一般社団法人短鎖脂肪酸普及協会はこのほど、都内で協会立ち上げ発表会を行った。発表会では、協会代表理事の福田真嗣氏(メタジェン代表取締役社長CEO)と学術アドバイザーの内藤裕二氏(京都府立医科大学教授)と金倫基氏(北里大学教授)による日本人の腸内環境の課題や短鎖脂肪酸の可能性についての鼎談が行われた。また、協会に正会員企業として参画する江崎グリコ/カルビー/ホクト/ Mizkan/明治が登壇し、短鎖脂肪酸普及に参画した背景や今後の展望について語った。(取材=中西陽治)
11月27日に都内で「短鎖脂肪酸普及協会 立ち上げ発表会」が開催された。協会は短鎖脂肪酸の認知向上・理解促進のため、企業や生活者などステークホルダーとの懸け橋となることで〝腸から新たな健康リテラシー構築〟を目指すために設立されている。
発表会に登壇した協会代表理事で腸内細菌研究一筋25年の福田真嗣氏は、「ヒトにとって短鎖脂肪酸は空気と同じくらい大事なもの。ただ一方で、協会の調査では一般の認知度は16.7%と低い(トップはビタミンCで78.3%)※下グラフ参照。そのため協会は短鎖脂肪酸の認知向上と実装を図るべく設立された」と経緯を説明した。協会には大手食品メーカーをはじめ10社が会員となっている。
短鎖脂肪酸とは:腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を分解して産生する代謝物質で、主に酢酸、プロビオン酸、酪酸の3つがある。最新の研究では便通改善・免疫機能の増強・肥満抑制・アレルギー抑制・持久力の向上など、短鎖脂肪酸による健康機能が明らかになっている。
協会のミッションは、短鎖脂肪酸の認知向上と理解促進を行い「腸から新たな健康リテラシー構築」を目指す。あえて認知度の低い〝短鎖脂肪酸〟を協会名に掲げた理由について「認知度が低いからこそもっと知っていただきたい。〝腸活〟だと、どうしても『お通じの改善』に限定されてしまう。短鎖脂肪酸はより広い健康価値が見込めるため、協会名に掲げた。腸活をアップデートし『腸活の新指標=短鎖脂肪酸』を描いていきたい」と福田代表は語る。
具体的な活動としては
①先進研究と企業・生活者をつなぐ情報発信
②生活者が関連商品を安心して選択できるきっかけづくり
③流通業界との連携による市場拡大
④企業の研究・社会実装を支援
⑤行政との協働による普及推進
を掲げている。
「生活者が関連商品を安心して選択できるきっかけづくり」では腸内での短鎖脂肪酸の産生や増加がエビデンスとして示されている商品に協会独自の認定マークを付与する。マークは商品パッケージやPOPに用いられ、併せてキャンペーンも行っていく予定。
発表会では代表の福田氏と学術アドバイザーの内藤氏、金氏とのトークセッションが行われた。
2025年には「日本人の食事摂取基準」が改訂されるタイミングでもあり、短鎖脂肪酸の重要性を啓発する機会にうってつけであることを共有し、「ここ30年で生活習慣病などの疾患が増えている。いうまでもなく食生活がその原因に大きなウエイトを占めている。また消化に良いものばかり食べていると小腸で吸収されてしまい、大腸まで届かない。しっかりと大腸の腸内細菌のエサになる食事をとって短鎖脂肪酸を増やすべきです」(金氏)と語り掛けた。
内藤氏は短鎖脂肪酸を増やすために良い食事として「京丹後の食事がよい例。プラントベースを中心に多様な食物繊維をとるべきです。例えば海藻、ひじき、豆、キノコといったもの。協会にはキノコのホクトさんも加盟しているため、アクションにつなげていきたいですね。また、金さんがおっしゃるようにしっかり大腸まで届けることが大切です。例えば森下仁丹さんのシームレスカプセルにMizkanさんのお酢を入れてみるなど、可能性が広がりますね」と具体的なアイデアを投げかけた。
さらに「メディカルだけでなくヘルスケアも個人差を重要視しなければならない。例えばパーソナルヘルスレコード(PHR)を基にその人にあった短鎖脂肪酸を選べられるようになれば協会活動は素晴らしいものになるでしょう。日本人は欧米人と比べて呼気中のメタンが少ないため、お腹が過敏になりやすいと言われています。こういった研究結果を技術と掛け合わせて個人に必要な短鎖脂肪酸をお勧めできたらいいですね」と内藤氏は短鎖脂肪酸産生の多様性とデータ活用の未来を示した。
発表会では協会正会員5社による短鎖脂肪酸市場拡大への思いがプレゼンされた。
■江崎グリコ
江崎グリコの齋藤康雄氏(商品技術開発研究所グループ長)は「江崎グリコでは2022年に社内に〝短鎖脂肪酸プロジェクト〟を立ち上げ、商品に反映しながら情報発信をおこなってきました。また、プロモーションではタレントさん起用したCM通じ短鎖脂肪酸の啓発を行ってきたこともあり、江崎グリコとして覚悟をもって協会活動を行っていきます」とし、短鎖脂肪酸普及の先頭に立つ思いを示した。
■カルビー
カルビーの小泉貴紀氏(グループ戦略統括本部 アグリ・食と健康事業推進本部 本部長)は「カルビーでは2023年4月から腸内フローラを調べて、個人にあった短鎖脂肪酸を生み出す素材を提供する『ボディグラノーラ』を開発し、会員者数が2万人を突破しました。さらに短鎖脂肪酸の認知度を上げることで、腸内フローラの検査が広がっていければいいと考えています」と話す。
■ホクト
ホクトの森光一郎氏(開発研究課係長)は「私たちキノコ屋さんがなぜ協会に参画するのか。それはキノコに食物繊維が豊富に含まれていて、腸内細菌のよいエサとなり短鎖脂肪酸を生み出すからです。福田代表のメタジェン社とホクトの共同研究でキノコを4週間食べる調査をしたところ、短鎖脂肪酸が増えていることが分かりました」と研究成果を示しながら「ただキノコはメインディッシュな食材ではないため、短鎖脂肪酸の認知向上によりキノコの消費拡大という新しいステージに進むことに期待しています」と狙いを語った。
■Mizkan
Mizkanの石垣浩司氏(代表取締役専務)は「ミツカンでは江戸時代中期の1804年から酢酸づくりを行い、短鎖脂肪酸に関わってきました。われわれはお酢や納豆という体に良いものを作っていく中で、人は何を食べればいいのかを考えるプロジェクトを立ち上げ、長寿の村の調査などを行ってきました。そこで発行性食物繊維にたどり着いたのです」と話し、
「私自身も短鎖脂肪酸の活動を実践しています。玄米や菊芋など発酵性食物繊維を積極的に摂るようになり、1ヵ月後に肌に変化が生まれ、次にお通じが良くなりました。ミツカンとして短鎖脂肪酸の普及に力を入れることはもちろん、個人としても活動をライフワークにしていきたいと思います」と実感を込めて語った。
■明治
明治の土師智寿氏(経営企画本部 イノベーション事業戦略部専任課長)は「明治では自宅でチェックできる検査キットを用い、健康指標から健康アクションのきっかけを創る「明治『見える化』サービス」の提供を開始しています。12月12(木)にはサービス第二弾として短鎖脂肪酸に着目した、腸内細菌検査と腸内タイプ別のパーソナルケア飲料をセットにした「InnerGarden(インナーガーデン)」のEC 販売を開始します。このサービスも協会加盟の企業さんと協力してよりよいものにし、短鎖脂肪酸普及協会を盛り上げていきたいと思います」と語った。
なお協会の会員企業は【正会員】江崎グリコ、カルビー、ホクト、Mizkan、明治、【一般会員】森下仁丹、【賛助会員】アサヒグループ食品、ニコリオ、フジ日本、森永乳業の10社で、発表会後の写真撮影では全社が登壇。「短鎖脂肪酸普及」に並々ならぬ情熱を感じさせる協会活動に、2025年は短鎖脂肪酸が店頭を席捲する予感がした。