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地域創生医 桐村里紗のプラネタリーヘルス 第20回
ヘルスケアに関わるなら知っておきたい「生態系サービス」 


「医者は、人しか診えない。
  獣医なら、医者以外の生物全部に関われる。」

獣医師免許を持ちながら、生態系を研究する知人にそう言われて、「はっ!」としたことがあります。

物覚えの悪い私の場合、大学受験当時のセンター試験で「生物では暗記が多くて満点が取りづらいから、医学部に行くなら物理化学が良い」という事情通の助言の元、高校で物理化学を選択し、医学部では、人の病気に関わる寄生虫学や細菌学以外に、他の生物について触れる機会は皆無でしたので、生物の知識は中学生レベルのまま医者になりました。

生態系といえば、「食物連鎖?」「弱肉強食?」程度のことしか思い浮かばない有様です。私のように、生物学をほぼ知らずに、人の健康に携わる人はかなり多いと思われます。

それって、かなり不味いかもと思う今日この頃です。

先の記事にも書いたように、生物多様性を回復させるネイチャーポジティブを実践すべし!という圧力は、国際的にも国家戦略的にもかなり高まっていますが、全分野で誰もが実践することを求められているものの、自分とは遠い「環境問題」と捉えて自分ごとになっていない社会人がほとんどなのではないかと思います。

イメージできないのに、どうして本気でそれに取り掛かることなどできるでしょうか?

全ての人類の生活は、自然をベースにした自然資本が提供する生態系サービス(自然からの恵み)に依存していて、その上に経済、社会が成り立っていますから、万人にとって実に身近なはずなのです。

生態系サービスは、4つに分類されます。


1)基盤サービス
 人間を含めたすべての生命の生存基盤となるサービスを支える機能
 光合成・土壌形成・栄養の循環・その他

2) 供給サービス
 日々の暮らしに必要となる食材や資源などを供給する機能
 食糧・原材料・医薬用資源・燃料・炭水・その他

3) 調整サービス
 健康で安全に生活するために必要な環境を調節する機能
 気候調整・洪水制御・水の浄化・受粉・病気害虫防除・異常気象の緩和・その他

4) 文化的サービス
 人が自然に触れることによる心理的効果や機会をもたらす機能
 心身の健康・保養や観光・美的価値・精神的宗教的価値・その他


生命維持のために必須の空気や水、土壌に由来する食糧。そして、病気になった際に使う医薬品は、医療・ヘルスケア分野にも直接的に関わります。ネイチャーポジティブ経営によるネイチャーポジティブ経済の推進がすべての分野で求められる今、私たちも無関係なふりはできません。

これから2030年、さらに2050年より先も未来に持続可能な地球の発展を実現するために、生態系への洞察を深めていきたいですね。本で知識をつけるのはもちろんなのですが、私としては、生態系サービスをもたらす自然資本が豊かなローカルに足を運び、身体を使って体験することをお勧めします。

プラネタリーヘルス・ツーリズムとして、昨年から様々な業種の方に、私たちがフィールドにしている鳥取県の大山山麓に来て頂いていますが、皆さん、開眼して帰って行かれますよ。

8月3日には、(公財)日本ヘルスケア協会・プラネタリーヘルスイニシアティブ鳥取大会を開催します。

『プラネタリーヘルスとローカル資本〜ネイチャーポジティブ視点にたった医食農連携と観光の可能性』がテーマです。シンポジウムにご参加がてら、自然の中で、自分も生態系の一部であることを体験しにいらして下さい。

プロフィール
桐村 里紗 (Lisa Kirimura M.D.)

地域創生医/tenrai株式会社 代表取締役医師
東京大学大学院工学系研究科道徳感情数理工学講座共同研究員
日本ヘルスケア協会・プラネタリーヘルス・イニシアティブ(PHI)代表

予防医療から在宅終末期医療まで総合的に臨床経験を積み、現在は鳥取県江府町を拠点に、産官学民連携でプラネタリーヘルス地域モデル(鳥取江府モデル)構築を行う。地球環境と腸内環境を微生物で健康にするプラネタリーヘルスの理論と実践の書『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)が話題。

(次回「地域創生医 桐村里紗の プラネタリーヘルス」は7月初旬に掲載予定です)