大木ヘルスケアホールディングスが6月21日、22日にTRC東京流通センターで「2022 OHKI 秋冬用カテゴリー提案商談会」を開催し、約1,800名が来場。同22日には同社・代表取締役社長の松井秀正氏と子会社・大木取締役執行役員の板本敦志氏(営業企画本部副本部長 兼 M&P事業部長)が記者会見を行なった。
提案会場では、「これからの日本の人口構造と自助共助型コミュニティ」「セルフメディケーションをより身近に」「ヘルスケアでのサブスクの可能性」「販売チャネルの選択肢増加に伴う、売場の見直し」など、ドラッグストア業界が持つ課題を取り上げ、社会全体で健康寿命延伸を実現していくことの重要性などが訴えられた。
特に、当媒体が注目したのは「消費人口・労働人口の減少をどう乗り越えるか?」というものだ。2021年の日本の総人口は、約1億2,544万人(総務省統計局発表)であり、2025年には約290万人が減少する予測が出ている。さらに労働人口についても2025年と、ピーク時の1995年を比較すると役1.7割(1,556万人)が減少すると言われている。これを乗り越えていくためには、潜在需要のマーケットを拡大させていくことが重要であり、「生産年齢人口が支える社会」からの脱却を測らなければならない。
つまり、製・配・販が一丸となり、新たな市場を開拓するために積極的なチャレンジが大切であり、ここで顕在化したニーズとそれに応える商品群が、高齢者の生産性と健康寿命延伸につながっていくということだ。高齢者が「支えられる」から「自立していく」に変化させることを大木ヘルスケアホールディングスは提唱しており、今提案商談会は、その実現に向けた提案が会場の端々で見ることができた。
記者会見で、松井社長は「今回はメーカーさま単体のブースをなくしました。これは、これまでのメーカー軸から当社が考えているソリューションやモノ・コトなどの、新たな生活提案に変化していかなければいけないと言いながら、どうしても商品軸が提案の中心となっていたという反省もあり、今回は当社からの提案をメインとしたブースの作り方となっています。当社からの提案というのは、大木の専売品や取り組み品だけを展示するのではなく、当社が今後ドラッグストアさまやスーパーマーケットさま、ホームセンターさまなど多くの企業が、地域のヘルスケア・医療を守っていくために、どのような提案が必要なのか、どのような売り場が必要なのか、という切り口で提案を作らせていただきました」と述べた。
その上で、「業界関係者から『大木はメーカーになるのか?』と一部誤解をされてしまうことがありましたが、そのような考えは持っていません。今回はあくまでも店頭やその先にあるお客さまに対して流通業として、ヘルスケアを広義に捉えて、どのようなサポートができるのか、美と健康と快適な生活をどのようにソリューションとして提案できるかという切り口を趣旨としています。今回はコロナや場所の関係で、会場を2時間で回ることができるように、当社がどうしても提案したい内容に絞り、これをメーカーさまにサポートしていただいているという関係を取っています」と明かした。
同提案商談会の実行委員長である大木・板本取締役執行役員は「今回は実験的に、松井社長から『充実した濃い内容でありながら、2時間で回り切れる提案』という指示があり、このコンセプトで会場を形成しました。これまでは分散した会場で実施してきましたが、第1展示場に全ての提案を集中させました。総合テーマは、長年当社が掲げてきた『新しい売上をつくる!新しいお客様をつくる!』。この理念のもとに65の提案を作り上げました。今回はメーカーさまの単独ブースをなくし、前述の65の提案を具体的に示すために必要な商品やシステムをお持ちのメーカーさま(共同提案出展メーカー:41社)との共同提案出展といった形でご協力をいただき、会場でも商品やシステムのご説明をしていただいています。また、新たなカテゴリーを具体的に棚割として再現するために必要な商品をご提供いただいたメーカーさま(協力メーカー)は合計165社」と今開催の特徴を説明した。
【取材を終えての直感】記事:佐藤健太
記者会見で筆者が特に注目したのは、松井社長が語った「卸の再定義」「SPB(ストア・フィロソフィ・ブランド)」の2点だ。
「卸の再定義」というのは、大木ヘルスケアホールディングスが企業全体の方針として位置付けている施策である。卸は「完成している商品を届ける」というメインの仕事ばかりが取り上げられがちだが、それを実現するために金融機能やデータエクスチェンジ機能など多角的な機能を有している。さらに昨今は、大木ヘルスケアホールディングスのようにマーチャンダイジング(MD)やマーケティング、開発サポート、流通施策サポートなどにも取り組んでいる企業もある。自社の役割を「卸」という一言で片付けずに、内包している機能を有効活用し、ニーズに沿った提案として落とし込むことで、顧客満足度と企業価値を高めていこうという考え方だ。
ドラッグストア業界だけではなく、流通業全体に目を向けても、小売企業が業界再編等で企業規模を拡大させている。バイイングパワーは強大になっているものの、それが「商品選定や売り場づくりで失敗できない」という考えに直結し、その結果、大手メーカーから発売されている売り上げが約束されているマス商品や、自社PBばかりが並んでいる面白みに欠けた売り場が多く見られるようになった。つまり流通業は「チャレンジしにくい業界」になったということだ。
「チャレンジしようとしても『責任を誰が取るのか?』となりがちで、新たなコンセプトを持った売り場を立ち上げにくい状況になっています。これを、大木ヘルスケアホールディングスは、MDやマーケティングを含めた自社の機能を活かして、リスクを軽減するサポートをしていきたいと考えています。業種・業態で判断するのではなく、生活者が新しいソリューションを提案し、お客さまにより快適な生活を送っていただきたいと考えている企業さまと共にチャレンジしていきたいです。この取り組みが新たな市場につながり、ヘルスケア市場全体の活性化に寄与すると考えています」(松井社長)
「SPB(ストア・フィロソフィ・ブランド)」とは、「企業や店舗の哲学(フィロソフィ)を体現する商品」という意味を持つ。ここ数年は、ドラッグストアやコンビニ、小型スーパーなどの積極出店による狭小商圏化、そしてウィズコロナ時代でワンストップショッピングへの支持が高まったことによって、競合が激化し、より「どう差別化していくか?」という考え方が重要視されることとなっている。しかし、売り場に目を向けると、その考え方とは裏腹に似通った商品が大半を占め、消費者視点では「どの店で買い物をしても同じ。より安い店に行く」となってしまいがちだ。価格訴求をしても業績が維持できる現在はいいだろうが、人口減少社会が本格化する近未来ではその戦略は通用しなくなる。
筆者は、松井社長が言う「SPB」とは、自社・自店の哲学や考え方を商品に反映させ、価格や商品と並ぶレベルの第3軸の価値として「フィロソフィ」を提供し、「SPB」を通じて「考え方」や「生活スタイル」など消費者が持つ根深い部分で共感してもらうことでファンやリピーターを増やしていく商品群であると推察している。
「小売企業さまが独自性を含んだコンセプトを打ち出したとしても、商品が伴っていなければ“店舗の色”が見えてきません。それを商品開発の段階からサポートしていくが『SPB』です」(松井社長)
医薬品やサプリメントのメーカーだけではなく、昨今は食品メーカーもヘルスケアに挑戦しているが、薬機法など法律の問題で、商品を上市するまでのハードルは非常に高い。ここに大木ヘルスケアホールディングスが関与し、コーディネートしていくことで商品開発の効率化が実現され、さらには同社が持つ小売企業の膨大な情報を活かして、メーカー(商品)と小売企業(店舗)のフィロソフィをコネクティングし、裾野を広げていけば、「私はこの店の考え方が好きだから、この店で買い物をする」という新たな買い物スタイルの定着にも期待でき、「SPB」の存在意義も高まる。そして、その考え方が最終的に「人口減少社会における持続的な流通業」に帰結する。大いに注目したいところだ。