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DMS定例会 ドラッグストア業界人に向け「マネジメント」講演披露

レジェンドプロレスラー、MS執行役員、日本代表コーチが製販配にビジネスマインドを伝授

 ドラッグストアMD研究会(DMS)と健康食品市場創造研究会が組織する合同研究会は1月24日に都内で「第197回DMS定例会 新春政策セミナー・賀詞交歓会」を開催した。定例会は「ビジネス新時代 ドラッグストアの成長エンジンはどこにあるのか~事例から多角的に成長エンジンを探る~」をテーマに実施され、セミナーに参加した製販配に携わる業界人の前でプロレスラーの蝶野正洋氏、元・日本マイクロソフト業務執行役員の澤円氏、日本オリンピック委員会サービスマネージャーの中竹竜二氏が特別講演を行った。

「蝶野正洋のモチベーションアップ法・地域共生法」

 蝶野正洋氏はプロレスラーであり、アパレル企業アリストトリスト社の代表も務める傍ら、公益財団法人日本消防協会の消防応援団にも携わり、「AED救急救命」ならびに「地域防災」の啓発活動に力を入れている。

 蝶野氏はプロレスラーとしての上でのモチベーションアップ法と、消防応援団としての地域共生の考え方を「蝶野正洋のモチベーションアップ法・地域共生法」として講演した。

蝶野氏

 プロレスラーとしての海外巡業の経験を「アメリカはプロレスの文化が根付いており、WWEなど団体も多い。プロ選手のマイクパフォーマンスが優れ、優秀なセールスマンである。観客に『次を見たい』と思わせてこそのトップレスラー。私はそこに驚き、日本でその領域に至るまで苦労した」と振り返った。

 過去の日本プロレス試合では、チケットガイドなど観戦チケットの取扱いが無く、プロレス団体の加盟選手はもちろん会社スタッフ全体でチケットを手売りしていたという。

 加盟団体の新日本プロレスは全国で興行を行っており、東西で2ブロックの営業部があった。東日本の担当者はお酒も女性も好きな人、一方で西日本の担当者はお酒も飲まないマメな人で、どちらも優秀だったという。

 自身の時代を振り返り「興行という特性上、営業も含めてプロレスラーは接待を受けますが、その席で東日本の営業担当者はスポンサーの横で大いに宴会を楽しんでいる。猪木さん(故人:アントニオ猪木氏)と同席した時も横で女性を口説いていました。私は『スポンサーを前にまずいんじゃないか』と思ったが、猪木さん曰く『これが彼の営業スタイルなんだ』と。一方の西日本担当者はスポンサーと打合せをし、真面目に営業を進めていました。今はコンビニやネットでのチケット販売があり、営業スタイルが確立されていますから、営業マンがあまりいないのですが、当時は優秀な営業担当者でもスタイルが全く違うことに驚きました。技術の進化もそうですが、今は若い人を中心に働き方への考え方はもっと変わってきているでしょう」と蝶野氏は語った。

 また、蝶野氏は自らが携わる救急救命の重要性啓発について「私はプロレスの現場に携わる人間として救急救命の重要性を感じています。プロレスにおけるケガは脱臼や骨折が大半ですが、特に注意しているのは脊椎と頭部です。やはり頭や脊椎に衝撃を受けた時は動かしてはいけません」とプロレスラーとして得た危機管理意識を示した。

 「AEDが導入される以前は『命に係わることは一般人がやってはいけない』という社会意識でした。身近で突然倒れても処置は救急救命士や医療従事者、また飛行機ではCAといったプロが行っていました。私は一般の人でも救急救命が行えるAEDの存在に驚き、AEDおよび一般の人が救急救命できることを伝えていきたいと思っています」(蝶野氏)。

 救急救命が重要な災害対策について蝶野氏は「この度の能登半島地震もそうですが、救急車や警察といった公助には限界があるということ。東日本でそれが明らかになったと感じます。だからこそ皆が災害対策および救急救命の意識を持った自助が重要です」と語る。

 「例えば行政や自治体が呼び掛けているハザードマップは危険地区にチェックがされていますが、チェックマークの周辺には古い建物もあれば新築もある。住んでいる世帯も様々。すると各家庭で準備や心構えも違ってくる。それをお互いでフォローし合うのが自助です。私は高校生と中学生の子供がいますが、いつも出掛ける朝はバタバタしています。家を出るとき誰かが遅れるとみんなが遅れる。そうならないように準備を進めていく。これは防災も、仕事も同じですよね」と蝶野氏は呼び掛けた。

「DXを本気で進めるためのマインドセット」

 続いて特別講演2では株式会社圓窓の代表取締役で元・マイクロソフト業務執行役員の澤円氏より「DXを本気で進めるためのマインドセット」が講演された。

 澤氏は冒頭「マインドセットとは『心の持ちよう』と考えてほしい。DXはツールだけでは完成せず、人が用いてこそ実現できることなのです」と話した。

澤氏

 「新型コロナウイルスが世界に与えたインパクトは、『移動が自由にできない世界になった』という制限から在宅勤務の浸透やスマホでのデリバリー注文といった社会的変化を植え付けました。これはOSソフトの『Windows95』が登場し、メールやインターネットで〝それ以前の時代には戻れない〟世界になったのと同じなのです」と澤氏は話す。

 コロナ禍以前より、デジタル技術が水道やガスと同じような重要なインフラになったことを強調し「例えば、町で新しいレストランを発見しても、スマホで検索してレビューを見るという行動が当たり前ですよね。これは人がデータを信用する存在になったということ。 つまりデータになっていなければこの世に存在しないということになり、そうすると全ての企業は『テクノロジーカンパニー』になっていくでしょう」と示した。

 そのうえで、DXの障害となっている課題として「日本企業はITを扱う人と運用する人が全く別になっているのが問題。本来のDXは社内で事業に必要な技術を精査してIT技術を求め、そこでITベンダーに依頼して技術を導入する。しかし日本のIT技術は『売り物』になりがちで、ITベンダー自体が提案営業を行っていくため、情報技術のノウハウが導入会社に残らず、逆に漏洩するリスクすら生んでしまうのです」と提起した。

 「今後のDXを見据えたビジネスの上で『私IT苦手なんです』は禁句です。あいまいであってもビジョンを持ち『どの業務に役立てるツールが欲しいか』というニーズを明らかにしなければ、ITベンダーにとっても対応のしようがありません。デジタルに明るいとみて若手に任せようとしますがデジタルネイティブがIT技術の運用に詳しいとは限らない。デジタルネイティブは『デジタルなしでは耐えられない世代』と定義すべきです」と注意を呼び掛け、「運用方法を知らずとも〝ミッション達成のためにIT技術を使おう〟と考える人が『DX人材』なのです。単にIT技術に詳しい人にDXを任せてしまうとIT部門になってしまうでしょう」と運用に対する意識変容を呼び掛けた。

 またDXがもたらす組織の在り方の変化について「業務管理はテクノロジーが得意とする分野です。そうすると『管理職』はもはやナンセンスで、『マネジメント業務』ととらえるべきです。マネージャーの仕事は『ビジョンを示す』ことです。ビジョンは北極星であり、ビジョンなしでは業務は動かないのです」と話し、「陸上競技で例えるならば、先回りして道を掃除するような仕事、結果に結びつくよう整備することです。走り方を教えるのではなく、走る準備を整えることに力を注ぐべきなのです。一番していけないことはメンバーと競争することです。マネージャーが権限を振りかざし競争するとメンバーのモチベーションが下がります。マネージャーとプレイヤーは業務の役割が違いますし、同じビジョンに対して解像度が違う、ということを理解すべきでしょう」と説明した。

「自律自走する個と組織の作り方」

 特別講演3では株式会社チームボックス代表取締役で、日本オリンピック委員会サービスマネージャーであり、ラグビー日本代表ヘッドコーチ代行も務めた中竹竜二氏が「自律自走する個と組織の作り方」と題し、指導者やリーダーに求められる資質およびマネジメント法について講演を行った。

 中竹氏はセミナーでコミュニケーションを通じた課題解決を提案し、セミナー参加者に意見を出し合って考える実践型の講演を実施した。

中竹氏

 講演では「今、受験シーズン真っ盛りです。試験当日に受験生にどんな言葉をかけますか。またスポーツの試合前にコーチとして選手にどんな言葉をかけますか」と問いかけた。中竹氏によると「つい『頑張って』と言いがちですね。ですが『頑張ってきたね』の声かけのほうがよりよく響きます。また試合前に選手に声をかけるならば、私はコーチ時代に『勝てよ』より『全力で』と伝えてきました」と説明した。どちらの回答も「時間軸が違う」という。

 中竹氏は「どちらの声掛けも、コントロール可能なことに集中させる言葉なのです。受験に挑む時点で受験生にとって頑張るのは当たり前で、試合前の選手は勝つためにフィールドに立っています。極論を言うと、勝ち負けはルール上定められたもので、受験生や選手にはコントロールできない面もあります。ならば試験でもスポーツでも『勝利』を求めるだけの声より、プレイヤーがコントロールできるエリアを信頼してあげることが大切なのです」と話す。

 ラグビー日本代表ヘッドコーチ代行も務めた経験から、組織の作り方についても語った。「試合は選手みんなに頑張ってもらわなければ、成果は上げられない。そのフォローアップがヘッドコーチの役割」と説明。そのうえで重要なリーダーの行動形態を「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」だと示した。

「リーダーシップ」は引っ張る仕事で、「フォロワーシップ」は支える仕事で、シーンによって配分を変えてバランスをとっていかなければならない、とした。

 中竹氏は「グレートリーダーは両方を最大化している。現ラグビー日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズはその良い例です」と話す。

 「フォロワーシップ」=支えるとは、「見守る、寄り添う、聞く、助ける、目立たず、見えづらい」仕事である。一見当たり前のようなことだが、「リーダーシップ」=引っ張る仕事と同様に重要な仕事だという。

 「コーチ(あるいはマネージャー)が『リーダーシップ』だけに力を込めるとチームの自主性が失われ、指示待ちのチームが生まれる。コーチとチームの両方が『リーダーシップ』『フォロワーシップ』の意識をもってこそ『自律自走する個と組織』なのです」と中竹氏は説明する。

 中竹氏がコーチとして実践した比率は「リーダーシップ」1:「フォロワーシップ」9。「コーチとして先発メンバーを決める際は必ず『リーダーシップ』を発揮しました。理由はメンバー決めは必ず揉めるということ。そして組織するのはリーダーの仕事だからです。ほとんどが『フォロワーシップ』に徹していましたが、コーチが何の仕事を担う役割かを忘れてはいけないのです」と語った。

 「イノベーションで世界をけん引するGAFAの経営者、ラグビー日本代表、監督・コーチといった名将の手腕を振り返っても共通した手法はない。ただ共通しているのがオーセンティックリーダーシップ、つまり誰しもが「自分らしく」リーダーシップを発揮し、一貫するということです」と講演を締めくくった。