人々の”いつまでも健康でありたい“という願いを叶えられるよう普及活動に飛び回る日々
人の健康維持に欠かせない、食品の持つ機能研究が活発化している。その第一歩は、素材を見つけることからだ。大学の研究者、技術者、企業などがコラボして、動物や人による臨床試験を経て人の健康に関わる機能性素材が誕生する。1961年、アメリカに「革新的な農作物を作りたい」と情熱を燃やす、ひと組みの夫妻によって素材を生産・販売する企業が誕生した。やがてその企業は、健康創造に結びつく機能性素材の存在を知り、出会った研究者の研究成果は世界に向けて発信されることになる。日本にも情報が届き、当時ほとんど知られていなかった素材と出会った一人の人物によって、普及活動が始まった。「私が出会ったのは、現代人が気にする”目の健康“に関わる素材でした。それから、人々の”いつまでも健康でありたい“という願いを叶えていただけるよう、普及活動に専念してきました」―そう語るのは、普及拠点として2000年に創設されたケミン・ジャパン代表取締役の橋本正史さんだ。得意の語学がきっかけで『ルテイン』と出会い、創業25年後の今、日本以外に台湾を含むアジアパシフィック地区への普及活動に精力的に取り組む日々の橋本さんに、『機能性素材“ルテイン”誕生の軌跡と“力”』を聞いた。

―― ケミン・ジャパンは、多くの人たちが関与し設立されたそうですが、今日に至るまでどのようにして歩まれてきたのでしょうか。創設してから25年、ちょうど四分の一世紀になりましたが、普及に力を注ぐ『ルテイン』という機能性素材誕生の軌跡についてもお話しください。
橋本正史代表取締役(以下、橋本代表): 1961年、アメリカ中西部のアイオワ州に、R.W.ネルソンとメアリー・ネルソンご夫妻によってケミン・インダストリー社が設立されました。色素や添加物など主に動物の飼料の製造・販売に携わる小さな社屋でスタートしましたが、今は、設立者のR.W.ネルソンの息子でPh.D.(Doctor of Philosophy)のクリス・ネルソンが社長兼CEO(最高経営者責任者)として陣頭指揮にあたっています。
本社が事業を進める中、1990年代にマリーゴールド色素に含まれる『ルテイン』が、トの健康に対して非常に有用であることが明らかになり、この機能性素材の商品化と普及が考えられるようになったのが始まりでした。ケミン・ジャパンは、このケミン・インダストリー社の日本法人として2000年に設立されました。
日本法人は、まずはアグリフーズ部門が立ち上がり、私はケミン・ジャパンが誕生した1年後の2001年に入社しましたので、今年で丸24年になります。私自身、人の健康創造をサポートする『ルテイン』と出会い、そしてその間、多くの人々との出会いがあって、非常にラッキーだったと思っています。
今日では、『ルテイン』の普及活動は日本国内だけでなく、台湾を含めたアジアパシフィック全体にも広げて普及にも取り組んでいます。もちろんほかにも、いろいろな機能性素材の普及に携わり、広く関係企業に採用していただいてきました。
『ルテイン』との出会いのきっかけ

―― 一つの素材が発見され、多くの人々との出会いによって数々の研究が始まり、やがてその素材が採用され商品化されていきます。『ルテイン』の開発ストーリーには、実に多くの研究者が登場していますが、人々を惹きつける、まるで“磁石”のようですね。そもそも橋本さんと『ルテイン』との出会いですが・・・。
橋本代表:私は、仕事柄、海外に出向くことが多く、幸い語学を学んできましたので、実はケミン・ジャパンが誕生する前に勤務していたのが、光洋商会という食品素材の貿易会社でした。ここでの私の業務は、外国の仕入れ先との渉外担当でしたが、その一方、一般食料品の素材部門も担当していました。『ルテイン』との出会いは、この時です。
ケミン・インダストリー社は、すでに光洋商会と取引をしておりましたが、当時の社長と副社長が来日し、日本市場において、これからルテインの市場は大きく伸ばせる可能性があることについて話してくれることになっていました。その時に、ちょっとしたアクシデントがありました。たまたま光洋商会のケミンの社長と副社長の通訳を担当する社員がカゼをひき、急遽、その代役が私に回ってきたのです。
そこで私は、マリーゴールド色素に含まれる『ルテイン』が、人の健康に対して非常に有用であることを知りました。この日の通訳を担当したことは、それからの私の人生を大きく変えることになりました。この時の出会いがきっかけで、その後、ケミン・インダストリー社から日本を含むアジアパシフィック全体の市場開発における拠点作りの話が持ち上がりました。
話し合いの結果、私が両社の“架け橋”となることになったのです。そして2000年、ケミン・ジャパンが誕生し、私はその1年後に同社の国際事業開発部長(米国ケミンヘルスアジア市場担当取締役)として、日本国内で『ルテイン』の普及活動を始めました。
医学雑誌『JAMA』に『ルテイン』の論文が掲載
―― その後、『ルテイン』の普及活動は、どのようにして・・・。
橋本代表:ケミン・インダストリー社は、大きな理念として「世界の人口の80%の人を自分たちの製品とサービスで生活の質を上げていきましょう」を掲げ、グローバルな会社を目指し、地域のニーズを意識して事業に取り組もうと、研究所や生産拠点が各地にあって、今のところ120か国以上に様々な商品を供給しています。
ケミン・インダストリーグループ全体の規模からすると、圧倒的にアニマル・ニュートリションが7〜8割ぐらいでしたから、まずは家畜の健康の維持、あるいは農業自体の健全化に取り組んでいかなければという発想がありました。
例えばニワトリが、『ルテイン』を含んだマリーゴールドのミールを食べると、卵自体の黄身がきれいな黄色になりますが、人に対しては何も取り組んでいませんでした。ところがケミン・インダストリー社が創業した1961年から33年後の1994年に、ハーバード大学のエミリー・Y・チューさんが、『ルテイン』に関する一つの論文を出しました。

「『ルテイン』を野菜からとっている人たち、具体的には、「1日に6ミリをとっている人たちは加齢黄斑変性という病気のリスクが6割ぐらい減らせているようだ」というものでした。論文は、米国医師会が発行する極めて格の高い医学雑誌『JAMA』に掲載されました。
アメリカの場合、加齢黄斑変性は非常に大きな問題で、日本もだいぶ大きな問題になってきています。1450万人ぐらいの方が罹患されていますが、加齢黄斑変性になってしまうと、網膜の中心の黄斑が変性して視力低下や視野の中心が歪んで見えるようになってしまうことになりかねませんので、早く対応しなければなりません。
大きくクローズアップされたきっかけ
橋本代表:『ルテイン』がアジアにおいて大きくクローズアップされたのは、2003年のことでした。シンガポールでSERI-ARVO、これはシンガポールアイリサーチインスティテュートというところと、ARVOというアメリカ最大の眼科の学会が一緒になって、シンガポールで非常に大きな眼科の学会が開催されました。
その時に、今でもお付き合いさせていただいていますが、聖隷浜松病院眼科部長の尾花明先生とご一緒に参加させていただきました。尾花先生がまだお若い頃でしたが、「ルテインは非常に面白いそうだ」と興味を持っていただきました。加齢黄斑変性については、その頃は日本で今ほど問題視されていませんでしたが、「これから栄養学的なアプローチは、すごく重要になってくる」というお考えをお持ちの先進的な先生でした。
そしてそのSERI-WRVOの学会で、尾花先生はアメリカで著名な眼科医であるユタ大学のポール・バーンスタインがご講演されました。バースタイン博士は、早くから加齢黄斑変性の治療だけではなく、予防的な措置の中で、ルテインを使った栄養学的なアプローチの重要性について世界に先駆けて注目され、ご自分の人生をかけ『ルテイン』を研究しながら、加齢黄斑変性のリスクをどうやって抑えていくか。その予防学的アプローチによる数多くの研究を行われておられます
私が、非常に運が良かったのは、尾花先生と一緒にバーンスタイン博士にお会いできたことです。実は、2003年にシンガポールで開催されたSERI-ARVOでのご講演では、その際にサプリメントのプラス面とマイナス面、サプリメントに対して懐疑的な眼科医と肯定的な眼科医との討論の場、コントラバーシーをやっていただきました。
その時に、オーストラリアから来られたサプリメントに懐疑的な眼科医が、とてもいいことをおっしゃられました。バーンスタイン博士に対して、「このルテインは良さそうだというのはわかるけれども、加齢黄斑変性のリスクは食事だけじゃない。他にも喫煙であったり肥満があったり、それから太陽光、光の暴露だったり、男性と女性という性別だったり、いろいろある中で、食事が寄与する寄与率はどの程度なのか」とおっしゃったんですね。
「栄養学的なサプリは、すごく大事だから、そういう研究をさらに進めていきます」という意見もありました。そのことを聞かれていた日本の先生方も、尾花先生以外に、「なかなかいい議論している」となって、その考え方を日本に持ってくる流れが2000年代の前半に始まったのは、この時からです。もともとは一人の出会いから始まったことですが、私もその流れに乗ることができて、すごく恵まれていました。
―― 当時は、テレビで健康番組がブームになり、いろいろな商品が紹介されていました。番組で紹介されたとたんに、ドラッグストアの店頭から、その商品がなくなる現象が再三にわたり発生していました。
橋本代表:すごい視聴率でした。『ルテイン』についても、一世を風靡した健康テレビ番組から、「出演しませんか」と誘いがありました。この素材は、どうしたら多くの人たちに認知してもらえるかが私たちの課題ではありましたから、確かに番組に出れば、きっとすごい反響があるでしょう。『ルテイン』が世に知れる絶好のチャンスではありましたが、私たちが出した結論は、「普及には時間がかかるかもしれないけれども、まずは医学会や薬剤師の方々に素材の機能を理解してもらわなければ・・・」でしたので、出演はお断りしました。
機能性表示食品制度の準備を進める中で、消費者庁のモデル事業があり、2013年あたりから急速に制度づくりが持ち上がり、安倍首相の肝入りもあって、機能性表示食品制度は2015年にスタートしました。
様々な機能を食品のパッケージに表示できるようになる制度は、食品が本来持っている機能、もちろん科学的な裏付けがなければなりませんが、目的は国民の健康、特に『ルテイン』は「目の健康に役立ててほしい」―多くの人たちの願いに沿った制度であると思いました。機能性表示食品は、通販やドラッグストアなど多くのルートを通じ普及されるようになったことは、まさに“隔世の感”ありです。
日常生活に『ルテイン』が自然に取り入れられるようにもしたい
―― 「目は口ほどに物を言う」という言葉がありますが、人は言葉で話さなくても、目の表情で理解できることもあります。それほど目は大切ですね。機能性表示食品がスタートしてからは、『ルテイン』入りの商品を取り扱う企業や販売店を通じ、多くの人々が使用するようになりました。

橋本代表:『ルテイン』の軌跡は、まさしく一人の研究者から、多くの人々(研究者)に受け継がれ、今やとてつもない大きな流れになって、世界中の人たちの“目の健康”づくりをサポートしてきています。
2015年に。機能性食品表示制度ができ、これまで多くの人々が携わってきた成果が日の目を見たと思いました。機能の表示は効能効果ではありませんが、公に食品の持つ機能が謳えるなったことは、いろんな方々の研究と臨床の積み重ねによる結果です。
私は、サプリメントの素材として原料の供給に携わってきましたが、日常生活に『ルテイン』が自然に取り入れられるようにもしたいですね。だから日常生活の食事の中で機能が摂取できる。尾花先生もまったく同じ考えなのですね、
例えば、抗酸化作用のあるカロテノイドを摂取できる野菜は1日に350gですが、野菜をどのくらい取っているかは、指で簡単に測れる時代になりました。目は、ある程度年を取られた方は白内障があったりとか、いろんな意味で目に関する状態が難しくなりますので、日常の食生活から、あるいはサプリメントから取り入れることも必要ですね。
尾花先生曰く、「サプリメントもいいけれど、まずは食事からルテインをたくさん取ってください。野菜もそうですし魚も食べるようにしてください」と話されています。
台湾や東南アジア地域ですと、ゼリーやスティック状、粉末飲料などにして、すでにけっこう出ています。日本では最近、グミの需要が増えていますが、機能性を持ったグミは、まだそこまで多くはないですけど、世界の潮流としては、様々な形態の製品がかなり出てくるでしょうね。ヤング世代、子供も含めて取るような時代が到来しています。
「ルテイン入り卵」の市場創造性
―― 最近、ドラッグストアが一般食品を取り扱うようになってきました。ただし“町の健康ステーション”ですから、できれば『ルテイン』入りの卵を販売することもいいですね。スーパーマーケットも同様です。養鶏場で、餌に『ルテイン』を配合し産まれた卵を出荷している人たちにお会いしましたが、人々の健康ニーズを反映していると思いました。
橋本代表:ニワトリの餌に『ルテイン』を入れて食べさせれば、健康創造時代ですから、同じ卵でも差別化ができますが、もちろん原価の問題もあるでしょう。ですが『ルテイン』入り卵は、付加価値商品として食品の取り扱いを強化するドラッグストア、食品業界にとっても一つのチャンスになるのではないでしょうか。

―― ケミン・ジャパンさんは創業から25年が過ぎて、これからのことですが、どういった抱負をお持ちでしょうか?
橋本代表:ケミン・ジャパンでの私の業務は、日本国内だけでなく、台湾があって韓国があって、そしてASEANがあって、オセアニアがあって、インド、タイ、北米やヨーロッパにまで多岐にわたり、世界にも目を向けています。
課題としては、日本には日本の良さがありますが、そこだけで終わるのはなく、例えば台湾には当社のスタッフが3人いて、さらに事業を拡大したいと思っていますが、台湾をただ伸ばすというだけではなく、さらにASEAN地区を見据えたときに、まだまだ伸びシロは相当あります。その手本になるのが、やっぱり日本技術でしょう。
このところ様々な業界の競合が激しくなるにつれて、「ガラパゴス状態になってきた」という声がしきりに聞かれています。今始まったことではありませんが、日本市場から海外、特にASEAN地区におけるビジネス展開が重要になると思っています。
ASEANに進出するためには、やはり商品力です。その商品力も、既存の商品を日本製だからといって売り込むのはどうでしょうか。そんな時代ではないでしょう。オリジナル性がなければなりません。そのためにも、きちんとした科学的な素材の研究データもあるし、商品力を高めるためにも、これまでも、現在も、これからも商品力を高めるために、基本的には、品質、安全性、有効性も大切ですし、商品コンセプトも大切です。
実際に試作品を含めて、その商品の物性の確認というか、もともとタブレットや錠剤、カプセルなどは、味にはそんなに影響がないのですが、それがグミや食品の形態になってくると、味もけっこう関係してきます。そういった提案もしたいですね。
とかく原料を供給する場合には、単に素材を渡すだけでなく付加価値をつけていくーそれが、当社が得意としていることです。味もそうでしょうし、商品開発にあたっては、当社が全部をやっているわけではありませんから、どのような企業とコラボするか選ばなければなりせん。
健康創造時代におけるドラッグストアの役割
―― 日本のドラッグストアとOEM企業とが融合して新しい機能性表示食品が開発され申請するケースが増えてきています。その時には、『ルテイン』のような機能性素材を配合したPBの商品化もあるでしょう。ドラッグストアといったルートを通じ普及されていくこともお考えでしょうか
橋本代表:商品力を高めるために、あらかじめ話をしておくことが大事ですね。錠剤やカプセルといった形態のサプリメントはもちろんですが、食品である場合もいろんなメーカーさんがあります。商品コンセプトのテーマに合わせて、最初から大規模にはできませんから、中小規模でまずやりたいといった場合には、「じゃあこういう企業さんがいいのではないでしょうか。こういう分野を得意とされているので、一度会ってみてはいかがですか」といった提案をする必要があります。
例えばドラッグストアでは、地元民を対象とした商品開発もありでしょうし、その地区だけのオリジナル商品を開発するべきだという考え方もあるでしょう。商品は、ただ単に価格競争だけではなく、そのコンセプトなども地域住民のために練り上げた形の商品を提供すれば、その商品の特性が地域住民に響きやすいですね。
当社では、『ルテイン』をはじめ『ユーグレナ由来のベータグルカン』など、多くの素材を開発していますから、様々な商品の提案もできます。ドラッグストアは、単に商品を取り揃えて販売する機能だけでなく、カウンセリング機能を発揮して、地域住民の“未病と予防”ニーズに対応していただければと思います。
創設25年のケミン・ジャパンが願うことは、一人でも多くの方々が、健康で幸せな生活の実現です。
――ありがとうございました。

<記者の眼>
「人との出会いによって人生は大きく変わった」――人々の健康生活をサポートし24年の橋本さん
人々の健康生活をサポートするケミン・ジャパン。その代表として得意の語学でビジネスの世界に挑む橋本さんの日々は忙しい。韓国、タイ、台湾、シンガポール等々、アジアパシフィックの関係者との交流の輪は広がっている。
「私はラッキーでした。ルテインという素材だけではありませんが、人との出会いによって私の人生は大きく変わった」―多忙を極めるビジネスの世界。ある日のきっかけによって、橋本さんのビジネスは広がっていった。
未知のビジネスに、どうすれば挑むことができるか。そのためにも人脈は多ければ多いほどビジネスの輪は広がっていく。最初は、たった一人との出会いであっても、やがて二人、三人・・・それが積もり積もって、線を結べば人脈となる。
ましてや、その輪は一つのルートではなく、異業種との繋がりによって新しいビジネスが誕生する。「ビジネスとは出会いの積み重ねである」と思う。出会うだけでなく、その後のフォローが鍵となる。
「そんなことは基本の基本。当たり前だ」という声が聞こえそうだが、どんな場合にあっても、当たり前のことを当たり前のようにこなす姿勢が大切ではないだろうか。
橋本さんのインタビューから、人と人との出会いの大切なことを、改めて学ぶことができた。まさにビジネスは出会いから始まる。『ルテイン』の研究、普及活動には多くの人々が関与している。その人たちの思い入れは、「健康で幸福な生活を実現してほしい」にあると思う。