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ドラッグストアが秘める「メンズテック」の可能性

社会的課題「人口減」「労働寿命延伸」

ドラッグストアの大きな課題として挙げられるのは「人口減社会に対応したマーケティング」であり、これを可及的速やかに着手すべきだろう。

日本は2010年の1億2,800万人をピークに人口減社会に突入し、40年後には9,284万人になる(内閣府)と予測されている。数字だけで表すとなかなか実感が湧いてこないが、この数字は「2010年の人口から神奈川県、愛知県、埼玉県、千葉県の人口がまるまる日本から抜け落ちてしまう規模」と表せば、ヘルスケア業界やリテイル業界だけではなく、さまざまな業界において強いインパクトを与えることになるだろうと安易に予測できる。さらに、人口構造においても65歳以上の高齢者が38%という、世界でも類を見ない頭でっかちな構造となってしまうのだ。

これは何を意味するのかと言うと、日本の国力を維持していくには、一人でも多くの人が、長く労働しなければいけないということである。つまり、健康寿命と同時に“労働寿命”を延伸する受け皿として、“街の健康ハブステーション”を標榜するドラッグストアは、人口減社会をどの業態よりも早く意識し、啓発していくことが不可欠となる。

近年では「フェムテック」といった切り口で一般用医薬品や機能性表示食品、サプリメント、ウェルネス志向な日用雑貨品に横串を刺した形で、女性のライフステージにおけるヘルスケアを訴求するカテゴリーが徐々に形成されつつある。取材をしていると、ドラッグストアはフェムテック市場に対して、非常にポジティブに取り上げており、売り場に目を向けるとそれが素直に表出しているようにも感じる。

日常的な買い物をしに来店する女性に向けて、「フェムテック」というワードと商品の機能性等の付加価値を訴求しながら想起購買を促す。「フェムテック」は「自分らしく、健康に」というコンセプトを持っており、その延長上に健康寿命(労働寿命)延伸や社会における女性の活躍という観点では、来たる人口減社会に向けて、ビジネス的にも人間の生き方としても非常に良い取り組みだと感じる。

男性ニーズを無視しがちなドラッグストア

ただ一つ、そんな売り場を見ていて「ん?片手落ちでは…」と感じることも正直ある。それは何故か?

それは単純であり、「女性に偏っているために、男性にターゲッティングした売り場が少なすぎる」ということだ。それが「来店客の8割以上が女性」だった10年前のドラッグストアでは何とも思わなかったかもしれない。だが、近年ドラッグストアは、食品拡充(ワンストップショッピング機能の強化)によってマンスリーユースからウィークリーユース、デイリーユースと来店頻度を高めてきた。さらには、新型コロナウイルスの流行によって、ドラッグストア時短ニーズの受け皿となり、この傾向が加速しており、店舗や立地によっては「来店客=女性と男性が半々」という店舗が増加している。さらに言えば、時間帯(20時以降など遅い時間帯)によっては、男性客の方が明かに多い場合も見受けられる。

要は、ドラッグストアをはじめとするヘルスケア業界において、男性も無視できない存在になってきたということだ。これは店頭に勤務しているスタッフならば肌で感じていると思う。だが、ドラッグストアに目を向けると男性にターゲッティングした売り場は男性用化粧品のみという店舗が9割以上…。

実際に男性来店客の買い物カゴを覗いてみると、「酒類」「加工食品」「菓子」「マスク」「洗剤」が大半であり、「今日食べるもの」「なくなったから補充する必要がある生活必需品」で買い物が終わっている。せっかくワンストップショッピングの強化と新型コロナウイルス流行をきっかけにドラッグストアを利用し始めた男性客が増えているのにもかかわらず、その客単価は女性客よりも低い傾向にある。

大手ドラッグストアのバイヤーにこれを伝えると「そうなんだよ。それが悩みの種なんだよ」と話すが、筆者は、客単価が低い理由について「男性が手を伸ばしたくなるような売り場が壊滅的に少ない」という単純なものであると推察している。店内には、男性でも活用できるヘルスケア商品が数多く陳列されているのに、それが彼らの目に入ってきていない。その商品の目の前を買い物カゴを下げながら通り過ぎている。実にもったいない。

「メンズテック」に対応する商品とは?

具体的にどのような商品が男性に響くのだろうか。同時に人口減社会における健康寿命(労働寿命)延伸という切り口で、男性にどのような商品が求められそうなのか。ドラッグストアはそれを熟考した上で、「フェムテック」と双璧をなすカテゴリーとして「メンズテック(男性のライフステージにおける課題を解決する製品)」を打ち立てるべきだ。何も新しい商品を開発しろと言っているのではなく、「フェムテック」のようにカテゴリーを横断した商品群に横串を刺して、男性にアプローチすることが重要になる。

ここで一例を挙げてみよう。男性ホルモンであるテストステロンに注目すると、40歳をピークに減少し、それから増加していくというケースはほとんどない。この現象のために男子更年期障害が発症し、興味や意欲の喪失や不眠、情緒不安定などの心を起因とする症状に加え、関節痛や筋肉痛、性機能の低下など体を起因とする症状が出てきてしまう。また、「もっと健康に、長く働きたい」と願う高齢男性もテストステロン減少によって鬱に悩まされるケースもあるという。

ただし、「男子更年期」も「男性高齢者の鬱」も社会的な認知度が低く、「理由が分からないけれど、調子が悪い」の理由が「テストステロンの減少」という答えに辿り着かず、深刻な悩みを長く抱え続ける人たちも存在する。ドラッグストアは、“街の健康ハブステーション”としてこうした問題にメスを入れるべきだし、「メンズテック」のコンセプトの1つとして取り入れるべき社会課題であると位置付けるべきだろう。

男性ホルモンを配合した唯一の一般用医薬品「金蛇精」

実は、この問題解決の重要な鍵となる商品は、ドラッグストアの売り場に存在している。どこに存在しているかお分かりだろうか…。要指導医薬品や第1類医薬品が陳列されているガラスケースの片隅だ…。ロキソプロフェンやファモチジン、ミノキシジルなど第1類医薬品のメイン商品を購入する人しか気づくことができない場所だ…。

そこに陳列されているのが「金蛇精」(第1類医薬品)という商品だ。男性ホルモン(メチルテストステロン)が配合された唯一の一般用医薬品であり、「男子更年期障害及びその随伴症状として精力減退、視力減退、記憶力減退、全身倦怠、頭重、五十肩」などの効能効果を持っており、「男子更年期」や「男性高齢者の鬱」に対応するど真ん中かつ唯一無二の商品だといえる。

「金蛇精」に限らず、男性に響きつつも社会課題に対応できる訴求点を持ちながら、売り場にひっそりと陳列されている「知る人ぞ知る」という商品は数多く存在する。これらにもう一度目を向け、現代的な男性や社会の課題に照準を合わせた売り場提案が「メンズテック」の趣旨であり、引いてはそれが潜在需要の掘り起こし、そして売り手にとっても買い手にとっても影響をもたらすのは間違いない。

(ヘルスケアジャーナリスト・佐藤健太)

「金蛇精」の詳細 https://www.mayado.jp/lineup/kinjyasei.html