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前厚生労働大臣の加藤勝信衆院議員が語る『医療DX推進による国民へのメリット』

様々な情報を繋ぐことによって医療の質の向上、
国民自らが疾病予防や健康管理ができる時代が到来した


国を挙げて進められている医療DX化。その基盤となるマイナンバーカードを使って患者が医療機関などを受診した際に、過去の特定健診や薬剤情報などの情報提供に同意すると、医師などからより多くの情報に基づいた適切な診断や医薬品の重複投与を回避した処方薬を受け取れるなど、医療の質の向上だけでなく、国民自らによる自身の健康維持・増進への活用が期待されている。先ごろ開催された日本健康会議では、厚生労働省、デジタル庁、経済産業省の3大臣とともに前厚生労働大臣の加藤勝信衆議院議員も登壇。DX推進の必要性を呼びかけた(関連記事:https://hoitto-hc.com/12494/)。では国が進める医療DXは、いったい国民・患者にどのようなメリットを提供してくれるのだろうか。加藤議員に、『医療DX推進による国民へのメリット』を聞いた。(ジャーナリスト・山本武道)


「国民の健康を守り予防を進め
医療費の適正化を図るために推進は不可欠」


―― アナログからデジタル化へ、今年12月2日にはペーパーの健康保険証が廃止されマイナンバーカードに移行するなど、医療DXの推進に向けた取り組みが活発化してきました。先ごろ開催された第9回日本健康会議が開催した医療DX推進フォーラム『使ってイイな!マイナ保険証』で、加藤議員も前厚労大臣として出席され、「医療DXは国民の健康を守り、予防を進め、医療費の適正化を図るためにある。マイナ保険証を中核とする医療DXは進めなければ日本の未来はない」と話されていました。

加藤氏 医療DXの推進によって、マイナーポータルにインプットされた様々な情報を繋げることができ、医療の質の向上はもちろんのこと、国民自らが予防や健康管理ができる時代が到来します。患者さんが自身の情報提供を了解することで、データベース化された様々な情報に基づき、適切な診断や医薬品の重複投与の回避等々、患者さんへのメリットが期待できますし、さらに、新しい薬や治療法を研究する際にも活用できることを期待して、医療DXを進めています。


『医療DX推進による国民へのメリット』について語る前厚生労働大臣の加藤勝信衆院議員


我が国は、諸外国に比べてDX化が遅れているといわれています。実際、私が厚労大臣の時にちょうどコロナが発生し、日々の感染者数を把握するために各保健所が全国の医療機関から情報を収集し、そのデータを電話やFAXで集めていました。そこで、このようなことではいけないと、コロナ対策用にシステムを開発しました。しかし、感染症対応に追われている中で、情報収集のためデータを入力しなければならないという問題も生じました。

患者さんに関わる医療情報は電子カルテを利用することができるのですが、大手病院はともかく電子カルテの普及率は、令和2年で一般病院57.2%、診療所49.9%にすぎません。電子カルテを採用している病院も、自分の病院内では活用されていますが、他の病院や診療所との共有は進んでいません。つまり、患者さんが自らの意思で、自らの健康や治療状況の把握が自由に行える状況になく、また、医療機関を横串にした個人の診療・治療への活用や健康管理、医療連携、政策決定、研究開発への活用も限定的です。

そうした状況を打破するために、すべての医療機関間で医療情報が標準化された形で共有され、より良い医療が行われていくことを目指して、『医療DX令和ビジョン2030』を打ち出しました。

標準型電子カルテについて、2023年度に調査研究を始め2024年度中に開発に着手して、電子カルテ未導入の医療機関も含めて電子カルテ情報の共有化のために必要な支援策を検討し、標準化や連携基盤の整備を含む健康・医療情報の活用に向けて取り組んでいるところです。

日本健康会議では、「医療DXは国民の健康を守り、予防を進め、医療費の適正化を図るためにある。マイナ保険証を中核とする医療DXは進めなければ日本の未来はない」と話しました。そのためにも、多くの関係者の方々に、趣旨をご理解いただき、普及へのご協力をお願いしています。


『医療DX令和ビジョン2030』のポイント


―― 医療DXの実現に向けて、全国医療情報プラットフォームの創設や電子カルテの標準化など、『医療DX令和ビジョン2030』が打ち出されましたが、国民・患者さんにとっては、どのようなメリットが期待できるのでしょうか。そしてそのポイントは?

加藤氏 国民・患者さんにとって、一次利用としては診療の質の向上、重複検査・重複投薬の回避、自身の健康維持・増進への活用などが挙げられます。二次利用としては、治療の最適化やAI医療などの新技術開発、創薬、新たな医療機器の開発などに加えて、システム費用の低減を通じた医療保険制度の運営にかかる国民負担の抑制が期待されます。
また、医療関係者にとっても、患者情報の共有や新技術開発によるサービス向上、電子カルテに関わる費用の低減等々が挙げられます。

そのためにもマイナンバーカードによる健康保険証の一体化の加速、さらに2024年度中に電子処方箋の普及、介護保険、予防接種などに関わるマイナンバーカードを利用した情報連携の実現、電子カルテ情報の標準化や治療の最適化・研究・創薬への活用、診療報酬改定DX、全国医療情報プラットフォームの創設を図っていく必要があります。

日本では、データ化があまり進んでいないとはいえ、歴史的にも高度な医療を展開してきており、様々な形で豊富な医療情報は蓄積されてはいます。問題は、紙であったり一部の病院の中だけの活用ということで、データが埋もれているということです。情報をデジタル化していけば、個人の健康管理、あるいはより良い診療や、創薬とか新しい医療技術の開発等々にもつながっていきますし、患者さんの診療内容、検査データや処方した薬ななどわかっていれば、重複検査、薬剤の重複投与による副作用を防ぐこともできるなど、いろいろなメリットはあると思います。


日本健康会議で関係者とともに記念写真に応じる加藤議員(前列左から二人目)


様々な情報の集約によって
重複検査や重複投薬を回避できる


―― これまでは、患者さんが自らの医療情報を見ることができる環境下にありませんでしたが、医療DXによってそれが可能になり、国民へのメリットが、さらに期待できますね。

加藤氏 そうです。医療DXを進めることにより、医療の質をより向上することができます。例えば医療機関で様々な検査が行われていますが、AIを駆使すれば本来だったら見落としていた疾病などを見つけることもできるようになるでしょう。

患者さんが医療機関にかかった際にも、他の医療機関で受診した診療情報が、医療DXによってリアルなタイミングで見ることができるようになるので、医療機関にとっても患者さんにとってもメリットがあります。高齢社会が到来する中、高齢者は複数の医療機関にかかれば、医師から処方される薬剤の数も増えてきます。これまでお薬手帳に記載された薬剤情報が診療の際に活用されてきましたが、医療DXによりリアルで、それらの薬剤情報が集約されれば重複投与はなくなります。

様々な情報が繋がる、そのベースにオンライン資格確認システムがあります。医療機関・薬局の窓口で、患者さんが加入している直近の医療保険や自己負担限度額などが確認できるようになり、例えば、期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求や手動による入力による手間といった事務コストが削減できます。

さらに、医療DXを進めていくためには、オンライン資格確認システムをさらに拡充し、必要な時に必要な情報を共有・交換できる全国的なプラットフォーム、つまり全国医療情報プラットフォームを構築していくことが不可欠だと思っています。


将来的にはスマホ1台があれば
様々な情報を見ることができる


―― 能登半島地震の際には、多くの医師、看護師など医療スタッフとともに、地元の薬剤師会やドラッグストアに勤務する薬剤師なども現地に駆けつけ被災者の方々の医療活動に参加されました。モバイルファーマシーも稼働したそうですが・・・。

加藤氏 医師や看護師が緊急時に現場に駆けつけ、また薬剤を現場に届けるにはモバイルファーマシーも必要ですが、患者さん一人ひとりの診療や薬剤情報がデータ化されていれば、個々の患者さんのこれまでの医療情報に基づいて、災害時においても、より的確な医療ができます。

これからDXが進めば、健康管理もできるウェアラブルデバイスによる様々な情報などを含めて、自分の情報をスマホの画面で、一覧で見ることができるようにもなるでしょうね。マイナ保険証の利用推進の中で、スマートフォン1台で受診が可能になる時代も間もなくやってきます。

しかし、高齢者の方々からは、デジタルに馴染めないという声も聞かれますが、最近の高齢者の方々は、けっこうスマホを使いこなされており、誰でも使える仕組みにしていくことは当然、必要だと思います。


マイナ保険証普及へドラッグストアや
調剤薬局をはじめ多くの関係者の協力を…


―― 日本健康会議で、マイナ保険証の利用促進事例が公表されました。その一つに医療機関から発行された処方箋調剤に取り組む薬局の薬剤師が、マイナ保険証の啓発事例について、店頭や店内、処方箋受付でポスター掲示、待合室にデジタルサイネージを設置し訴求しているケースを報告しましたが、全国に2万を超す店舗を持つドラッグストアも、地域住民のヘルスケアのプラットフォームでもありますので、マイナ保険証の普及窓口として活用できますね。

加藤氏 マイナ保険証普及には、ドラッグストアや調剤薬局をはじめ、多くの関係者にご協力をいただかなければなりません。医療DXの推進には、様々なメリットがあります。それを享受できるか否かは、これからにかかっています。多くの方々のご協力を得て、その実現を是非とも図っていきたいですね。


<取材を終えて>

大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授の森下竜一さん主催のセミナーで講演する加藤議員

加藤議員にお会いするのは今回で3度目。1回目は大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄付講座教授の森下竜一さん主催のセミナー、2度目が日本健康会議、そして3度目が今回のインタビュー。『医療DX推進による国民へのメリット』について的確にお答えいただいた。

マイナ保険証の普及は、政府が関係団体と連携し、医療機関・薬局の窓口での共通ポスターの掲示、来院患者への声掛けとマイナ保険証の利用を求めるチラシの配布以外に、俳優の内藤剛志さん、タレントの王 林さん、なかやまきんに君さんがテレビCMに出演し、マイナ保険証の使い方や利便性について紹介している。

関連情報⇨ https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001255485.pdf

日本健康会議では、歯科医院、生命保険会社、健康保険組合とともに、日本薬剤師会が薬局における活用事例を紹介していたが、すでに多くの医療機関をはじめドラッグストアや調剤薬局ではカードリーダーを設置し、マイナ保険証を受け付けているケースが急増しており、私自身も体験した。

医療機関で受診し、処方箋を受け取り、ドラッグストアや調剤薬局で調剤してもらうが、これからは「お薬手帳をお持ちですか」の声掛けではなく、「マイナンバーカードの登録をされていますか」となり、もし未登録であれば、薬剤師が声を掛けてマイナ保険証のメリットを説明してくれるようになる。

ちなみに、我が国の医薬分業率(処方箋受け取り率)は80%を超し、医療機関から発行された処方箋枚数は1年間に8億枚超。すなわち処方箋調剤の回数は、患者がドラッグストアや薬局に持参、もしくはオンラインによる受け付けも含めて8億に及ぶ。国が進める医療DXの推進によって、医療の質の向上や薬剤の重複投与を防ぐなど国民のためのメリットを紹介する絶好の窓口となるはずだ。

マイナ保険証には、これから様々な医療情報がインプットされていくが、日々の食生活で発生する食品アレルギー情報も盛り込むなど、高まる国民のヘルスケアニーズに対応していくことを期待したい。