1999年6月、ドラッグストアの産業化を目指して設立されたJACDS。そしてJACDS初代事務総長の宗像守氏(故人)と現副会長の根津孝一氏(ぱぱす会長)のコンビで、アメリカの商品展示会をヒントに企画され2000年に第1回目が開催されて今年が23回目のドラッグストアショーが、8月18日から3日間、東京ビッグサイトで開催された。韓国、中国、台湾、フランスを含む475社(1310ブース)が出展。特にバイヤーズデイの初日には、今日のドラッグストア企業の経営を支えてきた生活者の健康創造をサポートする様々なヘルスケア商品とサービスが提案され、来場したドラッグストアの経営者や幹部、バイヤーらの関心は高かった。そこで登場した数多くの商品とサービスの中から、記者が見つけたユニークな出展企業を紹介しよう。ドラッグストア経営成長の原動力は、取り扱う店舗の販売力+カウンセリング力(会話力)もさることながら、利益獲得の柱となる商品やサービスを採用するスタッフの“めきき力”も欠かせないだろう。(レポート・山本武道)
■ 2025年に33兆円市場が見込めるヘルスケア産業
ドラッグストアショーの規模は年々拡大するばかり。出展企業と商品・サービスは、かつて主流は医薬品を中心とした“病気産業”に特化していたが、23年後の今、生活者の健康意識は高まり、健康寿命延伸産業の振興はめざましく、セルフケア・セルフプリベンションに関連したヘルスケアに関わるヘルスケア商品とサービスの開発と普及へ、“健康産業”へシフトする企業は後を経たない。
経済産業省商務・サービスグループヘルスケア産業課によれば、ヘルスケア産業の市場規模は2016年度に約25兆円だったが、2020年には28兆円、2025年には推定33兆円に達すると見ており、さらなる医療・健康産業における新しい市場創出のためのアプローチとして、①サービス品質確保の仕組みづくり②予防・健康増進のエビデンスづくり③デジタルヘルス④新しいプレーヤーの育成⑤公的保険外での需要創出の必要性を指摘している。
介護費用保険も含めた国民葬医療費は実に50兆円。これからは現行の医療制度を維持しつつ、セルフケア・セルフプリベンション産業の新たな創出と振興への期待感が高まっており、今後はドラッグストア、日本ヘルスケア協会、スーパーマーケット、ショッピングセンター、ホームセンターなどとのコラボによる生活者の健康創造への様々な商品とサービスの情報提供の必要性が指摘されているだけに、ドラッグストアショーの開催は、生活者の健康創造とドラッグストア経営を支える一大ヘルスケアイベントとして、重要な意味を持つ。
■「ドラッグストアって楽しい、また来たくなる」
23回を数えるドラッグストアショーは、アメリカのような商談会に限定することなくヘルスケアニーズを持った国民を巻き込み、楽しいイベントの一つとして、SDGsについて遊びを通して楽しく学べる“お祭り広場”で、リサイクル・ユースゾーンを設置。家庭で使わなくなった玩具、古着、ペットボトル、シャンプーボトルなどプラスチック容器を会場に持参し回収。協力者には『お祭りお楽しみチケット』が渡され、スーパーボールすくい、射的ゲーム、綿菓子屋など、懐かしい縁日屋台で親子が楽しんでいた。
地域住民の快適生活をサポートするドラッグストアも出展し、来店したくなる商品とサービスを提供していたが、近年のドラッグストアは、オストメイトトイレやAEDの設置、ガンケアコーナー、医療過疎地域への移動車による商品販売、地域の産業振興へ物産展も開催するなど、高まる地域住民のヘルスケア・ニーズに対応するケースも多い。かつてのディスカウントスタイルは影を潜め、ヘルスケア・ステーションへ進行中だ。
「ドラッグストアって楽しい、また来たくなる」――いつも商品に心を添えたカウンセリング力と会話力のある人財が常駐し、視覚・聴覚障がい者も来店しやすく地域住民から愛され親しまれる店づくりが始まっている。
<株式会社スコープ>
スマホで食品の有効期限を管理し廃棄ロス削減を提案
会場では、製薬、化粧品、健康食品、健康機器等々のヘルスケア関連企業が出展する中、食品部門を強化するドラッグストアに向けて、スマホを活用した食品の有効期限(賞味期限)の管理で廃棄ロスによる損金を削減し収益性を高め、期限チェックの作業人員・作業時間の削減など、店舗スタッフの誰もが使用できるデジタルソリューションをアピールしていたのが株式会社スコープ。
同社は、スエーデンのフードテック企業であるWhywaste社(なぜ無駄にするの?という意味)とグローバル・パートナーシップ契約を締結し、食品部門を廃棄物の削減ソリューションの普及と開発に取り組み、四国を商圏としたレディ薬局、百貨店など国内9社の小売チェーンで採用されているという。
食品を取り扱うには、鮮度と照度の管理が不可欠だが、さらに有効期限の管理も欠くことのできない業務の一つ。しかし、そのためには膨大な時間と労力を必要とし、店舗スタッフにとっては大きな負担となっていることから、同社は、小売店の課題解決を解消してくれる『Semafor(セマフォー)』『Semafor Deli(セマフォー・デリ)』をドラッグストアショーで来場者に紹介した。
前者は、有効期限チェック・管理のデジタルソリューションで、後者がデリカコーナーの効率的な鮮度管理と廃棄物削減システム。いずれもスマホーやタブレットにダウンロードでき、導入と運用が容易なアプリ型のパッケージシステムだ。
<メロディアン株式会社>
大阪最後発の牛乳会社が機能性表示食品を訴求
1958年、大阪府八尾市内に大阪府最後発の牛乳製造会社(日興牛乳)として創業し、“いつも先手のメロディアン”を合言葉に、差別化戦略で常に一歩先をゆく企業姿勢で新しい食品開発に取り組み、カロリー40%オフのコーヒー、ゼロカロリーシロップ、スポーツ飲料、水素水などを発売する一方、近年では機能性表示食品を相次いで登場させているのが、株式会社メロディアン。
同社は、1975年、日本で初めてスプリングボトム容器を使用した『コーヒーフレッシュ』を開発した企業として知られている。「容器のフタを開けると中身が飛び散って衣服を汚す」―これを防ぎたいという思いが、スプリングボトム容器を生み出し、そして独自技術で従来以上のおいしさを保ちながらトランス脂肪酸ゼロ基準のクリアに成功。トランス脂肪酸ゼロの『コーヒーフレッシュ』を実現した。
同社の商品開発は、“美味しさと幸せ”“美と健康”をテーマに様々な商品を開発してきた中で、機能性表示食品の開発に取り組んだのは2017年9月。創業65年の今、これまで開発した機能性表示食品は以下の通り。
スリーダウンコーヒー:肥満気味の体重、体脂肪、血中中性脂肪、内臓脂肪、ウエスト周囲径の減少をサポートし、高めのBMI値の改善に役立つことが報告されている機能性関与成分のエラグ酸を配合)/スリーダウンティ:高めのBMI値の改善に役立つことが報告されている機能性関与成分のエラグ酸を配合/黒酢飲料:内臓脂肪を減少させる酢酸配合/Smooth(スムース):便通・食後の血糖値が気になる方に水溶性食物繊維イヌリンを配合/菊芋のイヌリン食物せいかつ:水溶性食物繊維イヌリン1500mg配合のお通じ、食後の血糖が気になる人への飲む腸活/酒粕甘酒:疲労感対策/GABAShot:GABAを配合した睡眠や疲労感を緩和
<株式会社ウェ・ルコ関連企業の株式会社タネ・マキ>
水に溶ける特殊フィルムを使用し釣果をアップする釣り具
家庭用品・日用雑貨メーカーの株式会社ウェ・ルコでは、発売以来、350万包を突破した除菌率99.99%の即効型洗濯槽クリーナー、新しいボール型衣料用洗剤などを展示する一画では、関連会社の株式会社タネ・マキが、水に溶ける特殊フィルムを活用した液体で魚を誘引するユニークなフィッシング用品をアピール。
日本の釣り業界で初めて水に溶ける特殊フィルムを使用し、魚介エキスや数種類のアミノ酸を濃縮したエキスをパックしたタコ釣りボール、水に溶けている臭い物質を魚の鼻腔に通して感じ取る魚の習性から、より効果的に釣果アップが狙えるアジ・サバ・イワシを対象とした活性ブースターに加えて、「釣り人の目線で開発した」同社)Tsuri Careシリーズの関心は高かった。
柿渋エキスを配合した魚臭撃退スプレー、消臭スプレー、ウエットタオル、薬用ハンドソープ、海釣り後のサビ対策の塩抜きサポートスプレー等々…釣り好きのドラッグストア経営者も、担当者に釣具の仕組みを質問するなど、たちまちコーナーは黒山の人だかりだった。
千葉県を主体に店舗展開するドラッグストアチェーンでは、早くからアウトドア用品専門店を出店。釣具やスキ―用品などを取り扱い、定期的に愛好家を集めてフィッシングコンテストを展開している。ドラッグストアでは、フィッシング部門を開設するケースは皆無だが、水に溶ける特殊フィルムを活用した液体で魚を誘引するユニークなフィッシング用品。海に近いドラッグストアにおける新しい商品として需要は増えそうだ。
<Wolt Japan株式会社>
デジタル化する購買行動に対応しドラッグストアから
30分で商品が自宅に届くクイックコマース(即時配達)を実現
「スーパーやコンビニ、ドラッグストアから約30分で自宅までお届けします」―クイックコマース(即時配達)を実現する新しいビジネスを提案していたのは、Wolt Japan株式会社。
提携した店舗から、医薬品、日用品、食料品などを、注文から30分程度で届けるビジネスで、すでにドラッグストアのツルハやサツドラ、薬王堂、ドラッグ新生堂、トモズのほか、コンビニではローソンが採用しており、高齢者や身障者、外出を控えている人たちにとっても便利。
同社のシステムを利用すれば、次のようなメリットが用意されている。
◇新規利用者層の開拓〜メインユーザーは実店舗で取りきれていない20〜30代
◇商圏の拡大〜平均4kmの配達距離により、従来の来店圏外のエリアまでリーチ
◇既存利用者への新たな買い物を提案〜雨の日や体調不良など、外出を必要としない買い物を実現
◇低リスク、クイックスタートでの導入〜導入の初期費用ゼロ、店舗の既存人員を活用した素早い展開が可能
◇配送サービス網の提供〜自社ECおよび来店顧客向け配送サービスのサポートも可能
「商圏4kmの買物難民にも利用していただけるので、ドラッグストアや調剤薬局でも採用してほしい」と同社の黒川悠司氏は話していた。
<FISM株式会社>
インフルエンサーネットワークを構築し専用アプリで購買に結びつける
国内外に広がるインフルエンサーネットワークを構築し、約2万人のインフルエンサーと直接取引きするなど、主にオフライン展開するメーカーの店頭販促プロモーションを支援しているFISM株式会社。2015年に設立された。
ドラッグストアやバラエティショップなど、オフライン店舗における店頭誘引や販売促進を、オンラインマーケティングを中心とした施策で実現。独自のデータ解析技術やメディアネットワークを強みとしている企業だ。
現在、ピップ、牛乳石鹸、ロート製薬、アンファー、ファンケル、ドン・キホーテ、ドラッグストアではウエルシアとココカラファインといった企業とタイアップして、拡販したい商品のプロモーションを、インフルエンサーやSNS領域を中心としたプロモーションをオーダーメードで立案。同社が運営するインフルエンサー専用アプリを利用し購買に結びつけるシステムだ。
これは、多種多様なニーズに対応し実績を積み上げてきたプランナーが、細かく課題をヒアリングし最適なプロモーション・マーケティングを提案してくれる仕組み。ドラッグストアにとっても、こうしたシステムを採用することになれば、売りたい商品を拡販に結びつけることができるのではないか。
<呉工業株式会社>
世界30か国以上で愛用される、繰り返す手・かかとの荒れを防ぐ
オキーフブランドを9月から発売を開始
金属のサビを取り、きしみを抑えて動きを良くする防サビ・潤滑剤『CURE5−56』やゴリラが登場するユニークなCMを放映する接着剤を発売するのが、1960年8月創業の呉工業株式会社。2年後に『KURE5-56』、2021年に発売したゴリラブランドの接着剤とともに出展していたのは、繰り返す手・かかとの荒れを防ぐ『オキーフ』ブランドの乾燥肌用のハンドクリームとフットクリームの2アイテムだ。
同製品の特徴は、肌に優しい低刺激性、無香料・無着色、しっとりなのにべとつかず、さらっとした使い心地、水に濡れても流れ落ちにくく、肌の潤いを保つなどが特徴。現在、オキーフブランドは世界30か国以上で販売され、乾燥や肌荒れを防ぎたい多くの人々に愛用されている。日本では、9月1日にデビューさせる予定(同社スタッフ)だという。
オキーフカンパニーのルーツは、同社の資料によれば、カリフォルニア州とオレゴン州堺にある乾燥地帯のクラマス盆地で牧場を営んでいたビル・オキーフ氏が長年、肌荒れに悩んでいたことから、娘のタラ・オキーフさんが父の悩みを解消するために、何年も配合テストや試作品を繰り返し作り上げ、さらに改良を重ね、オリジナルスキンケアクリームが開発された。
グリーンの容器(ハンドクリーム)とブルーの容器(フットクリーム)の陳列は店頭でも目立つ存在となり、店頭で開発ストーリを紹介しながらの推奨販売が可能な商品でもあり差別化商品として需要が増えることを期待したい。
<取材を終えて>
23回目のドラッグストアショー。今回も多くの人と商品とサービスとの出会いがあった。東京ビッグサイトの東3〜6ホールに475社(1310ブース)が集結。各社自慢の商品とサービスを、来場したドラッグストア経営者とバイヤーに向けて売り込み合戦が繰り広げられた。
コロナ禍の中、前回から再開されたリアル開催のドラッグストアショーは、JACDS池野隆光会長(ウエルシアホールディングス代表取締役会長)、桜井寛実行委員長(丸大サクラヰ薬局常務取締役管理本部長兼経営企画部長)、エステーの鈴木貴子会長らによるテープカットを期して、広い会場での私の取材も始まった。
取材は、1か所の取材に時間をかけていると数多くの出展企業と商品・サービスには出会えない。ただ、今回もそうだが、会場内を歩き回ると、なぜか磁石に引き寄せられるかのようにブースに立ち寄ってしまうケースは多い。取り過ぎようかと思いながらも、つい出展企業のスタッフと目が合う。そして取材が始まる。今年の取材も、交換した名刺の枚数を数えるとは30枚は超えていた。その中から取り上げたのは6社。日を改めて取材を約束した企業もある。
ドラッグストアショーを顧みれば、12年前の2011年3月11日14時46分、東日本大震災が発生した際には、会場の幕張メッセで出展企業を取材中だった。会場の窓は割れて、頑丈なはずの鉄の入口は無惨に歪み、たくさんの人たちが出口へと殺到し、悲鳴があちこちで聞こえ大混乱だった。記者室のテレビを通じ現地の状況が目に飛び込んできたが、やがて津波が押し寄せてきた画面を未だ忘れられない。
ところで23年前の第1回目のショーは、JACDS初代事務総長の宗像守氏(故人)と現副会長の根津孝一氏(ぱぱす会長)のコンビで、アメリカの商品展示会をヒントに企画され2000年に第1回目が開催されたことは、すでに紹介したが、「なんとしてもドラッグストを世に知らしめたい一心で人集めに苦労した」と話す根津さんは、1回目の実行委員長を務められてから23年後の今、ドラッグストアショーは次世代経営者に受け継がれている。
根津さんとのコンビでショーを開催した宗像さんは、2018年6月26日午前7時45分、誕生日の二日前に亡くなられた。昨年と今年の2回、会場を取材していて、ふと思い出すことは、いつも笑顔で話しかけていただき心が和んだこと、そして北京や上海で講演のために招聘されていた宗像さんと私は、偶然にも会場でお会いしたこともあった。
今年も、会場で「山本さん、元気?」と、いつものように話しかけてくださる宗像さんを思い出していた自分がいた。
ちなみにショーの来場者数は、ショーの推進事務局によれば、初日に26573名、2日目が16964名、3日目15335名の合計58872名だった。