総合マーケティングビジネスの富士経済は、高齢化と高齢者を支える人手が不足するなか、食事提供や栄養管理などの簡略化ニーズの高まる加工・調理済みの介護食の市場を調査した。その結果を「人口減少社会の中で中長期的な拡大が確実視される介護食市場の現状と成長予測」にまとめた。この調査では、介護食として、流動食、やわらか食、栄養補給食の市場について、在宅向けおよび施設向け別に分析し現状を明らかにするとともに、将来を展望した。
<調査結果の概要>
■介護食市場
市場は拡大を続けており、2024年に初めて1,200億円超えが見込まれる。要介護・要支援認定者を含めた高齢者人口の伸びに加え、栄養摂取・管理ニーズの高まりや、高齢者介護に関わる人手の不足などを背景に、調理済みの介護食を利用するケースが増えている。特に、施設向けは、人件費や光熱費など各種コストが高騰するなか、施設内で調理するよりもトータルでコストダウンが可能であることから伸びている。コスト高騰で委託給食事業者の事業継続が困難になるなか、施設向け宅配事業者が代替需要を獲得するなど販路の変化もみられる。在宅向けは、新型コロナウイルス感染症の流行を背景に外出を控えたことで問題となった“巣ごもりフレイル”対策などで栄養摂取の重要性が再認識されたため伸長している。
2030年の市場は2023年比18.4%増の1,405億円が予測される。高齢者人口の増加に伴い高齢者施設が増えることから施設向けが伸びるとみられる。また、地域包括ケアシステムの整備など施設から在宅介護への移行に向けた仕組み作りが進んでいることから、在宅向けの需要増加も予想される。さらに、健康維持・増進に対する意識の高まりで、高齢者以外の利用が進む。
<注目市場>
●流動食
2024年見込 | 2023年比 | 2030年予測 | 2023年比 | ||
全 体 | 668億円 | 101.2% | 685億円 | 103.8% | |
在宅向け | 67億円 | 111.7% | 95億円 | 158.3% |
咀嚼をせずに摂取でき、栄養素をバランスよく含む液体状、とろみ状、半固形状の商品を対象とする。
2024年の市場は、手軽に栄養を摂取する手段として「明治メイバランス」(明治)や「エンジョイクリミール」(森永乳業クリ二コ)など経口流動食が伸びている。特に、在宅向けは、店頭チャネルに加えて通販チャネルで需要を獲得していることや、高齢者だけでないユーザー層の開拓、利用シーンの提案によって大きく伸長している。
ユーザーや利用シーンの広がりは今後も続くとみられ、在宅向けの伸びが市場拡大をけん引すると予想される。
●栄養補給食
2024年見込 | 2023年比 | 2030年予測 | 2023年比 | ||
全 体 | 289億円 | 105.1% | 370億円 | 134.5% | |
施設向け | 248億円 | 105.1% | 315億円 | 133.5% |
高齢者に不足しがちな栄養素と食物繊維などの補給を主目的としたゼリー状、粉末状などの加工食品、調味料などを対象とする。「エンジョイカップゼリー」(森永乳業クリニコ)や「ブイ・クレスCP10」(ニュートリー)などが挙げられる。
新型コロナの流行以降、特に施設向けでは人手不足対策を背景にゼリーなど手軽に提供できる商品が伸びた。上位企業では健康維持や床ずれ/じょくそう対策など幅広い商品開発を進めており、やわらか食からの需要移行が増えている。近年は価格改定が進んでいるが、残食リスクが減る小容量・高栄養商品、調味料や粉末形状の高付加価値商品など高単価な商品が好調であるため、2024年の市場は拡大が予想される。特に施設向けは、2024年に高齢者施設におけるBCP(事業継続計画)の策定が義務付けられたため、災害時などの栄養補給手段として備蓄ニーズが高まっている。
メインターゲットは高齢者層であるが、2024年に発売された「明治MICHITAS 栄養サポートミルク」(明治)をはじめ、ミドル層など新たなターゲット層を目指すブランドや商品が増加するとみられ、2030年に向けて市場は拡大が続くとみられる。栄養計算・管理ニーズによって、高単価な複合訴求商品の需要が高まっていることも拡大を後押しする。また、施設向けは、参入メーカーが備蓄ニーズを受けてローリングストックなどを提案していることから、定期的な採用が進むとみられる。
<調査対象>
介護食 | ・流動食 | ・やわらか食 | ・栄養補給食 |
区分 | ・在宅向け | ・施設向け |
<調査方法>
富士経済専門調査員による参入企業および関連企業・団体などへのヒアリングおよび関連文献調査、社内データベースを併用
<調査期間>2024年3月~5月