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“トモズ発”のかかりつけドラッグストアを追求

調剤併設DgSの進化形「トモズ」の戦略
 〜角谷真司社長インタビュー

住商グループでドラッグストア事業を運営するトモズは昨春、7年間トップマネジメントを務めた德廣英之氏の後任に、住友商事の角谷真司(すみやしんじ)氏を擁立した。角谷氏は德廣氏と同期入社。ドラッグストア事業の立ち上げにも関わり、グループのリテイル事業に精通する人物だ。このほど角谷社長にインタビューし、トモズの方向性について伺った。今後は唯一無二の「トモズ」ブランドに磨きをかけながら、 「“トモズ発”のかかりつけドラッグストアを追求していくという。(取材と文=八島 充)

角谷真司社長

――住友商事に入社した93年から現在までの歩みをお聞かせください。

角谷社長 最初に配属されたのは、グループのSM・サミットや通販会社・住商オットーなどのリテイル事業を管理する投資事業本部事業企画部でした。入社する前からドラッグストアの事業化プロジェクトも進行しており、そのプロジェクトメンバーにも加えていただきました。

サミットでは、経営上の重要な事項を議論して決定する場である、週1回の経営幹部会を傍聴できたのが大きかったです。当時社長だった荒井伸也氏は皆に、「スーパーマーケット事業はかくあるべき」と、小売理論に止まらず、経営理論にまで踏み込み、毎回熱く説いておられました。学生に毛が生えたばかりのような私も、荒井氏の熱量に衝撃を受け、彼の言葉が私の財産となっています。

ドラッグストアの事業化プロジェクトは、「これから日本で医薬分業が急速に進む」という想定の下、米国型の調剤併設ドラッグストアを志向することになります。

トモズ1号店の池尻大橋店(当時)

当時の日本には、門前薬局、街のパパママ薬局、そして急成長する前の複数のドラッグストアチェーンが存在しました。いずれも成長過程にあり、繁華街で化粧品を中心に売る店や、生活雑貨の安売りをする店などが多く、私たちの目指す調剤併設型ドラッグストアは、まだほとんどありませんでした。

高い理想とサミットで学んだ小売ノウハウをベースに93年9月、トモズの前身となる住商リテイルストアーズを設立しました。しかし、ゼロからのスタートだった故に、先行企業に追いつくのは容易でなく、軌道に乗るまでには時間を要しました。

「明るく、見やすく、綺麗に、整然と」を体現したトモズの店内

その後トモズは、医療の一端を支える小売業として「明るく、見やすく、綺麗に、整然と」というルールを大切に、売場を改善し続けます。その精神は今も当社に受け継がれ、お客様から支持を得るようになりました。また、その過程で私は、トモズにとって初の大型M&Aとなった朝日メディックス(2001年)にも勤務しました。

――日本に「調剤併設型ドラッグストア」の概念がない中で、それを英断し貫いた住友商事の先見性は注目に値します。

角谷社長 数ある商社の中でも住商は特殊な会社です。SMのサミットも通販事業も、またエディー・バウワー、ショップチャンネル、ジェイ・コムなども、ゼロからスタートした事業でした。他の商社は、そのような手間のかかる挑戦はしません。当時の住商は、「リテイル事業そのものを収益の柱とする」という強い覚悟を持って事業に取り組んでいました。

高度成長期以降、商社を含む異業種・異業態が相次いでSM事業に参入しましたが、生き残ったのはサミットだけです。住商リテイルストアーズの立ち上げメンバーには、こうした自負を抱いた若者が多く、大きな裁量も与えられたので、私自身も充実した期間を過ごしました。


――同期入社の德廣氏とも一緒に仕事していたのですか?

角谷社長 私は住商側からトモズを支援する立場は長かったですが、途中アメリカに駐在する期間もあったりしたため、德廣社長と直接現場で共に働いた期間はさほど長くはありませんでした。ただ、懸命にマネジメントに取り組む彼を、陰に日向に応援してきました。


――その德廣氏の後任になることは予想していましたか?

角谷社長 トモズの社長を7年間務めた德廣氏の後を、(住商の)誰かが継ぐことは想定できました。リテイル事業に関わってきた経歴から、私もその候補の1人かな、とは思っていました。ただ、内示辞令から1週間で引き継ぎをやれ、と言われるとは思いませんでしたね(苦笑)。

――社長就任前に抱いていたトモズのイメージはどのようなものでしたか?

角谷社長 現場を含め事業の概要は把握していたので、イメージというよりトモズの現状を割と明確に理解していたつもりです。近年は売上高1兆円クラスのドラッグストアが複数出現していますが、当社はその10分の1。寡占化が進む業界内で戦う規模としては、十分でありません。

一方で、設立時から一貫して調剤併設型ドラッグストアを志向し、店舗網を首都圏に持つ優位性はあります。「明るく、見やすく、綺麗に、整然と」した売場も、都心の一等地で戦う上で大きな武器です。何より、トモズの看板に誇りを持って働く従業員が、大きな財産であり差別化です。これらの資産を磨き上げて成長を維持させることが、私に与えられたミッションになります。


――今後の方針をお聞かせください。

角谷社長 社長就任の直後、幹部約30人を集めオフサイドミーティングを実施しました。丸4日間膝詰めで「トモズのあるべき姿」を話し合い導いた答えが、「みんなを笑顔にかえるトモズ発の“かかりつけドラッグストア”を創る」というものです。

「かかりつけドラッグストア」という言葉は良く耳にしますが、トモズ発、つまり、トモズにしかできない“かかりつけドラッグストア”を創造することが、大きなテーマとなります。

私たちが提供するサービスは、生活必需品から医療の一端を担うものまで幅広く、この世に生を受け、成長し社会に関わり、天寿を迎えるまで、全ての方々を対象としています。その時々の悩みを抱えたお客様に、「トモズに行けば何とかしてくれる」と言わしめるようなモデルを構築していきたいと考えています。


――理想のモデルに近づくために必要なことは何でしょう?

角谷社長 従業員のモチベーションを高めることが何より重要です。そのためには待遇面を含め、皆が笑顔で働ける環境を、あらゆる観点からつくっていく必要があります。

一方で従業員は、お客様1人1人に寄り添って職務を全うする、という気概を持って取り組んでいただきたい。お客様から「トモズの〇〇さんに相談したい」と言ってもらえるようになれば、トモズ全体の信頼度が高まり、自ずと収益もついてきます。利益が上がれば当然、待遇も改善されます。そうした上昇のスパイラルを、皆でつくっていきたいと思います。

――信頼を勝ち取るための、具体的な施策を教えてください。

角谷社長 既存店の改装を通じ、ここまでお話しした想いを形にしています。一例として、従来の調剤併設店舗を調剤専業に転換し、空いたスペースを地域のコミュニティスペース、あるいはドクターとミーティングするスペースを設えることなども検討しています。

管理栄養士が常駐する「けんコミ」(サミット鳩ケ谷駅前店)
セルフチェック機器を用いて健康相談に乗る「トモズラボ」

 

また、セルフチェック機器を設置した「トモズラボ」や「けんコミ※」といった独自の機能を導入し、日々の健康管理をサポートする店舗も増やしてきます。品揃えや売価だけではない部分でトモズに対するロイヤリティを徹底的に高め、競合店との差別化を図る狙いです。


――その差別化を担う人材はやはり薬剤師でしょうか?

角谷社長 国の政策に合わせた調剤機能の強化は大きな課題であり、それを遂行する薬剤師は欠かせない存在です。一方で、今すすめている施策は、登録販売者や管理栄養士、あるいは2年前から育成している睡眠健康指導士などの活用が鍵を握ると考えます。

すでに「トモズラボ」や「けんコミ」のコーナーには管理栄養士が常駐し、「食と健康」のアドバイスをおこなっています。今後はトモズとして、「睡眠の悩みにも応えられること」なども目指します。今年以降、こうした切り口の店舗が増えていくのでご期待ください。

※「けんコミ」は、住友商事株式会社、株式会社トモズ、サミット株式会社(以下総称して「3 社」)が共に、2021 年 3 月にサミットストア鳩ヶ谷駅前店で初めて導入した、サンフラワープロジェクトが提供する 「健康コミュニティコーナー」です。


――出店ペースも上げていくと聞きました。

角谷社長 当社の得意とする都心一等立地への出店を継続する一方で、生活者が住まうエリアへの出店を促進します。住宅地立地で来店頻度を高めるために必要な食品など、利便性ニーズが高い商品の品揃えも、これから見直していきます。

首都圏の店舗網が厚くなれば、強みとする調剤の機能も一層活きてきます。日々、トモズに買物に通って来て下さる地域の方々が、健康面でお困りの時に、大病院でもクリニックでもなく、真っ先にトモズに相談に来てもらいたい。そこで従業員1人1人が専門性を持って、お客様に寄り添ったサービスを提供する…。設立から30年をかけて守ってきたスタンスを、大きく花開かせたいと考えています。

170万人が利用するトモズアプリ(左)とトモズカード

――トモズ会員向けのアプリも顧客満足度を高めるツールになっていますね。

角谷社長 DL数は200万以上、直近で170万人以上の方に会員登録していただきご利用いただいております。これからのビジネスは、お客様との接点をどれだけ作っていけるかが重要です。現場でその使命を果たすのは従業員ですが、より実効性を高めるためにはDX化も不可欠です。DX化を通じ今後は、マーケティング活動も1段高いステージに移行していきます。


――住友商事が昨春に買収した調剤薬局チェーンの薬樹との連携は?

角谷社長 薬樹のグループ化は昨年に住友商事が新設したヘルスケア事業本部(本部長は德廣氏)における国内ヘルスケア事業戦略の一環ですが、当社自身も調剤薬局の買収を進めています。

取得した調剤薬局にドラッグストアの機能をどのように注入するかも今後の課題です。今後増えるであろう在宅の患者様に、必要なものを手軽に購入できる環境を、オンラインなども活用しながら提供していきます。最終的には、サミットとトモズ、さらに薬樹ほか、グループ化した薬局と顧客情報をつなぎ、地域に住まうお客様一人一人に一層寄り添ったビジネスへと発展させていく考えです。

――ありがとうございました。

〔角谷真司氏略歴〕
▽出身地=東京都 ▽生年月日=1970年6月2日 ▽学歴=早稲田大学政治経済学部卒 ▽職歴=1993年4月 住友商事入社、投資事業本部事業企画部配属、1995年2月 住商リテイルストアーズ(現トモズ) 事務従事、2004年10月 米国住友商事会社 SCOAリスクマネジメントグループ2018年4月 住友商事ライフスタイル・リテイル事業本部リテイル事業部長、2022年4月 住友商事理事  ライフスタイル事業本部ライフスタイル事業本部長補佐リテイル事業第一部長、2023年4月から現職