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紅麹問題の核心は食品製造工程の不備・不全

機能性表示食品の安全性と分けて考えるべき

店頭の健康食品群も風評被害の影響を受けている

紅麹製品の事故を受けて4月に始まった「機能性表示食品を巡る検討会」は、5月23日を持って終了し報告書を取りまとめた。報告書には「報告の迅速化」「公表ルールの策定」「生産・品質管理の基準策定」など、制度をより厳格に運用していく内容が盛り込まれ、政府が見直し案としてまとめた。これにより、健全な市場形成に向けた今後の道筋が示された格好だ。

なお、届出後の機能性表示食品6795製品(1693事業者)の健康被害にかかる報告77件を専門家が評価した結果、「因果関係が確実」な製品はゼロとなり、「否定できない」とされた21件も「健康被害の拡大が懸念されるほどの情報は得られなかった」と判断された。これは、小林製薬(の対象製品)を除けば、届出メーカーはその責任を全うし、同制度が一定程度の成果を上げていることを証明している。

届出後の機能性表示食品の健康被害情報の収集・評価・報告の
実施状況の確認結果について(2024年5月23日消費者庁開示資料5頁から抜粋)

しかし、2015年の制度施行から順調に育ってきた機能性表示食品の市場は、直近で前年比2ケタ以上の減少と逆風が続く。マスコミその他の情報の錯綜とともに風評被害が起きているのは明らかで、この点においても当該事業者の責任は重い。

風評被害とはいえ、最終生活者が健康食品を選択する最初の理由が、「機能性」から「安全性」に移ったのは事実である。今後は検討会の報告書をもとに、より厳格なルールで運用されることになるが、それが今回の全容を明らかにするものではない。

そもそも先の事故は、最終製品の製造工程ではなく、原料の製造工程で起きた。本来は機能性表示食品の安全性と分けて考えるべきだが、それが混同され、制度そのものの問題として世論が形成されていった。

繰り返すが、問題の核心は原料の製造プロセスにおいて入るはずのない有害物質が混入したこと、さらには、健康被害にかかる事業者の報告が遅滞したことの、2点である。このことを念頭に以下の文章をお読みいただきたい。

検討会ではしばしば、生産・品質管理の基準として「GMP」に言及するシーンが見られた。GMPとは「適正製造規範」の意で、原料の受入れから最終製品の出荷に至る全工程で、「適正な製造管理と品質管理」を求める基準となる。

現状で国は「GMPを推奨する」という立場を取る(今後は義務化の方向)が、関連メーカーの多くはこの認証を取得し製造を行っている。しかし当該事業者は、このGMP認証を取得していなかった。また、今回の事故と関係はないとされているが、当該事業者は過去に(閉鎖された大阪工場で)、「床に落ちた材料を使った事例があった」「製造タンク内に誤って温水が混入する事例があった」という報道がなされている。

これに対しGMPを取得する他の健康食品メーカーは、「絶対にあり得ないことだ」と厳しく言及している。原料製造における管理体制が“ずさん”だったとなれば、機能性表示食品の制度やGMPを語る以前の問題である。これをもって「機能性表示食品の安全性」(=制度設計)を否定することは間違いである。

当該事業者は毎年CSR報告書を提出し、健全なガバナンスやコンプライアンス重視の姿勢をアピールしてきた。そんな企業でもこのような不測の事態が起きた訳だ。そしてその事態は、健康食品メーカーのみならず、すべての食品製造メーカー、さらには、事業活動を行うすべての企業において起こり得ると考えた方が良い。

今回の事故で5人の死亡者が出たことは痛恨の極みであり、その情報開示が遅滞したことは看過できないが、一方で情報開示後の消費者庁の対応は極めて迅速であった。これは、対象製品が機能性表示食品であったからであり、同制度が現状の設計の中で正常に働いたことの証左であろう。

近年は製造管理とは別に、「フードディフェンス」(食品防衛)と言う管理手法を取り入れる企業が増えている。食品に入ってはいけない異物等を、第三者による意図的な混入を防ぐことを念頭にした取り組みである。

フードディフェンスの適用範囲は、「組織マネジメント」「人的要素(従業員並びに部外者)」「施設管理」に及ぶ。「組織マネジメント」は、働きやすい職場づくり、従業員の意識づけなどに及び、現場スタッフの心の衛生管理まで網羅している。

先の事故が意図的であったとは断じないが、先制防御の役割を果たすこの考え方は、製造現場に緊張感をもたらし、一定の抑止効果をもたらすと考えられる。関係業界は今回の事故を教訓として、自身の製造管理を厳格化する上での検討材料にしても良いと思う。

某健康食品メーカーでは、先の事故から現在まで、電話・メール等で累計8000件に迫る問い合わせがあり、HPに掲載している「よくある質問」の項目「御社の紅麹製品の安全性は確保されていますか?」をクリックした消費者は10万件に上ったという。

また、健康食品メーカーのHPには通常、お客様相談窓口が開設されているが、中にはサイトの階層を何層も潜らないと、窓口や電話番号にたどり着かないHPもある。「売らんかな」優先の一部企業があるために、健康食品の信頼性が高まらないと言う側面があることは否めない。

「企業の責任において」製品を提供する機能性表示食品制度は、そうした有象無象の健康食品メーカーを排除し、健全な市場を形成する一助となっていることも、忘れてはいけない。これからは、HPの立て付けを含め、いかに消費者に門戸を開いているかが、健康食品の購買行動を左右すると考えられる。こうした真摯な対応を実施する企業が報われるような業界のルール作りも、今後の課題になるだろう。(了)