわゆる一般的なアーティストと比べると世に出る機会が少ないのが実情です。展覧会の開催も考えたのですが、アートの場合、購入するハードルは高い。しかも障害者アートとなると「どんな芸術的価値があるのか」という見方もされます。その課題を、レンタルという手法で解決できないかと考えました。また呼び方もインクルーシブアートとしました。」という。

各種サービスでサブスクリプションが定着した昨今、レンタルという手法が見直されている。最大のメリットは購入コストを大幅に抑えられること。一点ものの作品を購入するには相応の費用がかかるが、レンタルならその何十分の1で自分のものにできる。

レンタルすることで意識のハードルを下げれば、インクルーシブアートに触れる機会を増やせる。興味を持つ借り手が増えれば、障害者への理解が深まりアーティストの収入もアップする。合わせて事業収益が増えれば、新たな作家のレンタル作品を増やすことにつながり、より多くの作家にチャンスを提供することが可能になる。という筋書きである。

さらに「障害者だから。という視点ではなく、アート作品として価値を感じてもらいたい」と考え、障害者アートに造詣が深いギャラリー、Office N(オフィス・エヌ、宮本典子代表)の協力を得て、「art bridge ―もっと身近にインクルーシブアートー」プロジェクトを立ち上げた。

スキームはこうだ。オフィスエヌが作品を選定。制作された複製画の注文、決済、発送までを一手に担う。選ばれた作品の複製には表装・表具の製作や美術品の修復で定評のある精華堂(岡本諭志代表)が協力した。緻密なものやモノトーン、数字を書き綴ったもの、抽象画など魅力的な作品が揃うが、ある特定の作品に注文が重なっても複製画であれば同時に何ヶ所も飾ることができ、チャンスロスを減らすことができる。

オフィス等に飾る際のイメージ画像

貸出の対象はオフィス、店舗、病院、公共施設等の事業者で、今のところ個人宅は対象外。レンタル料金は1作品あたり年間6万6000円(月額5500円、税込)からとなる。

「無題」平野喜靖(2015年)

作品のラインアップは、大阪府福祉部の事業「capacious(カペイシャス)」プロジェクトの協力のもと、現代美術のマーケットで評価を得るアーティスト11名でスタートした。今後も作品を充実させていく予定である。

サラヤは事業のリードパートナーとして立ち上げ費用を捻出したが、ここで収入を得ることは一切ない。「資金が途絶えれば事業も無くなってしまい、多くの作家が世に出ていく機会が失われてしまう。この事業の意義に共感して絵画を借りてくれる企業を増やし、サポートする作家の数を増やしながら、持続性のある活動にしていなかければなりません」(前出の廣岡氏)。

なお廣岡氏は、障害者教育に従事する奥様から、現場の実情を伝えられ、支援の重要性を認識していた。「障害者支援はその家族や友人などの限られた範囲で成り立つ側面がありますが、身内ではない第三者が輪に加わっていくことが大事だと考えます。この事業が、そのきっかけになることを期待しています」と語っていた。

「おもてなし」に「障害者の自立支援」のメッセージを添えて絵を飾ろう!
マツココのミーティングルームに飾られるインクルーシブアート

マツキヨココカラ&カンパニーの東京事務所には、各ミーティングルームに障害者アートが飾られている。その絵と対峙した際、癒しと同時に特別な感情が湧いたことを覚えている。「絵画を飾る」行為には「おもてなし」の意味があるが、インクルーシブアートなら、「障害者の自立を応援しています」というメッセージになる。鑑賞した従業員にその意識が芽生えれば、我が国のSDGsも一歩前進するはずだ。経済価値とは別次元の企業価値を創造する同事業を是非、活用していただきたい。

▶︎art bridge公式ウェブサイト:https://art-bridge.jp

▶︎プラン・ご利用の流れ:https://art-bridge.jp/plan-flow/#plan