日本医薬品登録販売者会(日登会)が1月27日に都内で記者会見を開催した。日登会は昨年6月に日本医薬品登録販売者協会(日登協)から名称変更。新会長にコスモス薬品代表取締役社長の横山英昭氏が会長に就任し、新たなスタートを切った。その間、登録販売者および一般用医薬品の販売を取り巻く環境は変化しつづけている。記者会見に登壇した横山会長は日登会会員約7万5,000人を含む、全国の登録販売者28万5,000人の地位確立を図る協会活動に覚悟を示した。(取材=中西陽治)
日登会は1月27日(月)に都内で「日本医薬品登録販売者会記者会見」を開催し、横山英昭会長と横田敏専務理事が登壇した。
会見冒頭で横山会長は「日登会では登録販売者の職能拡大を含めて、今後さまざまな活動をしていきたいと考えている。その上で、われわれの考えを記者およびメディアにしっかりと伝えていきたい」と報道機関への情報発信の協力姿勢を示している。
会員数が約7万5,000人となる日登会は、活動内容として
1. 医薬品登録販売者の地位の確立、職能向上を図る。
2. 登録販売者の名称を「医薬品販売士」に変更し、国民の皆さまに分かりやすい名称とする。
3. 医薬品販売士法(身分法)を制定し、セルフケア・セルフメディケーションの担い手としての法的位置づけを明記する。
を掲げている。中でも身分法の制定が、医薬品登録販売者の職能団体としての意義であるとしている。
日登会は「すべての登録販売者の資質向上、業務支援、社会的地位の向上および登録販売者を目指す方への育成支援」を積極的に取り組む職能団体である。
その登録販売者はセルフメディケーション推進の要として国民の健康増進のための重要な機能を担っている。
セルフメディケーション推進は国の「骨太の方針2023」(注:経済財政運営と改革の基本方針2023)に続き2024年にも記載された国を挙げての重大政策の1つとなる。
その国の方針に基づき、登録販売者は社会に貢献していく。
日登会はこのセルフメディケーションを支えるために登録販売者の育成をしていくことが重要であると考えている。
登録販売者は、医薬品・サプリメント・医療機器等の情報提供・相談対応・販売等を通じて、セルフメディケーションを推進し、国民の保健衛生の向上に寄与している。これにより医療費の低減化を実現することで、国の医療財源の確保につながり、ひいては日本の優れた医療制度の維持に貢献する。
現在、全国に28万5,000人の登録販売者が、離島・へき地を含む全国各地で活躍している。そのうちほとんどがドラッグストアで勤務しており、医療機関が閉まっている土日祝日・夜間を問わず、医薬品を適切に提供している。
また、ドラッグストアにおける一般用医薬品の販売額は市場シェアで約90%を占めている(2022年度OTC市場販売額は1兆1,771億円)こと、そのうち登録販売者が扱う第二類・第三類医薬品の割合は約95%であり、登録販売者がドラッグストアで医薬品を提供することで国民の健康に貢献していることは明白である。
最も重要な資質の点においては、登録販売者は毎年、最低12時間の継続的研修を義務付けられており、全員が研鑽を重ねていると同時に、勤務するドラッグストア各社でも独自の勉強会や商品の研究を毎月のように行い、国民のための能力向上に励んでいる。
2023~2024年にかけて、厚生科学審議会で議論された「医薬品医療機器制度部会とりまとめ」における「濫用等のおそれのある医薬品の販売について」でのいわゆる〝空箱陳列〟と〝購入者の個人情報の記録・保管〟について反対の意を唱えてきた。同時に「一般用医薬品のリスク区分見直しについて」も同様に反対意見を述べた。
いわゆる〝空箱陳列〟については、情報提供場所を7メートル以内に変更するという運用が取りまとめられ、われわれの主張が反映されたと評価している。
〝購入者の個人情報の記録・保管〟については、店舗において適切な業務手順を整備し一定の対応を図ることで個人情報を考慮するよう取りまとめられた。個人情報の記録・保管については、ドラッグストア店舗の管理記録簿を用い、濫用のおそれのある購入者の個人情報に当たらない範囲での特徴や購入情報を記録し、共有している。これらわれわれの努力が取りまとめに反映されていると評価する。
同様に「リスク区分見直しについて」も現行の区分が定着していること、リスク区分に応じた専門家の関与の度合いを鑑みて、現状維持となったことを評価したい。
なぜわれわれがこの厚生科学審議会のとりまとめに反対してきたか。これは登録販売者の仕事が、国民および消費者に対し、医薬品の情報提供や使用方法について説明することに他ならないからである。
そのため空箱陳列によるバックヤードへ商品を取りに行く作業、個人情報の記録からこの人が何回目の購入かを確認する作業を行うことで、本来あるべき情報提供ができなくなることを危惧しているからだ。
※日登会「厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会とりまとめについて」資料より弊社作成
日登会は、登録販売者の職能団体として7万5,000人が在籍するにも関わらず、「医薬品の販売制度に関する検討会」(2023年開催)および、先に述べた「厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会」のいずれにも委員・構成員として参画できていない。
今後は登録販売者や一般用医薬品の販売に関する会議体へ、日登会が構成員として参画することを目指す。
登録販売者の職能とはどのような形で発揮されているのか。横山会長は自身が社長を務めるコスモス薬品での登録販売者の地域貢献事例を紹介した。
登録販売者に病院の受診を勧められ軽度の脳梗塞を発見(70代男性:福岡県の博多南駅店)
ひどい頭痛と寒気のために鎮痛剤を買いに立ち寄った。すると、登録販売者の店長から声をかけていただき、病院での受診を勧められた。手の震えもあり、気になったため、すぐに病院に行き、受診した。検査の結果、軽度の脳梗塞という診断だった。
幸い早期発見だったため、現在は薬を処方されて快方に向かっている。あの時、登録販売者の店長に受診を勧められなかったら、そのまま鎮痛剤を購入していたのは事実。その結果、脳梗塞で倒れて後遺症に苦しんでいたかと思うと、今も登録販売者の店長にとても感謝し、命を救われた思いをしている。心より感謝申し上げたい。
※ 「登録販売者がいて助かった」という事例【日本医薬品登録販売者協会編「医薬品登録販売者、結集せよ――ウェルビーイングカタリストを目指して――」評言社MIL新書より一部抜粋】
横山会長は「こういった登録販売者の活躍は、現状なかなか世に出てこない。国民および消費者には登録販売者の努力と活躍を知っていただきたい」と説明したうえで、 「ドラッグストアという場所は、消費者との接点が多いため、みなさんの健康を守るために店頭から医療機関につなぐことも非常に大事な役割だと考えている。事例にあるように、国民の健康を第一に考えた時、『鎮痛剤を売らない』という選択肢もある。売らずに医療機関へ紹介することが、国民の健康を守っていくことにつながることもある。登録販売者が小売という事業体に勤務していたとしても『売らんかな』だけを考えている職能ではないということ。コスモス薬品も完ぺきではないが、今後もやはり国民のためにどういった選択、提案をしていくべきか、を考えていかなければならない」と使命感を滲ませた。
続いて、「安全性が確立された第一類医薬品を第二類医薬品に移行することが重要」と主張した。第一類で長い期間販売され、安全性が確立された医薬品は、国民が広く使用できるように第二類に移行し、セルフメディケーションを推進することが重要である、という。
第一類「ガスター10」の例
一例として第一類医薬品の胃腸薬「ガスター10」(第一三共ヘルスケア)の実例が紹介された。「ガスター10」は1997年に発売され、28年間もの間、第一類から移行がされていない。
第一類に据え置く理由として「自己判断による継続使用によって重篤な疾患が見過ごされる恐れがある」とされているが、経緯としては旧制度の「指定医薬品」からスライドで第一類に移行したため、発売から2009年の現行制度施行以降も一度も区分が見直されていない。
横山会長は「安全性が確立された一般用医薬品については分類変更を検討すべき。また副作用報告が第二類とあまり変わらないのであれば、第一類は第二類に分類変更をする必要がある」と示す。
薬剤師不在で消費者が優れた胃腸薬にアクセスできていない
「ガスター10」の生活者アクセスの課題として、薬剤師が不在であることが多い日曜日や早朝・夜間の販売が極端に少ない状況にある。
メーカーの第一三共ヘルスケアの資料によると「ガスター10」曜日別の販売構成比は、月~土曜が約15%であるのに対して日曜日は7%と半減している。また、胃腸薬全体では「ガスター10」を除く胃腸薬カテゴリーの曜日別の販売構成比は、月~土曜が約14%に対し日曜日は18%と上昇している。このことから、消費者が購入したいタイミングで「ガスター10」を購入できていないことが顕著となった。
この数字から「突発的な強い胃の痛みが出ることがある。その時に効き目の良い胃腸薬を買えないという状況はセルフメディケーションを推進できない一因ではないか」と横山会長は指摘する。
2019年以降「重篤な副作用」はゼロ
「ガスター10」の販売実績推移では、販売制度の改訂(指定医薬品→第一類医薬品)により2009年以降、ピーク時の1/4まで減少しており、減少した3/4がそのままセルフメディケーション実施の低下につながっている可能性がある。
これら2009年の薬事法改が与えた影響とその後第一類からの移行が進まないことにより、「ガスター10」が生活者の手に届きにくくなり、セルフメディケーションを阻害している。
懸念される副作用に関しても、「ガスター10」の重篤副作用の報告は2007年以降で5件あるものの、2019年11月以降ではゼロとなっている。
国民の健康を守るための第二類移行を求む
では第一類が第二類に移行することでどのようなメリットが見込めるのか、についても説明が行われた。
水虫薬は、スイッチOTCの第三世代成分(ブテナフィン・テルビナフィン等)が第二類医薬品に移行された後、市場規模が50 %以下に縮小した。効果が高い医薬品が広く国民に使用されたことで、疾患の早期治療が実現でき、「国民の健康」と「医療費の低減化」につながった。
横山社長は「スイッチOTCの水虫薬が第二類に移行されて、市場規模が縮小したことは、はっきり言ってドラッグストアにとっては打撃だ。しかしそれ以上に国民の健康が守られるということを喜ぶべき。こういった移行を推奨していくべきだと考えている」と、事業者としての矜持もにじませた。
その上で、有効性・安全性が確立された第一類医薬品が長年その区分に据え置かれることは、国民の利益を損なうものとし、適切に第二類へ移行することが重要だとした。
質疑応答
日登会として年初第一回目となった記者会見には報道機関から約20名が参加。日登会が目指す登録販売者の職能と地位向上について質問が挙がった。
――経済産業省が今年の大阪万博でパーソナルヘルスレコード(PHR)の社会実装を行うことを表明している。登録販売者のPHRを用いた職能発揮についてどのように考えているのか。
横田専務:現状、PHRの実装は民間産業が主に行っており、いずれマイナンバーというプラットフォームとの連携が行われるだろう。ただ現在、店頭の登録販売者がPHRを活用してどこまでアドバイスができるか、は不明確。今後10年先を見据えると、国民が健康管理のためにPHRを活用することは間違いない。登録販売者に適した分野であることも同様だ。
横山会長:事業主としての意見を申し上げると、PHR活用のお話は結構持ちかけられる。革新的な技術であり、健康維持に役立つものは当然だと思っている。ただPHRのデータは多分に個人情報も含まれるため、そのデータが登録販売者の管理できるものであれば連携していきたいと思っている。
――日登会として新しく目標を定めて活動を行っていくわけですけれども、組織全体としてどのような変化があったのか。店頭における登録販売者の実情のフィードバックや、ロビー活動も含めたアクションを起こす人財育成は。
横山会長:日登会内でのアクションを起こしているのは、現状私で間違いない。日登会の会長に就任したのも、私自身が2008年の第一回登録販売者試験の合格者だからだ。私は一経営者であるかもしれないが、その前にやはり登録販売者であり、この資格に誇りを持っている。
記者会で説明した実例にもあるように、一般用医薬品の提供を通じて命を守れる活躍というのはすさまじいこと。だからこそ登録販売者が社会にとって非常に重要な存在になることを目指していかなければならない。まずはその存在を広く知ってもらい、改革を進めていく。
――厚生科学審議会のとりまとめに要望が取り入れられたが、情報提供のために専門家が継続的に配置するという点において、登録販売者の働き方にどのような影響あるのか。
横山会長:われわれは登録販売者が活躍できるチャンスだと捉えている。今までは店舗にいれば医薬品販売ができるルールだったが、継続的配置を行うことで登録販売者の価値が上がると思っている。もちろん情報提供の仕方や販売方法も変わってくると思うが、日登会としては改善された内容を厳守するように努めていく。
――一部報道された「コンビニでの医薬品販売」の規制緩和について。
横山会長:われわれが考えなければならないのは、消費者つまり国民がどういう判断をしてどこで購入できるか、ということ。そのため、国民が便利と感じるのであればそれを歓迎する。今回、オンラインを通じて受け渡し店舗でも医薬品が購入できる、そこに安全性や説明が担保できるのであれば、非常に良いことだと考えている。
――登録販売者の他団体との協力体制について
横山会長:私としてはぜひお話をしたい、いつでもウェルカムです。
【一般社団法人日本医薬品登録販売者会】
会員数:約75,000名(うちドラッグストア勤務割合 約95%)
加盟社:243社
組織
会長:横山英昭
副会長:内藤隆
専務理事:横田敏
理事:川島光太郎、堀美智子、根津孝一、中込和哉、小部真吾、久保聡、堀博昭、佐藤展史
(順不同・敬称略)
https://www.nittokyo.jp/index.jsp